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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~  作者: つばめ男爵
1章 新米冒険者ケージ編
78/244

ちょっと冒険者ギルドに行ってきます

「巡回兵が消えた?」


「ああ、ロキさん。普段は村や町に何度も姿を見せていた兵士達が、どういう訳か来なくなったようだ」


 そうロキに報告をしたのはクラン<濃霧の衛士>に所属するBランク冒険者カッツリーノであった。


 レアオール湖の東部に一行が陣取ってから2日が過ぎた。クラン<湖畔の家>との戦闘で負った傷も癒え始めた冒険者達は、そろそろ行動を起こそうと何名か偵察に出していた。その一人であるカッツリーノの話しでは、ここ最近将軍配下の兵士は首都レアオールに集結しているとの情報であった。


「・・・あいつら、王女の捜索を諦めたのか?」


「いや、何か大規模な行動を起こすつもりなのかもしれないぞ?」


「――まさか、戦争でもおっぱじめるんじゃねえだろうな?」


 冒険者はあれこれと話し合うが、どれも想像の域を出ない。現時点では決定的に情報が欠けていた。


「まぁ、確かに奴らの動きは気になるが、それは問題じゃない。最大の問題は俺達がこの後どう行動をするかだ」


 ロキが口にしたこれからの指針については、この2日間の間に何度も熱く議論された。王女を中心とした親衛隊員達は一刻も早く城を奪還し王権を取り戻したい。ロキを始めとしたヴィシュトルテの冒険者達の目的は、レアオールのラッセン副ギルド長の暴走を止め、国内の冒険者の活動を正常化する事であった。


 そのそれぞれの目的に恵二や国外の冒険者達は支援をしているのだが、その第一歩である具体的な目標を見い出せないでいた。その最大の要因は―――


「―――人手が足らねえ。さすがに俺達だけで城の兵士にゴーレムや、ラッセン配下の冒険者を相手取るのは不可能だ」


 そう、いくらAランクの冒険者を要していようと、騎士の中のエリートである親衛隊員であろうと、ゴーレムを撃退した有望な若手冒険者がいようとも、圧倒的な人数差を埋めるのは不可能であった。何せこちらの人数は非戦闘員を除けばたったの40人程。対する将軍の軍勢は凡そ300。更にあの厄介なゴーレムも後何体かは健在であろう。切り札の【エンチャントナイフ】を使用してうまくゴーレムを撃退できても多勢に無勢で押し潰されてしまう。


「・・・将軍の狙いはそれか?王城に兵を密集させて守りを万全にしたつもりか?」


「だが、これで奴らは身動きが取れないんじゃないのか?今なら補給や人員の勧誘もできるかもしれない」


「だから、それがそもそも罠なんじゃないのか?俺達を炙りだそうとしているんじゃ・・・」


 こんな感じでずっと話し合いが行われていたのだが、何一つ進展しなかったのだ。


「・・・今日も特に、もぐもぐ・・・ごっくん。話が進まないっすねえ」


「食べてるだけのお前が偉そうなこと言うな!」


 ここ最近ずっと食べては寝てを繰り返している輩が偉そうに話すので、思わず恵二は厳しいツッコミを入れた。そういう恵二もここ二日間は力を温存する為待機が命じられていた。ここに来るまでの道中、何度も魔力探索(マジックサーチ)を強化して索敵しては食糧調達の為に魔物を次々と倒し、更にはここの野営地も恵二の強化した土盾(アースシールド)のお蔭で簡易的な家のような建造物を作り上げることができたのだ。


 さすがに酷使しすぎたかと考えたロキは、暫くの間恵二に休んでいるようにと指示を出していた。


 そして現在はリアと共にフレイア王女お手製の料理を堪能していたのである。


「―――ふ、フレイア様!料理など他の者にお任せ下さい。・・・おい、オマエもおかわりを要求するな、自重しろ!」


 親衛隊員は慌ててフレイアを止めようと説得をし、しれっとおかわりを要求してきたリアに自制を求めた。


「いえ、私はこの位しかお役に立ちませんから・・・。それに料理が好きなのです。それとも貴方は私のこんな些細な趣味を奪うと言うのですか?」


「そんな無茶言わないで下さい!私が副隊長に怒られるんですから、どうか程々にお願い致します」


 フレイアの言い分も分かるが、親衛隊員も譲れない立場があるのだろう。最後は泣きつくような形で懇願するも、どうやら聞き入れて貰えなかったようだ。王女はリアに追加の料理を差し出すと、それを彼女は嬉しそうに受け取ると、口の中に次々と運んでいき満面の笑みを浮かべて感想を述べた。


「んー、とってもデリシャスっす。王女様はきっと良いお嫁さんになるっすよ」


「ふふ、ありがとうございますリアさん」


「・・・俺はリアの旦那になる人が気の毒でしょうがないよ」


 彼女の消費を賄える稼ぎの良い夫となるとかなり絞られる。まぁ、その点は最悪彼女の生まれ持ったスキル<幸運>でひと稼ぎすることが出来るやもしれないがと心の中でそう改めた。


