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031 出発しましょう

2017. 9. 23

善治はギルドマスターだ。直接動くのは難しい。現在も被害にあったと言う者達が続々と押しかけている状態だった。


これに対応策を講じるのがギルドマスターとしての役目だ。


この世界では珍しい炊き出しを始め、急遽ギルドの外に用意した救護所や眠るための仮設テントも用意させていた。


少々騒がしいような気がして窓から外を覗いた宗徳は驚く。


「なっ、なんだこりゃっ。どっからあんなに人が湧いてきたっ!?」

「まぁっ……本当に凄い数ですね……食料足りてます?」


ギルドの前には大きな広場を作ってあった。暇になったら庭園でも作ろうと考えていたのだ。小さな村なら納まってしまう程の広さ。これならば、敵が攻めて来たら一目瞭然だろうという目論見もあった。


実際は、冒険者ギルドを攻めてくるようなバカはこの世界に存在しない。勿論、他のギルドがこんなおかしな建物であるはずもなく、攻められる事までも考慮する者はいないのだが、そこはせっかくの城だからと訳の分からないロマンを夢みたりしていた。


その下に広がる広大な広場が今やどこぞの人気バンドのライブ会場のように、人というか、テントで埋め尽くされている。そう、まるでこれは張り切って前乗りした人々の群れのようではないか。


「ここの噂を聞いた町や村の者達が、押しかけてきたのだ。このような辺境の場所にできたギルドに来るような冒険者は、それ程強くはないが、今は遠征隊の奴らがいるからな……安全だと思われたのだろう」

「へぇ……そっか、怪我して後退して来たとは言っても実力があるからそれに選ばれたんだものなぁ。そんな奴らがいる場所なら、確かに安全だと思うだろうよ」


とある邪悪な魔獣を討つべく編成された討伐遠征隊。彼らは間違いなく、この国の主戦力となり得る実力の持ち主達だった。


「そういえば、あの方達は元気になられましたか?」


寿子はまだ休んでいた遠征隊の者達を心配していた。宗徳の治療も寿子の薬も、昨日初めて経験したものだ。もしかしたら、失敗していたのではと不安に思っていたのだ。それほど簡単だった。


寿子の不安な表情を見てこれを察した善治は、おかしそうに笑った。


「当然だろう。お前達はおかしいからな」

「おかしい?」

「面白いって事か? そりゃぁ、俺らの夫婦の掛け合いは面白いって、ご近所さんにも有名っ……」

「あ・な・た?」

「っ、お、面白くなんてないよなっ。俺らはいつも真面目にっ……」

「あ・な・た・は・黙・っ・て?」

「はいぃぃぃっ」


目が笑ってない。こういう時は百パーセント、いや、五百パーセント逆らってはいけない。昨日の張り手で思ったが、本気で冥土で土産を買って来られそうなのだ。


運悪くそのまま行ったっきりになる可能性だってある。宗徳はまだ死ぬ気はなかった。


おかしな空気になった執務室。善治は気分転換に宗徳からもらった梅昆布茶を啜る。そして、一息付いた所で本題に入った。


「遠征隊はこのまま休ませる。王国騎士も混ざっていてな。体は元に戻ったが、精神的に危うい。相当恐ろしかったのだろう。騎士が本来相手にするのは、魔獣ではなく人だからな。その点、冒険者は問題なさそうだが、死にかけたというのは事実。どれだけ強靭な精神を持っていても落ち込まずにはいられんようだ。今は町に集まった人々の支援をさせている」


