032 道案内よろしく
2017. 9. 30
宗徳と寿子は、階段を降りながら、先ほど部屋から出る際に投げ寄越された白い布を腕章のように左腕に縛り付けていた。
「ギルド職員として行ってこいか……なんか意味があんのか?」
扉を閉めようとした所で、善治がそう言って投げよこしたのだ。まだ腕章として正式なものではないが、着けるように言われた。
「あるんでしょうね。師匠が言うのですから従いましょう。何より、やる事が変わるわけではありませんもの」
「まぁな。なら、考えても無駄か」
「まだまだ何も知らないと同じ状況ですからね。こちらでは」
そう、宗徳も寿子も、こちらの世界の常識などちゃんと聞いてはいない。知識としては、ちょっと頭の良い幼児レベルにも到達できていないだろう。しょせんはまだまだ新参者。とりあえずは善治の言う事だけを守って、ゆっくりとこれから知っていけばいい。
今回の場合は、大人の事情も出てきそうだ。それこそ宗徳達には手出しできない。意味があるものとしておくのが妥当だろう。
「それでよぉ、俺ら、どこへ向かえば良いんだ?」
「……師匠も説明し忘れていますね……」
「だよなぁ。俺も今気付いたもんよ」
「何と戦うかよりもある意味こちらの方が重要でしたね……まぁ、外にいる方々に聞いてみましょう」
「それしかないな。どの道、地図とかこの近辺の地理さえ怪しい」
実際、宗徳達が歩いた事があるのは、この、町となった小さな村の周辺。
遠くても精々、最初に訪れた石の神殿のある岡までだ。距離にしたら一キロあるかどうか。
この数ヶ月はこちらの世界の知識を得る暇もないくらい村の開拓に従事していた。地図を見たいなどと考えたこともなかった。よって、宗徳も寿子も、現在どこにいるのかさえ分かっていなかった。
そんな中、ちょっと退治してこいなどと言われても間違いなく迷子だ。
腕輪のお陰で、どこからでも扉さえあれば地球に帰る事は出来る。だから、最悪迷子になったとしても、地球経由でチェルシャーノに城へ帰してもらえるだろう。安心といえば安心だ。
「あ〜……扉を持って歩けたら危なくなった時に避難できるよな」
「……そうですねぇ。昔、徹と観たアニメを思い出しました……」
「ああっ、あれかっ。無理か?」
「……何故でしょう……あなたを見ていたら、出来そうな気がしてきます……」
「俺の腹にポケットはねぇぞ?」
宗徳も思い出した。よくそんなものを思いつくものだと、心底感心したものだ。だが、今は切実にそれがあればと願う。それはもう、夢を見る子どものように。
「欲しいですねぇ」
「欲しいなぁ」
そんな呟きをしながら、ギルドを出ようとした所で、ひと組の男女に声をかけたれた。
「あのっ、ムネノリさんっ」
「すみませんっ、ムネノリ殿っ」
「ん?」
宗徳はその二人を見て一度首を捻る。しかし、そういえばと思い出した。
「あんたら……そうだっ、治療魔術を教えてくれた嬢ちゃんと、大怪我してた坊主だなっ」
一番最初に宗徳が治療した青年と、治療魔術を見せてくれた女性だった。
「え、えっと……嬢ちゃん……?」
「坊主って……」
今の宗徳は二十代前半。彼等と同じくらいだ。それなのに嬢ちゃんと坊主と言うものだから、二人が困惑してしまうのも当然だ。それでも二人は気を取り直し、宗徳に声をかけた理由を思い出す。
「あ、あのっ、そのっ、私はミラーナといいます。先日は、夫を助けていただいて……本当にありがとうございましたっ!」
「リーヤといいます。あの時はお礼も言わず、失礼をいたしましたっ」
「いやいや、いいって。お陰で治療魔術を覚えられたしな」
ニカっと笑えば、二人もつられて笑みを浮かべた。
「本当に、なんとお礼を言ったらよいのか……あの時、俺は死を覚悟したのです。それなのに、妻の顔をこうして見られ、また触れる事ができた……本当に、本当にありがとうございました!!」
リーヤは勢いよく頭を下げる。素晴らしく誠意ある頭の下げ方だ。こういうのは大変好感が持てる。ハキハキ喋るのもポイントが高い。
こういう若者が、地球では少なくなったように思う。だから、若干の懐かしさと嬉しさを感じ、宗徳は満面の笑みを浮かべた。
「ははっ、礼はもういいって」
「いいえ! そうはいきません。どうか、お礼をさせてください」
「あ〜……そうだな……あっ、なぁっ、ならっ、道案内してくれっ」
「え?」
「どちらに?」
困惑する二人を余所に、宗徳は寿子に良い考えだろうとニヤつく。
「これで問題解決だなっ」
