041 宗徳の騎獣
2017. 12. 2
宗徳が湖に単身で潜ってしまった後、残されたリーヤは、カタカタと震える体に気付く余裕さえなく、リヴァイアサンと見つめ合っていた。
「む、ムネノリどの〜……っ」
目を離したらヤられると感じているリーヤは、弱々しい声で呼びかける。どう考えても聞こえるはずはないのだが、心細過ぎて黙っている事ができなかったのだ。
「ムネノリどの……戻ってきてくださ〜い」
そうして、リヴァイアサンと見つめあっていたリーヤだが、十分しても宗徳が戻って来ない事で、次第に顔を歪めていく。
「ど、どちらへ……」
どこへ行ってしまったのだろうと不安に思いながら、また十分が過ぎる。しかし、そこで毒消しの薬を用意するために森へ行っていたミラーナと寿子が合流した。
「あら? ウチのはどこへ消えたのかしら?」
「っ、あ、アレっ……!」
寿子はここまで来る時と変わらない呑気な声で尋ねてきたのだが、ミラーナはリヴァイアサンを見て足がすくんでしまっている。
「リーヤさん。あの人、どこへ?」
中々答えないリーヤに、寿子は辺りを見回して情報を探す。
間違いなくその際リヴァイアサンを見ているはずなのに、全くその反応がない。だから、リーヤもミラーナもわざわざ寿子へ教える。
「あれが見えないんですか!?」
「これ以上近付くのは危ないです!」
しかし、ヒサコはなんてことないように応えた。
「何言ってるの? あの子まだ子どもでしょう? あんなに澄んだ目をしているんだもの。悪さなんてしないわよ」
「「……」」
そんな感想をどうして抱けるのだろうと二人は顔を青ざめながらパクパクと口を開閉させる。
その間に寿子は目的とする疑問を解決していた。
「あれはあの人の服ね。黒いのがどこから来るのか確認しに行ったってところかしら。なら、ここで薬を作って待ちましょうか」
やることを決め、寿子は空間から来て早々に押し付けられた、薬を作るための道具を取り出して地面に並べる。勿論、風の膜でリーヤやミラーナを含む一帯を覆い、そこにピクニックシートを敷いて落ち着く。
だが、それに取り掛かろうとした時、リヴァイアサンが見つめているのに気付き一言断っておく。
「少しここで作業するから暴れないでね」
《……クゥ》
返事をしたようにリーヤとミラーナには聞こえた。鼻を鳴らしたような可愛らしい声だった。その解釈は正しく、寿子もよろしいと頷いて作業に入った。
どれだけの時間が経っただろう。作業に集中していた寿子の傍らでは、二人がリヴァイアサンを警戒して未だにただ立ち尽くしていた。そして、唐突に寿子が満足げな声を上げる。
「これでいいはずだわ」
「できたのですか?」
ミラーナの問い掛けに頷き、寿子はものは試しと一つの薬を湖に流し込んだ。すると、光が同心円状に広がっていくように湖を浄化してしまった。
「上手くいったみたいね。これからまた湧き出てくる分はどうにもできないけど、今上がってきてる分は消えたんじゃないかしら」
《クゥゥっ》
すると、リヴァイアサンが湖に潜った。
「ちょっ、む、ムネノリ殿がっ」
湖の中には宗徳がいるはずだ。そこへ突っ込んでいかれては困るとリーヤは慌てた。しかし、寿子は首を傾げながら湖を覗き込んで告げた。
「あの人……いないわよ? どこ行ったのかしら。あら? あの子も消えた?」
寿子には何が見えているのだろうとリーヤとミラーナはその言葉の意味を考える。
「まあ、いいわ。その内戻ってくるでしょう。その間にここの霧を払いましょうか」
そうして、今度は空間からリーヤ達の知らない道具を取り出した。それは空になった霧吹きだ。消毒液が入っていたが、それが無くなってからは、水を入れて家の中の花に水をやるために取っておく。お陰で捨てられない霧吹きが三つも四つもあったのでこちらで使えればと入れておいたのだ。
「やっぱり捨てなくてよかったわ」
あまり物を捨てられない性格なのは隠している寿子だ。今回役に立つことで、また捨てられなくなりそうだった。
「さぁ、あなた達も手伝ってくださいな。これをこうしてシュッシュッとしながら歩いてください。黒い霧が消えると思います」
「わ、わかりました」
「これ面白いですね」
リヴァイアサンが視界から消えたことで二人は落ち着いていた。そして、この辺り一帯の浄化を始めたのだ。
十分ほど経っただろうか。かなり湖の周りは見違えた。昼の太陽の光も降り注いており、黒い霧はもうほんの少しだ。湖からも黒い霧が湧き出すのが止まったように見えた。その時だった。リヴァイアサンが湖から勢い良く飛び出してきたのだ。
その背には宗徳がくっ付いていた。
「あ? スゲェ、霧が無くなってるぞ。良かったな」
《クゥ〜》
宗徳は楽しそうに空から辺りを見回した後、リヴァイアサンの首を撫でながらそう話しかけていた。
「お前も苦労したよなっ。あ、お〜い寿子〜っ」
宗徳が寿子の姿を認めて手を大きく振る。これに、寿子は腰に手を当てながら応えた。
「あなたっ。リーヤさんが心配してくれていましたよ! ちゃんと何をするのか説明してから行動してください」
「悪りぃ、悪りぃ。気が焦ってな」
「い、いえ……ご無事ならばよかったです」
そうして、宗徳はゆっくりと降りて来る。リヴァイアサンに乗ってだ。
「ありがとな」
《クフっ》
スンと鼻を鳴らすようにして、宗徳に鼻面を押し付けるリヴァイアサン。どう見ても懐いているようにしか見えない。
「こらこら。嬉しいのは分かったから」
そう言って手でリヴァイアサンの顔を押さえる宗徳。押し負ける事はなかった。
「可愛いですね。素直な良い子です」
「だな」
寿子も近付き、リヴァイアサンの顔を撫でる。
《クゥゥゥ〜》
「鈴みたいな良い声だわ。肌も不思議な手触りね。ミラーナさんも撫でてみません?」
まさかのお誘いにミラーナは無言で表情を引攣らせる。
「はっはっはっ。レベル三百八十五だからなぁ。怖ぇんじゃねぇの?」
「さ、三っ!?」
驚きに声を詰まらせたリーヤやミラーナなど気にしない。
「そうでしたか。この世界では強さがレベルである程度分かるようですものね。でも、あら? あなた。一番下におかしな称号が」
「んん?」
鑑定した宗徳は言葉を失う。
固有名称【リヴァイアサン(神変異種)】
レベル【385】
種別【神獣】
HP【9037/12500】
MP【11580/15000】
称号【勇者(宗徳)の騎獣】【契約神獣】
「……俺の? 騎獣ってなんだ?」
「あらあら。あなた神獣だったの? 確かに龍神様にしか見えないわ」
種別も(前)がなくなっていた。これは、この場の浄化が成された事により、本来の状態に戻ったためだった。
「えぇぇぇ……っ!?」
「ふっ……」
リーヤとミラーナは、驚き疲れて気絶していた。
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