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125/212

125 勇者より……

2020. 8. 29

宗徳の右肩には神であるフクロウがおり、左腕には徨流が巻き付いている。


「レン。こっから気合い入れろよ」

「はい! 凄い数ですね」

「だな……こりゃあ骨が折れる」


分かれてしまった神の半身は、八十階層に居るらしい。七十ではなく八十というところが、いじらしい。


そして、七十五階層に入ったところで、ガラリと様子が変わった。一気に魔獣や魔物が増えたのだ。それは、通路の先が見えないほどだった。


「こいつらは本物じゃねえな。気楽にいくぞ」

「はい!」

《きゅ!》

《くるる!》


宗徳達はいっそ気持ちよさそうに魔法を連発し、剣で遠慮なく斬り捨てる。


「宗徳さん、魔力大丈夫ですか?」

「問題ねえよ。一度底を知ったからな。なんとなく感覚で残量が分かる」


無理して魔力を使ったのも悪いことではなかった。何事も経験しておくものだと宗徳は改めて思う。


「すごい……僕、今でも曖昧で、一々ステータスを確認しないと分からないんですけど……」

「勘だぞ?」

「宗徳さんの勘は信用できそうです……」


廉哉ももう分かっている。宗徳は感覚の人だ。他人に教えられない人種だ。その方が信用できる。


「三分の一は残りそうですか?」


ボス戦の前なのだ。魔力は残しておいてもらいたい。廉哉が心配なのは、宗徳がボス戦を経験していないからだ。ダンジョンを知らない宗徳がボス戦を知っているとは思えない。


結局六十階層でもボス戦はなかった。それが宗徳らしいとも思うが、この先はそうはいかないだろう。


だが、廉哉は宗徳のことをまだまだ知らなかったらしい。


「ん? 八十まで行くと……多分半分は残るぞ?」

「へ? 半分も!?」


宗徳は自身のステータスを確認した。




固有名称【時笠宗徳】

レベル【479】

種別【人族】

HP【13800/15200】

MP【8050/15500】




かなり善治に近付けたなと思うとニヤケそうになる。数字で確認できることが、これほど安心で楽しいことだとは思わなかった。


「間違いねえよ。この調子だと半分は残る」

「えっと……半分だと大体どれくらい……」

「七千ちょい」

「なっ、七千!?」

「おう」


そう話している間にも、魔獣を倒して進んでいく。


この世界はゲームと違い、レベルが上がると全回復ということもない。廉哉はレベルが気になった。


「ち、因みにレベルは……」

「あ〜……よし! 今ので四百八十になった!」

「よっ、四百!?」

《くっ……くる……っ》


これに神までも絶句した。


廉哉が勇者として神と戦った時でさえ、実は百二十ほどだった。現在は百五十に届くところだ。二百さえ遠い。それを知れば、宗徳の異常さが分かる。


「僕……本当に勇者だったのかな……」

《く、くるる!》


慰めようと、神は廉哉の肩に移動する。その重さと暖かさを感じながら、廉哉はしばらく宗徳について行くことしかできなかった。


六十階層を出てから一時間ほど。


宗徳達は八十階層の最奥に辿りついていた。


「行くぞ」

「はい」

《きゅきゅ!》

《くるっ!》


扉を押し開ける。そこは光の通らない闇だった。


淀んだ空気は生温く感じる。息をしたくないと思うものだ。


そして、その先には特大の闇があった。


「……っ」


廉哉はゴクリと喉を鳴らした。邪神との戦いを前にした時の緊張感を思い出すようだ。


カタカタと震えそうになる体を叱咤し、せめて宗徳と並ぼうと重くなった足を動かす。宗徳は今どんな思いを感じているのだろうと、その表情を窺うように見上げた時だった。


「空気が悪い! こんなところに居たら病気になるわ!」

「へ?」


宗徳は唐突に部屋の中へ風の魔法を撃ち込む。


「そいや!」

「えぇぇぇっ!!」


ラスボス相手に慎重さも何もない。それに廉哉は驚愕した。


撃ち込まれた風魔法が、黒い空気を一箇所にまとめていく。負けないようにだろう。濃く、大きくなるその塊に、宗徳は両手を向ける。


「っ、宗徳さん……っ」


次はどんな大技を使うのかと息を詰める廉哉。しかし、気付いてしまった。


「……え……き、気のせい……?」


目がおかしくなったのだろうかと廉哉は目を一度閉じる。


ふうと息を吐いてから、もう一度注目した宗徳の両手には霧吹きが握られていた。


「へ?」

「消毒、消毒」


交互にシュッシュッとする宗徳に、廉哉の目は点になった。


「……消臭スプレー……?」


そして、このシュッシュッにより、黒い空気は確実に消えていったのだ。



読んでくださりありがとうございます◎

また二週空きます。

よろしくお願いします◎

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