表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~  作者: つばめ男爵
1章 新米冒険者ケージ編
81/244

≪双剣≫のリアネール

体調を崩してしまい更新が遅くなって申し訳ありません。

「Sランク・・・だと!?」

「この小娘が、か・・・?」

「ぷっ、なんの冗談だ?」


 彼女が取り出した純白に輝くネームプレートを見せられた男達は、様々な反応を見せた。


 その大半が困惑する者と偽物だと笑い飛ばす者に分かれた。それも無理は無い。Sランク冒険者とは冒険者の中でも一掴みのトップクラスであるAランクの更に上、まさに“規格外”の者にだけ与えられた称号である。そのSランク冒険者の人数は、星の数ほどいる冒険者の中でも現在たったの7名であり、会った事がある者など限られているのだ。


 Sランク冒険者のランク証が純白であることは誰もが知る有名な情報ではあったがその希少さ故、実物を見た事がある者は殆ど居なかった。故に男達の多くは目の前の女の虚言であろうとあざけり笑っていた。


 実際にSランク証を見た事のあるラッセンと遠巻きにそれを注視していたラードを除いては―――




(―――おいおい、嘘だろ!?あのお嬢ちゃんがSランクだって!?)


 ラードもさっきまでであったのならば、他の男達と同様に少女の妄言だと一蹴していたであろう。だが酔いが醒め始めじっくりと良く観察してみると、それが決して冗談なんかでは無い事が見て取れた。


(・・・隙がねえ!それにあんな大きな荷物を背負っているのに重心がさっきから全くぶれてねえ。こりゃあマジもんなのか?)


 流石に遠目からで力量の全てを推し量る事はできないが、この少女が只者ではない事だけは間違いないようだ。


(もし本当ならSランクの実力者と戦えるかもしれねえ!)


 そう考えたラードは事の成り行きを見守った後、適当なタイミングで介入する事を心に決めた。




 そしてもう一人、彼女の素性に気付き始めていた男は先程から脳をフル回転させていた。


(ま、まさか!?いや、だが確かにあれは本物だ!あの年齢でSランクとなると・・・≪双剣≫か!!)


≪双剣≫のリアネール


 3年ほど前、若干18才という若さで史上最年少のSランク入りを果たした女冒険者。その二つ名の通りその少女は二刀流を得意とし凶悪な魔物や犯罪者を次々と狩っていった。


 これがラッセンの知り得るリアネールの情報全てであったが、そういえばとラッセンは今になってある事を思い出した。


(―――こいつ!そいえばよくメルシアに会いに来ていた小娘だ。何度か見かけたことがある。・・・だとしたら今回の一件はまだギルド本部は察していない?これはあくまでこの女の個人的な行動の範囲ではないのか?)


 ラッセンが先程から頭を巡らせて考えている事は、先程の迂闊な発言を含め自分の違反行為がどの程度までどこに伝わっているかを確認する為であった。もし事実が完全に外部に漏れていたら完全にアウトであったが、どうやらその心配はなさそうだとラッセンは結論に至った。


(・・・そうだ!先程この娘は言っていたではないか。“メルシアギルド長に会いに来た”と。こやつは私がギルド長になったことすらさっきまで知らなかったんだ。つまり・・・)


 ―――ここでこの女を始末してしまえば外部に情報が漏れる事は無い。




「・・・さて、これで分かって貰えましたっすかね?Sランクである私には、ギルド長と同等の権限が与えられているっすよ。勿論その発言力も重要視されているっす。分かったらさっさと観念して・・・」


