043 保護しました
2017. 12. 16
リヴァイアサン改め、徨流は二十センチくらいの体で宗徳の腕の腕章代わりにした布の上に巻き付き、一緒にすっかり見晴らしの良くなった廃村を眺める。
「あの……」
そこで、先ほど目覚めたリーヤが恐る恐る声をかけてきた。小さくなった徨流を恐れているわけではないようだが、落ち着かない様子を見せている。
「なんかあったか、リーヤ坊」
「え、ええ……その、ここへ来る前に五人ほど廃村に生存者がいるような話をしていたと思うのですが……」
「んん? あれ? そういえば……忘れてたな」
ちょっとテンションが上がった事で、すっかりそのことを忘れていた宗徳だ。
「あなた?」
寿子が目を細める。
「いやいやっ、わざと忘れてたわけじゃねぇし……」
「当たり前です。それで、その人達が今どこにいるか分かるんですよね」
「お、おうっ、こっちだ」
先導して駆け出す先には、比較的大きな建物があった。半分崩れかけているように見えるが、教会なのではないかと思う創りだった。
その前で立ち止まった宗徳に、ミラーナが確認する。
「この中ですか?」
「おう。中に二人。それと、あっちの建物の影に一人。そんで……その向こうの茂みの中と……これは、井戸か?」
「ちょっ、井戸の中ってことですか? た、大変だっ」
リーヤとミラーナが宗徳の指差した方へと駆け出して行った。
「死んでるようには感じねぇけどな」
「それも分かるんですね」
「あ〜、そんな感じがするっていやぁいいのか……勘みたいなもんか?」
「なるほど」
実際は気配察知能力による判断なのだが、それを知る由もない二人だ。
「では、私達はこの中の人達を見てきましょう」
「そうだな。怪我をしてなきゃ大丈夫だろう。霧はもうないもんな」
「ええ。ただ、霧の効果が切れるまでの時間はまだ経っていないかもしれませんが」
黒い霧は精神に異常を来たさせる。しかし、三十分も霧から離れれば、元の状態に戻ることができる。
空気中に満ちている霧を吸い続けるのがいけないのだ。その霧も寿子の薬で今や綺麗に無くなっている。霧が消えて二十分ほどだ。そろそろ問題なくなる頃だろう。
「どれ、覗いてみるか」
扉は閉まっていた。建物の上部が少し欠けているようなので、あまり開け閉めするのはよろしくない。ゆっくりと慎重に開ける。
中を見れば、予想通り教会であることがわかる。長椅子が置かれており、少々高くなった舞台のような場所、祭壇の後ろにあるガラス張りであったものは割れてしまっているのが残念だ。
せっかく扉が閉まるので風除けになるかと思えば、こちらから風が入ってくるのでこれも台無しにしていた。もちろん、天井には大穴が開いているので、どのみち意味はない。
その祭壇の下。そこに小さく丸まって倒れている者を見つけた。
「子ども?」
「ちょっと、子どもだなんてっ、大丈夫っ!?」
寿子が慌てて駆け寄っていく。
「おい。足下気をつけろよっ」
そう言いながら、宗徳は考えていた。
「この感じが子どもってことは……他も?」
もしかしたら、他にいる三人も子どもかもしれないと思い当たる。
「寿子、他のもここに連れてくる。そいつら見ててくれ。徨流、寿子の護衛頼むぞ」
《くすぅっ》
シュルシュルっと宗徳の腕から寿子の腕へと飛び移るのを確認し、宗徳は外へ駆け出した。
結果的に、リーヤとミラーナが連れてきた一人も合わせ、五人全員が子どもだった。年は大体五、六歳といった所だろう。薄汚れた服は、綿の布一枚で出来ているのではないかと思えるような寒々しいものだった。
「彼らは、おそらく孤児です」
「孤児か……」
宗徳はリーヤを見て、少しばかり違和感を感じた。リーヤもミラーナも、孤児ならばここに居ても当然だという顔をしているのだ。
「この世かっ……この国では孤児ってのは結構いるのか?」
「ええ。大きな街に行けば、必ず貧民街があります。そこには、これくらいの歳の子どもはゴロゴロいますよ」
「……そうか……」
この世界には人を日常的に危険に晒す魔獣がいる。それらから身を守るには武器が必要だ。武器は人を守る物だが、同時に人の命を奪う物だ。戦争や盗賊などの問題も、物語や伝記の中にあるわけではない。死は、ずっと近い場所にあるのだ。
集めた子ども達は、全員治療を済ませている。ついでに体もキレイにしておいた。そこで宗徳達は気付いた。
「耳があるな……」
「尻尾もですね……」
子ども達全員に犬のような耳と尻尾がついていたのだ。
「獣人族の子ども達です」
「へぇ……やっぱ、カワイイな」
「さ、触りたいですね。向こうでお会いするのは成人した男の子ばかりでしたし……」
「……後でな」
「ええ」
是非とも可愛らしい耳を触ってみたいと思った二人だ。それからしばらくして、子ども達が次々と目を覚ました。
「お、目が覚めたな」
「……っ」
当然だが、皆一様に怯えていた。最初に見つけた二人は兄弟のようだ。少しだけ背の高い方が、小さい子を庇って後ろに隠そうとしている。
そんな様子を見て、宗徳はいつも通りの明るい声で話しかける。今、この教会の中には、子ども達と宗徳、それと腕に巻き付いた徨流しかいない。
「お前ら、腹減ってないか?」
「っ……」
外では、寿子がミラーナとスープを作っている。ガリガリに痩せた子ども達に食べさせるためだ。
「ついてこい」
手招きながら外へ案内すると、丁度出来上がったところのようで、器に温かそうな白いスープが用意されていた。
因みに地面には素足の子ども達のために絨毯を敷いてある。これは、長年使っていたもので、もう洗うこともできないからと物置きに放置されていたのだが、ふと宗徳が思い至り、こちらで魔術によってキレイにできたら売る事も出来るなと考え、持ち歩いていたのだ。
分厚い絨毯は、キレイに洗われて乾燥され、ふわふわの気持ちの良いものになっていた。
「ほれ、汚してもいいから乗れ。そんで食べろ」
「……」
「食べていいのよ?」
警戒する子ども達に、器を差し出す寿子。それに、我慢できずに一人が手を伸ばすと、他の子ども達も手に取り口にしていく。
「ふふっ、そんなに慌てて食べたらお腹を壊すわ。ゆっくりね」
「ん……」
ようやく声が出た。小さな頷き声。それを聞いて笑みを浮かべれば、子ども達の頬が濡れていることに気付く。
「お? なんだ。そんなに美味ぇか」
宗徳が近くにいた兄弟二人の頭をそっと撫でる。どさくさに紛れて触れた耳は柔らかくて温かい。
「あらあら。もう大丈夫よ? よく頑張ったわね」
「うぅっ〜……っ」
呻くような泣き声。それだけで、この子ども達に自由がなかった事が窺い知れた。
「ゆっくり食べろよ。そんで、一眠りしたら俺らの街に行こう。心配しなくても、お前らくらい養ってやるからな」
知り合った者達くらい、手を差し伸べても良いだろう。そう、宗徳と寿子は思った。もちろん、無責任に拾うだけにはしない。
「み〜んな、おばちゃんの子どもにしちゃいましょう」
「ははっ、なら俺の子どもでもあるな。大きくなれよ」
《くきゅっ》
こうして宗徳と寿子は、五人の獣人族の子どもを保護したのだ。
読んでくださりありがとうございます◎
子どもにします。
次回、土曜23日0時です。
よろしくお願いします◎




