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030 筋がいいです

2017. 9.16

昨晩は色々とあったが、いい朝を迎えた。


「うぉっ、めちゃくちゃ良い天気だっ。絶好の戦闘日和だなっ」

「あなた……こっちが晴れていても向こうも晴れているとは限りませんよ」

「っ、そ、そうだった!」


寿子の冷静なツッコミに、宗徳ははっとする。そんな様子を隣を歩きながら見ている律紀は楽しそうに笑った。


「ははっ、おじいちゃんって子どもみたい」

「仕方ないだろう。男ってのはいつまでも少年の心を持ってるもんだ」

「それって、仕方ないことなの?」

「仕方ないことだ」

「そっか」


律紀が納得するその隣で、寿子が苦笑していたが、宗徳はあえて視界から外していた。


昨日と同じように律紀とライトクエストの建物に入る。今日はエレベーターに魔女が乗り込む代わりに犬の耳の生えた獣人が乗ってきたのには少々律紀も驚いていた。


部屋に着くと、律紀が興奮気味に吐き出す。


「うわぁ〜っ、見たっ? 可愛い犬耳っ、あれカチューシャじゃないんだよねっ? 動いてたっ。でも、普通に顔の横にも耳あったよね? なのに頭の上にもあるってどういうこと?」


出会ったのは、強面系の青年だった。それがまた良かったらしい。変にジロジロと見ないようにするのに律紀は大変だったようだ。


「あれ? そういわれてみれば……耳二つあるな」

「だよねっ。うんっ、鷹君に聞いてみるっ」

「そうだな。聞いといてくれ。俺も気になる」


約束の時間に美希鷹が来ると、律紀を頼むと言い置いて宗徳と寿子は扉の間に向かった。


「あ〜、待ってたヨ。君たち送ったらちょっと休憩しようと思ってたからサぁ」

「そりゃぁ、すんません。お願いします」

「ははっ、そんじゃ、気を付けてネ」


チェルシャーノに見送られ、扉をくぐる。善治の執務室の続き間に出た。扉を閉めて、再びその扉を開けると、善治が昨日別れた時と同じ位置で作業中だった。


「善じぃ、来たぞ」

「お待たせしました」

「ああ。急かして悪かったな。息子は大丈夫だったか?」


善治は昨晩の通信で、怪我をして薬を使った徹について心配していたらしい。


「問題ねぇ。まったく、あんな手加減なく叩くとはびっくりしたぜ」

「あら。軽くはたいただけですよ。それなのに、最近こちらへ来ている影響か、ちょっと前より威力が上がっていたから少しは驚きましたけど」

「そうか。今後も気を付けてくれ。本気で殴れば、殺してしまうかもしれないからな」

「そこまでか?」


宗徳は自分の手を握ってみる。それほど今までと違うとは思えなかった。


「そのうち、制限をかけられる魔導具を用意しよう。あまり力が付き過ぎると生活し辛くなるからな」

「へぇ」


あまり実感が湧かなかった。


「それで? 今日はどうするんだっけか」


善治に確認すれば、先ずはと親指と人差し指で輪を作ったくらいの長方形のプレートがぶら下がっている鎖を二つ差し出してきた。


「ネックレスですか?」


寿子は抵抗なく善治の左手にあったそれを手に取る。右手には宗徳用のがもう一つ。宗徳が渋々手に取った。


「俺もかよ……こんな洒落たの付けんのか?」


だが、どうにも同じような物を見たことがあった。


「そういや、昨日治療した奴らとか、職員の連中もおんなじの首に下げてなかったか? 部族での決まりとかか?」

「いや、それはギルドに所属する者という証明書みたいなものだ」


触れてみれば、とても軽い。何かの金属でできているのか、薄いが曲がらなかった。冷たさは感じないし、不思議だと首を傾げる。


「先ずはそれを身に付けろ」

「おう……」


長いチェーンは留め金もないので、そのまま頭から被るように付ける。すると、シュルシュルとチェーンが萎む。


「おおっ!?」


このまま絞められるのではないかと思えるほど一気に、そして、一瞬で丁度首の付け根の辺りにプレートがくる大きさで止まった。


「ふぅ……なんかびびったぜ」

「不思議なものですね……」


寿子も声にこそ出さなかったが、少々恐怖を覚えていたらしい。声が震えていた。


「それで本人の登録ができた。因みに、外そうとすれば大きくなって外せる。まぁ、あまり外す者はいないがな。失くしたら再発行には金がかかる上に、それがないと入れない町もある」

「そりゃぁ、外さんだろうな」

「身分証明書なのですね」


そういう事情があるのなら、外す者はいないかもしれない。


「他人が外す事はできんから、盗難の恐れはない。ただ、もし、それを付けている者が死んでいる所に出会ったら、プレートを引っ張ってくれ。チェーンが簡単に千切れて砂になる。回収したプレートはどこの冒険者ギルドでも構わないから届けるのが暗黙のルールだ」


これによって、死亡届が成されるのだ。


「了解」

「わかりました」


宗徳と寿子は、そんな場面にあまり出会わないことを願って頷いた。


「では、今日の仕事だが……その前にお前達。教えた空間魔術はマスターしたか?」


善治が教えた空間魔術とは、ゲームでいうところの空間収納術の事だ。生物以外は何でも入れられて、手荷物がなくなるという素敵な魔術だった。


「おうっ。バッチリだぜ。ほれ、こうして……」


宗徳は縦に空間を切るような仕草をする。すると、一瞬、宗徳の足下に魔法陣が光り、それが宗徳の示した場所に剥がれるように吸い込まれていく。


次の瞬間、空間に亀裂が入る。それが、まるで威嚇する猫の目のように開き、ブラックホールのようなものができた。


そこに躊躇なく宗徳は手を突っ込み、取り出したのは竹筒でできたコップだ。


一つ取り出したそれを善治の机に置き、あと二つ両手を突っ込んで取り出すと一つを寿子へ渡した。


ふっと力を抜けば、ブラックホールは消えてしまう。


「飲み物がこぼれないのが不思議だよなっ。あ、それ、梅昆布茶だから」

「上出来だな……茶は有難くいただこう」


そこで寿子も同じようにブラックホールを出現させる。そして、今度出てきたのはラップで包まれた甘いカステラだった。


「お茶請けにどうぞ、師匠」

「う、うむ。寿子も出来ているな」


善治は少々、頬を引きつらせていた。やって見せた二人は知らないが、この魔術を扱えるようになるには、魔術にかなり慣れなくてはならない。


息をするように魔力を扱え、更に確実なイメージを持たなくてはならなかった。


実際、イメージする力のある地球の者でも、修得に数ヶ月はかかる。


宗徳と寿子にこれを教えたのは約半月前。他の魔術もほとんど失敗することなく出来るようになった事から、善治はそろそろ出来るだろうかと淡い期待の元で今回尋ねたのだ。


出来ていて当然というように言ったのは、そうハッパをかけることで刺激を受けて、少しでも早く修得できるようになるのではないかと思ったからだ。


しかし、予想は嬉しい方へ外れたというわけだ。


「お前達は、筋が良いな。扱える魔力量もかなりのもののようだ。あちらでも、寿子の作った薬は確実に効いただろう」

「おうっ、一瞬で口の中の傷まで治ってたみたいだ」

「恐る恐る、一口舐めただけでしたけどね」

「そうか……ならば、やはり期待できそうだ」


善治は嬉しそうに呟いた。



読んでくださりありがとうございます◎



才能アリです。



次回、土曜23日0時です。

よろしくお願いします◎

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