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124 心の傷

2020. 8. 8

宗徳は神の真っ白で美しくふわふわとした毛並みを堪能していた。


「もっと硬いと思っていたんだが……意外にも柔らかい……おお〜、すげえ中まで手が入る……」

「ほとんど毛? もふっとしてますね」

《きゅ〜ぅ》

《くるる〜♪》


自慢の毛だと撫でられて喜ぶ神だが、どこから見ても人懐っこいフクロウにしか見えない。お陰で、宗徳の話し方も砕けてきていた。


「そんで神様や。外には出んのか?」

《くるぅ……》

「いや、怖がられたりはしないだろう。それに、きちんと神様のことを知ってるヤツもいるぞ」

《くるる……》


怖いと言った。怖がられるのが怖いと。何よりも人々を滅ぼすと決断した自分が怖いと。


「怖いのは当たり前だな。喧嘩した後も、次に顔を合わせる時が怖いもんだ」

《る?》


そうなのかと不思議そうに目を合わせる。同じなのかと首を傾げる。


「まあ、やらかした規模は大きいが、おんなじだろ。けど、あんたがそう感じる必要はねえよ。子どもがどうしようもなくバカになっちまって、それでこれ以上他人に迷惑かけさせないように、間違いを犯さないようにって親が手を上げちまうことだってあるさ」

《くるる……くる……》


それでも申し訳ないのだと首を埋れさせる。


「そこまで親を追い詰めた子どもにも責任があるし、そんな状況になるまで諭してやれなかった親の責任もある。どっちもどっちだ」

《くる……?》


どっちもなのかと埋まった首が伸びた。目を丸くするというのはこれだ。


「喧嘩両成敗ってことだよ。神様と人じゃあ、ネズミと人くらい違うかもしれん。噛まれたら躾けて、また噛まれたら躾ける。そうするしかねえんだ。ただ見てるだけで分かり合えるなんてことは無理だからなあ」

《……くるる……》


求めすぎたのかもしれない。理想を押し付けたのかもしれない。そう後悔していた。


《くるる……》

「そう怖がんなって。怖いって感情は理解できないものに対して出るらしい。きっと、相手が何考えてるか分からんってのもあるんだろうな」

《……くるぅ……》


人に会うのが怖いと思う自分が情けないと、神はまた少しだけ埋もれる。


しばらく静かな時間が流れた。徨流はゆったりと天井付近を飛んでいる。それをただ眺めた。


すると、同じように徨流を眺めていた廉哉がポツリ、ポツリと呟く。


「……僕も……僕も怖かったです……こっちに来て……戦えって言われて……食事も……住むところも用意してくれてるけど……勇者だって言って優遇してくれるけど……怖かったです……何を考えてるのか分からない周りの人が……」

《くる……》


廉哉は泣きそうな顔をしていた。


「そうか……よく耐えたな」

「っ、っ……はい……っ」


怖かっただろう。大人に囲まれて、戦うことを強要されて。でも、そんな中でも考えることを諦めなかった。だから、邪神となった神を封じることにした。


頑張ったという言葉は相応しくない。そんな軽い言葉で済ませられるはずがない。


宗徳は廉哉のその時の努力全てを褒めるように頭を撫でた。ここへ来るのも怖かったはずだ。それが分かるから、宗徳は嬉しかった。


「よくやった。お前は本当に自慢の息子だ」

「っ、ふぅっ、ふっ……っ」


泣く廉哉を見て、神はふわりと飛び上がると、廉哉の肩に乗り擦り寄った。


《くる……るぅ……》


ごめんと謝る神。


止められなかった自分をこの神は責めている。だが、責める必要はない。廉哉も責めたいわけではない。


「……っ、すみません……」

「いいさ。泣きたい時は泣けばいい。泣かねえと治らん傷があるってことだからな。体は正直なもんだ」

「うぅ……はい……っ」

《くるぅ……》


今度は落ち込む神に、宗徳は手を伸ばす。頭ではなく体だが、先ほどの感触を確かめるのではなく、労わるように撫でた。


「神様も泣いていいんじゃないか?」


それが合図だった。


《くる……ぅぅ……くるるぅ……っ》


ホロホロと丸い目から涙が溢れ落ちる。だが、それは床に落ちてコロコロと転がる。水晶だと思ったのだが、鑑定が発動するとそれは【ダイヤ】だった。


「……人前で泣くのはなしだな」

「……はい……これはちょっと……」


この世界でのダイヤがどれだけの価値があるか分からないが、キラキラと輝くそれはとても美しかった。


しばらくして、ダイヤの山を二つ作り泣き止んだ神は覚悟を決めたように宗徳へ訴えた。


《くるる!》

「あ、下に居るのを迎えに行くんだな?」

《くる! くるる……》

「半分? 厄介? いいんだよ。納得できなかった頑固な部分ってことは、あれだ。頑固オヤジってことだ。なら、拳で語り合えばいけるさ!」

《……くる……?》


本当にそれは大丈夫なのかと心配げだ。だが、宗徳は軽く笑い飛ばす。


「大丈夫、大丈夫。心配すんな。殴り合わんと、声も聞こえん時ってのはあるもんだからなっ」

「……」


廉哉には理解できなかった。父親とそんなことしなかったし、友人とも殴り合いなんてしたことがないのだから。


「話合えればそれでいいけどなっ」

「……そう……ですね……」

《くるる!》

「お、やる気だな! よし、いっちょ分からずやの目を覚まさせるか!」

《くるるぅ!!》

「えっと……良いの……かな?」


神の半身だ。邪神としての心が残っている部分だ。自分の半身を痛めつけていいものか。考えても廉哉には分からなかった。



読んでくださりありがとうございます◎

また二週空きます!

よろしくお願いします◎

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