「・・・殺せ」


 ぼそり、とラッセンはそう呟いた。


「・・・へ?」


 良く聞き取れなかったリアは首を傾げる。周りで囲っている男達もそれは同じだったようで皆一様に口を閉じ耳を澄ませた。


「―――今すぐコイツを始末しろ!これはギルド長命令だ!油断せず全員で全力でかかれ!」


 まさに鬼気迫ると言った表情でそう告げたラッセンを不思議に思ったのか1人の冒険者がこう話した。


「―――っおいおい。冗談でしょう?こんな小娘が本当にSランクだなんて思ってるんですかい?」


 1人がそう口にすると他の冒険者も口々に異論を唱えた。


「そうですぜ。いくらなんでも全員って、オーバーすぎですよ」

「こいつには生きたまま俺の鬱憤を晴らして貰わなきゃ気がすまねえんですよ!」

「第一、こいつがSランクっていうのなら可能性として挙げられるのは≪双剣≫でしょう?剣なんてどこにも持って無いじゃないですかぁ」


「ええい、ごちゃごちゃ抜かすなあ!なんでもかまわん!もし生かして捕えたら好きにしろ!さっさとこやつを無力化しろ!」


 自分の思い通りに動かない冒険者達に見かねたのか、ラッセンは顔を真っ赤にしながら大声で怒鳴りつけた。それに気分を悪くした冒険者達ではあったが、渋々了承すると真っ先に少女へと向かったのは<霧の光明>の冒険者であった。


 彼は先程からリアに手を掛けたくてうずうずしていたのだ。一緒にいた少年にやられた恨みを彼女の華奢な体で晴らすのだと言わんばかりに猛突進した。そんな男を横目で見ながらリアは最後通告を告げた。


「これ以上この男に加担するようなら容赦しないっすよ?」


「舐めるな小娘があ!」


 男は武器を持ってはいたが、これで十分だとばかりに空の拳を握りしめリアの顔目掛けてパンチを繰り出した。それは時間にして1秒にも満たない一瞬の出来事であったのだが、周りにいた者達は確かに彼女の言葉を耳にした。


「武器を使わず向かって来た事には評価するっすが、レディーの顔面を狙うなんてマイナス1000点っすね」


 そう告げたリアは男の拳に怯むどころか自ら男の方へと向かって行き、半身をずらすことで軽々とその拳を躱す。


「―――!?」


 だがそれだけでは終わらなかった。


 リアは更に距離を詰めて肉薄すると男のみぞおちに両手を重ねた掌底を打ち込んだ。


「がふっ!」


 いったい少女のか細い両腕のどこにそんな力があったのだろうか。リアの倍の体重はありそうな男は遙か後方へと吹き飛ばされ冒険者ギルドの壁を大破させて更に建物の外側へと吹き飛ばされた。


 その光景を見ていた男達は一斉に静まり返った。


「あちゃあ、やり過ぎたっす。ここの建物は継続して使うっすから余り壊したくなかったっすよ」


 一人そう呑気な事を告げた彼女の声にハッとなった冒険者達は、ここでやっと事態の重さを認識し出したのか、ラッセンへと視線を向けた。


「やれ!殺せえ!出ないと貴様ら共々国家反逆罪で処罰されるぞお!」


「っう、うおおおおお!」

「―――ちっきしょう!」

「やってやるぜえええ!」


「―――っちょ!?人の話し聞いていたっすか!?これ以上ここを壊したくないっすよぉ!」


 彼女の泣き言は一切聞き入れて貰えず周りにいた十数人の冒険者達は一斉にリアへと襲い掛かった。




「・・・おいおい。こりゃあすげえな」


 ラードは思わずそう呟いた。


 リアが一人の大男を吹き飛ばしてからは、目の色を変えた冒険者達は一斉に武器を取り出し彼女へと襲い掛かった。それからの彼女の動きはまさに圧巻であった。


 長剣を振り下ろしてきた男の攻撃を、先程と同じ様に半身ずらすことにより躱していく。そこへ隙をついたと思ったのか、槍使いの男が一刺しを入れにいったのだがそれも更にステップで回避された。


 しかし冒険者達もそこらの野盗とはレベルが違った。それすらも想定していた短剣使いの男が彼女に迫っていたのだが、後ろに目でもあるのかリアと名乗った少女は裏拳で短剣使いの腹部へと一撃を入れて悶絶させた。


