136 人として興味深い?
2021. 5. 8
翌日、王妃や王子達を無事に送り届けた宗徳は、徨龍に乗って寿子達の居る大陸へ向かっていた。現在、ようやく海の上に出た辺りだ。
因みに、送り届けた時に王と会い、文通をすることを約束してきた。見た目の年齢に差はあるが、実年齢は近い。そのため、友情が芽生えていたのだ。
そうして、新しい友人が出来た宗徳は、機嫌よく魔女達を案内する。
宗徳の後ろには、魔女達がそれぞれの箒や杖に乗って飛んでいる。スピード狂な彼女たちも、初めての空は興味深く、速さを合わせてくれるのは助かった。
「あ、イズ様。ちょい寄り道いいっすか?」
「構わんぞ? こんな海の真上でどこに……ん?」
許可を得た所で、波の渦巻く場所が先の方に見えた。
「あそこです。あの下に、国が一つあるんで」
「海の中に……」
イザリさえも、感心するものだったらしい。他の魔女達も後から気付いたようだ。
「なにこれ……」
「こんなことが出来るなんて……」
「これ……神ね」
「うわ〜、これはないわ」
「面白いけどねえ。これなら、海に沈んだ星も使えるわよねっ」
うんうんと頷く魔女達。そんな世界もあるのかと、宗徳はほおと息を吐く。
「何か出てくるわっ」
渦巻く中きら、キラキラとしたものが出てくる。もちろん、それは徨龍の母のレヴィアだ。
「うわあ。美人ねえ」
「あら? もしかして、その子の親かしら」
分かるのかと、宗徳は驚く。
「そうです。分かるもんなんですねえ」
純粋に凄いなあという表情を見せる宗徳に、魔女は嬉しそうに答えた。
「まあね〜。でも、絶対に分かるってことでもないのよ?」
「あら。あなたが謙遜するなんて、珍し〜」
「だって、あんなキラキラした目で見てくるのよ? 可愛いわ〜」
「見栄張る気も、綺麗さっぱり失せるわね〜」
人はいくつになっても、他人より上にありたいと思うもの。優越感を少しでも感じたい。それは、人に認められるということ。人が生きていくために必要な性だ。
「いくら歳を取っても、今時は、きちんと世界と付き合えてる子は少ないわ。だから貴重!」
「ふふふ。凝り固まってなさそうだから、期待してたけど、他人を認められるくらい、上手に自分を制御出来てる子は、本当に貴重よねっ」
人としての性を知り、自分で理解することが一番難しく、とても大事なこと。自分が認められたいと思うだけではいけない。他人も認める。それも、卑屈になったり、偽善的に他人を持ち上げるのではなく、素直に受け止めて返す。
そう出来る人は少ない。
「ますます、彼の妻ってのが気になるわねっ」
「ねえ、彼の孫とか子どもはどんな子かしら」
「あら、今時の子は今時の子じゃない? いくら親とはいえ、学校の環境は変えられないわ」
「あ〜、あれよね。競争させないって教育。ゆとりより酷いわ〜」
「だから、挫折する子が多いのよね〜。他人どころか、自分に負けたこともない子が多いもの〜」
なにやら、後ろの方ではいつの間にか教育について語り合っている。女性とは、魔女であっても話題がコロコロと変わっていくものらしい。
それらを気にしつつ、出てきたレヴィアの背にくっついていた二匹のフクロウに目を留める。
目が合うと、二匹は嬉しそうに宗徳の前に飛んできた。
「もういいのか?」
《くるるっ♪》
《ぐるっ》
満足気な感情が伝わってきた。そして、レヴィアへと二匹は言葉をかける。
《くるるっ、くる〜》
《ぐるっ、ぐるっ、ぐるる》
《〜、〜〜っ〜》
また来ると伝え、いつかを待とうと話している。いつか、人々と分かり合えたなら、大地を海中から引き上げるのだということらしい。
《〜〜っ》
レヴィアが宗徳へまた会いましょうと伝えてきた。これに、片手を上げて応える。
「ああ。また会いにくるよ。徨龍もな」
《〜〜っ、〜〜》
頷き、ではまたと告げて海の中へ消えた。
《くるる》
《ぐる?》
「ん? ああ、魔女さん達だ。召喚の儀式ができる魔法陣をどうにかしてくれるんだってよ」
《くるるっ、くる》
《ぐるる……》
「心配するな。他の世界でも、処理するらしいからな。あ、あっちの人がイズ様……イザリ様だ。代表な」
イザリを紹介すると、二匹はきちんとイザリを見て小さく頭を下げた。よろしくと。
「俺からもお願いします。イズ様」
「あ、ああ……必ず」
珍しくイザリは、何かに動揺しているようだった。首を傾げていると、その答えはすぐにわかった。
「ねえ……もしかして、言葉が分かるの?」
「今、会話できてた? 出来てた……わよね?」
「私……分かんなかったけど……」
魔女達が目を丸くしていた。
「ん? 分からんもんですか?」
「「「わからないわよ!」」」
どうやら、これは普通ではないらしいと、宗徳はようやく認識した。
「あ〜……いや、異世界だから有りなんかと……あ、まず移動しましょう」
「そうね……」
「海の上だものね……」
「ここでする話じゃないわ……」
やはり、他に足をつけてすべきだろう。そう結論を出し、宗徳は案内を再開した。その後ろで、イザリは苦笑して呟く。
「まったく……おもしろいやつだ」
ふわりと笑ったイザリの笑顔を、魔女達は見てしまった。その珍しい笑顔に動揺して頬を赤めながら、魔女達は顔を見合わせて小さく笑った。
こんなに楽しいと思ったのは久し振りだと彼女たちは、宗徳の背中を見つめたのだ。
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また二週空きます。
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