「ケージさん、今日はやけに毒舌っすね・・・」


「そりゃあ悪態のひとつでもつきたくなるさ。状況は一向に良くならず、お前は食べてばっかりで、俺は待機してろと言われてはいるが、食糧難にならないよう必死に魔物を狩ってきてるってのに・・・」


 確かに大食いは彼女の体質で我慢できるものではないのかもしれないが、もう少しどうにかならないのかと愚痴のひとつでもこぼしたくなる。恵二はそう厳しい口調で語ると、出された料理を食べ終えたリアは真面目な顔でこう呟いた。


「・・・そうっすね。確かに私はこのままだと完全に皆さんのお荷物っすよね・・・」


 どこかしょんぼりと、悲しそうな声で彼女はそう呟いた。さすがに言い過ぎたかと恵二は罪悪感にかられ、フレイアは慌ててフォローしてみせた。


「リアさんは私の趣味に付き合ってくれる大切な友人です。決してお荷物なんかじゃあ無いですよ!」


「そ、そうだな。俺も言い過ぎた、すまない。それにリアが提供してくれた【エンチャントナイフ】は凄まじいからな、大手柄だぜ!」


 フレイアに続いて恵二も思わずリアを励ます。つくづく自分は甘い性格だなと思わなくもないが、そうフォローをし続けると、リアは気持ちを切り替えたのか笑みを浮かべてこう述べた。


「そうっすね!私もちゃんと役に立ってるっすよね?よーし、こうなったら王女様の為にも食べた分、もう一働きするっすよ!・・・の前におかわりっす!」


「少しは遠慮しろ!」


 やはり少年の考えは甘かったようだ。




 一方レアオールの王城では、クーデターの首謀者であるガラード将軍が次の一手を打っていた。


「国中の冒険者を使う、ですか?」


「ああ、そうだ。ラッセンギルド長に指示を送ってこの国にいる冒険者全てに指示を出せ!隈なく国内を捜索し王女を早急に探し出せ、とな」


 必要最低限の兵を残し、国中の兵をレアオールに集結させた将軍は大臣にそう告げたのだ。この案に驚かされた大臣はすかさず意見を述べた。


「それは流石にやり過ぎではないのですか?ラッセンギルド長の手の者だけなら兎も角、他の冒険者までも使役するとなれば冒険者ギルドが黙ってはいませんよ?」


「心配するな、大臣。冒険者達にはこの件が片付いたらこの国から出て行って貰う。この国に冒険者は不要だ」


「―――っな!?」


 今度こそ大臣は絶句した。まさか国内の冒険者を全て動かそうとするどころか、その後は追いだすと言うのだ。それには流石の大臣も承服しかねた。


「無茶です将軍!この国にはかなりの数の冒険者がいるのですよ?それを全て追い出すなんて、魔物の討伐や護衛任務、それに材料の採取など冒険者がこれまで担ってきた仕事が回らなくなりますぞ?」


 冒険者と一口に言ってもその仕事内容は多岐に渡り、それぞれが人々の生活を支えてきたものばかりだ。それを全て取っ払うというのだから大臣は反論したのだが、将軍はそれを見越していたのか冷静にこう告げた。


「それは冒険者でないと本当に出来ない事かね?我が軍の兵士でも魔物の討伐や国民の護衛に素材の確保は出来ると思うのだが?それに彼らは我々軍属とは違い独自の思考の元に行動をする。今まさにその冒険者共に手を焼いているのではないのかね?」


「そ、それはそうですが・・・。しかし、数が足らな過ぎます!ただでさえ隣国の警戒に兵を当てなければならないというのに、そんな雑務に兵を回す余裕などありません!」


「ならば増やせばよい!なんなら国民から徴集し増強すれば良いではないか」


 その将軍の言葉に大臣は言葉に詰まった。確かに将軍の案は乱暴ではあるが、決して見当違いな話ではなかった。戦時に民から兵を集めるのは昔から行われていたことであるし、冒険者の仕事も最初は弊害があるだろうが、兵が代わりに努める事も出来なくもないのだ。


 現に隣国であるシキアノス公国には冒険者が殆どおらず、ギルドの数もたった1軒だけであった。


 だが、それでもやはり将軍の命令は、いつもとは違って些か乱暴なように思えた。何が彼をそこまで煽り立てるのであろうかと大臣は疑問に思うが、口に出すことは出来なかった。


「大臣、冒険者を追いだす件は後程ゆっくりと話し合えばいいだろう。兎に角今は一刻も早く王女を探し出し始末する、その為の苦肉の策だ。・・・理解してくれるな?」


 将軍も決して万能なんかではない。これ以上国内のいざこざを抱えたままでは、本当にこの国は他国に攻め滅ぼされてしまう。これはその為に必要な事なのだと大臣は自分に言い聞かせ、将軍のこの案を受け入れた。


