147 手懐けすぎるのも問題
2021. 12. 25
イザリや魔女達は、丸一日近くかけて次元の穴を完全に塞いだ。
召喚術が仕掛けてある地下の崩れた神殿にも行き、そこの解体も終えなくてはならなかった。
そして、廉哉が召喚された時からずっと小さいが開いたままになっていたことで、空間が歪んだ状態で、世界がバランスを取ろうとしていた。これにより、本来の正常な状態を探りながらの調整となり、余分にかなり時間がかかったのだ。
「めちゃくちゃ面倒くさかったぁぁぁ」
「うちら、百年分くらい働いたよね」
「じゃあ、とりあえず百年くらい働かなくていいよね♪」
「そうそうっ。遊ぼうっ。っていうか、今すっごく箒でぶっ飛ばしたい気分〜ん」
「やる? やっちゃう? 飛行機とかの障害物ないしさあ」
「地味に邪魔だもんね〜、飛行機」
王都に着いた翌日の昼頃。宗徳が、まさかの肉食獣もふもふ天国を開催した奇跡の木の下でピクニックをしながらの魔女様方の会話だ。
これだけ喋っているのに、優雅に食べる。寿子と美希鷹が早朝からせっせと作った弁当は、五段の重箱に詰まった手毬寿司や和食のおせちもどき。
大きな木のお弁当箱には、カラフルなサンドイッチやカラッと揚げられた絶品の唐揚げ、タコさんウインナーや野菜のナムルが詰まっていた。
城の跡地から拾ってきた大きな絨毯をピクニックシート代わりにして敷き、それらお弁当を中央に並べての慰労会となっている。
この場には、もちろん廉哉や律紀達もおり、子ども達は子ども達用に用意した分を分け合って食べていた。幼い獣人の子達は、既にお腹いっぱいで、お昼寝に入っている。
因みに、アルマとユマはいない。別にお弁当を渡して、町に置いてきていた。町の外で、魔獣達に襲われずに居られるのは、宗徳の関係者だけだ。それが分かったため、あえてユマ達は遠慮した。
「この卵焼きヤバっ。超好みっ」
「ちょっと、そればっかり食べないでよ〜。あ、この稲荷寿司、小さめで食べやすい……すごい食べちゃうっ」
「手毬寿司も可愛いっ。お魚新鮮っ。あ〜、この魚でカルパッチョとか……普通に塩焼きでも美味しそう」
「この唐揚げ、辛いのもあるの? ってか、よくこの大陸でお肉手に入ったわね。え? ダンジョン産? ニワトリっぽいのが、群れでいるの? それも大きい? どれどれ?」
「……それ、コカトリスとかそういうのじゃない? 大きさおかしいでしょ……」
後で鑑定で確認したが、名前は『コケッコリィス』だった。コカトリスから進化というか、逆に退化したらしい。ダンジョンの中で暮らしていた獣人達が餌付けし過ぎたことで、石化の魔法も使えなくなり、更には何も考えなくなった。
ただ増えるだけの立派な食糧になったのだ。お陰で、獣人達の心も痛まなくなり、家畜として重宝するようになったという。ただ、繁殖力が強いため、気を付けないと爆発的に増えるらしい。
「野に放せないの? この子たちの食糧に良いじゃない?」
「まだ痩せてるものね〜。良い毛皮になるためにも、お肉は必要だわ」
「って言うか、なんで肉食獣がこんなに大人しくすり寄ってくるのよ……普通、襲うでしょ?」
「そこっ、そこの子ども達っ。餌やりしないっ。齧られたらどうするのっ」
「あんた達くらいの子どもなんて、この子たちにはひと呑みよ?」
「危機感ないわね〜」
悠遠達は、宗徳が捌いたコケッコリィスの大人の拳程度の生肉を、側に居る魔獣達に食べさせていたのだ。
血抜きも完璧な白い肉だ。魔獣たちは、与えられる順番を守り、尻尾を振っていた。肉食獣が生き方を変えてしまいそうだ。
「大丈夫っすよ。魔女様方。こいつら、めちゃくちゃ賢いんで」
「「「信用し過ぎっ」」」
「天然の成せる技かしら……」
「ちょっと、ヒサちゃん。これ、このダンナいいの?」
魔女達は、寿子に言い付けることを学んだ。だが、寿子はこの旦那の妻なのだ。
「この人の勘は侮れないので、大丈夫ですわ。それより魔女様方、後で飛び方教えてくれるんですよね?」
「え、ええ……素質は間違いなくあるもの……」
「ふふっ。あなた。間違いないようですから、箒作ってください」
「おう。竹箒みたいなのでいいか?」
「杖もカッコいいですけどね。練習用ですもの。由緒正しい形がいいわ」
魔女達の飛ぶための箒や杖は、普段はストールやリボンなどの装いに変化する。しかし、それは飛ぶことに慣れてから、いわゆる免許皆伝の証として変化させるものらしい。よって、最初はその辺の箒や杖を使うという。
「だな。よし、お前ら、ちょい食後の散歩行くぞ〜」
魔獣達を引き連れて、宗徳は出かけて行った。
「なんか……夫婦って良いわね……」
「ヒサちゃん達見てると、羨ましくなるわ……あ〜、でも、やっぱりあり得な〜い」
「考えられないわよね〜」
「「「けど、良いな〜」」」
魔女達は、ここ数日ですっかり夫婦というものについて考え直すようになったようだ。
「ふふっ……さて、帰ることもそろそろ考えねばな」
「はい。イズ様」
律紀達もすっかりこちらに馴染んで来ているが、いつまでも留まるのは良くないのだから。
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