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196 意味不明?

廊下を歩きながら、美希鷹は隣を歩く翔利(しょうり)に先ほどよりは少し小声で話しかける。


「そうだ。この後さあ、俺らパンケーキの店行くんだけど、先輩達もどう?」

「……良いのか?」

「うん。つっても、朱莉ちゃんと先輩だけだぜ? あの親はちょっと困るかな」

「行くなら、もちろん……父さん達とは別に帰りたいし……」


どうも、両親は放任主義らしい。今回は、二人が祖父に会いたかったから一緒に来ただけだと言っていた。普段からよく夫婦喧嘩や叔父との兄弟喧嘩を大声でするので、二人はそれぞれの部屋で過ごすことが多いらしい。


年も近い兄妹としては珍しく、仲は悪くない。


「ってか、三連休じゃん? 特に予定ないならノリさん家に一緒に泊らね? 先輩、受験勉強図書館でしてるって行ってたじゃん? 律紀の兄ちゃんもノリさん家の自習室使ってるし、一緒したら?」


朱莉(あかり)と律紀が、女の子らしい会話で盛り上がる間、美希鷹はそうした話もしていた。この突然の提案に、さすがに驚いて朱莉と律紀も振り返る。そして律紀が喜んだ。


「あ〜っ、それいい! あ、ごめん大きな声出ちゃった」


すかさず口を押さえて謝る律紀だが、表情に出た喜びは消せなかったようだ。それを見て、廉哉が思い出す。


「そういえば、せっかくの休みなのに、治季ちゃんが来られないって、残念がっていたものね」

「うん。お菓子作ったり、ドレス着て薔薇様とお茶会したり、悠遠君達とお庭でテント張って、お庭キャンプするつもりだったのにぃっ」

「すげえ満喫する気だったのな……」


あの屋敷に居れば、やりたい事は沢山思いつく。けれど、やはり休みの日にしかできない事というのはある。それを詰め込んだようだ。


因みにドレスというのは、写真館や結婚式用のものに負けない素晴らしいものだ。それが、屋敷の一部屋に詰め込まれていた。異世界から持ってきたものも多数あるらしく、様々な世界の衣装が揃っていた。どうやら、かつての主人が異世界を渡った魔女達からもらったようだ。魔女達的には荷物になるし、置き場所に困って放り込んだというところだろうとのことだった。


サイズも様々あるので、律紀は母親や子ども達とそれを着て薔薇とお嬢様気分を味わって楽しんでいる。もちろん、宝石類も充実していた。


「あ、タカ君もドレス着てお茶会どう?」

「いや、着ねえよ……俺、見る専門でいい」

「鷹くんは、着飾った女性を褒めるの上手いよね」

「散々、仕込まれたからな」


ライトクエストで保護された幼い頃から過ごしていた美希鷹は、異世界帰りの者達から貴族女性の褒め方なんてものをレクチャーされていたらしい。見た目も天使で、将来キラキラな王子様のようになるならと、面白がって男女問わず教え込まれたというわけだ。


「え〜、この前は着てくれたのに……う〜ん、じゃあさ、王子様の衣装着てダンスは?」

「それならまあ……良いぜ? ちゃんとレンに教えてもらったしな」

「褒め言葉とか仕草知ってるのに、ダンス踊れないとは思わなかったんだよね……でも、鷹くんは覚えるの早かったよ」

「ああゆう、動くのを覚えるのもやるのも得意なんだよ」


美希鷹は、どちらかといえば、動くことが好きだ。格闘技とかもやっている。実戦経験のある廉哉ともそれなりに手合わせできるほどだった。


記憶力が良いのもあるが、イメージしてそれを現実に反映していく能力が高いのだろう。その能力は勇者としてあった廉哉にもある。しかし、廉哉の場合は、生きるために必要なものを優先しなければという思いが強く働いていたのか、本人に必死さがなければそれが発揮されづらいようだ。


「僕はけっこう苦労したのにな……」

「え、あ、ごめん」


美希鷹は、辛い記憶を思い出させたかと廉哉に謝る。だが、廉哉は異世界についてのトラウマと呼べるものはほぼなくなっているので、あまり気にしていなかった。


「ううん。ダンスは踊れると楽しいとは思ってたから大丈夫」

「そっか」

「うん。心配してくれてありがとう」

「いや。なら、レンも一緒に王子役やろうぜ」

「伯爵家の令息くらいのでいいよ」

「それ、どんな違いあんの?」

「目立たなさ具合がね。ちょっと控えめ。王子は立てないとダメだから」

「マジか……貴族ってメンドくせ」

「だよね〜。ずっと思ってた」

「ははっ」


そんな話を翔利と朱莉が意味が分からないという様子で聞いていたようだ。それに律紀が小さな声で、口の横に手を立てて尋ねる。


「ねえ。異世界もののラノベとか二人は読む?」

「っ、あ、はいっ。私もお兄ちゃんも大好きですっ」

「あはっ。いいね。私は最近読むようになったんだけど、アレでさあ、勇者召喚とかあるじゃない?」

「う、うん」

「うん……」

「レン君がそれなの。子どもの時に召喚されて、最近、おじいちゃん達が連れ帰って来たんだ〜。信じる?」

「え? え? あ……いえ……え?」

「……さすがにそれは……」


目が泳いでいた。さすがに信じられない。けれど、信じてみたいという気持ちもありそうだ。


「ふふっ。まあ、そうだよね。けど、それが本当だったらどう?」

「っ、ま、魔法とか……あったら見てみたい……」


朱莉は頬を赤く染めて、恥ずかしそうに語る。


「っ……獣人とか、エルフとか……居たら見たいなって……っ」


翔利も、勇気を出して口にしたようだ。これだけでも、二人はとても素直な子だと感じられた。宗徳と寿子が聞いたらきっと喜ぶ。


「おじいちゃんがコレ聞いたら『よし! ウチ行くぞ!』って言って、おばあちゃんは『あらあら。だったら空とか飛んでみる?』とか言うよ」

「っ、お、お家? 空?」

「……飛べたらすごいけど……」

「ふふふっ。任せて! うちのおじいちゃんは種族関係なく仲良くなっちゃうスーパータラシだし、おばあちゃんは魔女だからねっ」

「「……魔女……?」」

「うん。魔女っ」

「「!?」」


いよいよ混乱してきた所で、病室に着いた。そして、全員で目を丸くした。


「「「「「え……」」」」」


そこでは、なぜか病室内が水族館みたいになっていたのだ。








読んでくださりありがとうございます◎

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