049 時間の無駄は許しません
2018. 1. 27
集まったのは各代表者とその補佐達で、計二十一人。宗徳の本来の年齢より上の者はいなかった。
後で知ることだが、この世界の平均寿命は大体六十前後といった所だという。衛生環境が良くないという事で、病での死亡者も多いが、若いうちに魔獣によって命を落とす者も多いのだ。
「当ギルド職員の宗徳です。では、順番に始めていきます。ここに地図があります。だいたいで良いのでそれぞれ、どこからいらしたのか確認させてください」
宗徳は話し方に少々気を付けていた。にこやかとまではいかないが、自然な表情も心がけている。
それがいけなかったとは思わないが、これだけ簡単な事がなぜか進まなかった。ざわざわと場が騒がしいだけ。
「どうされました? どうぞ、こちらへいらして指をさしていただければ……」
「私達に分かるわけがないでしょう……」
「……はい……?」
思わず頬が引きつった。
「村から出る事もほとんどないのです。冒険者とは違う。目印の岩や森、川や大木で方向が分かる程度。あちらに大きな町があるとか、村があるとかが分かるくらいです」
憮然として言ったのは、集まった中で一番年長だろう。六十過ぎの男だ。
「え〜っと……それは、地図が読めないと?」
「地図なんて、初めて見ましたよ」
これに、少々若いのが口を挟む。
「俺は地図ぐらい見たことがあるが、今の場所を教えてもらわんとな」
「はっ、本当に見ただけじゃないのか」
「ありそうだな。あいつの村はガラの町に一番近いみたいだし、場所も分かりやすい。寧ろ、場所が分からん方がおかしい。ただ気取ってんだろ」
「おい、聞こえたぞっ」
「若造が! うるさいぞ!」
「……」
なんだか収拾がつかなくなってきた。かなりイライラする。今ここで口にすべきではない事を遠慮なく話ている状況はかなり苛立つ。
まるで町内会だ。農業組と、会社組の差だ。どうしてもこの差は出てしまう。それは女性の方でもあるものだ。純粋に主婦と社会を経験してきた女性では、時間の使い方が違う。
足並みを揃えようということも分からない。どうしても自分の意見を言いたくて仕方がない者が出てくるのだ。
かつて、これが本当に苦痛だった。それも、なぜか進行役はこれを止めない。しかし、この場を仕切っているのは宗徳だ。それを思い出すと一気に気分が良くなった。
宗徳は部屋に控えていた職員に、この辺りの地理を知っている冒険者を集めてもらうように指示を出す。
「魔獣討伐の記録はギルドで共有してたよな。そこから割り出してくれ。二、三人でいい。なるべく早くな」
「分かりました」
補佐がいなくなったのは心もとないが、この場は宗徳だけでやるしかない。
まだ言い争う代表者達を見て、怒鳴ってしまいそうになる己を落ち着かせる。
《くきゅ……》
「大丈夫だ。こんなの、子どもの喧嘩と変わらんからな」
心配してくれる徨流に目を向けて笑みを見せると、響くように腹に力を入れて声をかけた。
「落ち着いてください。では、目印となるものと、だいたいのここからの方向だけお一人ずつ教えていただきたい。そちらの方から順にこちらに来てお願いします」
「あ、ああ……」
紙にそれぞれ、村の位置の近くにある目印を書き出していく。たまに絵も交えて一通り聞き終えたのは、言い争いをやめさせてから三十分後くらいだった。
「ご協力ありがとうございました。これを元に場所を地図と照らし合わせた後、実際に現地に向かい、安全かどうかの調査を行います。できましたら、体力のある若者を三名ずつ確認のために同行できるよう選出しておいてください。もちろん、彼らの安全は保証します」
「分かりました……選んだらどうすれば?」
「昼食の頃。その方々をここへ連れてきてください」
昼食まではあと一時間と少しある。問題はないだろう。それまでに地図が間に合えばいいのだがと思いながら答えた。
「ギルド内の至る所にこういった時計がありますので、昼食の頃というのは真上を指した所です」
