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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~  作者: つばめ男爵
1章 新米冒険者ケージ編
80/244

Eランク商人のリア

今回恵二は登場しません

 もうそろそろ日が暮れようとしていた時間、男は酒を飲んでいた。仕事帰りに一杯といったのではなく、真昼間から今までずっと飲んでいたのだ。普段酒などあまり飲まないが、決して弱くは無い。そんな男であったが流石に長時間飲んでいた為か、顔を真っ赤にして若干酔っていた。


「・・・っち。暇だぜ・・・」


 男は一言そう愚痴をこぼすと更にグラスに入ったアルコールを喉に通した。男にしては珍しく酔ってはいたのだが、彼は程度をちゃんと弁えていた。何故ならば彼は剣士、一時の油断で命を失う危険がある事を重々知っていたのだ。決して酒におぼれて自身の剣の腕を棒に振るような愚かな真似はしない。



<湖畔の家>に最近加入したAランク冒険者ラードは、実はこの世界の出身では無い。彼は10年以上も前にこの世界、白の世界<ケレスセレス>へと飛ばされてきたのだ。理由は分からない。気が付いたら見知らぬこの世界に居た。この世界では偶にそういった者がいるらしいのだが、詳しい理由は分からない。


 ましてや彼が元々いた世界、緑の世界<レアウート>ではそんな異世界の話など聞いた事も無かった。最初は言葉も分からず途方に暮れていたラードであったが、彼には唯一と言ってもいい特技があった。


 彼は剣の腕前に自信があった。最初は言葉の通じない彼に良からぬ悪意を持った輩が近づきもしたが、そんな小悪党は例外無く彼の剣の錆となった。やがてこの世界の言葉にも慣れてくると、彼はあちらの世界でも生業としていた傭兵まがいの仕事を引き受ける。


 やがて他国へ興味を持ったラードはDランク冒険者にさえなれば自由に行き来できることを知り、冒険者ギルドの門を叩く。一流の剣士であった彼はあっという間にAランクまで上り詰めた。このままいける所まで行ってSランク冒険者と戦って見るのも悪くは無いかもしれないと思っていたラードは、丁度声を掛けられたオッドという冒険者のクランが面白そうな事をするというので一時的に協力をする事にした。


 だが、その結果は散々であった。最初は思う存分剣を振るえると期待していたのだが、実際には汚れ仕事ばかり。やっとAランク冒険者と戦えたと思ったら横槍を入れられ、再戦を心待ちにしたのだが新しいギルド長から待機命令を出された。まだ冒険者に少しだけ未練があったラードは渋々了承し、今は暇を持て余すかのようにギルド内に併設された酒場で飲んでいた。



 ―――そんな時、1人の来訪者が訪れた。



 それはギルドには似つかわしくない少女であった。身長は平均よりやや低く、紫色の髪を両サイドに束ね子供っぽい顔つきをしていた。そして異様なのがその背中に背負っていた大きな鞄である。


 目立つ容姿なので周りで同じように酒に興じていた冒険者達の視線が一斉に彼女へと集まる。ラードもそんな一人であったのだが、注目されていた本人はそれを意にも介さずこう告げた。


「ギルド長はいるっすか?私はギルド長の知り合いっすよ」




「・・・何?私に面会だと?」


「は、はい。アポがなければ駄目だと言ったのですが強情でして・・・。何でもギルド長のお知り合いの行商人だとか・・・」


「行商人・・・?」


 ラッセンには多くの知り合いがいた。今の立場に登りつめる為には幅広い人脈もまた必要であったからだ。しかし、今このタイミングでアポなしにやってくる行商人に心当たりは無かったラッセンだが、もしかしたらという人物には少し心当たりがあった。


 それは以前ラッセンが定期的に果物を購入していた行商人の男であった。その男はあろうことか約束していた果物を仕入れる事が出来なかったと告げたのだ。それに頭に来たラッセンはその行商人との商談を全てキャンセルしたのだが、その男は何度も泣きついて詫びを入れに来た。それでも追い返したのだがまた来ると兎に角しつこかったのだ。


(こんな時に鬱陶しいヤツだ!こうなったら冒険者を使ってとっちめてやるか!)


