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嘘か真か

新章突入ですが、もう少しだけ舞台はヴィシュトルテ王国です

 今、中央大陸では激動の時代を迎えようとしていた。大陸のあちこちで小競り合いや戦争が勃発し、多くの命が散っていった。



 遠い未来ではこの時代の模様をこう言い表している。


<衝撃の時代>


 そして、歴史に詳しい識者は口を揃えて皆がこう述べるであろう。


 “衝撃の時代は第四次<神堕とし>から始まった”と


 来る大災厄に備え中央大陸に存在する国家や組織の情勢は目まぐるしく変貌を遂げていた。


 惨劇に備え勇者の召喚に成功をする国、この機にと暗躍し怪しい研究を続ける組織、周辺国家の動きに呼応してクーデターを起こす者など反応は様々であった。


 しかし、この時代の文献を探っていくと面白い情報が出てくる。


 かつてない大惨劇となった第四次<神堕とし>であったが、その話題の中心にはかの有名な七人の勇者による物語があらゆる書物に書き記されていた。だが驚くべきことにその多くの文献の中には、実は七人の勇者の他に八人目が存在しているという、なんとも眉唾な話が書き残されていた。


 だが正式な文書では八人目について一切触れられてはいなかったが、多くの文献にその存在を仄めかす文書が見つかっており、考古学者の間では意見が真っ二つに割れていた。


<衝撃の時代>の戦火は大陸全土に広がり、あちこちに爪痕が残されていた。そんな中、八人目の存在に関する更に面白い文献が見つかった。そこにはこう記されていた。


 “八人目は勇者や英雄などでは無く、生まれついての冒険家であった”と





 かつて強国とまで名を馳せていたヴィシュトルテ王国は、勇猛と称えられていた将軍の手により激しい内乱を引き起こした。その動向は周辺国家は勿論の事、遠く離れた大国や教会、そしてギルドも注目をしていた。


 当然その情報は冒険者ギルドの最高責任者であり、ヴィシュトルテを始め各国に存在するギルド支部の長を統括するギルドマスターの下へも届いていた。


 そんな彼の下へまた新たな情報が手紙で送られてきた。そこにはこう記されている。


 “Sランク冒険者の≪双剣≫が一国の王女の見習い侍女となった”と。


「・・・誰かあの馬鹿に伝えろ!他国の侍女に払う給料など無い!早く戻ってこなければ首だとな!」


「よ、宜しいのですか!?この忙しい時にSランク冒険者をみすみす手放すなど・・・」


「かまわん!アイツは任務こそ迅速に行うが同時にトラブルも引き起こす。知ってるか!?前回の依頼でも碌に確認をせず貴族を叩き斬ったんだぞ!?」


 確かに彼女の腕は一流だ。フットワークも軽く、任務遂行速度でいえばSランクでもトップクラスであろう。ただ余りにも雑すぎたのだ。今回の件も素早く副ギルド長の暴走を止めはしたものの、あろうことかそのまま国家の内乱に参戦し、現在は一国の王女に付き従っている状態だ。


 いくら表向きは侍女見習いという扱いでも、Sランク冒険者が一国の肩を持つのは風評が良くなかった。


 毎度彼女のトラブルに頭を悩ませているギルドマスターは今度こそ付き合いきれんと吠えるが、部下はなるべく穏便にすませようとフォローを入れた。


「し、しかしその貴族も結局は国際犯罪者とグルだったんでしょう?若干の問題行動はありますが、彼女の貢献度は計り知れません。今回もきっと考え合ってのことですよ。暫く様子を見てみましょう?」


「・・・お前は何にも分かっていないな。アイツはただ気に食わないから斬っただけで、結果そいつもグルだっただけだ。今回もどうせ餌付けされたのだろう」


「ははは、まさか」


 ギルドマスターの発言をジョークと捉えたのか事務方の本部職員は笑い飛ばす。だが≪双剣≫と付き合いの長いギルドマスターは彼女の性格を良く知っていた。呑気な部下を殴り飛ばしたい衝動に駆られた。


(本気でアイツの後任を考えておくか・・・)


 別にSランク冒険者の定数は7人と決まっていたわけではないが、この状況下で人数が減るというのも余り好ましくは無い。


(そいえば奴の報告にあった若手の凄腕冒険者というのが気になるな・・・)


