140 世界を見通す目
2021. 7. 31
イザリや魔女達は、大規模な術を使う場合、この世界に力が馴染みやすいよう、何日か滞在する必要があるらしい。
到着した日は、そのまま賑やかに終わり、翌日。
朝食を食べて一息吐いたところで、王都へと出発した。
「その箱、便利ね〜」
「揺れないようにもなってるの?」
「お茶、中で飲める?」
「あ、空間も拡げてあるじゃない?」
魔女達は、当然のように自分たちの箒や杖で飛んでいる。そんな彼女達は、徨流が吊り下げているコンテナハウスの周りを観察しながら飛び回っていた。
因みに、コンテナハウスには、宗徳と魔女達以外の地球人と獣人の子ども達、そして、領主と元王女ユミールことユマの息子であるアルマが乗っている。
アルマを連れて来たのは、王都で頑張っているユマへのご褒美だ。ユマの不貞の疑いが晴れ、義母やその息子である二人の兄達も今まで冷遇していたことを謝ってもらったらしい。だが、だからといって、すぐに仲良くなれるものではない。彼は関係に戸惑い、家を出て、一日の大半を教会で過ごしていたようだ。
たった数日で、すっかり孤児達のお兄ちゃんの位置についてしまっていたアルマだ。彼は寂しかったのだろう。共に来る護衛の者たちが、笑う顔を、ここに来て初めて見たと言うほどだ。どれだけ辛かっただろう。
十五歳だと聞くが、素直に母親に会いたがるアルマを、宗徳や寿子が置いて行けるはずがなかった。護衛は不満そうだったが、そのまま帰した。宗徳や二羽の神だけでなく、イザリまでもが、守護の術をかけたため、実際心配はいらない。
悠遠達や、廉哉とコンテナハウスの中から魔女達に手を振っているらしいアルマは、きっと今心から笑っているだろう。
「のんびり飛ぶなら、これも良いわね〜」
「あ〜、私も、電車とか車は酔うけど、飛行機は大丈夫だし〜、これも平気かも」
「たしかにね。何か、地面に接してるのがダメなのよね〜」
「もう私らは空の種族だってことよ」
「「「「「ね〜」」」」」
そんな会話をしながらの、遊覧飛行を続ける。
「すんません、魔女様方はもう少し飛ばしたいでしょうが」
徨流の上にいる宗徳は、隣を多分イザリに謝っておいた。スピードをもう少し上げることは出来るが、あまり速いと、ゆったりと景色も見えないだろう。子ども達には、空からの景色を楽しんでもらいたい。
「いや。確かに魔女の大半は『スピード狂』と呼ばれるほどだが、初めて来る世界では、そうスピードも出せないのだ」
「へ? そうなんですか?」
「この地の魔素に体が慣れねば、本来の力も出せん。よって、自在にこれを操ることも難しいのだ」
「は〜、なるほど。そうでしたか」
むやみやたらと飛べないのはありがたい。宗徳でも、彼女たちを止めるのは難しいのだから。
何度も納得だと頷き、良かったと安堵する宗徳を、イザリが真剣に見つめる。何か言いたそうだった。
「どうかしましたか?」
「ん……これは、宗徳や寿子も他人事では済まなくなる。今回の件が片付いたら、健康診断を受けるようになる」
「え、あ、はい」
そう約束させたれた所で、王都が見えて来た。
「これはまた……酷い……」
イザリが言葉を止める。良い状態ではないのかもしれない。見た目も、崩れた建物をどうすることもできす、混乱し、騒然としたままだ。
きっと、アルマも驚いている頃だろう。
そこで、宗徳はあることに気付く。
「ん? 風……?」
生暖かいような、はっきりしない、不快な空気を肌に感じたのだ。
「これに気付くか。やはり、感覚が良い」
「……これってえのは……」
「狭間の風だ。到底、人が生きられぬ、魔素の嵐が吹き荒れる世界と世界、次元と次元の間の空気が、流れ込んできている。この場には、大きな亀裂が入ってしまっているようだ」
「亀裂……」
そうはっきりと教えられたことで、宗徳の目に、その亀裂が徐々に見えるようになっていった。
それは、本来ならば世界を管理し得る魔女や魔道士が持つ、目だった。
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