 そう考えたラッセンはその行商人を名乗る来訪者と会う事にした。それが彼の明暗を分けるとも知らずに・・・。




「―――ええい、しつこいぞ!行商人風情がこの私に・・・誰だ?貴様は・・・?」


「・・・あんたこそ誰っすか?私が呼んだのはギルド長っすよ?」


 ここでラッセンは思い違いをしていた事に気がついた。どうやら来訪者とは目の前のけったいな少女のことであるようだ。その少女の台詞にカチンときたラッセンはこう告げた。


「失礼な小娘だ。私こそここのギルド長であるラッセンだ!そういう貴様は何用で来た?もしも下らぬ用であったならば・・・ん?貴様、どこかで会ったか?」


 ラッセンにはどうもこの少女の顔を見た覚えがある気がしてそう尋ねたが、彼女の返答が返ってくるその前に騒動は起こった。


 何者かがギルドの扉を乱暴に開けると、その者は慌ただしくラッセンの方へと駆けて行った。


「―――ラッセン様!この間の件は誠に申し訳ございません!どうか、どうか今一度チャンスを・・・!」


 それはラッセンが取引を一方的に打ち切った行商人であった。彼はこのままだと商会が潰れてしまうと泣きながらそう懇願してきた。


 急な横槍にラッセンは目の前の少女を一先ず置いておいて、無礼な行商人にこう叱咤した。


「ええい見苦しいぞ!商人が約束事を違うなど言語道断!貴様とは今後取引はせん。これ以上つきまとうのなら―――」


 だが向こうも相当困っているのか一向に引く様子は無かった。


「どうか、どうか御慈悲を!あれは仕方が無かったのです。乗り合わせた女がラッセン様の果物を・・・って、あああああっーー!!」


 先程まで泣きついていた商人は少女の顔を見ると、大声を上げて指を指した。その口はパクパクと何かを訴えたかったのか開閉するも、言葉にならずただ驚きの表情を浮かべていた。


 その行商人の態度を訝しんだラッセンがどうしたのかと尋ねると、行商人の男は凄い剣幕で捲し立てた。


「こ、コイツです!こいつがラッセン様の果物を全部食べてしまった張本人です!!」


「な、なんだとお!」


「へ?」


 行商人の告白にラッセンは怒りの矛先を少女に変えた。その本人は急な展開についていけないのか、はてなマークを頭に浮かべたように首を傾げた。


 そこへ更に介入者が現れた。


「ああああー!こいつはっ!!」


「―――今度はなんだ?」


 急に横から入って来た冒険者は、やはり少女の顔を見ると指を指して大声を上げた。ラッセンはまたかと思いながらも律儀にそう尋ねると、冒険者はすぐにその驚いた理由を告げた。


「――ギルド長、こいつです!俺達が王女を連れて行くのを邪魔したガキと一緒にいた王女の侍女ってのは・・・!」


 その男は、以前恵二が追い払った<霧の光明> のパーティの者であった。彼は縄で縛られていた際に一緒にいた彼女の姿を目撃していたのだ。


「な、なんだとおおー!」


 ラッセンは先程よりもオーバーに驚いて見せた。それも無理は無い事であろう。あれ程王女の居場所を探していたラッセンのすぐ目の前に、その手がかりになりそうな少女がのこのこと現れたのだから。


「え?え?」


 少女はあっという間に男達に囲まれてしまっていた。周りで酒に興じていた冒険者達も何事かと集まりだす。すっかり男達に取り囲まれ逃げ場など無かった。


「・・・えーっとぉ。私はただギルド長に会いに来ただけっすよ・・・」


「ふふん、だから私がそのギルド長だよ。歓迎するよ、えーと・・・お名前は何かね?」


「・・・リアっす。あと、私はメルシアギルド長に会いに来たっす。おっさんじゃないっすよ?」


「お、おっさん・・・!」


 おっさん呼ばわりされたラッセンは絶句する。周りでそれを聞いていた冒険者の何人かは耐え切れず思わず吹き出してしまう。それをギロリと睨んだ後、ラッセンは再びリアと名乗った少女へと尋ねた。


「・・・さて、リア君。メルシアさんは残念ながらギルドを辞められた。代わりに私が用件を伺おう。・・・いや、寧ろ質問をするのは私の方だ。君には今、大犯罪人であるフレイア元王女を匿っている容疑がかけられている。これは立派な共謀罪だよ?」


「・・・メルシアさんは不在っすか。まぁ、それならおっさんでいいっすか」


「ぶふぅっ!」


 リアの容赦のない言葉に今度はさっきまで泣き顔であった行商人が盛大に吹き出してしまう。ラッセンがそちらをジロッと睨むと男は顔をみるみる青くしていく。しかしそのやり取りにも気を止めずリアは続けてこう語った。


「なら貴方を一応しょうがなく仮にギルド長としてお話を伺うっす。ここのギルドはクーデターの首謀者である将軍に明らかに肩入れをしてるっすよね?それこそ立派な協定違反っすよ?勿論ギルド長ならそんなことご存知っすよね?」


 リアがそう捲し立てるとラッセンは鼻で笑ってこう答えた。


「小娘が生意気な口を・・・。それで?それがどうした?仮に協定違反だって言うのならなんだ?」


「・・・今の発言は自供と取っていいっすかね?」


「フハハ、誰がお前みたいな小娘の言う事を信じる?それに立場が分かっていないのは貴様の方だ!果物の恨み!・・・じゃない、王女の居場所を吐いて貰うぞ!」


「ふふふ、お前さえ乗せなければあんな事には・・・!」


「この前の小僧の借り、きっちりとお前の体で返して貰うぜ」


 まさに四面楚歌。すっかり囲まれてしまったリアはそれでも落ち着いた態度を崩さずポケットを漁ると、そこから一つのサイコロを取り出した。


「・・・ならこいつで勝負っす。このサイコロを振って私が指定した数字が出たら大人しく罪を認めお縄につくっす。もし外れたら王女の居場所も素直に話しますし果物の件もケージさんにやられた分も私の身で好きに鬱憤を晴らしても良いっすよ」


