047 友達が増えました
2018. 1. 13
次の日。
悪くない天気だった。快晴とまではいかないが、程よく雲も見え、気温も快適だ。
「そんじゃ、鷹。律紀を頼むぞ。キュリアート、保護者役よろしく」
「おうっ……って、保護者役……」
《まっかせて♪》
「おじいちゃん達も、お仕事気を付けてね。行ってきま〜す」
「楽しんできてね〜」
律紀と美希鷹、キュリアートを見送った宗徳と寿子は、大きな荷物……など持っておらず、寧ろ手ぶらに近い状態でライトクエストに向かった。持つべき荷物は、当然のように空間魔術によって収納されている。
「本当、空間魔術は便利ですねぇ」
「これって、俺ら死んだら中のどうなるんだろうな?」
「師匠に確認しましょうね」
「だよな」
つい死ぬ時の事まで考えてしまう。終活も考えるようになる年なのだから仕方がない。けれど、悲観してはいなかった。本来ならば、切ないというか、少し焦るような気持ちになっていたが最近は違う。これはただの確認でしかないのだ。
二人は、自分たちの死が少々遠のいている事を実感していた。駅の階段の前に来ると嬉しくて仕方がない。
「最近、階段を見るとワクワクします」
「俺もだ。ちょっと前までは、駅の階段なんて、壁みたいに思えたのになぁ。今は気軽に山にハイキングに行くって気分だ」
異世界に行くようになって肉体は活性化しており、見た目とは裏腹な筋力が付いてきている。肌はツヤツヤのハリも出てきていると、寿子はご機嫌だ。
「健康的になって、皺が減ったんですよ?」
「確かにちょい太っ……っ、良く食べられるようになったしなっ」
女性は、いくつになっても見た目の指摘には注意する必要がある。
それはともかく、寿子も宗徳も、年々細くなる食事量を気にしていたのだが、今は寧ろ食べ過ぎているように思えて怖いくらいだ。決して、認知症特有の『食べたっけ?』という症状ではないと信じている。
「それより、向こうへ行ったら子ども達との時間もちゃんと作れるように頑張るんですからね」
「わぁってるよ」
宗徳は後悔していることがあった。それは息子、徹のこと。まだ彼が小さい時、宗徳は家族の為によく働いた。だが、そのためにあまり顔を合わせる時間が取れなかった。
朝早くに出かけ、夜遅くに帰る。そんな生活は徹や寿子、家族を養うためにも必要ではあった。しかし、それだけではダメだったのだ。
ちゃんと顔を合わせ、話をする。そんな事が出来ない生活は、良いものではない。だから、今回引き取った子ども達とは無理をしてでも会話する時間を作ろうと思っている。
幸い、向こうでは若くなれる。少々の無理は利くだろう。
「この歳になって子育てすることになるとはなぁ」
「ふふっ。ですが、無駄に年は取っていませんからね。私達らしく、ゆっくりやっていきましょう」
「だな」
それはまるで若夫婦が子どもを授かった時のような、そんな穏やかで輝く雰囲気が二人を包んでいたのだった。
◆◆◆◆◆
ライトクエストのエレベーターでは色々な人との出逢いがある。
地下へ向かうエレベーター。そこで今回一緒になったのは、先日、乗り合わせた獣人の青年だった。
寿子と宗徳は、二十二階で上司のクーヴェラルに今日から数日あちら側へ行くという報告をしてから地下へ向かうためにエレベーターに乗ったのだが、獣人の彼は危険とされる二十階から乗ってきたのだ。
開いた時はヒヤリとしたというのは、宗徳と寿子が後で口にすることだ。
しばらく、彼の頭の上にある綺麗な三角の狼の耳を見つめていた寿子は、逡巡した後、思い切って声をかけた。
「あのっ。お兄さん、少し聞きたい事があるのだけど」
「……ん」
ゆっくりと振り返った彼は、背の高さから寿子を見下ろすことになる。
「あのねっ、私たち、獣人の子ども達の親になったのだけど……その……耳が良かったりするのかしら。食べてはいけないものとか、あるもの?」
