193 頭を突っ込みます
2024. 8. 17
性急にやり過ぎては誤魔化しが効かないからと、宗徳と寿子は、また数日後の週末に来ると言って、初日は早めに帰った。
そして、週末。
「亮司さんには悪いですけど、孫や子どもとの関係を知るためにも……りっちゃん、レンくん、タカくんもいいかしら?」
「もちろん! それに、おばあちゃん達のお友達って気になる」
「僕も気になりますっ」
「俺も〜。あっ、そうだったっ。あの病院の傍のパンケーキの店、帰りに寄らね? すげえのっ。これ見てよっ」
宗徳と寿子は、律紀と廉哉、美希鷹を連れて病院に向かっていた。病院は見えているので、到着まであと五分ほどだろう。
彼らを連れて来たのは、自然に亮司に孫や子どもの事を聞き出すため。どんな関係なのか、先ずは聞いてみなければ分からない。
その説明もしながら歩いていたのだが、美希鷹がスマホでチェックしていたこの近くのパンケーキの美味しいと評判の喫茶店を教えてくれた。
「うわっ、なにこれ〜っ、絶対に美味しいやつっ」
「すごい……結構なボリュームだね。フルーツもすごいし……高いんじゃない?」
「セットで千円。ここの持ち帰りのサンドが美味いらしくて、それ買ってきてくれるならって小遣いもらって来た。二つくらい取って、シェアして食べようぜ」
「いいの!? わあ〜いっ」
「味の研究して……家で作ってみようかな……うちのフルーツ使ったら、もっと美味しいかも」
「「それはある!」」
廉哉は見た目も変わってしまって、目立つ上に、十五年のトリップだ。どうしても外に出るのに戸惑ってしまうのだが、最近は、律紀や見た目も似ている金髪な美希鷹と一緒に遊びに出かけるようになった。
あまり廉哉が出かけると、悠遠達が寂しがるというのも気にしていたようだが、子ども達は屋敷の中だけで満足らしく、寧ろ外でこうしたデザートなどを食べてきて、研究し、家で再現してくれることを何よりも喜んでいた。
だから、ここ最近は廉哉も悠遠達に後ろめたく思わなくなってきたようだ。
「ふふっ。レン君のデザート、子ども達にも人気だものね」
「器用だよな。ん? 普通のケーキ類もあるじゃねえか。おっ、このサンド、マジで美味そうだな。よし! 昼飯代わりに食うぞ。金は出す」
「やったぁ! このサンド! 食べてみたかったんだよねっ。エンちゃん達にも買ってもいい?」
「当然だろ。俺らは味見も兼ねて食べてみねえとなっ」
「うん!」
律紀が楽しそうに廉哉と美希鷹に、どれを頼むかメニューを見て今から決めようとしていた。
「ふふっ。可愛らしいわね」
「仲良いな。それこそ、昔からの幼馴染みたいだ」
「そうですわねえ」
三人はこれも美味しそうだ、こっちはどうだと頭を付き合わせながら楽しそうに歩いていた。
大体決まった頃には、病院に着いていた。そして、病室に向かったのだが、そこで、言い争う声が亮司の病室から聞こえてきた。
『知らん! 俺の財産はやらん! 家を取り壊すだと! ふざけるな! こんなものにサインできるか!!』
「……あなた」
「ああ……」
『どうせもうあんたは家に戻って来れないんだ! 俺たちに任せれば良いだろう!』
『だったら俺が死んでからにするんだな! 今更帰って来て、場所を明け渡せだ!? ふざけんな!』
「……これはいけませんわね」
「だな……よし。レン達はここで待っててくれ」
「はい……気をつけて」
「おう。手は出さねえって」
そうして、宗徳と寿子は、何食わぬ顔でドアを開ける。
「あらあら。亮司さん。廊下まで元気な声が響いていますよ?」
「看護師さんらがオロオロしてたが、検温とか、ちゃんとしたか? あ、朝メシ食ってままじゃねえか。ってかあんま減ってねえな。おい。亮司。もう少し食えよ。病院食は栄養とか全部考えられてんだろ?」
「……ノリさん……ヒサちゃん……」
どうやら、勢いは削がれたようだ。だが、叫び過ぎたのか、亮司の顔色は悪かった。
「お前な……飯もまともに食わずに大声出しやがって、貧血じゃねえか? 顔色悪いぞ」
「まあっ。いけませんよ。すぐに看護師さんに言いましょう」
寿子は、呆然とする親族らしき者達をかき分けて、ナースコールを押した。すぐに看護師がやって来る。入ろうかどうしようか迷っていたのだ。呼ばれたならばとすかさずやって来た。
「さあ、皆さん。少〜し、常識がないようですから、こちらでお話しましょうか。あ、赤の他人に話すことなんてないなんて言わないでくださいね? 亮司さんは私と夫の大事な親友ですの。それと……今後ここに来て白い目で見られるのを覚悟してまして?」
「「っ……」」
「亮司、これは息子夫婦か?」
「あ、ああ……」
「じゃあ、こっちの二人は孫か。中学生か?」
「えっと……はい……」
「おじいちゃんの友達……?」
「おう。宗徳だ。ノリさんって亮司には呼ばれてる。よろしくな。それだなあ。俺は亮司と話をするし、そっちの大人は俺の妻が相手する。お前達、俺の孫達と待っててくれや」
寿子の威圧を受けて、息子夫婦は連れ出されて行った。それを目で追い、不安そうにしながらも、二人は頷いた。
「お孫さん?」
「わかりました……」
「よし。レン。聞こえたな? 頼むぞ」
「はい。こんにちは。僕は廉哉。女の子も居るから大丈夫だよ。自販機の所にソファがあったし、そこに行こう」
孫は男女の二人。恐らく兄と妹だろう。祖父と父親が大声で喧嘩したのを間近で見たからか、二人も顔色が悪かった。それらの世話は美希鷹も居るし問題ないだろう。
静かになった部屋で、看護師が検温をし、点滴の具合を確かめ、食事を下げて行った。
そうして、ようやく落ち着いて亮司と宗徳は向かい合った。
「……すまねえ、ノリさん。面倒な所に付き合わせちまって……」
「気にすんな。それより、喉渇かないか? 冷たい水……よか、常温のやつのがいいか……麦茶飲むか?」
「え、あ、ああ……」
亮司は、まだ動揺しているようだが、次に宗徳が見せたことに目を丸くした。
「じゃあ、コップはこれで、麦茶な」
「っ、なっ、なっ、今っ、どっからそれ……っ、なんだ!? なんでやかんが!?」
そう。宗徳は、空間収納から、やかんを取り出して、コップに注いだのだ。そして、そのやかんをすぐに戻した。
「はははっ。これなっ」
「っ、どうなってる!?」
花瓶に生けられた花を空間収納から取り出し、それを窓辺に置いた。
「この花瓶なあ。俺が焼いたんだぜ。どうよ。あ、花を生けたのは、寿子な」
「……どうなってる……手品……いや、ノリさんなら魔法でも使えるようになっててもおかしくない……」
驚きすぎて、逆に落ち着いたようだ。宗徳ならばとこのようなことでも思ってしまうのは、昔から色々やらかしてきたことの証明かもしれない。
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