「・・・何を勘違いしているのかね?やはり君は立場を分かっていないようだ。私はここにいる冒険者を使って君の身体をいたぶって尋問する事も可能なのだよ?」


「まぁまぁ、ギルド長。その話、受けてもいいんじゃないっすか?」


 意外な事にそう提案したのは<霧の光明>の冒険者であった。


「ただし、使用するのはこちらのサイコロだ!更に目の指定はこちらがする!どうだ?」


「かまわないっすよ」


 それをリアは即答で了承する。どうせ運任せなのだから、誰のサイコロでどの目だろうとかまわないと踏んだのだろう。だが、その冒険者が出したサイコロがまともな物だとはこの場にいるリア以外の誰もが思ってはいなかった。


 ラッセンはその冒険者に近づくと小声でこう尋ねた。


「おい、そのサイコロ・・・」


「ええ、勿論仕掛けがあります。1の目が重いんですよ。ほぼ100%裏の5が出ます。そうでなくても1が出る事はありえません。つまり、俺達が指定する数字は・・・」


「くくく、そういう事か。いいだろう」


 リアに聞こえないよう冒険者と小声で会話をしていたラッセンは、相談を終えるとこう告げた。


「では、我々は1の目を指定する。賭けるのはお互いの全面降伏という事でかまわないかね?」


「いいっすよ。さっ、ちゃちゃっと振ってくださいっす」


「くくく、やれ」


 ラッセンがそう指示をすると冒険者の男はサイコロを床に落とした。なるべく平らな、障害物の少ない場所に目掛けて賽を落とす。万が一の可能性も潰す為だ。


 ―――だが、奇跡は起きた。


 その一見平らそうな床は、整備が行き届いていなかったのか一部ささくれ立っていた箇所があった。転がったサイコロはそこに丁度勢いよくぶつかると、ありえないくらい大きく跳ね上がり一気にカウンターの方へと飛んで行った。


「っな!」


 そのサイコロはカウンターの隅にぶつかると急停止した。出た目は・・・1であった。


「ば、馬鹿なああーー!」


 冒険者が驚くのも無理は無かった。このサイコロを振り続けた冒険者は今まで一度たりとも1の目が出た事を見た事が無かったのだ。まさに強運である。


 男達は知る由も無かった。彼女がスキル<幸運>持ちである事を。一方リアはその結果を当然とばかりに見届けると、ラッセンに目を向けこう言い放った。


「さて、お遊びはここまでっす。ちゃちゃっと白状してお縄につくっす。あと王女様の懸賞金を取り下げるっすよ。さあ早く!」


「・・・く。・・・くくく。クハハハハ。誰がそんな約束を守るものかァ!白状しろ、だって?そうさ、俺が将軍に頼まれてメルシアを殺しこのギルドをのっとったんだ!おっと、いけない、いけない。つい口が滑ってしまった」


 ラッセンは高ぶる気持ちを抑えると、冷たい声でこう告げた。


「お前も殺されたくはないだろう?必要な事をしゃべってくれたら、今度はその口をしゃべれなくするだけだ。なあに、命までは取らないさ。ここまでこの私をコケにしてくれたんだ。キッチリ生かしたままお仕置きをして上げなくてわねえ」


 ラッセンはそう口にすると視線で冒険者達を促した。何人かの下卑た笑いを浮かべた男達は、自分たちも少女の身体のお零れに預かれると思ったのか協力する構えを見せた。


「・・・一応断っておくっすけど、この男に加担した者は容赦しないっすよ?同じくギルド憲章違反とみなして処分するっすよ?」


「おー、おー、怖い怖い。誰が誰を処分するって?」


「ふん、貴様みたいな小娘にそんな力も権限もないわ!」


ラッセンはそう吐き捨てるとリアは笑みを浮かべ自慢げにこう告げた。


「ふふん。実は私、こんな物を持っているっすよ」


 そう呑気な声で呟くと、少女は胸元を漁り一枚のプレートを取り出して見せた。それを見た男はプレートに書いてあった文字を声に出して読み上げた。


「えーと・・・Eランク商人、リア?」


「そうっす、私はEランク商人のリアっす!―――って間違えました。こっちっす!」


 慌てて彼女は再度胸元を漁ると、今度は綺麗に輝いた純白色のプレートを取り出して見せた。それを見た冒険者達は皆驚愕の表情を浮かべた。



 そこにはこう書いてあったのだ。



 “Sランク冒険者リアネール”と

修正 Sランクのランク証の色を予め設定していた色と間違えて表記してしまいました。


Sランクのランク証は 誤:黄金  正:純白   となります。


ちなみに色の一覧です。


S 純白

A 赤

B 緑

C 青

D 黄

E 黒

F 銀

G 茶


大変失礼致しました。

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