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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~  作者: つばめ男爵
1章 新米冒険者ケージ編
86/244

見つけた!

「どうやら王女派は無事王都内に侵入できたようっすね」


「へい」


 偵察に出していた冒険者の報告を聞いたリアは安堵した。まさか彼らがこんなに早く行動を起こすとは思わなかったのだ。


(本当はここの冒険者を味方に引き込んでから決戦に持ち込むつもりでしたが、数の差を戦術で巧く埋めたようっすね)


 それに自分が渡したエンチャントナイフも効果覿面だったのであろう。ちょっとした戦力の足しになればと提供したのだが、まさかあんな恐ろしい兵器になるとはリアも完全に想定外であった。


「ま、ケージさんがついてるならあっちは大丈夫っすね」


 そう言葉を残すとリアはギルドを後にしようとした。それを見た冒険者の1人は慌てて尋ねた。


「あ、姉御はどちらに?」


「誰が姉御っすか・・・。奴さん王女様の方で忙しいでしょうし、城が手薄の筈っす。私は将軍の所に行くつもりっすよ。ラードさんもいる事だし、ここは貴方達だけでも戦えるっすよ」


「ちっ、あんたが最初っから戦っていれば俺も体力を消耗せずに済んだんだがなぁ・・・」


 ラードは先程大臣率いるゴーレムや兵士相手に大奮闘していた。しかし流石にゴーレム3体は厳しかったようで途中からリアが介入したのだ。お蔭さまで大臣達を追い返したもののラードは全身傷だらけで憔悴していた。やっと剣を振るえるぐらいに回復したばかりだというのに無茶を言うなと恨めしそうに彼女を睨んだ。


「自業自得っす。貴方達が落とした信用は自分で取り返すっす。ほら、町が戦場になるってのに冒険者がぼうっとしてればまた評判が悪くなるっす。さっさと支援に行くっすよ」


「ちきしょう、覚えてろよ!」


「お互い生きていたら愚痴でも聞いてあげるっす」


 そう告げたリアはギルドを後にし王城目指して駆けて行った。




「ケージ、右だ!多数来てる!」


「了解。土盾(アースシールド)!」


 恵二は右側の狭い路地に土盾(アースシールド)を張り、相手の応援に駆け付けた歩兵隊の進行を防ぐ。これで多少時間は稼げるだろう。


「左にゴーレム。・・・ちっ、民家が近い。ナイフは使うなよ?」


「おーけー!」

「私達が受け持つ!」


 セオッツとサミがそう返事をすると、迫ってくる1体のゴーレムと相対し、他の冒険者も援護に付く。あの二人なら古代人形(エンシェントゴーレム)相手とはいえ後れを取らないであろう。


「―――氷槍(アイスランス)!」


 トリニスの詠唱が完成すると、氷の槍が3本も歩兵の一団へと飛んでいく。それに続く形で後ろからカンテの魔術やリックが放った矢が後押しする。堪らず目の前の歩兵隊は陣形を乱す。


「行くぞ!」


 ロキの指示で剣や斧を武器とした冒険者達が一斉に襲い掛かる。


「怯むな、逆賊の王女をこれ以上城に近づけさせるな!」


「―――貴様!フレイア様にそのような物言い、よくも・・・!」


 敵の指揮官の号令に火が着いたのか、親衛隊員達は勇ましく雄たけびを上げ斬り進んで行く。流石兵の中でもエリートと言われた親衛隊と言ったところだろうか。次々と兵士を剣で斬り伏せていく。


『将軍に止む無く従っている兵士に告げます。私はこれ以上同じ国民同士の流血を望みません。大人しく武器を置き投降して下さい』


 王女の説得も続いている。それに従い大人しく投降する者やこちらに味方する者も現れ始めた。なかには王女を狙おうとする不届き者もいたが全て恵二の手によって阻止された。常に魔力探索(マジックサーチ)で周囲を警戒している恵二にとっては、死角が多い市街地と言えども丸裸同然であった。


「よっしゃあ、ゴーレム撃破!」


「こいつで3体目ね。少なくとも残り2体はいる!」


「そろそろ王城に近い。奴らの抵抗が一番激しいと思われる場所だ。ロキ殿、一旦陣形を整えた方が宜しいかと」


「そうだな。目の前の敵を排除したら一旦集まるぞ!一呼吸置いてからいよいよ最終決戦だ!」


『了解!』


 クーデターの首謀者である将軍が待ち構えている城はもう目の前であった。




「な、何奴!?」

「―――し、侵入者だ!」


「こんちゃーっす。将軍いるっすか?」


 その侵入者は親戚の家にでも訪れたかのような呑気な声を上げた。一見年端もいかない少女にも見える彼女を直ぐに曲者と兵が判断したのは、両手に握られていた細剣が見えたのと、その異常な侵入経路からだ。


