141 今度も助けます
2021. 8. 21
気持ちの悪い風を感じてから、宗徳はその風がやって来る方向を探し、そこに目を向ける。
城があった場所だけではない。町中の地面が陥没している場所からも感じられる気がした。
「なんか……変なモヤ? か?」
目を細めると、地面から立ち上る青黒い煙のようなものが見えた。
この呟きが聞こえたイザリは、驚きながらも頷いた。
「アレも見えるか」
「なんなんです? あの明らかに体に悪そうな煙みたいなの」
イザリはそこに目を向けながら説明を始めた。
「魔素だ。それも高純度のな。見た目以上に、体に悪いぞ。あの辺りを見てみろ」
「……人が……昼寝中……っ、ちょっ、倒れてるのか!?」
黒いモヤが出ている場所。それは、市街地だ。恐らく、瓦礫の撤去をしようとしていたのだろう。瓦礫に手を伸ばし、そのまま座り込む者や、不意に意識がなくなったように動かなくなるのが見えた。
その周りで、動かなくなった人に声をかけ、そのまま、フラリとする者。頭の痛みでもあるのか、頭を手で押さえながら、ヨタヨタと壁にすがる者もいる。
「魔素中毒だ。症状は、酸欠みたいなものだな。体に酸素よりも魔素が多くなっている状態だ。眠ったまま死ぬぞ」
「っ、ダメでしょ!! ちょっ、ち、散らせば良いですか!?」
さすがに、そのまた突っ込んでいけば、自分もただでは済まないだろうと言うことは宗徳もわかっている。だから、対処法を求めた。
これに、イザリは少しだけ眉を寄せて答えた。
「助かるつもりか? これは、代償だ。この世界の者が、払って然るべきものだ。何より、只人には見えぬものが原因なのだ。証明することは困難だし、人は犠牲のある教訓がなければ、学ばないものだぞ」
イザリは、倒れた人を見ても、何の感情も見せなかった。町の状態は酷いと顔をしかめたが、それだけだったのだ。
当然の報いだと思っているのだろう。同情もしていない。
「穴を閉じるのも我々の仕事だが、人を助ける為ではない。分かるか……」
「……イズ様や魔女様達の仕事は、世界のためのもの……だからですね……」
「そうだ。世界を有るべき姿に修復する。壊れた部分を直し、安定を図る。それが我々の仕事だ。だから、人助けではない」
「はい……」
助かる義理もない。一つの世界が消えれば、その次元のバランスが崩れる。だから魔女達は手を貸すだけ。バランスを崩さぬように、他次元に大きく干渉しないようにする。次元を調整するのが魔女達の仕事なのだ。
だから、そのバランスを崩す行為をした者たちを、魔女達は嫌うのだろう。愚かなことをしたなと、呆れるのは分かる。しかし、だからといって、宗徳は諦めたくなかった。
「だが……まあ、見捨てなくてはならないわけではない」
「っ、はい!」
宗徳は分かりやすく笑顔を見せる。イザリが少し譲歩してくれそうなのだ。期待はする。
「っ……仕方ないヤツだ。純度の高い魔素は、そのまま使うこともできん。ガスのように引火させて消費ということも無理だ。使えるように魔力として変換させねばならん」
「あ……魔素は……そうか。体に取り込んで、魔力になる? なら……取り込む?」
「それが一番だ。そして、消費する。我々の体ほど、有能な濾過装置はない」
実際、魔女達はそうやって対処しながら、一方で穴を術で塞いでいるようだ。
「なら、取り込んで……倒れる前に使い切るって感じでいいんですね」
「……まあ、そうだな……というか、お前は慎重かと思えば、たまにかなり力技の考え方をするなあ……」
「今でも、寿子に脳筋って言われるんで」
「……昔はよく言われていたのか……」
「それはもう」
「……」
まるで褒め言葉だと言うように、胸を張る宗徳。イザリは脳筋は悪口側ではなかったかなと思いながらも、その疑問を口にすることはなかった。
「まあ、アレの処理はそういう感じだ。お前なら出来るだろう……あと、倒れた人だが……要は、体に充満した魔素を消費させればいい」
「あ〜、なら、回復に使ってもらえばいいとか?」
「そういうことだ」
「なるほど」
ふむふむと頷く宗徳。魔術系は、感覚で出来る宗徳だ。問題なくいけると確信した。
「よし。寿子、お前はどうする」
宗徳はこの会話中、音声をそのままメールとして寿子に伝えていた。
『あなたは魔素をどうにかしてください。私が倒れた人の方をどうにかします』
これが答えだった。
「了解だ。イズ様。塞ぐのはお任せしていいんですよね?」
「ああ……すぐに対処しよう」
「お願いします!」
イザリが魔女達へ指示を出しに行く。
その間、宗徳も割り振りを考えていた。
「徨流は、このままアルマや子ども達を広場に連れて行ってくれ。ユマさんが居るからな。レンとタカ、あとキュアも、アルマと子どもらを頼むぞ」
これも音声のメールで廉哉に送った。
『分かりました。任せてください』
『律紀達も任せろ。キュアも魔素が見えるから、こっちは大丈夫』
そう返事が来たので、任せると決めた。
「白、黒、こっちを手伝ってくれるか?」
《くるる!》
《ぐるっ》
こちらも任せろと答えが来たので、問題ないだろう。
「よっしゃ! そんじゃ行くぞ!」
宗徳は躊躇なく飛び降りた。それと同時に、寿子もコンテナから飛び降りたのだ。
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