102 集まってきました
2019. 6. 22
廉哉が徨流とミストを連れて出て行ったのを見送り、宗徳は次の行動に移る。
「さてと、俺も夕食までに一仕事してくるか」
宗徳は空間収納に入れてあったリヤカーを何台か出す。町の青年達に協力をしてもらい町を回ることにしたのだ。
「病人や弱ってる怪我人がいたら、これに乗っけてここに連れて来い。寿子が何とかする。それと途中で子どもを見たら必ず保護だ」
「「「「「はい!」」」」」
こうして、本格的な町の救済が始まった。
食事は町の女達に頼んで常に用意し続けてもらった。そのお陰で、教会の外には沢山の人が集まってくる。
中にはガラの悪い者達もいるが、そういうのは数の力で町の青年達が黙らせていた。
悠遠達は率先して保護されてきた子ども達に声をかけ、警戒を解いていく。夕方頃には、町を全て巡回し終わり、領主の関係者以外は、全員が教会の周りにやってきているという状態になった。
そして、あまりにも集まったため、教会の周りにあった誰も住んでいない家々を壊し、更地にしてしまった。さながら、学校のグラウンドといったようなものだ。
これによって、完全に町の大集会となっている。
こうして集まると、現状について確実に知ることができた。
「税だけしっかり取って援助なしはキツイなあ……」
「そうなのです……数軒で共同で畑を耕し、野菜を育ててやっと食べていけます……」
「金を稼ぐのはどうしてんだ?」
「それも数軒でまとまって男たちがパーティを組み、獣や魔獣を狩って獲物を冒険者ギルドに売っています」
町の外にいるのは、飢えで狂暴化した魔獣だ。その肉などは全て冒険者ギルドが買い取ってくれる。それで何とかお金を手に入れているらしい。
お金が手に入り難いため、市場にもお金が回らない。そうすると税収も少なくなるから、住民から取るしかない。
どれだけ民達が苦しくても、領主である貴族達の生活はそれほど変化はない。税だけ問題なく国に納めていれば、彼らは安泰だ。だから、税を取り立てることしか考えていないのだろう。
他人の生活など見たところでそれが苦しいものかどうかなど分かりっこない。こればっかりは、実際に生活してみなくては理解できないのだ。数字の平均だけ見ていては、上と下の幅がどれだけあるのかも分からない。
「そこまで上手く稼げねえのもいるだろ……怪我人や病人もそのままだったみたいだしな」
「はい……」
治療にもお金がいる。そもそもないものを出すことなど無理だし、食の方にお金を使わなければ生きていけない。
だから、生きることを諦めてしまう者は多いのだという。
「何人か、治して文句言われていたぞ」
「……今更治っても食べてはいけないと思ったのでしょう……助けていただいたのに申し訳ない」
町の自治会の代表らしい男は、弱った表情で謝罪した。
怪我人や病人は、全て寿子が薬や魔術で治した。ただ、その中には治して欲しくなどなかったと、死ぬつもりだったのだと自棄になった者達がいた。
それらは、寿子がきっちりと叱り付けて、現在手足として使っている。
『だったら死ぬ気で働きなさい!!』
寿子の気配察知の力で逃亡も許されず、ひいひい言いながらとりあえずはと用意した教会裏の畑を耕していた。
「今日だけ食いつないでも意味がないと思うのは分かるさ……まあ、あれは助かっちまって残念だったなと言うしかない」
年齢も関係なく使う寿子に、怯える者もいるようだ。今の寿子は二十代の姿なので、違和感はあるが、叱り付けて働かせているのは最年長でも恐らく寿子や宗徳の実年齢とあまり違いはないだろう。なので、全く遠慮はしていなかった。
「なあ、この大陸から出ようとは思わんのか?」
宗徳は、この大陸の大地にはもう力がないことを知っている。
神の加護が約束されているのは、レヴィア達のいた海の中の大陸だけだ。
彼女達を追い出し、更には加護をしてくれていた神を怒らせて邪神としたのはこの大陸の者達だ。その神をも、勇者として召喚した廉哉に討たせようとしていた。
この地に加護が戻るなど、絶望的だろう。
「……出られるならば出たいっ……ですが、海には魔物がおります……渡れはしません。それに、別の大陸に渡った所で、何が変わるのか……」
これを聞いて、そうかと思った。
彼らは知らないのだ。貧しいことが普通過ぎて、野菜がやせ細った物しか育たないことが当たり前。多少は税が安くなるかもしれないが、それほど変わらないと思っている。
「なるほど……何とかせんとな……」
宗徳はこれからの彼らの事を本格的に考える必要があると目を細めるのだった。
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