115 性格出ます
2020. 2. 1
ユマは町の様子を上から見て、地上に降りたことで、事態の大きさをはっきりと認識することができた。ただ、あまりにも酷い状況に、地上に降りてもしばらくの間呆然として動けなかった。
寿子が何かを感じて焦って外に出て行くのを、他人事のように見送り、廉哉が美希鷹達と話合っている時も思考は停止していた。
それから話し合いが終わり、子ども達も連れて外に出て行くのを見て、ようやく我に返ったのだ。
「ユマさんはどうされますか?」
廉哉の問いかけに、急速に動き始めた頭が反射的に返事をする。
「父に会ってきます」
「……分かりました。護りの術はかけておきますが、お気をつけて」
ユマは一人でこの過酷な大陸で生きてきた。それも、つい先日まで人の住む町ではなく、魔獣も棲む場所にだ。その辺の冒険者にも負けない実力の持ち主だった。
それが分かっているからこそ、廉哉は特に一人行動を咎めたりしない。
ユマはもはや見る影もない、かつて暮らした城へ向かった。寿子が怪我人を治療していく様を横目で見ながら、見覚えある近衛騎士達が集まる場所へ。そこに父王がいるのは間違いない。
当然、そこに近付いていけば、兵達が咎めようとするだろう。だが、何人かはユマのことが分かったらしく、手を伸ばしかける兵達を留めていた。
あと数歩というところで、近衛騎士が気付いて振り向く。
「ユ、ユミール様……?」
「久し振りね。退いてくれる?」
「は、いや、しかし……」
近衛騎士達はほとんどユマが城に居た頃から変わっていない。お陰で身元が証明された。しかし、王の反感を買って出奔したのだ。歓迎はされない。
「殺したりしないわよ。そこに居る元父とバカ兄を一発ずつ殴り飛ばして、今回のことを猛省させるだけだから」
「……は、はあ……」
殴るだけではなく飛ばすとか、反省では物足りないので猛省させるとか、色々と引っかかる所はあったが、そのまま前に進み出したユマを、混乱のために騎士達は思わず通してしまった。
道が開けたことで、ユマは二十数年前振りに父と兄の顔を見ることができた。
あちらも認識したらしい。ただ、驚くというより、事態を未だに把握出来ていない放心状態に近かった。二人とも座り込んだままユマを見て、口が少し開いている。
そんな二人に、ユマは容赦なく回し蹴りをお見舞いした。兄を力いっぱい蹴り、その隣の父王も巻き込んで転がっていく。
「っ、陛下ぁぁぁ!」
「で、殿下!」
「なっ!? ちょっ、ユミール様っ」
「殴るって言ってたでしょうがっ」
「そこじゃないだろ! 何してんですかっ」
大変混乱させているということは分かった。
「だって、座ってたんだもの。屈んだり、摑みかかるよりも蹴り飛ばした方が早いじゃない」
「確かに」
「分かります」
「だから、そこじゃない! 同意するな! なぜこんなことをっ」
一人、冷静なのが居るなとユマは良いことだと内心頷く。そんな騎士の疑問には、是非とも答えてあげたい。
「大事に温め続けてきた恨み辛みを手っ取り早く伝えたかったのと、バカなことしてんなってツッコミと、ボケてんじゃねえよって気合い入れるため」
「……なるほど……」
こいつは冷静なわけではなかったと確認できた。ならもう相手をする必要はないと、ユマは転がって行った父と兄に近付いて行く。すると、取り巻きの貴族なのだろう。怯えながらも立ち塞がる者たちがいた。
「こ、これ以上近付くなっ」
「この方を誰だと思っているっ」
「こっちこそ、私を誰だと思ってるのよ」
「「「……」」」
ユマも知らない面々だ。本当にユマのことを知らないのかもしれない。
「そのバカを問い詰める前に聞かせてもらいたいのだけど、あんた達も今回の……勇者召喚に関わっているのかしら」
「っ、なぜそれをっ」
「お前のような女がなぜ知っている!?」
「なっ、何者だ……」
これで確認ができた。
「今はユマと名乗っているけど、以前の名はユミール。ユミール・ロサ・ケーリア。この国の第三王女だったわ。そういえば、姉上達はどこに?」
後半の質問は、騎士に向けてだ。王女と知って、目の前に立ちはだかっていた貴族達は腰を抜かしている。お仕置きは後にした。
「あ、王女様方は……あちらに……」
指で示された方を向けば、メイド達が右往左往している。寿子によって治療を受けることを拒否しているらしい。とはいえ、宗徳のお陰で、重篤な怪我であっても、そのままの状態で固定されているため、このままでも死ぬことはない。
「相変わらず、バカね」
「……ユミール様……」
この場合、差し伸べられる手を跳ね除けるなど愚かなことだ。それが例え、メイド達であっても。それも、言い分が『下賤の者が王女に手を触れるな』というもの。だが、そこは寿子だ。
『触らなければいいのね』
寿子もイラついていたらしい。宗徳の状態を固定する術も、永遠ではない。かけ続けている状態になっているのだ。薬を飲ませたとはいえ、時間をかける気はない。不味さによって意識をはっきりさせたのでまだ保つが、それでも寿子は短期決戦を目指していた。
そこへ来て治療を触れるなと言って拒否されれば、こめかみに青筋を立てながら、なら触れなければ良いと、さっさと治療してしまった寿子だ。
患者より身内の方が大事なのは仕方ない。自分には看護師は向かないと呟くのはさすがに聞こえなかった。
「さすがはヒサコさんです」
「治った……のですか……?」
「ええ。けど……ふふっ、みっともない格好だわ」
「……」
怪我は綺麗に治ったが、着ていた趣味の悪い派手なドレスはボロボロで酷く汚れていた。顔も髪も酷い。彼女たちには許せない状態だろう。
「まあ良いわ。しばらく大人しいでしょう。その間に……話をしましょうか? 元お父様?」
「っ……」
酷く怯えている様子がユマには愉快だった。
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次回、また二週空けさせていただき
22日頃になります。
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