寿子は呆れながら頷く。こんな事は宗徳といれば良くある事だ。なぜか宗徳は昔から小さな縁から良い結果をもたらす事がある。わらしべ長者とまではいかないが、それでもついていると思えるので、満足している。今回もそんな感じだ。
二人は、そんな事でいいのかと恐縮している。
「どちらへ案内すればよろしいのでしょうか?」
リーヤが尋ねる。これに、宗徳は明快に答えた。ただ、内容はけっこうなものだった。
「坊主を瀕死にした奴んとこなっ」
「……はい?」
リーヤとミラーナは、ぽかんと口を開けて固まったのだった。
◆◆◆◆◆
一時間後。二人の案内で、宗徳と寿子はその廃村が見える所まで辿り着いた。
馬や馬車などの移動手段があれば、半刻もせずに辿り着ける距離らしいが、宗徳達は、のんびりと歩いて来ていた。
相手は件の廃村から動く気配はなく、そこに助けなければならない人がいるわけではない。だから、せっかくなのでこの移動時間を有効に使い、この世界の事や、これから相手をしなくてはならないものの情報を案内役の二人から教えてもらっていたのだ。
「それでは、問題となる魔獣? ですか? それが現れたのは三ヶ月前なのですね?」
寿子が確認すると、二人は頷く。
「突如として、毒の霧が村を包んだといいます。廃村となって数年は経つのですが、街道から少しばかり離れているだけで、特に不都合のある土地ではありません。廃村となっても、旅の途中その場所を借りる事もある場所でした」
人は住まなくなったが、冒険者と呼ばれる者達や、旅人達が一夜を明かす為に、そのままになっている廃屋に入り込むことはあったらしい。
雨風を多少凌げるので金のない者達は、密かに重宝していたらしい。
しかし、そこになぜか毒の霧が発生した。
「最初に発見したのは、冒険者でした。休憩するために寄ろうと考えたらしいのですが、廃村がなくなってしまったかのように、そこに黒い霧が渦巻いていたのです。そして、それを吸った彼等は正気を失い、衰弱死する手前でなんとか他の冒険者達に助けられました」
「運が良かったなぁ」
「でも、毒なら、助けた方々もその方達と接触してしまって大丈夫だったのでしょうか?」
毒霧など、どう作用するか分からない。だが、今回のものは心配なかったようだ。
「そこは大丈夫でした。それに、精神的な異常をきたすだけで、他に身体には異常はありませんでした」
「俺たちも、皮膚に何か影響があったとは感じられませんでした。ただ……怪我の治りが悪かったように思います」
「そうです。私が夫に治療魔術をあの場でかけても、ほとんど効果がなかったのです。それで魔力が底を尽きてしまって……」
あの大怪我で、馬車によって運ばれたといっても、よく保ったものだと思う。しかし、これには理由があったらしい。
「冒険者として魔獣を狩るようになると、身体能力が向上するのです。沢山狩れば狩っただけ、普通の人より丈夫になります。夫と私はレベルが八十を超えていますので、助かったのだと思います」
「へぇ。八十……八十?」
そこで、ふと宗徳は善治のレベルを思い出してみる。
「え〜っと……なぁ、八十って普通なのか?」
「まさかっ、あ、でも今回の討伐遠征に参加できるのは、八十より上の者なのです。一番上が百七のイスティリア様でした。聖剣のイスティリア様が参加されると聞いて、私や夫は参加するのを決めたんです。この国で二番目に強い冒険者ですよ」
「二番目? 一番じゃねぇのか」
二番目とは微妙なと宗徳は顔をしかめる。すると、二人は大きく首を横に振った。
「一番はこの世界でも屈指の実力者です! 二番目だって信じられないくらいお強いのですよっ」
「強いなんてものではありません! 国の英雄なのですからっ」
「お、おう……そうか」
この興奮具合から、かなりのものなのだろうとは思うが、百七では凄いとは思えない。
仕方がないだろう。善治は五百八十を超えていたのだから。これが異常ならば問題だ。そこで宗徳は寿子にだけ聞こえるように小さな声で話しかけた。
「なぁ、寿子。俺らのすてーたす? も確認しとこうぜ……」
「ステータスです。そうですね。確認しましょう」
そうして、二人はステータスをお互いに調べるのだが、ここでやはりというか、当然、普通ではないことが判明してしまったのだ。
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ステータスは?
次回、土曜7日0時です。
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