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109 怒らせましたね?

2019. 10. 19

ユマは、この町の領主であり、かつての夫であった人の前へと進み出て行く。


その人は、民たちに罵られながら、兵達にその相手をさせ、転がされる民達にまるで汚いものを見るような目を向けていた。それを見て、ユマは怒りを覚えた。


かつては、こんな人ではなかった。城を追われた元王女であり、この大陸を見て回ったユマが唯一愛した人だったのだから。


「本当に、あなたは腐ってしまったようね」

「っ……!? ユマ……?」

「私の名前を覚えていたの? 『お前のような女のことなど、すぐに忘れる』と吐き捨てたのはどこの誰だったかしら」

「っ、お、お前っ」


顔を真っ赤にする領主に、ユマは調子を崩すことなく続けた。寧ろ、感情はヒートアップしていく。


「アルマに随分と酷いことをしてくれたみたいじゃない。私からあの子を取り上げておきながら、どういうつもり?」

「そ、そんなこと、お前が一番わかってるだろう!!」

「は?」


腰に手を当て、ユマは呆れた様子で睨め付ける。これに気圧されながらも、領主は答えた。彼はもはや、ユマしか見えておらず、周りに居る民や兵達のことなど気にしていなかった。


「っ……あ、アルマはっ……わ、私の子ではないんだろうっ!」

「……は?」


心底呆れて低い声だった。


「そういえば、訳のわからない理由で私を追い出したわね……お義父様と関係を持ったとかなんとか……」

「そうだっ。アルマの髪も瞳の色も父上と同じ! お前は、こともあろうに父上と関係をっ」


それを聞いた時、ユマは片眉をピクリと上げて大きく一歩を踏みだす。そして、正拳突きで領主の顔面を殴った。


「ぐっぅ……!」


倒れた領主に、兵達が慌てる。だが、領主を助けることでユマに敵認定される方が彼らには怖かった。彼女は先ほどから震えが来るほどの殺気を放っていたのだ。


伊達に一人でこの大陸を渡り歩いてはいない。


「あんた……っ、ふざけんじゃないわよ!!」

「ひっ、ぐっ……!?」

「ちょっ、ゆ、ユマさんっ、これ以上はマズイですっ」

「おいっ、お前ら、ちょっと領主様を下げろっ」

「ユマさん、落ち着いてっ」


ミスト達がユマを取り押さえにかかった。倒れた領主の腹を躊躇なく足蹴にしたのだ。踵が危ないところに入っていた。領主は横になってえづいている。


「離しなさい! 尊敬するあの方を……お義父様を、よりにもよって息子の嫁に手を出すクズだと思ってたのよ!! 謝りなさい!! あの世でお義父様に謝らなければ許されないわ!!」

「っ、!!」


これは危ないと思ったのだろう。民達も総出で領主との間に壁を作っていた。彼らは領主の行いに怒ってはいるが、殺されてしまっては困るのだ。


そこに寿子の呑気な声が聴こえてきたのだ。


「ふふっ……すごい修羅場だわ……っ、ふっ……これは、ユマさんが怒っても仕方ないわよっ」


ちょっと笑いを堪えられなかったのだ。


「っ、ひ、ヒサコさん……っ」


寿子に笑われたことで、ユマも正気に戻ったらしい。恥ずかしそうに力を抜いた。取り押さえているミスト達もホッとする。


「うふふっ、は〜、本当にこんなすれ違いがあるのね〜。領主さん? あなたのご両親や、もっと昔の先祖と同じ色を持つ子どもが生まれるのはそんなに珍しいことではないわ。アルマ君は、ちゃんとあなたの子よ。何より、産んだ女が、父親が分からないはずはないのよ」


特殊な色を売る仕事をしている人ではない限り、父親が分からないなんてことにはならないはずだ。


遺伝についての知識がないらしいこの世界では仕方がないかもしれないが、瞳や髪の色が自分と違うというだけで不義を疑うのは馬鹿げている。


「ここでは何だから、あそこに行きましょう。護衛の方数名なら入れるわ」


寿子はユマと領主を部屋に案内した。一番最初に宗徳がアルマやミスト達を招いた部屋だ。机には見事なこの町の地図が描かれている。


精巧な地図など、貴族であっても見たことがないため、それが地図だとはミストと寿子以外は気付いていない。


「さてと、ユマさん。隠し事はやめた方がいいわ。夫婦の間にはヘソクリと友人の秘密以外の隠し事は無しにするべきよ」

「っ……ですが……」

「っ……」


ユマがキッと領主を睨んだ。


「なら、先ずは領主さん? 確認しますよ? あなた、ユマさんがお父様と関係を持ったと思ったから追い出したのね?」

「……はい……」

「っ、バカなことをっ……!」

「ユマさん、落ち着いて。それで、自分の子ではないと思ったから、アルマ君に冷たく当たっていたということで間違いないかしら?」

「そうです……」


兵を引き連れて来た人とは思えないくらい、今や彼は小さくなっていた。鼻をハンカチで押さえ、鼻血を止めている。ユマの拳は本当に綺麗に決まったらしい。


「先ほども言ったけれど、お父様やお母様の色が子どもに出るのは不思議なことではないの。何より、ユマさんの怒り具合から見れば、間違いだと分かるでしょう?」

「……はい……」

「あなたの思ったこと、言ったことは女性に対して、とても失礼なことよ?」

「っ、ゆ、ユマ……すまなかった……」

「もう一発殴らせなさい」

「っ!」

「ユマさん。その一発はアルマ君の分ね? なら仕方がないわ。男ならば受け止めなさい」

「ひっ!」


ユマは惚れ惚れするくらい男らしく、領主の胸ぐらを掴んで立たせると、今度は張り倒していた。


これに、彼が連れてきた護衛も、ミスト達も目を背けることしかできなかった。



読んでくださりありがとうございます◎

仕事の関係でまた二週空きます。

よろしくお願いします◎

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