「真上か……了解だ」
この世界の人々は時間を正確に把握してはいない。日時計は使われているようだが、初めて訪れた場所では難しかったりする。
ギルドの外。正面の広場の中心に日時計はあるが、宗徳も善治も性格上、時計がないと落ち着かない。そこで、ギルド内の至る所にそれとなく時計を配置していたのだ。
十字の位置にしか印のない簡素なものでも、あるとないとでは大違いだ。
これによって、温泉に入れる時間帯や職員達の休憩時間などを明確にしている。お陰で、会議は全員集まってからというルーズな事もない。
全員が部屋を出て行った後、宗徳は先ほど聞いた情報を元に大まかなそれぞれの村の位置関係をまとめる。
「全部で八つの村と集落……徨流のいた湖が多分ここだ。距離的にも間違いない」
《きゅふっ》
誰もいなくなったことで、徨流はスルスルっと宗徳の腕から地図の広げてある机へと降りて上から確認するようにその上を歩くと、間違いないとそこを指す。
「そんで、そこへ行く途中にあったのが、多分この大岩だ」
目印となるもので良く出てきたのが一つの大岩。赤めの岩で、涙型の上がツンと尖った宗徳の四倍ほどの高さもある岩だった。
「そうなるとこっちのこの辺か?」
思案している所へ、ギルド職員が冒険者を三人連れて戻ってきた。
これにいち早く気付いた徨流は、もう宗徳の腕に巻き付いてただの飾りのようにピクリともしなかった。
「お連れしました」
「ああ。はじめまして宗徳という。早速だが、協力をお願いしたい。もちろん、少ないがギルドポイントは付く」
ギルドポイントとは、ギルドに貢献した場合に貰えるポイントの事だ。他にもポイントが付く事業などもあり、それらを全て総称して貢献ポイントと呼ぶ。これがある程度ないとランクの昇格ができないのだ。
今はランクについては、置いておくとして、冒険者達は基本的に報酬がないと動かない傾向がある。当然だ。命を懸けて仕事に向き合っているのだから。何より、彼らにとって全ては生きるための仕事だというのが大きい。
「そうでないと困る」
「当然でしょ?」
仏頂面の大男と高慢そうな若い女性。残りの一人はフードを深く被った背の低い男。彼の小さな呟きは先の二人の意見とは違った。
「……僕は報酬とかどうでもいい……」
「っ、何言ってやがる! 何のために冒険者をやってるんだ?」
「バカじゃないの? これだから経験の浅い子どもはダメなのよ」
「……」
ここでも言い争うつもりかと宗徳は目を細める。
「……村の位置を教えるだけだし……迷ってる人に道を教えるのと変わらない」
お前は正しいぞとフードの男を応援してしまう。
「はっ。それでも情報だ。情報は売るものだぞ」
「……こんなの、情報とはいえない。今は時間がなくてこうやって聞いているだけ。この人なら多分、そんなに時間をかけずに調査できる」
これを聞いて宗徳はニヤリと満足げに笑ってみせた。
「へぇ。お前、良く分かるな。よし、彼だけでいい。この二人には戻ってもらってくれ」
「はい」
「「はぁっ!?」」
二人が不満だというように声を上げる。しかし、もう宗徳は決めたのだ。これ以上うだうだされても迷惑だと判断し、二人を威圧する。
「俺はなぁ、時間を無駄にする奴が一番嫌いなんだ……分かったな?」
「っ!?」
「わ、わかりましたっ」
女の方は完全に涙目になって部屋を飛び出していく。大男の顔も引きつっていた。
二人が出て行ったのを確認して、宗徳はフードの男へ笑みを向ける。
「悪かったなぁ。さぁ、協力してくれ」
「うん……」
頷いて男はおもむろにフードを取った。
「ほぉ……」
そこにあったのは、まるで美希鷹を思わせる眩いくらいの金の髪に翡翠のような美しい緑の色をした瞳。
彼は整った顔立ちの十五才くらいの少年だった。
読んでくださりありがとうございます◎
イラつくのもわかります。
次回、土曜3日0時です。
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