117 信頼する人が居るなら
2020. 3. 14
炊き出しをやっているからというのもあるが、王家から何らかの発表があると聞いて、多くの民達が集まってきていた。
「さすがに全員は集まれんだろ。よしっ。スピーカーがいるな!」
宗徳は町内放送のためのスピーカーをイメージした。
「あ、でしたら、僕がマイクの方やってみますね!」
すっかり廉哉も物作りにはまっているようだ。二人は生き生きとコンテナハウスの前で作業を始めた。
「な、なあ。俺も手伝うぞ。ってか手伝わせて! 誰か一緒に居てっ。一人だと怖い!!」
美希鷹は治季と律紀の企みにより、住民達に神の使いだと認識されてしまった。そのため、ちょっとでも姿を見せると拝んでくるのだ。
今もしゃがみこんでそっとコンテナハウスのドアを開けて訴えてきている。
そんな美希鷹を気の毒に思った寿子が先程、困った様子でコンテナハウスの窓にカーテンを取り付けていった。なので、中に居ればとりあえずは問題ないのだが、それでも不安は不安だったらしい。
「うおぉぉぉっ……ちょい調子に乗りすぎたぁぁぁっ」
翼人族の姿の方がこちらの環境に馴染みやすいらしく楽だということと、キュリアートの力が安定するということで、悶えている美希鷹の背中には立派な真っ白い翼が未だに装備されている。
それが本来の姿であるからか、普段より髪は光を放つくらい金に輝いており、ツヤツヤと輝くその髪のてっぺん近くには天使の輪があるように見える。
「いや、マジでタカ……お前天使だなっ!」
「その目! 好意と好奇心しかないその目が眩し過ぎるっ」
宗徳が純粋に美希鷹に向ける視線には、嫌味がない。それが逆に恥ずかしいのだという。今も赤くなった顔を両手で覆って悶えていた。
「ううっ……この姿になると、近くに居るやつの感情とか感じやすくなるんだよ……」
「へえっ。心が読めるのか?」
「う〜ん。明確な感じじゃないんだよ。こう……これは好意! とか悪意! とかそんな感じ?」
言葉が聞こえる訳ではないらしいと分かり、宗徳は少し残念に思う。だが、改めて考えてみると、感じるだけでも良いものではない。
「あ〜、そうなると、人と付き合い辛そうだな……タカ、お前……苦労したんじゃねえの? 近くに俺らが居るのも嫌だろう」
それが好意ではあっても、感じることが鬱陶しくはないかと思った。
「ん〜。ノリさんとか、ヒサちゃんの感情はさあ……なんて言うんだろ……煩くないんだよ。ストレートに、感じようとしなくても顔を見れば分かるし、だから、嫌じゃない!」
少し恥ずかしそうに言った美希鷹。これは、宗徳や寿子のことを信頼していると伝えたようなものだ。表情や仕草から受ける感情を裏切ることはないのだと。信用しているのだと。
宗徳達は美希鷹への気持ちを誤魔化したりしない。だから、実はこうなんだとショックを受けることはないだろう。
「表面上でさ……ニコニコしてても、心の中ではって思うと、やっぱちょっと怖いんだ。この姿になってなくても、一度こっちで感じちゃうと、裏を見るじゃないけど、疑っちゃう所があってさ……」
この力と折り合いを付けるのも、苦労しただろうことがこれで分かる。
「けど、ノリさん達にはそういうの、感じたことないんだ。会社の人達もそうだけどさっ。嘘付いたり、誤魔化したりするのが会社の人達、嫌いな人が多いんだって。だから俺も安心してられるっていうか……あ〜、なんでこんな話になったんだっけ」
いつもはキュリアートが埋もれている頭を掻いて、ため息をつく。
「逆にさあ。ノリさんは俺がそういうの感じられるって聞いて距離を置こうとか思わない?」
先程よりも小さな声。顔を見れば、少し不安そうだった。それをあえて気にしないように、宗徳は作業に戻る。手元を見て、着々とスピーカーを仕上げていく。
「思わねえよ? 敏感な奴ってのは居るからな。そんなん気にしてたら外に出られんくなるだろうが。まあ、相手が不快に感じるってのはいかんが、そこで気ぃ遣われんのが嫌だってのもあるだろ。だから、こっちは気にしねえのが一番だ」
「……」
「それに、相手に何も言えんほど、俺らはどうでも良い関係じゃねえ。そうだろ?」
「う、うんっ……」
「なら、言えばいい。今日はちょい敏感になってるから近付かんで欲しいとかな。そんなんで関係がおかしくなるような、そんなヤワな繋がりじゃねえよ。ただ、タカも気ぃつけろよ」
「何が……?」
そこで手を止め、宗徳は美希鷹の方を向いた。
「察して一人で納得すんな。ちゃんと言葉で伝えて、伝わることを忘れんなよってこと。お前の性格だと、辛くっても笑って表面上取り繕う
ようになってんだろ。全部呑み込むな。吐き出すこともせんと心が死ぬぞ」
「っ……」
また手元に目を向け、宗徳は続ける。
「呼吸と一緒だ。吸い続けることはできんようにできとる。吐き出さんと吸えんだろうが」
美希鷹だけでなく、廉哉も手を止めてゆっくりと静かに深く呼吸するのがわかった。
「どこで吐き出すかはそれぞれだが、できたらきちんと話を聞いてくれる信頼できる人の前でしろ……」
「……っ」
そこで宗徳は美希鷹へ目を向け、ニカッと笑って見せた。
「そしたら、返ってくるもんもある。それを吸い込んで、次に行け。腹に落として治めるか、胸に満たして浸るかはそん時次第だがなっ」
「……っ……うん……そう……だね。そうかも。そうできたら……いいなっ」
笑顔になった美希鷹は、今までで一番落ち着いた雰囲気で、それから静かに宗徳と廉哉の作業を見つめていた。
そうして、穏やかな時間が過ぎ、宗徳と廉哉だけでなく、美希鷹も混じってスピーカーを王都中に設置し終えると、ユマが王族達を引き連れて民達の前に立ったのだ。
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