 彼女はどうやってここまで来たのか、堀に囲まれている城のそれも3階の窓から割って入って来たのだ。その大きな騒音に近くに居た兵士達まで駆けつけてきた。


「騒がしいぞ!一体何事だ!?」


「そ、それが・・・」


 困惑する兵士達の元へ後から駆けつけて来たのは、つい数刻前にギルドで遭遇した大臣その人であった。あちらも彼女の顔を覚えていたのか、リアを指差し口をパクパクと開閉させる。


「―――そうか、貴殿が≪双剣≫か」


 するとリアを取り囲んだ兵士の後ろから、白い鎧を身に包んだ巨漢が彼女の元へと悠々と歩いてきた。どうやらこちらの素性を知っているようだ。


「・・・貴方がガラード将軍っすね?」


「如何にも。して、何用かな?≪双剣≫の」


「私を双剣と知っている貴方なら、もうお分かりじゃないっすかね?」


「はて、私にはギルドを敵に回す心当たりなど何一つもないがね・・・」


「・・・よく言うっす。まぁ、私にのされても同じ事を言えるか見物っすがね―――」


 そう呟いた瞬間、彼女は将軍へと一直線に駆けて行った。その間には何人かの兵士達がいたのだが、そのあまりの速さに誰もが反応できずに突破を許した。それも無理は無い。Aランク冒険者であるロキと互角の腕とまで言われた将軍本人でさえリアの速度に反応できずにいたのだから。


 故にリアは右手の剣を将軍に振り払った時点で勝利を確信した。それが現れるまでは―――――


「―――!?」


 リアが攻撃を仕掛けたのと同時にいつの間にか接近していたのか、金色の影は将軍とリアの間に割って入った。その人の形をした何かは左腕を上げるとリアの一撃を防いで見せた。


「―――っ!」


 突然の乱入者に一瞬驚くも、続けざまに左手の剣を、今度はその金色の何かに振り払うがそれも右手でいなされる。更に驚くことに相手はリアの連撃を防いだだけに留まらずカウンターまでしてみせた。左肩をリアに向けるとそのままショルダータックルを敢行した。


「―――くっ!」


 それを持ち前の反射神経と恐るべき脚力でもって左に飛んで回避する。そのまま左側の壁に足を着けた後、天井に体を反転し跳躍し、今度は天井を蹴って更に体を回転させ見事床に着地してみせた。


 ここまでの攻防僅か数秒足らずでの出来事であった。リア以外の者は一体何が起こったのかまるで理解できていなかった。数々の武功を修めた将軍でさえも僅かな残像を捉えただけであった。


 場を見るといつの間にかリアとその黄金の人型兵器との間の床には凄まじい戦いの爪痕が残されていた。あの金色がタックルをしただけで床が爆撃でもあったかのように裂けていたのだ。


「―――見事だ。流石はSランク冒険者と言ったところか。まるで動きが見えなかったぞ」


「それは皮肉っすか?・・・その金ぴかのお友達は一体なんっすかね?」


「ふふふ」


 将軍はリアの実力を見せつけられたにも関わらず余裕の表情を崩さず笑みまで浮かべた。リアが忌々しそうに尋ねると、将軍はまるで自慢の玩具を披露するかのように語り出した。


「これこそ我が軍の切り札、古代文明の叡智だよ!今までのゴーレムとは格が違う、正真正銘の規格外だ!」


「つまり、それもゴーレムって事っすか・・・」


 リアと対峙しているその金色は、今までのゴーレムよりかは小柄で軽装のように見えた。しかしスピードは勿論の事、その耐久性、パワーと銀鎧のゴーレムと比較するとどれも桁違いの性能であった。


 最初のリアの一撃は決して牽制で済まされるような軽いものではない。一般兵では傷付ける事も叶わなかった銀鎧のゴーレムを豆腐のように細切れにしてみせたリアの剣だ。それをあろうことか目の前の黄金鎧は左腕でキッチリとガードしてみせた。