「―――疾風刃(ゲイルカッター)!」


 中には室内にも関わらず魔術をぶっ放す者まで現れた。


「ひいいいいい!」


 堪らず近くに居た行商人の男やラッセンは隅へ避難をする。


 だが、それすらもリアは回避してみせた。


「ば、馬鹿な!?中級魔術の、それも風属性の魔術をあの距離だぞ!?避けられるわけが―――」


「―――残念っすね。私に当てたければせめて無詠唱で発動させるっすよ」


 いつの間にか魔術師に接近していたリアは親切にそう助言を送ると、その男の足を引っ掛けて床に激しい接吻をさせる。


「ぎゃふっ!」


 短く悲鳴を上げると、魔術師の冒険者は地面に伏したまま沈黙してしまった。


 その後もリアの快進撃は続き、時間にして僅か2分足らずで大半の冒険者は無力化されてしまった。


「ひ、ひいいいい。わ、私は悪くないぞ!お、お前が果物を食べたのが悪いんだ!」


 そう悲鳴を上げたのはリアが以前馬車の中で果物をつまみ食いしてしまい、彼女を馬車から放り出した行商人の男であった。確かに彼の言うとおり、それだけならば何も罪にはならない。むしろ裁かれるべきはリアの方であった。


 だが、彼女はそんな事は一切気にも留めずこう告げた。


「どうせその果物だってあのおっさんの汚いお金で仕入れたものっすよね?貴方もあのおっさんと一緒に後ろ暗い事をしていたんでしょう?」


「ひい、ごめんなさい!ラッセン様・・・いや、あの男にうまい話を持ち掛けられて仕方なく協力していたんです。どうか、どうか命だけはご容赦を・・・!」


「・・・本当だったっすか」


 どうやら彼女はカマをかけただけのようだ。それに行商人はまんまと嵌ってしまったようでその表情をみるみる青ざめさせた。


「まぁ、貴方は一旦置いておいて、まずはそこのおっさん!」


「―――!?」


 いつの間にかラッセンはギルドの受付カウンター奥にまで退避をしていた。しかしここは天下のギルド支部。その窓ガラスは頑丈に作られており、そこから割って出る事もできそうにない。完全に袋小路であった。


「そろそろ年貢の納め時っすよ」


「―――いや、その前に俺と一勝負して貰うぜ?」


 そろそろか、とタイミングを見計らっていたラードはそう声を上げた。リアは声の主へと振り返ると心底面倒くさそうな顔でこう答えた。


「もう無駄な争いは止めましょう。これ以上抵抗しても良い事ないっすよ?」


「・・・無駄かどうかは俺の剣を見てから判断して貰おうか。―――雷よ、纏え(レ・ヴェイン)!」


「!?」


 ラードは己の長剣に雷を纏わせた。流石のSランク冒険者も異世界の魔術は物珍しいのか、目を見開いてこう評価した。


「見た事ない魔術っすね。そういえばケージさん達がそんな使い手が<湖畔の家>に居たっておっしゃってましたっすね」


「へへ、それは光栄だな。ならこいつの速さも知っているよな。―――雷よ、穿て(レ・トゥース)!」


 呪文と共にラードは自らの愛剣を突きだした。するとその剣先から凄まじい速度で雷属性の魔術が放たれた。


 しかし、相手も“規格外”のSランク冒険者。それをなんでもないかのように躱すと、恐るべき速さでラードへと迫って来た。


(―――へっ、あれを躱すか。だが、それは読んでたぜ!)


 そうラードは伊達に先程まで傍観者を気取っていた訳では無い。しっかりとリアを観察していたのだ。そして彼女の行動を予測したのだ。


(あいつは攻撃の全てを躱している。そこに付け込む!)


 速度に自信があるのか、彼女は攻撃の大小関わらず冒険者達の攻撃を全て最小限の動きで躱していた。おそらく自身の最速である放ち技の一撃も躱すであろう。そう考えていたラードは、あえてその攻撃を最少出力に留めて放ったのだ。


 つまり、ラードの剣には未だ雷が纏ったままであった。


「―――強化(アプゥル)!」


 それは己の剣を強化する呪文であった。属性事に異なる強化をする魔操剣術であったが、雷属性はその中でも<速度>に特化した属性であった。故に先程の一撃が最速の放ち技であるのなら、強化を施した雷の一撃は近接攻撃で最速の一撃となった。


(―――取った!)


