199 孫のためなら
ちょっと勢いがつき過ぎたと、宗徳と寿子は落ち着くように姿勢を正す。
「お、悪い」
「あら。ごめんなさい」
「その……なんだ。この子ら、俺らが預かってやるよ。レンやタカ達も仲良くやれそうだし」
「そうしましょうよ。なんならお泊まりしても良いわよ? 部屋はいくらでもあるから。あっ。二人の学校はどこかしら?」
「俺と一緒」
美希鷹が声を上げる。
「タカ君と? まあっ、なら我が家からの方が近くないかしら?」
「うん。休み明けは俺もノリさんの家から学校行くし、良いんじゃない? 大体、そんな夫婦喧嘩が勃発するような環境で、受験勉強とか無理じゃね?」
「え!? 受験生? それはダメだわ。こっちには、立派な図書館もあるから、良いと思うのよ」
「図書館……図書館が家に……?」
「ええ」
「そうだぜ」
家に図書館があるなんて、一般家庭ではないだろう。イメージもできないはずだ。だが、美希鷹や律紀が当たり前のように薦めていた。
「ノリさんとこの図書館、いいぜ。律紀のお兄さんの征哉くんも、あそこで勉強するようになって、成績も上がったって言ってた」
「お兄ちゃん、家では全然集中できないとか言って、機嫌も最悪で、いつもイライラしてたけど、おじいちゃんの所の図書館で勉強するようになってから、付き合いやすくなったしね」
「そう……なんだ……」
まあ、普通には信じられないだろう。
「一度来てみるか?」
そう宗徳が提案すれば、廉哉が口を挟む。
「そうでした。この連休中、泊まりに来てはどうかって、話をしてたんです」
「おっ、それは良いな。どうだ? お試しで」
「食事とかも気にしないで。家の畑にはお野菜も果物もいっぱい生ってるから、それの消費を助けると思ってね?」
「うちは、大浴場もあるぞ」
「お、大きな家なんですね……?」
「まあ、そこそこ大きなホテルくらいある」
「「えっ」」
「は?」
亮司もこれにはさすがに声を上げる。しかし、思い出したようだ。
「まさか……あの屋敷か……」
「そういうこった。亮司も元気になったら来いよ」
「お、俺は……」
色々と亮司には不安があるのは、この短い間一緒に居ただけでも宗徳には分かっていた。
「お前はさあ。死んでも家を手放さないなんて無茶言うつもりはないんだろ?」
「っ……ああ……近々、馴染みの弁護士にでも相続とかの相談をして……家は手放そうと思っていた……」
「「え!?」」
孫である翔利と朱莉もこれには驚いていた。今日、ここへ両親達と来てから、亮司は息子達が家を手放せと言うのをずっと頑なに拒否していたのだから。
「まあ、腹立つのもわかるけどな。大事にきた場所を、勝手になあ」
「ギリギリまで粘ってやりたくなりますわよねっ」
「「……」」
孫達も察した。祖父の気持ちも理解できる。
「今日のは、間違いなく父さん達が悪い……」
「今日のは、じゃなくてっ、他の日も大体、お父さん達が悪いよ。私、知ってる。おじいちゃんの保険金、あの人達は受取人になる気満々だった……今日も書類持って来てたよ……」
「はっ、そんな事だろうと思ったよ! あの親不孝者が!」
他にも、彼らは色々と手続きするつもりだったらしい。いつ何時、喋れなくなるかもしれない。誰かわからなくなるかもしれない。そうなれば、銀行口座に預けているお金にも手を出すのが難しくなる。前もって準備しておくのは良いが、不仲だとまた一段と面倒くさくなるものだ。
「まあ、まあ、落ち着いてくださいな」
「そあだぜ? ったく、意地の張り合いもほどほどにしろよ? ってか、俺が言いたいのは、家を手放して、一緒に住んでもいいからなってことだ」
「そ、そこまで迷惑は……」
「良いんだよ。そんなことより、お前があいつらと縁を切るとか言い出して、この子らが悲しむことの方が問題だ」
「っ……すまねえ……」
そこは、亮司も避けたいことだったのだろう。
「まあ、ちょい息子達とは距離置いて考えろや。その間、この子らの事は任せろ」
「……そうだな……悪い……」
「いいって。そんなことより、お前も元気になることを考えろ。この子ら、孫のためなら頑張れるだろ?」
「けど……いや、分かった。そうだな。必ず元気になるよ」
「おう」
「ふふっ。待ってますからね」
そうして、半月後。亮司は病院を退院することになるのだ。
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