「……」
宗徳よりも背の高い青年は、寿子と宗徳を鋭い目つきで見つめた。それがどれだけ続いただろう。口を開いたのは、一階を過ぎる前だったと思う。
「……耳は良い……食べ物は……変わらない……水が……苦手なのが多い……走るの……好き……お昼寝も好き……後は個人差……ある……」
カタコトだなと聞き終わってから二人は思った。この話し方は、恐らくあまり人とコミュニケーションを取らなかったことから来たのだろう。会話に慣れていないのだ。小学生の子ども達が嫌がる音読。それの必要性がよく分かる。
表情が出にくいようだが、怖い印象ではない。目を見れば彼が誠実な青年だとわかる。だから、宗徳も普通に笑みを浮かべて話をしてみた。
「そうか。ウチの子らは狼と狐と猫と熊なんだが、それぞれ味覚とかに差が出るもんか?」
「……あまりそれは変わらない……と思う……人と同じ……特徴が出るのは……聴覚と視覚、嗅覚……性格……」
「なるほど……聴覚とかは気にしてやった方が良さそうだな。確認してみるわ。あんがとな、兄ちゃん」
礼を言った所で、エレベーターが止まる。
「これ……」
揃って降りると、青年が鞄から野球のボールくらいのゴムボールを差し出してきた。受け取ると、次いで三つ四つと出てくる。
「何人……?」
「ん? ああ、子どもか? 五人……いや、六人だ」
「やる……遊びに……」
「くれるの? ありがとうっ」
徨流もいるので、計六つのボールを宗徳と寿子で受け取り、通路を同じ方向へ歩いていく。
「すまんな。人数分も」
明らかにそれらが入っていたとは思えない鞄の大きさなのだが、おそらく、宗徳達の使う空間魔術と同じような術が使われていると感じられた。
「いい……子ども……いっぱい遊ぶ……」
「おうっ。いっぱい遊んでやらんとなっ。兄ちゃん良いヤツだなっ。なぁっ、ちょい気になってたんだが、その耳……横についてるのは飾りか?」
宗徳はこの際だからと青年の顔の横……つまり、本来、人の耳がある所にある耳が本物かどうか尋ねた。
ピクピク動く事から、頭の上の耳が本物である可能性は非常に高い。ならば、その横のものはなんなのかという疑問だ。律紀も気にしていたので、確認してみたのだ。
「っ……また……消し忘れてた……よくやる……幻術……中途半端に解くこと……多い……」
そうして、手で横にある耳へと払うように触れれば、それがまるで幻のようにかき消えた。
「消えたっ」
「……教えてくれて……ありがとう……」
「おうっ、これで違和感ないなっ」
律儀に頭を下げる青年に笑いかけ、扉の部屋へ向かう前に更衣室へ向かう。
「俺、名前……瑠偉……よろしく」
「ルイな。宗徳だ。こっちは妻の寿子」
このライトクエストでは、苗字を名乗らない者が多い。特に必要性を感じていないようだ。それがない者が多いというのもある。自然に宗徳達も名前だけ名乗るようになっていた。
「登録……いい……?」
「おうっ、しようぜっ」
「いいですねぇっ。お願いしますっ」
そうして、ライトクエストで縁を繋いだ者は、腕輪に登録するのが常識だ。これで、いつでもどこにいても通信することができるようになる。宗徳も寿子も瑠偉を登録すると、またなと言って別れた。
「良い青年でしたねっ」
「そうだな。お前が話しかけた時はどうなるかと思ったが、良かったぜ」
「はいっ」
新しい友人が出来て二人は嬉しくて仕方がなかった。着替えを済ませて扉の間へ向かう。いつも通りチェルシャーノはふわふわと浮いていた。
「やぁやぁ、お二人サン。お待ちしてました〜」
「すんません。今日から数日、向こうに居ますんで、よろしくお願いします」
「りょ〜カイっ。では、いってらっしゃ〜い」
二人は意気揚々と扉をくぐっていくのだった。
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