 彼女の動きは先程じっくりと観察をしていた。だからラードには分かる。これを防ぐ術は無いとそう確信する。


 ―――――だが、それを打ち破ってこそ“規格外”


 ラードの自己最速を誇る一撃は、完全に意表をつかれた少女の目前にまで迫った瞬間、甲高い音と共に何かによって弾かれた。


「―――んな!?」


 “ありえない”と、一瞬思考が停止したラードは慌てて再起動し目を見開くと、先程まで徒手であった彼女の両手には細い剣がそれぞれ握られていた。


「・・・≪双剣≫のリアネール」


 ラードは思わずそう呟いた。男はすっかり忘れていたのだ。彼女のその二つ名の由来にもなったその武器の存在を。


 リアは左手に持った剣でラードの長剣を弾いた後、もう片方の剣を凄まじい速度で長剣の腹に一撃を入れ、あろうことか男の愛剣を真っ二つにしてみせた。


「流石っすね。私に剣を抜かせるだなんて・・・。自信持っていいっすよ?」


「はっ、冗談じゃねえぜ全く・・・」


 彼女はそういうが男のプライドは完全に崩れ去っていた。Sランクと戦うに当たって万全を期しようとラードは事前にしっかりと観察をし策を練った。これは普段の男からはあまり考えられない行為であった。そこまでして勝ちに拘ったにも関わらず結果は惨敗であった。


 彼女の武器は恐らく魔剣の類なのであろう。自身の愛剣を分断した強度もそうだが突然彼女の手元に現れたのにも納得がいく。だが、そんなのはいい訳でしかなかった。ラードは例え彼女が武器を持っていても対処できないタイミングで一撃を放ったつもりであったのだ。


 それを彼の想像を遙かに上回る目にも止まらない一撃で弾かれた。ただ、それだけの結果であった。更には雷を纏った自信の剣に接触したにも関わらず、彼女が全くのノーダメージなのも彼の自信を奪い去るのに一役買っていた。


(・・・全くあの娘に勝つ将来図(ヴィジョン)が見えねえ)


 異世界出身の魔操剣術士は、一回り年下の女冒険者に完全に敗北を期したのであった。




「さて、これで粗方片付いたっすかねえ?」


「き、貴様!こんな事をしでかして、将軍が黙っていると思うなよ!」


「おや?逃げずに残っているとは思ったよりも往生際がいいようっすね」


 そうはいうものの、ラッセンとて逃げ出せるものならとっくにそうしたかったのだが場所が悪く出来なかったのだ。尤もSランクから逃げられるとはラッセン自信も考えてはいなかった。ギルドの中枢に近づけば近づくほど、彼らの恐ろしさは否が応でも思い知らされるのだ。


 ある者は一人で一国を相手取って返り討ちにした者や、魔術一つで山を吹き飛ばした者、普段は温厚だが怒らせたが最後辺り一面を荒地に変えてしまう者など、これらの話しは冒険者達の間でも知れ渡っている眉唾物の話しだと言われているが、全てれっきとした事実であった。副ギルド長という立場から閲覧権限を与えられている情報には、そんな嘘の様な本当の話が入ってくるのだ。


 故にラッセンはいち早く抵抗する事を諦めた。だが、その上で彼にはまだ余裕があったのだ。


「・・・くく。無駄だ。いくら私を捕まえてギルドを動かしても、とっくに賽は投げられた。時期に将軍は王女を始末し、彼こそが正当な統治者となる。そうなれば流石のギルドも一国の内政には介入不可能だ。お前のやっている事は所詮無駄な悪足掻きだ!」


「よく吠えるおっさんっすね。確かにギルド本部が動く前に内乱が治まったら、どうとでもいい繕って憲章違反も誤魔化されるかもしれないっすね。・・・でも、本当に将軍は王女様を倒せるっすかねえ?」


「何?」


「私、良い事思いついちゃったっす」


 リアはそう告げると建物内の隅で頭を抱えていた職員を一人二人と捕まえ、ある指示を飛ばした。


「え、いやいやいや!いくらなんでもそれは・・・」

「勘弁して下さい!俺達が殺されちまう!」


 そんな職員の悲鳴にも一切応じず彼女は二本の剣をちらつかせてこう脅した。


「これはSランク冒険者権限としての命令っす」

今回も主人公の出番無しです。次には出ます。


訂正有り


ランク証の色の変更です。前話の後書きにも記載しましたが


Sランクのランク証の色は

誤:黄金   正:純白


となります。


S 白

A 赤

B 緑

C 青

D 黄

E 黒

F 銀

G 茶


となります。大変ご迷惑おかけいたしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