182 認識の違い
2023. 12. 30
宗徳は光の反射で見える色を変えるドラゴンの倒し方を思案しながら、ルルベルからの依頼を思い出す。
「あ〜、確か、虹色竜苔ってのあったよな? 普通の竜苔は翼の付け根んとこにあるし、アレもそうか?」
「……多分……?」
瑠偉が首を傾げながら答えると、他のメンバーも首を傾げていく。
「アレは間違いなくレインボードラゴン、虹色竜ですし?」
「初めて見たけどね……」
「初めて見たけどな……」
すぐに岩影に隠れたため、まだあちらには気付かれていない。
茶色い皮の一般的な竜と赤い皮の竜が、虹色竜に追いかけられて、上空を乱れ飛んでいた。
因みに、この世界の迷宮は、ほぼここのように空がある。天井知らずとはいかないらしいのだが、それなりな巨体。その巨体が拳大くらいの大きさに見えるくらいの高さはあるようだ。
「丁度良かったわねえ。今回の、ルルちゃんにもらったとは別の、本来の依頼は竜の牙十本と、背中の皮三枚、爪が二十と、角が五本、それと竜苔が二キロだったわよね?」
「「「それで合ってます!」」」
「ほお。なら本当に丁度良いじゃねえか? こんだけ倒せばそれが終わるぜ」
「「「「あ〜……」」」」
乱れ飛ぶ竜は十体はいるだろうか。迷宮といえば、ドロップだが、なぜかここの迷宮は、倒してから五分はそのまま。擬似的な生物ではないらしい。
「不思議だよな〜。ここの迷宮。ドロップだったら、相当時間かかるんじゃね?」
「そうですねえ。この前行った世界の迷宮は、ドロップでしたよね」
品質の良いものをと依頼されて瑠偉と行った時は、ドロップする普通の迷宮に行った。ランダムで、一つしかアイテムが手に入らないが、牙も爪も、肉も品質が良く、綺麗な状態で手に入る。
「あっちの方が、解体要らずで楽で良いけどな」
「拾った時に綺麗ですしね。洗う必要がないのは楽ですもの」
ここでは、五分以内に解体して、それを取らないといけないのだ。結構酷い状態になる。こちらも、獲物も。
瑠偉達四人もそれは同意するらしい。
因みに、解体してもしなくても、五分後にドロップするのは魔石だけだ。
「そうなんですよね。けど、魔女達とかからすると、厳密には本物じゃないって感じがするらしくて」
「生命力? 的なのか感じられないって」
「綺麗で品質が良いのと、鮮度は違うとか」
「文句ばっかり言われる……」
「「「そうそうっ」」」
一緒じゃんと言えれば良いのだが、魔女達に直接言えるものではない。
それに、魔女達の知識は豊富だ。彼女達が違うと言うのならば、厳密には違うのだろう。何に使うか知らないが、どちらかといえば研究職な魔女達に文句など言えない。
だが、文句も言いたくはなるのだ。
「この前も、ドロップの方が早いし、遅いと文句言われるからそれで持って行ったら、生じゃないからやり直しとか言われた……」
「私なんて、この前、植物の希少種の討伐で……迷宮でしか知らないやつだし、ドロップで持って行ったの。一つ手に入らなかったけど、ドロップしたこともない花だから……変だとは思ったのよね……確かに、お尻? の辺りに花があるな〜とは思ったけど、それはドロップ品になることがなくて……案の定、本物じゃないからダメって……それ、まだ保留になってるんだけど……」
「それある! もう絶滅してるやつだってえの! 迷宮でしか出ねえってのも、探して来いとかっ! やべえ……泣けて来た……」
「……困るの多い……」
色々溜めているようだ。
「そりゃあまた……というか、聞いてみたら良いんじゃないのか? もしかしたら、魔女達は生きてる奴の居る場所? 世界? 知ってるかもだろ」
「そうよねえ。ねえ、それ何て名前? ルルちゃんに確認してみてあげるわ」
「「「へ?」」」
「……?」
直接確認すると聞いて、顔を上げ、驚きの表情を見せる四人。そんなこと考えてもみなかったという表情だ。
「お前らの様子だと、聞いても無駄だとか、聞けないとか思い込んでいたんじゃないか?」
「それは……はい」
「話なんて出来ない存在だと……」
「話聞いても何言ってるか分かんないことあるし……」
「……難しいこと話される……」
これに宗徳と寿子が苦笑する。今の見た目は、宗徳と寿子は彼らより数歳上というもの。だが、その目は、息子や娘を見るような優しいものだった。
「魔女さん達は、ちょい口下手なんだよ。多分、あれは仲間内でしか会話しないからだな。他と区別してるのもあるが、それは下に見る差別じゃなく、区別だ」
「生き方が違うから、分かり合えないと思い込んでいるんでしょうねえ。人見知りな所は、強気に見せることで見栄を張って、自分を奮い立たせているという感じでしょうね」
「本当は、寂しいんだと思うぜ? それと怖いんだろうな。同じ感覚、同じ価値観、同じ存在ってのが感じられない相手と付き合うのがさ。それを共有できる魔女って仲間を知ってるから尚更さ」
「独りになることを知っているんでしょうね。だから、必要以上に、見栄を張ってしまうんでしょう。弱い所は見せたくないですから」
「「「「……」」」」
瑠偉達にも覚えがあるだろう。特別な力があったり、特異な生まれだったりする彼らは、普通の人とは隔絶した存在だ。
普段はそれに紛れているが、本当は怖くて仕方がない。
「……外の友達が、本当の俺のこと知ったらって……怖かったことあるな……」
「俺も……それで離れた……」
「話しても良いって言われてても、やっぱり怖い……」
「……」
子どもの頃、親しくしていた友人達も居たようだ。そんな友人達に、話せなかったこともあっただろう。拒絶されたらと思えば言えない。それが大切に思う相手なら尚更だ。
瑠偉が静かに口を開いた。
「……魔女達……ライトクエストの中でも特別……俺たちは、ライトクエストの中なら、怖くない……けど……魔女達はその中でも……孤独?」
「そうだな。そうなのかもしれん」
「話が合う人が魔女さん達の中でしかいないって感じですしね。専門的な話も出て来ますし」
「あ〜、あるな。俺らは気軽に、それどういうやつ? とか即聞いちまうけどなっ」
「知らない事ははっきり知らないって言ってしまいますからね。聞いたら教えてくれますし」
「それな。ちゃんと教えてくれるんだよ。だから、今度分かんない話されたら、それどういうことですか? って聞いてみろよ」
「きっと、喜んで教えてくれるわよ」
「「「「はい……」」」」
魔女への認識が、少し変わったようだ。
「さてと、じゃあ、仕事に入るぞ。せっかく集まってるんだ。あいつらをなるべく全部逃さず、解体時間も考えて倒さんといかんからなっ」
「「「「あっ……」」」」
一気に倒しても、解体時間は倒してから五分。せっかく数が揃うのに、魔石だけにしてしまっては意味がない。
「あなた? 作戦は考えていたのでしょう?」
「おう。まあ、なんとかな。忙しいのは変わらんけどっ」
「それは仕方ありませんわね」
そうして、いよいよ竜に挑む。
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