 そして次にリアが放ったのは、今放てる上での全力の一撃であった。それは流石に防御するのを不味いと判断したのか、黄金のゴーレムは右手を下から振り上げリアの剣を逸らしたのだ。その戦闘技術も最早達人技であった。


 そしてあのパワー。只のショルダータックルを空ぶっただけなのに、どうして地面が抉れているのであろうか。ゴーレムの正面、つまりリアの後ろで取り囲んでいた兵士達は、先程のタックルで生じた風にでも煽られたのか全員が腰を抜かしていた。


(全く・・・。とんでもない化物に出会ったっすね)


 まさかこんな隠し玉が用意されているとは思わず、リアは己の役に立たない<幸運>スキルを呪った。


「くく、流石の≪双剣≫もこのゴーレムの前には打つ手無しかね?」


「・・・別にその二つ名にプライドなんて持ち合わせてはいないっすが、そう正面から言われると癪っすね」


「なら遠慮なく抵抗してみるがいい。やれ、ゴーレム!あの女を始末しろ!」


 無情にも将軍の命令が下ると黄金のゴーレムは己の使命を全うするべくリアへと駆け出した。


「―――ここは狭いっす!」


 単純な力比べでは分が悪いと判断したリアは、自身の武器でもある“速さ”を活かせる場へと戦場を移すべく、手近にあった窓をぶち破って城の外へと身を投げ出した。


 そして彼女に迫る機械人形も全く躊躇する事なく、城の3階に位置する場所から外側の外壁へと移動した。


 二人の戦闘を見ていた将軍達ギャラリーは思わず窓に身を乗り出して二人の行方を目で追う。その視線の先には信じられない光景が広がっていた。


 重力に引っ張られ落下する事を余儀なくされた二人の化物は、それでも戦闘行動を止めず、垂直にそびえ立つ城壁を駆け降りながら剣と拳を交えていた。足場が悪いお陰で何とか将軍達にも視認できたのだ。


「───しつこいっすね!」


 堀に突っ込む手前で一際大きく城壁を蹴り、相手よりいち早く大地へと着地したリアは黄金のゴーレムを迎え撃つべく構えをとる。


 しかし、ここで相手は予期せぬ攻勢に出た。


「────っ!」


 遅れて地面に着地を試みようとしていたゴーレムが突如こちらに手をかざした瞬間、言い知れぬ悪寒を感じたリアは大きく後ろへと跳躍をする。その直後、さっきまで彼女が立っていた地面は大きく抉れ、爆風が吹き荒れた。


「───っな!?」


 驚くリアの目の前で、着地地点を確保したゴーレムは悠々と大地に足を着けた。


(先程の攻撃は魔術?全く発動が分からなかったっす・・・)


 厄介な相手だとリアは警戒を強めた。


 通常魔術を放つ際には詠唱を唱えて発動させる。それが熟練者であれば詠唱の短縮や、あるいは無詠唱で魔術を行使させる強者も存在する。


 だが何れにしても魔術を扱う際には魔力を動かすといった予備動作が生じる。戦い慣れた者はそれを読み取って魔術の発動を察知するのである。


 その予備動作はほんの僅かなものではあったが、スピードを武器とするリアにとってコンマ1秒以下でもその僅かな情報は大いに助けとなった。


 しかし目の前のゴーレムは全く予備動作無く、ノータイムで魔術と思われる放ち技を連発させる。


「───っく、やりづらいっすねえ!」


 悪態をつきつつも、何とか相手の執拗な攻撃を回避する。相変わらず魔術発動時の魔力の乱れは感じられないが、全くタイムラグが無い訳でもない。


 奴は必ず掌から魔術を放つ。それは恐らく空気を圧縮させて攻撃しているのであろう。直撃を受けなければただの強風だ。


 見えづらい攻撃ではあったが要は相手の掌にさえ注意を向けていれば直撃は避けられる。


 そう判断したリアは器用に回避しつつも徐々に相手へと接近を試みる。そしてすぐに好機は訪れた。


(―――貰ったっす!)


