138 とっても喜んでいるようです
2021. 6. 19
教会の前には、集会も開けるようにと、広く空き地を取ってあるため、上からでもその周辺までよく見える。
人の住まなくなった家を壊し、広げた土地だ。今更だが、土地を買い取ったわけではないので、領主とは今後の土地利用については、話し合わなくてはならないかもしれない。そんなことを考えながら、宗徳は指を差す。
「あの教会です」
しかし、イザリや他の魔女たちの視線は、その横にある建物に向けられているようだった。それはそうだろう。周りと明らかに時代というか、世界観が違う。
「……宗徳……あの隣にある赤い……かまぼこのような建物はお前か……? あれは体育館だろう……」
イザリが指摘したのは、間違いなく体育館のつもりで作った建物だ。赤と白のコントラストが少し目に痛い。上から見ると、特に異質だと主張してくる。
「あ、はい。建てたのは俺とレンです。避難所としても使えるようにと思って」
現在この町では、家のなかった者たちがそこで寝泊まりしている。ついでにと作ったマットが布団が代わりだ。少し堅いが、床で寝るよりは良い。今日は快晴とまではいかないが、晴れだ。そのマットを外で干しているのが確認できる。きちんと生きようとしている証拠のようでほっとした。
なぜか教会の前に向かって下りるのではなく、魔女たちが楽しそうに体育館へ向かっていく。
「きゃははっ。ここで体育館とかっ。笑えるんだけどっ」
「うわあ。こんな明るい時分にそばに行けるとか……ちょっと嬉しい!」
「地球では無理だもんね〜」
「目印にはするけどねっ」
スピード狂な彼女たちは、体育館の赤い屋根を目印に使っているようだ。
「けどさあ、最近はなんか、茶色とか、四角いのとかあるじゃん。あれなに? おしゃれ? 体育館におしゃれとかいらんでしょ。目印にならなくなるの困る〜」
「そうそう。私はコレしか体育館と認めない!」
「じゃあさあ、今度赤く塗ってやろうよ〜」
「ちょっとずつ色替えてったらバレないかもよ」
「それいい! やってみよ!」
すごく盛り上がっている。
昼間に彼女たちが空から体育館の側まで行ったら、間違いなく人に見られる。だから、近くに行ったことがなかったらしい。だが、魔法のあるこちらでは問題ない。子どものように、はしゃいでいた。
「熱い〜。滑り台みたいだと思ったのにい」
「なら冷やせばいいじゃん」
「やるやるっ。あ、でも、結構急に見えるけど、カーブは緩やかなのね」
「真ん中に柱がないから、弱いんでしょ? 穴開けないように気を付けなよ〜」
本気で楽しそうだ。そんな彼女たちを、どうしたものかと考えていると、隣で同じように彼女たちを見ていたイザリが廉哉について思い出したようだ。
「レンとは、養い子にした……この世界に召喚されていた少年だったな。こちらに連れて来ているのか?」
「ええ。他の、こちらで引き取った子どもたちの兄をやってくれてますよ」
「ほお……」
そのまま黙って何かを考えるような様子のイザリを見て、廉哉に何か良くないことがあるのだろうかと不安になる。それが顔に出ていたのだろう。イザリが横に首を振った。
「いや、気にするな。中には、トラウマになる者もいるから、それが少し心配だっただけだ。来られたのなら問題ない。ダメな者は、門を潜ろうなんて思わないからな」
何事もなく、こちらに再び来たならば問題はないだろうとのことだ。
「一人になるのを嫌がる素振りはないか?」
「……そもそも、一人にしようとした事がないんで……」
寝る時も地球の家では同じ部屋に寿子と三人で並んで寝たし、宗徳か寿子のどちらか一人は必ず一緒に居た。こちらでは、子どもたちも居るので、まず一人にならない。
「そうか……いや、いい。もしそんな傾向があるのが少しでも感じられたら、クーヴェラルに相談するといい。カウンセリングが必要だからな」
「分かりました」
後から聞いた話だが、異世界に召喚された者の多くは、再びを怖がるため、一人になるのを嫌うらしい。チャンネルが合いやすくなるため、また召喚されることも多いのだという。
それを防ぐための魔術が、ライトクエストから支給される腕輪には施されているのだが、それも完全ではないらしい。しかし、再びがあったとしても、今度はすぐに会社で探してくれる。だから不安に思うことはないのだと、何度も言い聞かせるのだ。
力も持っているため、いざという時に暴走しないようにという考えもある。
「さて……そろそろ下りるか。寿子も気付いたようだ」
魔女たちがキャッキャと騒いで飛んでいるため、さすがに住民たちが気付く。そして、空を指差して教会のなかへ報告を入れる。恐慌状態にならないのは、その空に徨流の姿があるのが確認できたからだろう。
こちらを指差した後、人々は手を振ってくる。そして、アレは何だというように、体育館の周りを飛び回る魔女たちを指差していた。
そこに、寿子や廉哉が出てきたのだ。子どもたちと手を繋いで、律紀と治季も出てきた。
「ん? 他にも連れて来ていたのか? あれは……美希鷹ではないか? そういえば……召喚された者が居ると報告があったな……」
律紀や治季は、身なりからして、こちらの者ではないと分かるだろう。そして、イザリは美希鷹を知っていた。
「タカの横に居るのが孫の律紀です。そんで、寿子の所に居るのが、前に会った善じいの玄孫の治季です」
「ほお……よく平気な顔をしているものだ」
「膜は張ってますよ?」
「ああ。だが、それにしても、動じていないように感じる。お前の孫は、初めて魔女を見るのだろう?」
「そうですね。魔女さんたちは初めてだと思います」
「うむ。さすがお前たちの孫だな」
「ありがとうございます?」
なんだか褒められたなと、お礼を言っておく。
「では、降りるか」
「ええ」
しかし、そこで好奇心旺盛な魔女たちが、宗徳やイザリより先に寿子に突進していたのだ。
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