 年齢が16であるにも関わらず、既にCランクの冒険者。更には実力だけは確かな≪双剣≫のお墨付きだ。即戦力としては難しくても将来的にはSランクの器たるやもしれぬと、ギルドマスターはその少年の名を記憶に留めておくのであった。




「うわ、涼しいな」


「本当ね、それに思ったよりも綺麗だわ」


 初めての遺跡が物珍しいのか、セオッツとそのすぐ後を同行していたサミが辺りを見回す。


「・・・おい、あんまり迂闊に先行くなよ?一応まだ機能している古代遺跡って話だ」


 それを窘めたのはヴィシュトルテ王国で最大規模のクラン<濃霧の衛士>に所属するBランク冒険者カッツリーノであった。


「俺が先行をする。皆は安全が確認できるまで、基本俺の歩いた後を付いて来てくれ」


「分かりました、カッツリーノさん。宜しくお願い致します」


 そう頭を下げたのは王族の若手親衛隊員であるタッフルであった。彼も王女の指示で今回の調査隊に加わっていた。



 フレイアが話していた予定通り、三日後には王城地下遺跡の調査許可が降りた。そこでフレイア王女は自分の息のかかった学者や冒険者、身内の親衛隊員を集め調査隊を結成した。


 そのメンバーは以下の通りである。


 調査隊リーダーに<濃霧の衛士>所属 カッツリーノ

 セレネト支部所属冒険者 セオッツ、サミ、テラード

 親衛隊員 タッフル

 王城勤めの考古学者3名

 王女派の政務官に財務官の官僚が各一名


 そして特別顧問として三辻恵二の以上11名が選出された。



「・・・ねぇ、なんで私達が遺跡調査に駆り出されたの?」


「ん?面白そうだし別にいいじゃねえか。遺跡調査の護衛依頼なんていかにも冒険者っぽいし、お金もたんまり貰えるんだろう?」


「ま、そうだけどさ・・・」


 サミはいまいち納得できない表情を浮かべていた。



 彼女は早くセレネトに戻って冒険者の仕事を再開したいと恵二に愚痴っていた。中々帰りたがらないセオッツを説得するようにも言ってきたのだ。


 セオッツはセオッツで滅多にお目にかかれないSランク冒険者であるリアと腕試しをしたかったようで何度も交渉していたが相手にされなかった。


 “面倒くさいので嫌っす”


 そう一蹴されていたのだ。だがサミにセオッツの説得を任せられていた恵二はある秘策を彼に授けた。


「大量の食べ物を用意しろ!味もなるべくこだわってな!」


 最初は怪訝な表情を浮かべていたセオッツであったが、恵二の言うとおりに実行してみると彼女はあっさりと模擬戦を承諾してくれた。結果が惨敗であったのはご愛嬌だ。



「やっとセオッツが帰るって言い出したのに、何でまたこんな依頼が・・・」


(すまん、それは完全に俺の所為だな・・・)


 心の中で謝罪を述べた恵二は、少し前にフレイアに相談された内容を思い出していた。


 “ケージさん。どなたか口が堅く信頼できる冒険者の方はいませんか?”


 なんでも調査隊には万が一を考え護衛に冒険者を用意する予定であった。最初は<濃霧の衛士>に頼もうとしたのだが、あちらは元副ギルド長であったラッセンの後始末に追われ現在多忙だという。なんとか遺跡調査に最適な探索職(シーカー)でもあるカッツリーノを派遣して貰えることになったが、出来ればもう少し人数が欲しいと相談を持ち掛けられたのだ。


