145 予感がするので
2021. 11. 13
寿子は宗徳を見送った後、すぐに倒れている者たちの治療に当たった。一番手前の女性を、手始めにする。
「大丈夫ですかっ」
「……」
反応がないと分かっていても、先ずは声かけ。例え、動きがなくとも、耳は聴こえている場合がある。だから、とりあえずは話しかけるべきだろう。
「ゆっくり呼吸してくださいね。焦らないで……動けそうになったら指でも何でも動かしてみてくださいね。少しずつ触れますよ」
寿子は手を取り、魔素がどれだけ体にあるのかを感じ取ろうとする。だが、それは血液がどれだけあるかを感じるようなもの。簡単ではない。
どうしようかと考えていれば、魔素の出てきている地面の裂け目を確認しながら、漂う魔素を上空へ流し始めた魔女がこともなげに告げた。
「ヒサちゃんは鑑定使えないの?」
「え……使えます。あっ、そうだわ! 魔素も魔力と同じように……っ、出来た!」
魔力と同じように鑑定に出すことも可能だろうと考えた途端、寿子の鑑定に魔素濃度という項目が追加されて見えるようになった。
固有名称【ーーー】
レベル【5】
種別【人族(女)】
HP【50/90】
MP【64/40(魔素濃度60%)】
魔力がおかしな数字になっているのを確認する。体力も減っていっているようだ。普通は眠ると回復していくものだが、その様子はない。寧ろ、減っていくのがわかった。
「本当に毒なのね……この数字を見ながら……循環して……」
「出来そう?」
「はい。ただ……時間がかかりそうです」
「そうねえ……」
一人ずつ、直接触れて体内の魔素を魔力に還元し、治癒力を上げる。その場合、体力の回復になりそうだ。
どうすべきかと考えていると、不意に地面に突いていた膝から、何かを感じた。
「っ……これ……あの人ね……そうだわ!」
「どうするの?」
魔女は、両手を上げて、魔素を地上に溜まらないようにしてくれている。お陰で空気も良くなった。その魔素が、風に流れるように、意思を持つように、町の外へと一筋の道を作り出しているのを見上げて、寿子はこれならばと頷いた。
「魔素は引っ張れる……なら……」
魔素中毒になった人々は、倒れたり座り込んだりして、地面に身体の一部が触れている。そこから循環する要領で、地面を通して寿子が吸収する。
「地面に……下に引っ張り出す感じで……それを……裂け目に放出!」
魔素の流れを見事に作り上げた。独特の濃度の魔素だからこそ、捕まえやすかったのだ。だが、本来ならば、簡単にできることではない。
「……ヒサちゃん……あなたも大概ねえ……普通、こんな広範囲……それも魔素だけを抜くって……出来ないわよ? あなたも感覚の人?」
「え……あ〜……そうですねえ。感覚でやった方が早いとは感じます……いつもは言語化する努力をしている……と言いますか……」
宗徳がまさに感覚の人なので、そればかりにならないよう、寿子は昔から意識的に気を付けていた。だが、寿子も宗徳と同じ感覚で行動することが出来るからこそ、宗徳と分かり合えるのだ。
「そう……これが似たもの夫婦ってやつね」
「……っ……」
「そこで照れるのね……こっちまで恥ずかしくなっちゃうわ……けど、なんでかあなた達のは、居た堪れないってことより、ちょっと羨ましくなってくるのは何故かしら……」
夫婦という関係に興味のなかった魔女も羨ましく思えてくるようだ。
魔女は気を取り直し、未だ倒れた状態の人々を見てから寿子に尋ねた。
「それで? 回復はどうするの?」
「あ、もちろん私がこうしてっ……回復です!」
「そっか……ヒサちゃんは、この魔素使えるんだもんね……ノリちゃんもこの魔素……掴んでいくとかおかしいことするし……これはアレかしら? こっちの常識がないからやれるのかしら?」
やっぱりこの夫婦は似たもの夫婦。そして、おかしな夫婦だと、魔女には認識された。
「ふう。これで大丈夫そうですね。では、魔女様。私は夫の所に行って参りますわ」
「あら〜、ヒサちゃんってば〜」
ラブラブか、とニヤニヤする魔女だが、寿子から返された言葉は、彼女には予想外だった。
「……さっきから落ち着かなくて……間違いなくやらかしている気がするんです。それも未だ自覚なしで」
「……ヒサちゃん……ちょっと怒ってる?」
魔女には、寿子から黒いものを感じた。これにわざとらしくニコリと笑った寿子が答える。
「ふふふ。そうですねえ……少し? 一人でやらかすなと一発……投げ飛ばさないと気が済まないかもしれませんけど」
「……殴るじゃなくて……投げ飛ばす……そう……頑張ってね……」
「はい♪」
そうして、寿子は町を出て、宗徳の元へ向かったのだが、そこには、周りに魔獣達を侍らせて何やら作業する宗徳の姿があったのだ。
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