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037 向こう側は

2017. 11. 4

どういった具合に霧が煙のように出ているのか観察しながら、何気なく黒く染まっている鳥居をくぐろうとする。


この鳥居の素材は木だ。黒いことから神社で見る石で作ったものであるかもしれないと思ったのだが違うらしい。この木自体から煙りのように黒い霧が出ていると見て間違いない。鳥居の真下で上の柱の部分を見つめ、足を進めた。


しかし、丁度その鳥居をくぐり終えた時だった。


「なっ、なんだ!?」


一瞬何かに肌が触れたような感覚があった。まるでそれは蜘蛛の巣に顔からぶち当たって行ったような感触だ。咄嗟に振り払おうと手で顔を撫でる。その間にも鳥居を通り過ぎて進んでいた。


そこでふと気づく。いつまでも足場があるのだ。宗徳の感覚では、湖底があるのは五十歩もないくらいの広さのはず。


それに、いつのまにか黒い霧ではなく、周りに見えるのはヘドロに近いものだ。これはおかしいと思い、上を向く。


すると、薄っすらと太陽の光が見えた。


「おかしいな……湖面が近い……」


先ほどまで宗徳がいた湖の底は、かなり深い場所だ。上を見上げても視界に納まるくらいの縦穴の入り口として湖面が見えるほどの深さのはずだった。


それなのに、ひと掻きとまではいかないが、だいたい二階分の高さほどの位置に湖面があるようなのだ。


「水もさっきと違うのか? それに……あいつらどこ行った?」


湖面の外にあったリヴァイアサンとリーヤの反応がないことに気付いた。


宗徳は確認しようとそのまま風の膜を纏いながら上昇していく。どうも今の湖の水は触れるのも憚られる。緑の藻と泥が混ざり合った腐った水のようだ。


湖面から浮かび上がり、停止する。そこで宗徳はまさかと目を見開いた。


「お、おい……こりゃぁ……っ」


毛穴が一気に開くようなぞわりとする恐怖感が体を襲う。


目の前にあったのは、一軒の古びた道場とその裏に広がる荒れた庭。その向こうには、電線が走る近代的な風景。


「善じぃの道場じゃねぇか……となると……ここは裏の湖かっ」


住宅街の真ん中でなくて良かったと思う反面、なんで地球に戻って来てるんだと叫び出しそうだった。


はっと思い、宗徳は自身の手に目を落とし、次いでペタペタと体を触る。


「どうなってる……若返ったままか……じゃぁ、これは幻か?」


まだあちら側にいるのではと疑うのも無理はないだろう。宗徳は本来の姿ではなく、二十代の青年の姿のままなのだ。


どうして、なぜだと混乱していれば、道場の脇を抜け、生い茂る草をかき分けて一人の少女がやってくる。


少女は、恐らく孫である律紀と同じくらいだろう。今日は休みのはずだから、この時間に家に十代の子どもが私服でいても問題はない。しかし、今の宗徳を見れば大問題だ。


案の定、目が合った少女は立ち止まり、宗徳をマジマジと見つめて口をパクパクと無意味に動かす。


「なっ、なっ」


悲鳴を上げられなくて良かった。普通は、そう簡単に悲鳴など上げられるものではない。この少女も例に漏れる事はなかった。


だから、混乱しているうちに質問しておくことにする。


「嬢ちゃん、善じぃのひ孫か玄孫か?」

「ひっ……え……ゼン……孫? 大じぃ様、善治の事ですか?」

「そうだっ。俺は宗徳。善じぃの弟子の一人だ」


一気に言葉にしてしまう。すると、距離がある事もあり、少女は訝しみながらも確認してきた。


「はぁ……大じぃ様の事はひぃ祖父ちゃんから聞いていますが……少なくとも私が生まれるずっと前に亡くなった人ですよ? お兄さんは会えないはず……あっ、お兄さんって、ゆ、幽霊?」


そういえば浮いているなどと呟きながら不安げに口元に手をやる少女。


「あ、いやいや。まだ生きてるぞ。これはちょっと不思議な力を使ってるからだ。ってか、服着てねぇのは変態っぽいな……ちょい待ち。すぐ着替えっから」

「え、ええ……」


宗徳は現在下着一枚という状態だ。風の膜を張ったまま湖ではなく池となったその中に半ばまで入り、姿を少しばかり隠しながら空間の収納場所から服を取り出して着る。


湖に飛び込む時に、着ていた服は全て湖の畔に放置してきてしまった。今回は万が一の為というわけではなく、ちょっとした思い付きで入れておいた若者向けの服を取り出す。


今の二十代の若者が着るようなカジュアルな服。それを着ると、かなり妙な気分だ。当然だが、宗徳が二十代頃に着ていたものとは素材からいっても違う。それが、自分に似合っているかどうかは分からないが、これで一応は体裁は整った。


良しと気合いを入れて今一度風の膜を張ったまま湖面の上まで浮き上がる。それを見た少女は、大きく目と口を開けて立ち尽くしている。ただ、先ほどよりも近い位置にまで近付いてきていた。


「や、やっぱり浮いてる……幽霊……でもこんなにはっきり見える……はっ、私に霊感がっ!?」

「悪いが、俺はまだ死んでねぇよ。それより、ちょい聞きてぇんだが……」

「ファッションは現代のもの……それなのに善治大じぃ様を知ってる……どういうこと?」

「お〜い。聞いてっか?」

「はっ、はいっ」


分かりやすく体を一つ震わせ、ようやく宗徳を真っ直ぐ見た少女。ここで、まだ名前も聞いていない事に気づく。


「そういや、嬢ちゃんの名前はなんだ?」

「あ、えっと、ハルキ……治季といいます」

「そうか、治季。それじゃぁ、ちょい聞くが、ここは昔湖だったはずなんだが?」

「はい……良くご存知で……」


そう、ここは小さいが湖だった。だが、今は池にしか見えない。それもドロドロとした黒い沼的な見た目だ。きっと、風の膜を解いたら臭いだろう。そこでまたふと気付く。


「悪い。俺だけ良い空気吸ってんのは失礼だな。待ってろ」


宗徳は治季の周りにも風の膜を張ってやった。中の空気は常に入れ替えられ清浄な空気で満たされている。


「え、あれ? く、臭くなくなった……シャボン玉?」


不思議そうに治季は指で風の膜を突く。柔らかな風が渦巻いて作っているので、ちょっと強い風に触れたように感じるだけだ。治季はそれが分かったらしい。


「風? 凄い……魔法使いだ……はっ、え、え〜っと……っ」


恥ずかしそうに顔を赤らめながら宗徳をチラチラと見てくる。


「ん? ああ、魔法使いで合ってると思うぞ」

「ええっ!?」


驚く治季を放っておいて、宗徳は質問に入る。


「それでだな。ここ……そうだな、数ヶ月前くらいから、この辺でおかしな事とかないか?」

「えっと。ま、魔法使いさんは、探偵みたいな調査をしているんですか? あ、何か世界の為の重大な使命をっ……なんでもお聞きくださいっ」

「お、おう……」


先ほどとは打って変わって力強い視線をいただいた。かなり肩の力も入っている。このやる気は悪いものではないかと、宗徳は話を進める事にしたのだ。


読んでくださりありがとうございます◎



魔法使いに見えるようです。



次回、また来週土曜11日0時です。

よろしくお願いします◎


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