137 素質を見出されたらしい
2021. 6. 19
投稿ミスしておりました。
二話投稿します。
上空からその大陸を見下ろし、魔女達は顔を顰めていた。
「汚い……」
「臭うわね〜」
「戦時中……じゃないわよね?」
宗徳達は人々に怯えられないよう、かなり上空を飛んでいるのだが、臭いは感じるらしい。宗徳は、徨流に乗ると風の膜で覆われるため、そこまで敏感に嗅ぎ取ることができなかった。しかし実際、この上空まではそれほど臭いはきていない。
この大陸の町では、家もなく、路上生活する者が多く、環境整備も出来ていない状態だ。現在は王都もそれに近いと言えた。
「しょっちゅう戦争をしていたらしいんですが、今はそのまでの力がここの人たちにはないですから」
戦争をするには、人が要る。戦える兵士がいなくては戦争にはならない。だが、そこまで国のために必死になったり、何事にもやる気のある者が居ないという現状。貴族達は元気だが、自分たちで剣を取ったりするわけもなく、ただ現状の不満を口にするだけだ。
「……確かに、生気が薄いようだ」
イザリの言葉を聞いて、宗徳は地上に意識を向ける。
「ああ……なるほど……生気ですか」
「分かるのか?」
「なんとなくですが……昼間なのに、深い夜の気配といいますか……」
「……」
イザリは、地上へ感覚を広げる宗徳の様子を見て目を見開く。そう簡単に感じ取れるものではない。
いくら異世界とはいえ、広く知られたようなチートが仕様ではないのだ。あくまでも経験に基づくものによって修得していく。異世界の住民よりもチートになるのは、単に想像力の違いによるものだ。
魔法や魔術といった力が、当たり前になっている世界では、その力の素がどこからくるのか、どうして力として発現するのかといったものを深く考えない。
『全ては神より授かったもの』と納得して終わる。しかし、科学の進んだ地球では、火の燃え方一つ取っても知ろうとするし、どうしてを解決しようとする。
極端な話、神々などの超常のものを答えにするのは、思考の放棄と見なされるのだ。それだけ、考えることを自分たちに課している。その『考える』ことがチートに繋がるだけなのだ。
ライトクエストが、年長者を迎え入れるのは、そうした『考える』ことを長年続けてきた者を求めているからだ。
そんな中でも、宗徳は異常だ。イザリは、少し前から特別素質があると思ってはいたが、ここへ来てからずっと、特に宗徳の感覚の良さに驚くしかない。
「お前は本当に……来るべくして来たのだな……」
その言葉は宗徳の耳には届かない。
魔女は運命を嫌う。定められた道など、自由を愛し、未知を求める魔女には忌むべきものでしかない。
けれど、だからこそ、運命という力が働いた時を恐ろしく感じるのだ。
「引寄せられる力というのは、まったく……」
運命というのは、時に隙を突いて一気にその道へと引っ張ってくる。それに逆らうことはできない。その時は、そうとは気付かないのだから厄介だ。拒否する考えさえ退けてしまう。それが運命という力なのだから。
そこでふとイザリは気になったことを、宗徳に尋ねた。
「そういえば、ウチに来るきっかけは、どちらが作ったんだ?」
「ん? ああ、寿子です。シルバー派遣の相談会で、チラシをもらってきて」
「……」
「どうかしました?」
イザリは、目を丸くしていた。どうしたのかと心配になる宗徳に答えをくれたのは他の魔女達だ。
「うわあ〜……それって『異世界を救う仕事です!』とか書いてなかった? あと〜『経験を生かして』とか」
「書いてありましたよ?」
「で『面接は市役所で〜』とか?」
「はい」
それを確認した魔女達は顔を見合わせた。
「それ……相当、狭き門よ?」
どうやら、ライトクエストでは、求人のチラシは配らないらしい。それをするのは、ただ一人だという。
「あ〜、でも、そっかあ。あの方のお眼鏡に叶ったってことね〜。このスペックも納得だわ……」
「え? あの方、今どこにいるの? ってか、ここ二百年くらいお見かけしないわよね?」
「でも日本に居たってこと? 本当に気配とか分からないわね〜」
宗徳がどういうことなのかと魔女達に視線を向けると、彼女達はチラリと未だに呆然とした様子のイザリを見てから説明してくれた。
「えっとね? あなたを……特に多分……あなたの奥さん? の素質を見出したのは、イズ様のお師匠様だと思うのよ」
「……イズ様の……」
「私たちは薔薇様って呼んでるわ。呼び名の通り、薔薇の様な方でね。どんな者でも、美しさで惑わせ、その荊で絡めとる……敵対する者を許さず、けれど、味方も近付けない。そんな……どこでも一人で咲き誇る方よ」
「……すごい人ですね……」
そんな人に見出された寿子が少し心配になった。
「そうね。だから、そんな方が見出す魔女や魔導師は、数百年に一度の逸材よ。あなたもそうってことね。そのチラシが見えたんでしょう?」
「そりゃあ……見えんものだったんですか?」
「そもそも、素質がないと手に取ることもできないわ」
「なら……寿子は……」
「魔女の素質が相当高いみたいね」
「……」
イザリは、先程から何かを思案している様子。それがまた宗徳を不安にさせる。寿子が魔女になれる。それが、寿子にとって良いことなのか、悪いことなのか分からない。けれど、何かが変わってしまうようで不安だった。
「寿子……」
そろそろ、眼下に寿子達の居る教会のある町が迫っていた。
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