190 怪しいことはできない
2024. 6. 16
思わぬ所であっさりと解決策をもらってしまった宗徳は夕食後、それを寿子に話した。
「え? 治して良いのですか?」
「良いと言われた。ただし、ポーションは血液検査で何か出ちまう可能性があるから、治癒魔法な」
「けつえきけんさ……」
寿子も脳が一瞬、理解することを拒否したようだ。ポーションと血液検査は結びつかない。
「たっ、確かに、向こうの薬草も使って作ってますしね……」
「こっちので作ったとしても、あれは、魔力作用もあるだろ? 魔力なんて分かんねえから、研究されるんじゃね?」
「それは……迷惑になりそうですね。それはダメです」
「だな」
ポーションは、魔力が混ざっている。それによって、薬草も効能が変化したりする。血液検査は、飲んでいる薬の成分も出るものだ。特に入院患者だとすれば、用意していない薬とは違う成分はすぐにバレそうだ。突然状態も良くなれば、何が原因かを調べるだろう。この変化を科学で証明、研究しようとする可能性は高い。結果、この世界に存在しないものだとなれば、それは迷惑な話だ。
はっきり言ってしまうと、結果や事象を想像しながらかける治癒魔法よりも、何でも治してしまえる万能薬を一つ飲んでもらう方が確実で手間がないのだが、やはり薬は良くないだろう。
「ポーションなら、飲み物として差し入れして、無理やりでも飲ませちまえば、あっという間にケリが付くがな」
「あっという間では怪しまれますわよ……」
「あ〜、まあ、そうか。けど亮司なら、寿子が作ったやつだって言えば、不味くても一気飲みするんだろうけどな〜。あいつ、お前に惚れてたからな〜」
「っ……もうっ、真面目な話をしているのにっ」
「悪い悪い」
照れるように少し頬を染める寿子。彼女は幼い頃からとてもモテた。入院しているらしい亮司も、若い頃は寿子に気があったようだ。とはいえ、宗徳と寿子は早いうちから両思いだったので、多くの男達は片思いでしかない。
因みに大半の女性達は、一途に寿子だけを見ていた宗徳に好意を向けていた。略奪なんて腹黒い事は考えないが、どちらもモテるカップルだったのだ。
「薔薇様が言うには『奇跡の解明までは出来ぬ。少しずつ、上手くやれ』だとさ」
「少しずつ……ですね……やはり急激には良くないですものね……」
「医者にかかっちまってるしな」
「そうですね……」
人の目がある場所で、急激な変化は起こさない方が良いだろう。それは確かだ。
「明日、行くか」
「はいっ。ふふっ。ちょっとドキドキしますね」
「なんか悪いことしに行く感じか?」
「イタズラをしに行くみたいです」
二人は治癒魔法も、今や何の問題もなく扱える。一番あちらの世界で使うのは、解毒や病の時。怪我は基本、個々にポーションで勝手に治す。だから、病ならば慣れていた。
「だが、元気になったら、あいつ、逆に嫌がるかもな」
「っ……息子さんとは折り合いが悪いと言っていましたわね」
「その辺も話してからにするか。どのみち、急激なのは、いかんのだからな」
「そうですね……ええ。久しぶりにゆっくりとじっくりと話すのも良いかもしれませんね」
そんな計画を話ながら、明日へと備えた。
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