144 夢中になりすぎる
2021. 10. 23
魔素はまだ吹き出し続けている。
とりあえず、そのままでは何者にも、今出てきている魔素の濃度では、毒でしかないため、魔力として加工しておくことにする。
「ん〜、魔素を魔力に変えるとしても……このまま俺が吸収し続けるわけにはいかんよな……」
一度宗徳自身の体を通すことで魔力とするのだ。今はそれを何に使うかを考えなくてはならない。現在進行形で、魔素は溢れているのだから。
「どっかに溜めとくには……」
そう呟いている間にも、帯のように町から引っ張ってきた魔素を自身の体に吸収する。これは、本来ならば一流の魔術師しか出来ないこと。その一流の魔術師も、この世界に居ても数人だろう。
そもそもが、濃すぎる魔素の毒性すらも中和する特性があるのが前提だ。その特異性に宗徳は気付いていない。
「う〜む……何かに使うとか、込めるとか……あっ」
アレがあったと思い当たったのは、白欐の涙、【ダイヤ】だった。
「ちっさいし、先ずは実験だな」
魔素を変換した端から使ってしまえば、別に問題はない。ならば、遊びで使ってしまおう。他の使い道が浮かぶまで。そう決め、未だに白欐と黒欐が木の実採りに夢中になっていることもあり、その木の根元に腰を下ろし、木に背を預けて、あの日、無造作に拾って入れた袋を亜空間から出す。
「あ〜、こんな入れ方したら、傷付くよな……ヤベえ……寿子に言うの忘れてた……」
報告してないなと、今更ながらに気付いた。恐らく、廉哉も忘れている。
「……まあ、この後言えばいいよな……いいよな? いい……よな……」
多分怒られない。怒られないといいなと、自分を納得させながらその袋から五つ程摘み出す。
白欐の涙なのだ。それほど大きくはない。一粒は、小さな指輪に付けるのに丁度良いくらいだ。
そして、摘みだした五つのダイヤに魔力を込める。すると、グニャリと柔らかくなり、結合して一つになる。手のひらにそれをコロンと落とす。すると、一粒のそれなりの大きさの丸い石となっていた。
「思った通りだな」
そうして、地道に五つずつを一つにする作業に没頭した。
出来上がったのは、百は下らない数のダイヤの原石。それも一つずつが親指の先くらいの大きさだ。
普通は、そこでこれはやっちまったなと気付く。だが、宗徳は、丁度五つずつで、一粒も余らなかったことを喜び、この後どうするかを考えていたため、そこに思い至らなかった。だから、そのまま事態をさらに悪化させる。
「確か、ダイヤには色もあった……ピンクとか、青とか、黄色とか……黒……」
どうしたら、この石に色が付くだろうか。それを考え出した宗徳には、もはや誰の忠告も耳に入らない様子で石と睨み合っている。
「なんか……微妙に色が……違う?」
光の加減かとも思ったが、微妙に色合いが一粒ずつ違うように見えた。
「魔力の込め方か? やってみるか……」
片手の掌に石を一つ置き、もう片方の手を翳して、魔力を浸透させるように注ぎ込む。すると、ゆっくりと色が変化していった。
「混ぜ具合だな……後は、属性か……」
宗徳にとっては、ダイヤとはいえ、白欐の涙だ。鷲掴みして、スーパーのポリ袋に放り込むくらいの、ちょっと綺麗だから、何かに使えるかなと思う程度の貴重性しかない。
それも、カットされていない原石の状態のため、余計に実感がなかったのだ。扱い方は、どうしても、その辺の石と同じになる。
全てを様々な色に変え終わった所で、ハッとした。
「しまった……全部色付きになっちまった……」
転がるのは、全て様々な色の未カットのダイヤの原石。透明なものはなかった。
「……やっちまったか……?」
気付いても後の祭り。ここまで来たら、カットもしようと、嫌なことは忘れて、更に魔力を消費すべく、また石へと意識を集中した。
これにより、宗徳は気付かなかった。
いつの間にか、宗徳の周りには、凶暴だったはずの魔獣達が集い、寝転び、穏やかに昼寝を始めていたのだ。
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