198 親友の孫ならば
宗徳は、楽しそうに笑い合う孫達を見て、満足気に頷く。
「おっ。仲良くなったみたいだな」
これに、美希鷹がそう言えばと答えた。
「そうそう! この後も一緒にパンケーキの店行くことにした!」
「そりゃあ良い。金は心配すんなっ」
「えっ、いや、でも」
翔利が戸惑うように言うが、宗徳は笑って胸を叩いて見せた。
「構わんて。ちょい前に臨時収入もあってなあ。レン達と仲良くしてくれるってのも嬉しいしな」
「そんな……」
実際、瑠偉達と仕事をした時の報酬がたんまりと入ってきたのが先日。魔女達がその仕事ぶりを絶賛したことで、瑠偉達もボーナスが出たらしい。
「亮司の孫なら、俺の孫みたいなもんだ」
「いや、それはねえだろ」
それは違うだろうと亮司が笑いながらツッコむ。
「ははっ。いやいや。親戚の子どもらにお年玉やるようなもんだろ」
「……違うが、似てる気がしてくるんだよな……」
「な? ってことで、気にするな」
「ノリさんがここまで言うんだ。奢られてこい」
「っ、うん……ありがとうございます」
「ありがとうございますっ」
「おうっ」
翔利と朱莉は、丁寧に頭を下げていた。礼儀正しい二人に感心する。
「なんて言うか、孫らはしっかりしてんのに、息子夫婦はアレなんか?」
宗徳は、寿子に連れ出された者達を思い出す。
「反面教師ってやつだろ。アイツは、反抗期が終わらなくてな……変に拗れてからそのままだ。孫達には、悪いと思ってる」
「まあ、きっかけとかってのは、こっちでどうにかできるもんじゃねえしなあ」
反抗するきっかけも、その反抗が終わるきっかけになることも、本人以外には気付けないし、意図して作れるものでもない。それが操作できたら、子育ては楽なものだろう。
「物語のようにはいかんよ……」
「アレだな! ご都合主義とか言うやつだ!」
「なんだそれ……いや、なんとなく分かる気がする……」
こうしたらこうなるというマニュアルなんてものもないのだ。人の心を動かすのは難しい。
そこに、寿子が戻って来た。
「お、一人か?」
寿子は、すぐに部屋のドアを閉めると、部屋の中を見回す。水族館に居るような、まるで海の中にいるようなこの部屋の現状を観察した。
「ええ……なんですか、これ……あなた。これ、家でもできます?」
怒られるんじゃないかと、心配そうな目で子ども達が宗徳を見ていた。しかし、宗徳の顔色は変わらなかった。寿子が言うであろうこと、気にするだろうことを分かっていたのだ。やっぱりなと思って少しニヤケそうになりながら答える。
「部屋の中ならいける」
「ならいいです。そういえば、亮司さんはお魚が好きでしたわよね」
「いや、だから、俺は釣るのが好きなんだよ……」
「そうでしたの? 結婚記念日は水族館に行っていましたでしょう?」
「っ、なんで知って……」
「女性同士なら話せる事というのがありますから」
早くに亡くなった亮司の妻と寿子は交流があったらしい。それを宗徳も思い出した。
「そういや、亮司のとこのとたまに食事とか行っていたか」
「ええ」
「……知らんかった……」
「あら。内緒でしたのね」
「……」
妻に内緒にされていたというのは、ちょっとショックだったようだ。しかし、気持ちを切り替えて、亮司は気になっていたことを尋ねる。
「それにしても……あいつら、大人しく帰ったのか……まだごねると思ったんだが……」
「帰っていただきましたよ。きちんと冷静な時に話し合いはするべきでしょうと説明したら、落ち着かれましたから」
「その前に、大人げないとか、子どもらの前でみっともないとか言ったか?」
「そこもきちんと言い聞かせましたわ」
「さすがだなっ」
「……すごいな……」
「ふふっ」
まあ、もっと懇々と色々言い聞かせたのだろうが、寿子としては大した事ではないようだ。
「それで、お孫さん達は良いのかしら? アイツらは勝手に帰ってくると言って、行ってしまいましたけど」
「あ、はい。俺達普段から、父さん達とはあまり……両親とも共働きなので、学校が終わったらじいちゃんの家に行ってご飯食べて寝るだけに家に帰るって感じで……」
「休みの日も、夫婦喧嘩するから、朝から大体、おじいちゃんの家に……」
「あら。そうだったの……」
「そりゃあ、気の毒だな……」
宗徳と寿子は、どうすべきか考える。今は、亮司は病院だ。二人の逃げ場所がない。そこで、宗徳と寿子は声を揃えた。
「なら、亮司っ」
「亮司さん!」
「なっ、なんだ……?」
詰め寄られた亮司は、少し身を引いていた。
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