106 その目やめてください
2019. 8. 24
美希鷹の呼びかけで、目を開けた律紀と治季は、体をゆっくりと起こした。それを確認してホッと胸を撫で下ろすと、宗徳は廉哉に律紀たちを任せて気になる物を拾っていた。
「これは……あの石だよな?」
《くるるるぅ》
徨流も宗徳が拾い上げた石の欠片へ厳しい視線を向ける。
「割れちまったからか、色も薄くなってっし、変な感じもしねえな。一応、持ってくか」
《くふっ》
空間収納に放り込んだ。
それから床を確認する。瓦礫はほとんど撤去されたため、それがよく見えた。
「これが召喚に使う魔法陣ってやつだな……ん?」
不意に何かを感じて上を見上げた。すると、木によって支えられている天井の残りを見て気づく。そこにも同じような魔法陣が描かれていたようなのだ。
「こういうのってのは、床だけじゃねえの?」
《くるる?》
もしかしたら上と合わさってどうにかなるのだろうか。そう考えながら、宗徳はとりあえず分かる部分をノートに書き写しておくことにした。
そうして、スケッチのように書き物をしている間、廉哉は律紀たちの様子を見ていた。
「律紀さん、どこか痛いところとかありませんか?」
「え……あ、え? 廉哉君? ここって……」
廉哉だと認識は出来ても、ここがどこなのかがすぐには分からない様子だ。その隣で身を起こした治季ははじめて会う。
目が合った治季は、目を大きく開けて顔を真っ赤にした。
「あら? あらあら!? まさかの王子様だわっ」
「えっと……え? 僕のこと?」
「治ちゃん……」
頬に手を当ててどうしましょうと体を揺する治季に、律紀は混乱していたことも忘れて呆れ返った。廉哉は察せられない程度に少しだけ身を引いていた。
「やだわっ。だって、こんな所で会うなんて、王子様しかいないでしょう!?」
「こんな所だからこそ、冷静に判断して欲しいんだけど!? ちょっと、鷹君。離れて行かないで!」
「いや、うん。その……ごめん、善治さんの身内だとしても、アイドルの追っかけとかする人たちと同じ目をしてるのがちょっと……」
美希鷹は、見た目が可愛らしい。その上、少しばかり実年齢より幼い容姿だ。人の目を集めてしまう。特に女性のギラギラとした目が怖かった。
そして今、王子様だと感動して廉哉を見つめる治季。全く同じ種類の目ではないが、やっぱり少し怖いと思うのだ。
「王子様っ。お名前をっ、お名前をお教えくださいまっせっ。私は治季ですわっ」
「えっと……僕は王子ではなくて……その……廉哉です……」
「レンヤ様ですねっ。レンヤ様とお呼びいたしますっ」
キラキラとした瞳が廉哉に向けられていた。
「治ちゃん。廉哉君は王子様じゃないよっ。私の……従兄弟なのっ」
「へっ!? 律っちゃん……っ、まさかお姫様だったのですか!? なんてことっ」
「違うからっ!」
テンションがヤバ過ぎる。
「お? 元気だなあ」
宗徳がそんな様子を見て笑っていた。きっちり残っていた魔法陣のスケッチは終わらせていた。
「っ、今度は騎士様ですか!?」
「いや、俺はあんな堅っ苦しい奴らとは違うぞ? ってか、治季とはこっちの姿で会ってんだろうが」
「あっ! 宗徳さんっ」
「「……っ、えぇぇぇっ!!」」
律紀と美希鷹が仰天する。
腰に手を当てて座り込んだままの律紀たちを見下ろす宗徳は、二十才頃の青年だ。お兄さんにしか見えないだろう。
「なるほどっ。わかりましたわ! 宗徳さんはこちらで騎士様をやっておられるのですね!」
「いや、違ぇから。ちょい落ち着け」
「私は落ち着いています! きちんと周りも見えていますからっ」
「なら、引いてる律紀と鷹を見ろや」
「あら?」
宗徳はため息をついてから提案する。
「とりあえず、外出るぞ」
「「「「はいっ」」」」
律紀が宗徳を見て顔を赤らめているとか、美希鷹が憧れのヒーローを見るような目で見ているとか、治季が廉哉と宗徳を交互に見て嬉しそうにしているとか、そういうのはとりあえず放っておいて、脱出を優先させるのだった。
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