 回避しながら迫ってくる目標を鬱陶しく思ったのか、ゴーレムは掌から放つ攻撃を停止させ肉弾戦に移行しようと体勢を変えた。それを待っていたリアはすかさず距離を詰め最短最速の攻撃を叩きこんだ。


 二刀を操る両腕が凄まじい速度でもって振り払われ、凡夫には不可視の連続攻撃となってゴーレムに襲い掛かる。それをゴーレムは信じられない強度の両腕でもって悉く弾くもリアの速度についていけず、いくつかの斬撃をその身に受ける。


 撃ち込めた攻撃は全部で3つ。両手を斬り飛ばし、更にトドメとばかりに首を刎ねようと狙ったがそれはギリギリ回避され頭部の一部を軽く抉った。


 あちらも必死で、手が斬り飛ばされたにも関わらず腕を振るい、更に黄金のゴーレムは足技も使って応戦してみせた。ここは無理をせずと判断しリアは一旦ゴーレムから距離を取る。


 両者の距離は初期段階まで離れたが戦果はあった。


(これで掌からの攻撃は封じたっす。後はゴーレムの核さえ破壊できれば・・・)


 ゴーレムは通常体のどこかに心臓の代わりとなる核が存在するとされている。それさえ破壊してしまえば動きを止めるだろうが、逆に言えばいくら腕や頭を斬り飛ばしても動き続けるだろう。しかしこれで掌からの攻撃の心配は無い。


(まぁ、ケージさんみたいに強引に粉々にする方法もあるっすが・・・)


 今の自分には圧倒的に火力が欠けていた。本来Sランクに身を置く彼女の強さは、決して目の前の例え古代文明のゴーレムであろうと手こずるような戦力では無かった。周りから見ると今でも十二分に化物と称されるレベルではあるのだが、そんな彼女は現在ある制約がかけられていた。


(こんな事なら予め本部に寄って魔力の制限を解除して貰うんでした・・・)


 そう、驚くべきことに現在の彼女はその本来の魔力を殆ど有してはいなかった。先程までの化物じみた動きも強化魔術によるものでは無く、あくまで生身の動きであったのだ。


 Sランクという規格外の冒険者達はその余りの強さ故に、一部問題ありとされているSランク冒険者に対しては色々と制約が設けられていた。彼女も以前起こした騒動により、本来保有していた魔力の殆どを封じられていた。その封印はリア本人とギルドマスター相互による了承の下、厳格な魔術契約書によって成されている。


 今回プライベートでこの国に訪れたリアは、殆どの魔力を封じられているという制約を受けたままであった。よもやそこで冒険者ギルドを巻き込んだクーデタ-が起ころうとは夢にも思わなかったのだ。


(ま、どうやら今回はなんとかなりそうっすし、後はこのまま・・・)


 押し切ればと考えていた矢先、相手に異変が起こった。黄金のゴーレムの体全体に何か模様のような光が浮かび上がる。よくよく観察してみると、どうもその模様には僅かだが魔力の流れを感じた。


「―――まさか、それ全部魔法陣っすか!?」


 魔法陣とは大昔の魔術師たちが多用していたとされる、魔術を補助する働きのある模様である。未だ殆ど解明されていないその魔法陣は、時には町ひとつ破壊しかねない強力な魔術の行使や、時には勇者や悪魔の召喚といった現代の魔術師には到底再現不可能な奇跡が起こせるのだという。


 古代遺物(アーティファクト)にも同じ技術が使われているようで、魔法陣は現在最も注目されている研究分野のひとつだ。恐らく先程の不可解な魔術攻撃もその恩恵によるものだろう。


 ゴーレムに浮かび上がった模様が一層輝きを増すと、先程リアが斬り飛ばした両手に頭部の一部はあっという間に再生され修復されてしまった。


 これでまた一から仕切り直しかと深い溜息をついたリアは身体を反転させると全力で逃走を始めた。


(―――冗談じゃないっす!お腹も減ってきたし、あんなのとても相手になんてしてられないっすよ!)


 市街地を猛スピードで駆けだしたリアはチラッと後方を確認すると、案の定金色の追跡者が迫ってきていた。


(―――なんて悪質なゴーレムっすか!?ここは一先ず戦略的撤退っす!)


 今の自分には兎に角火力が足らなかった。スピードで削っていく作戦も、先程の回復力を見せられては難しそうだ。それにまだ何か魔法陣による隠し玉もあるかもしれない。今回の旅は任務では無くただのプライベート。つまりノーギャラである。命がけのリスクは御免であった。


(―――アイツを倒すには火力が必要っす。あの頑丈な金ぴかを破壊出来る程の火力を・・・!)


 彼女は市街地を逃げ回りながら必死に彼を探す。あの少年ならば後ろの追跡者(ストーカー)を倒しきれると確信し城の周辺を駆け巡った。



 そしてリアの期待通り少年はいた。



「「―――見つけた!」」


 彼女と少年の声は重なった。

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