実力があり、国でも屈指の者達が集まって行われた討伐遠征、それなのに大敗を期した。落ち込んでも仕方がないというものだ。


気持ちに整理がついたら、またリベンジしようとは思うが、そこまでが大変だろう。今はリハビリを兼ねて支援活動に勤しんでいた。


「それで、お前達なのだが……」

「おうっ、何すりゃいいんだっ?」


宗徳は途端に身を乗り出し善治に詰め寄る。


「落ち着け……まったくお前は……勿論、討伐だ」

「あいつらが相手した奴をって事だよなっ」

「ああ。ただ、情報がほとんどない」

「ない? どういうことでしょうか師匠。遠征に行った方々は見ているのですよね? まさか、情報が有料であったりするのですか?」


まさか、そんな悪どいことをするのかと寿子は不思議そうに尋ねた。


「いや、よく分からないのだそうだ」

「わからない?」

「ああ。対象がいるのは廃村となった場所だ。だが、その一帯は毒の霧で覆われてしまっている。そのせいで相手がよく見えないらしい」


それは大きなドラゴンであったとか、大蛇だったとか言われているらしい。


「次第に毒によって体が思うように動かなくなり、返り討ちにあったという顛末だ」

「それは……なんていうか……全然役に立たねぇ情報だな」

「相手が何者かが分からないのは困りますね」


対策の立てようがないではないかと唸るしかない。だが、善治は悲観していなかった。寧ろ、面白い事を考えついたというような顔をしている。


「問題ない。お前達にはコレがあるからな」

「コレって……ああ、この万能腕輪か?」

「まさか、これならその魔獣の正体が分かったり……します?」

「おおっ、なるほどっ」


ライトクエストでもらった腕輪は、知らない言語を訳したりできるのだから、もしかしたらそんな事も可能かもしれない。


だが、合点がいったというように二人で顔を見合わせていると、善治が否定する。


「違う。確かに、出来なくはないかもしれんが、もっと効率的なものがある」

「それは一体……?」


腕輪を使う以外にという意味だろうかと首を傾げる。


「魔術だ。これは、この世界で展開されるという事が重要でな。魔術によって知りたいと思うものを前にして『知る』を発動する。その上でこの腕輪を使用するのだ。そうだな……丁度いい。ここに薬がある。これを『鑑定』してみろ」

「お、おう」

「わかりました……」


二人は出来るかどうか半信半疑で両手をそれに向けて魔術を発動する。


すると、腕輪から出る吹き出しがいつもよりも大きくなった。いつもは写真の大きさほどだが、今は小型のテレビくらいある。


そして、そこに数値と名前などが表示されていた。



固有名称【魔力回復薬マナポーション

レベル【35(ランク八)】

種別【薬】

回復値【200】

耐久値【38/50】




「へ?」

「えっと……これがマナポーションですか。それにランク八……薬なのは分かりますね」

「うまく出来たな。では、それと同じように私を見てみろ」

「はい……」

「ひ、人に向けていいのか? いや、いいのか……」


宗徳は少々ビクつきながら善治へ意識を向ける。すると、先ほどの薬と同じように見えた。



固有名称【竜守善治(師匠・善じぃ)】

レベル【582】

種別【人族】

HP【14887/15570】

MP【15500/15600】



「なんか、善じぃって呼び方まで出た」

「私にはありませんよ? かっこ書きで師匠とはありますが……おかしいですね?」

「いや……まぁ、それは個人の呼び方まで反映されただけだ。因みに、人の名前は正しい名前を聞いた時にしか出ない。だから、知らない人間の場合は何も表示されない。魔獣の場合は固有名称が表示される」


バフモーならば【バフモー】と表示されるらしい。種別は【魔獣】だ。


「なるほど……これならば、皆が分からなかった魔獣の正体もわかるというわけですね?」

「そういうことだ」


名称は、宗徳達が知らなくても、この世界の共通語としてあるものは分かるようになっているらしいので問題ない。


「なら、ちゃっと行って正体を確かめてくるぜっ」


簡単だなと宗徳はさっさと行こうと目を輝かせる。だが、善治はおかしな顔をしていた。まるで、何を言っているんだというように。


「お前は……さっき話したはずだが?」

「ん?」

「そうですねぇ。師匠は討伐をとおっしゃったと思います」

「……んん? た、確かに……?」


宗徳も今日ここへ来たのはそのためのはずだった。


「なら、なんで鑑定なんかするんだ? 寧ろ、教えてもらわんと困るのは毒の対応か?」

「そうだな。だから、毒も鑑定しろ。遠くからな。色々分かる。因みに魔獣や生き物にはHPとMPがある。分かりやすく言えば、HPは身体の強さ。MPは魔力量だ。HPが無くなれば死ぬ」


数値にされているのは分かりやすい。


「な、なるほど。そりゃぁ、し損じる事はなくなるな」


ちょっと安心だ。さすがに知らない生物と戦うのだ。死んだのかどうかの確認が明確に出来るのはありがたい。


そこで少し考える素ぶりを見せていた寿子が尋ねる。


「師匠、鑑定は自分にも使えますか?」

「できる……とは言えん。だが、この腕輪を使わずに鑑定が出来るようになれば出来るらしい。相当難しいぞ。ライトクエストでも出来るのは少数だ」

「はぁ……それは無理そうですね。私達はお互いで見ましょう」

「そうだな」


二人で戦うならそれで問題ない。


「ん? それで、毒の霧っつうのはどうすんだ?」

「その場で考えろ。頼んだぞ」

「……師匠……」

「あ〜……なんか昔を思い出した……」

「これも修行だ」


未知の生物を相手に戦ってこいというのは無茶だと思う。だが、善治はこういう人だった。そして、少々の不安を抱えつつも、二人は出発したのだ。



読んでくださりありがとうございます◎



やっと出発……。



次回、土曜30日0時です。

よろしくお願いします◎


027話が投稿されていませんでした。

是非そちらもご覧ください。

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