 恵二がセオッツ達3人を紹介した為、彼らは本日帰る予定だったのをキャンセルし、王女の依頼を受ける事にしたのだ。



「まぁ、隣国の王女様に顔を覚えて貰うってのは悪くないしね・・・」


 サミはそう自身を納得させると、仕事はキッチリしてみせると気持ちを切り替えた。




 遺跡の内部は思ったよりも清潔感があり、壁に何か仕掛けでもあるのか光源も用意されていた。蝋燭の火や電気などなくても内部が明るいのは非常に便利であった。


「これは・・・!まさしく古代文明時代の遺跡に間違いありませんな」


「ですね。ダンジョンと同じ発光石が使われております」


「ううむ、あちこち傷んでる箇所もあるがこれほど綺麗な遺跡は初めて見ましたぞ!」


 調査隊に同行している学者たちは思い思いにそう感想を述べた。


 同じく同行している官僚達も学者たちとあれこれ会話を弾ませている。彼ら官僚はこの遺跡が国にどのような影響を及ぼすのか、王女の代わりの目と耳として視察をしていた。


「・・・どうやら今のところ罠などは一切無いな。まあ王族の方々がお一人で踏み入れる場所だと聞くし予想は出来ていたが」


「・・・見ただけで分かるんですか?」


 探索職(シーカー)として先行しているカッツリーノは、歩みこそ通常よりもゆっくりとしていたが、そこまで詳しく徹底的に探っているようには見えない。こんな一瞬で判断できるものなのかと疑問に思った恵二はそう尋ねてみた。


「ああ。一応これでも探索職(シーカー)に必要な知識の基本は習得しているからな。俺はそこまで優秀な方ではないが、それでも今の所この遺跡に罠は無いと断言できる」


探索職(シーカー)か・・・。どっかで学べたら便利なんだけどなぁ」


 将来的には1人で遺跡やダンジョンを歩き回りたいと考えている。そういった場所に潜る際、パーティーに1人は必須だと言われている探索職(シーカー)の技術は是非とも学びたいと常日頃考えていた。


 <探索職(シーカー)>とは所謂冒険者の斥候役である。その役回りは、いち早く接敵をパーティーに知らせたり、罠や仕掛けを発見し解除したりと多岐にわたる。ある程度魔術を学んだ後は、確実に修得しておきたい技術であった。


「ん?お前さん、確かエイルーンに行くんだろう?あそこには確か探索職(シーカー)を育成し派遣する新興の組織があった筈だ。そこで学べばいいんじゃねえか?」


「―――え?ほ、本当ですか!?」


「あ、ああ。俺はエイルーンには行った事ないから詳しくは分からないが、以前そんな話を聞いた事あるぜ」


 それは正に一石二鳥であった。まさか魔術を学ぶための目的地エイルーンにそんな組織があったとは、無神論者の恵二だが今回ばかりはアムルニスの神とやらに感謝をした。


「っと、話している内にもう着いちまった。ここが終点のようだな」


 調査隊が遺跡をまっすぐ進んで辿り着いたのは、4段ばかしの階段を下りた場所に広がった祭壇のような場所であった。中央には台座のようなものがあったがその上には何も存在しなかった。


「将軍の・・・いえ、ガラードの自供ではどうやらこの台座の上にゴーレム達を従え生成する<古代遺物(アーティファクト)>が保管されていたようです」


 そう証言したのは親衛隊員のタッフルであった。ガラード元将軍は現在も色々取り調べを受けていた。尋問には素直に応答しており、今のところ虚偽は一切報告されていない。


「ふむ・・・。遺跡自体は活動しているが、肝心のお宝は不在のままって訳か・・・」


 その肝心の<古代遺物(アーティファクト)>だが、現在粉々になってしまい現在ひとかけらも残されてはいなかった。将軍が持っていた<古代遺物(アーティファクト)>は恵二が黄金のゴーレムを粉砕した直後にどうやらバラバラになってしまったようだ。だがその存在自体は多数の目撃者から確実にあったものと断定されている。だが―――――


「うーん。お宝も無く連中が研究していた書類も元大臣ごと姿を眩ませたってのは痛手だなぁ。調べるにしてもどう手をつけるべきか・・・」


 将軍と共謀していた元大臣は、戦況が不利だと悟ったのか地下遺跡の研究成果を持ち出して雲隠れしてしまった。現在第一級指名手配犯として捜索中だが未だに見つかってはいない。王都からどうやって出たのか足取りも掴めていないのだ。最悪既に他国へ逃げた可能性もあるとのことだ。


 故に全く手がかりの無かった調査隊は、手始めにここの祭壇から虱潰しに調査することにした。




「・・・しっかし暇だなぁ。てっきりあのゴーレムが出てくるものと期待してたんだけどなぁ」


「口じゃなくて手を動かせ!」


「まぁまぁ、サミ先輩」


 セオッツ達パーティは今日も平常運転だ。セオッツがサミに怒られテラードがそれを宥める。


(まぁ、確かに肩すかしだな。もっと面白いものを期待していたんだが・・・)


 遺跡調査を希望した恵二自身も、台座以外は変哲の無い遺跡の調査に多少がっかりしていた。もっと、こう壁画とか仕掛けとか映画のワンシーンのような刺激ある風景を期待していたのだ。


(・・・いかんいかん。初の遺跡調査だってのにセオッツと同じ思考になるとは・・・。もっと真剣に取り組もう!)


