183 変わっていくものですから
2024. 1. 20
宗徳は、かなりこうした迷宮に慣れ始めていた。
「要は『解体判定』が出れば良いんだよ」
「……『解体判定』? 初めて聞いた」
「判定? 迷宮のってこと?」
「あっ、どこまでが攻撃で、どこからが解体かってことかっ」
「……倒した後の切り分け方? を、考える?」
「そういうことだ」
真っ二つになって倒せたとする。だが、そのまま五分経つと魔石がドロップして消えてしまうのだ。
一方、その倒したものの皮を剥ぎ、部位ごとに切り分けると、丸っと手に入る素材となる。この区別はどこからなのかということだ。
「この前、首を落として、羽を切り落とした状態だと、ダメだった。なら、そこに尻尾も切り落としたらどうなるか……」
そう言って、宗徳は近付いて来た一体のドラゴンの首を、亜空間から取り出した刀で断ち切った。声を上げる隙さえ見せず、落下してくる間に両翼と尻尾を切り落とす。
すかさず寿子が切断面から血が流れ出ないように結界で塞ぎ、指示を出した。
「受け止めるわよっ。ルイ君、頭お願い! 男の子二人で尻尾よ! 私たちは羽。あなた! 胴体いけるわね?」
「おうよっ。音は最小限になっ」
身体強化も出来る一同は、トサッという音だけで受け止め、それらを地面に置いた。
「とりあえず、これで五分待ってみるぞ」
「「「はい!」」」
「ん」
「成功するといいわねえ」
そうして、五分が経った。
「……消えない……っ」
「ドロップにならない……」
「成功?」
「おおっ。やった!」
こんなんでいいのかと、新しい発見に瑠偉も含めて大喜びする。解体を急がなくて良くなるというのは大きい。
「これっ、他の奴らにも教えても良いっスか!?」
「当然だろ」
「そうよ。普段からお仕事するのはあなた達なんだから」
「「「ありがとうございます!!」」」
「……嬉しい……」
本気で嬉しそうだ。
「さあ、じゃあ、血抜きしましょうか。周りに臭いがいかないように、結界の中に血を溜めて燃やすわ。今回は血は要らないのよね?」
「この前、大量に回収したから要らないって言われました」
「一体でも大量に手に入るから、当分要らないって言われたっス」
それを確認して、寿子は手早く圧縮して血を絞り出す。そして、処理を終えると、安全な場所を確保し、そこで本格的に解体を始める。
「お肉は少し持ち帰るんだったわよね?」
「そうです。食堂の方からの依頼で」
「何体分いるの?」
「一体分で充分ですよ。けど、私たち個人的にも欲しいので、二体分で。ヒサコさん達もいりますよね?」
「ドラゴン肉は美味えからなあ」
「そうねえ。抱えられるくらいの一塊りは欲しいわあ」
半年ほど前まで二人は、あまり肉を食べたいと思うことも無くなっていたが、最近は違う。体が求めているのかもしれない。若返って来ているということなのだろう。
「部位ごとで取ってみるか?」
「良いですねえっ」
「そうなると……とりあえず皮を剥いで……ここと、ここと……ここかっ」
スルスルと皮を剥ぎ、部位で大雑把に分ける宗徳。それを見て、瑠偉達が目を丸くする。
「……俺らより手際が良いんだけど……」
「ドラゴンの部位別って……俺、分からん……」
「考えたこともなかったわ……ドラゴンの肉はドラゴンの肉でしょう? 尻尾か首か胴体かってくらいしか……」
「……細かい……」
牛や豚のように、細かく部位で分けているように見えるのだ。寿子も、なぜ分かるのか気になったらしい。
「あなた……勉強しました?」
「おう。薔薇様がこの前、美味い魔獣五十選って本をくれたんだよ。それが結構面白くてさあ」
「……ゲテモノは嫌ですからね?」
「どこからがゲテモノだ? ドラゴンもそっちに分類する人いねえかな?」
「それもそうですね……虫じゃなければ許します」
「ああ……虫も二つくらいしかなかったし、分かった!」
「危なかったわ……」
寿子は胸を撫で下ろす。宗徳なら、その五十選をコンプリートしたがるだろう。突然、『コレ美味いんだってさっ!』と虫系を持って来られたら、今の寿子には粉砕する自信がある。
「ヒサコさんも大変なんだね……」
「こういう嗜好とかはね。付き合ってる段階では分からなかったりするのよ。人は日々、成長して、時に新しい一面に目覚める生き物ですからね……」
「深いね……」
「最低限、結婚する前にその人が何に、誰に弱いか、どこまでワガママを聞いてくれるかの確認はした方が良いわよ。夫婦も他人ですからね。本当の本当の最低限の身の安全は自分で確保しておくべきです。もちろん、男も女も関係なく」
「「「なるほど……」」」
「……」
嬉々として解体を続ける宗徳を見つめ、夫婦って奥が深いなと若者達はうんうんと頷いた。
そんな一幕もありつつ、宗徳達は、順調にドラゴン狩りを続けたのだ。
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