 この先冒険活動をしていけば、何度もこんな場面に出くわすだろう。最初から投げていては冒険家など務まる筈は無いと己を戒め地味な作業を継続する。周りと変わり映えしない、地面や壁面を手探りで調べ周る。


 だが、いくら思ったよりも清潔感のある遺跡とはいえ、完全に清浄効果は働いていないのか埃が積もっている箇所も存在する。調査隊のメンバー達は段々と埃だらけになってきていた。


「・・・帰ったら早くお風呂に入りたいわね」


「サミ、もう泣きごとか?そんな事言う暇あったら手を―――」


 ―――ギロッ


「―――いえ、なんでもないです。すみません・・・」


(完全に尻に轢かれているな、セオッツの奴・・・)


 我関せずと黙々と作業をするテラードは既にサミの支配下であろう。本当にセオッツがパーティリーダーなのか疑問に思えてきた恵二であったが、作業に戻ろうと顔を戻すとある事に気が付いた。


(・・・埃が、風で舞っている!?)


 恵二が調べ始めていた壁面の当たりを祓うと、舞った埃が風にでも煽られたのか一定方向に流されていった。普段なら別段気にも留めない光景であったが、ここの遺跡の壁は痛みこそ所々にあるもののしっかりと作られており隙間風など起こりそうになかった。そもそもここの遺跡は地中の筈だ。


(どこかに風の通り道が存在する!?)


 恵二は再度埃を飛ばすと、風の流れを確認しながら場所を特定する。


(―――ここだ!ここから僅かだが風が流れてきている!?)


 そこは一見何でもない壁面のようではある。だが極僅かではあるが確かに隙間が見えた。更に周辺を観察すると壁面のブロックに、小さな文字のような物が刻まれた一文が目に入った。


(―――駄目だ、読めない。確か俺達異世界人が召喚された儀式は特別で、この世界の言語は殆ど分かるって話だったんだけどなぁ・・・)


 恵二達8人を召喚した<異世界強化召喚の儀>は、通常の召喚とは一線を画し様々な恩恵がもたらされている。魔力の大幅向上、スキルの取得、そしてこの世界の言語習得である。


 だが流石に古代文明の文字までは対象外なのか、恵二には文字のように見えるこの一文が全く分からなかったのだ。仕方がないのでここは専門家にお任せしようと恵二は学者達に声を掛けた。



 他の者も特に手がかりを得られていないのか全員がそこに集まった。



「・・・間違いない。この先に隠し通路がある。良く分かったなぁ」


「いや、偶然だよ」


 偶々自分が一番近くにいて最初に気が付いたに過ぎない。時間を掛ければ他の者も気が付けただろう。


(ということは将軍や大臣も・・・)


「・・・解りましたよ。この文の意味は“嘘か真か”」


「隠し通路を示唆した文のようだな。恐らく元将軍も気が付いているのでは?」


「いえ・・・。ガラードはこの事について何も告げてはいません。事前に遺跡については全て吐くように尋問した筈ですが・・・」


 カッツリーノの問いにタッフルは困惑する。彼もこんな隠し通路がある事は知らされてはいなかったのだ。


「これ以上考えても分からないか。幸いにも罠はなさそうだし開けるぞ?どうやらそこのブロックを押すと仕掛けが動くようだからな」


 そう告げたカッツリーノは謎の一文が刻まれたブロックを押し込んだ。するとただの壁だった一面は音を立てながら稼働し奥へと続く道が調査隊の視界に広がった。


「・・・やはり風が流れ込んできているな。恐らく地上のどこかに繋がっているんだ。そうか!大臣の野郎はこっから逃げたんだな!」


 どうやらそこは王城ではお馴染みの外へと通じる隠し通路のようであった。先程の遺跡内部よりかは薄暗く、壁面も発光石が使われている箇所は半々といったところか。


「また俺が先行する!後を付いて来てくれ!後、迂闊に壁面には触れないでくれ!」


 調査隊は更に発見した隠し通路の奥へと突き進んだ。

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