 こうして王女フレイアは正式に反逆者として国内中の兵や民だけでなく、国内の冒険者へも見つけ次第速やかに報告、又は始末するようにとの命令が下された。




「―――た、大変だ!」


 偵察に出ていた冒険者の1人であるロイドは大慌てでロキへ報告をと駆け戻ってきた。それを目にしたロキは静かにこう問いただした。


「もしかして、王女様の討伐命令の件か?」


「・・・ハァ、ハァ。・・・え!?何故それを・・・?」


 何とか息を整えたロイドはそう尋ねると、ロキは隣にいる彼の相棒エイワスを指差してこう告げた。


「さっきエイワスから聞いたぜ?何でも国民だけでなく、冒険者にまで王女討伐の命令を下したってな・・・。ふざけた真似をしやがるぜ!」


 ロキに続いてエイワスもこう述べた。


「どうやら国内のあちこちにそう指示が飛んでいるらしいな。しかも高額な懸賞金までかけてな。こりゃあいよいよ将軍を本気にさせちまったか?」


「―――冗談では無い!王女様に懸賞金など言語道断だ!あの裏切り者のいかれた為政者めッ!」


 顔を真っ赤にしてそう叫んだのは親衛隊副隊長のオーランドであった。彼は王族であるフレイアに懸賞金をかけた事自体が許せなかったらしく、先程から将軍のことを汚い言葉で罵っていた。


 衝撃的な報告でざわめく中、ただ一人ロキだけは冷静に状況を判断しこう述べた。


「だが、悪くない手だぜ。自身は身内の兵で守りを固めて防御を万全にし、冒険者や荒くれ者共は高額の報奨金で釣って王女様を探させる。・・・もしかしたら、俺達の中にも金欲しさで裏切る奴が出る事を期待しているのかもな」


「―――っな!?」

「おいおい、ロキの旦那。そりゃあねえよ!」

「俺達はそんなきたねえ金なんかに釣られねえぜ?」


 ここにいる冒険者達全員が、最悪一国を敵に回しても構わない覚悟で付いて来た連中ばかりだ。恐らくお金で釣られる心配は無いだろうと恵二は考えていた。それはロキも同じ考えであったのか、すぐに訂正をし謝罪をした。


「すまねえな。あくまで将軍の立場で考えた話だよ。だが、先程は良い手と褒めたが、今回は相手が悪かったようだなあ。これは逆にチャンスだぜ?」


「へ?チャンス?」


 国中の人間が王女を探しているというのに、一体何がチャンスなのだろうかと恵二は首を傾げた。


 そんな恵二の胸中を余所にロキはこう続きを話した。


「流石に冒険者を使っての王女探しはやり過ぎた。これは立派な協定違反だ。犯罪行為に冒険者を使役するのは禁止されている。この件を報告すれば余所からもっと冒険者を支援してもらえるか、もしかしたらSランク冒険者を本部に要請できるかもしれねえ」


 この大陸に存在するギルドと国同士にはいくつかの決まり事がある。そのうちのひとつが“ギルド憲章に背く行為の命令の禁止”であった。これはギルドに所属する冒険者や魔術師、研究者らを救済するために課せられたルールであった。


 ギルド憲章とは、それぞれ冒険者ギルド、魔術師ギルド、商人ギルドなどで細かいルールは違うが、そのギルドに所属する者達が遵守しなければならない掟である。そしてその中でもどのギルドにも共通して重大なルールのひとつが“違法行為への加担、又は協力要請の禁止”であった。


 ギルドに所属する者は、それこそピンキリだが高ランクにもなるとかなりの影響力を持つ者も存在する。そんな彼らを悪事に利用されないよう定めた法律がその掟であった。


 そしてそのギルド憲章は、例え依頼者が一国の王であったとしても破る事は許されない。もしそれを破れば協定違反として、<連盟騎士団>と呼ばれる各国の精鋭中の精鋭で構成された即席の騎士団が動き出す場合もある。過去に何度かその<連盟騎士団>により滅ぼされた国もあるほどだ。


 故にこのギルド憲章は、時には人の命より重い掟となり得るのだ。


 今回の将軍の行為は正にその協定違反だとロキは指摘した。彼は正当な統治者では無く、真の統治者である王女フレイアの殺害を冒険者ギルドに依頼した犯罪者であるというのだ。


 だが、ロキの考えは甘いのではないかとカッツリーノはこう指摘した。


「ロキの旦那の言う事も尤もだがよぉ。あっちが白を切ったらどうするんだ?あいつらは王女様こそ犯罪者だと主張してるんだぜ?―――ってものの例えだって!」


 カッツリーノがそう意見を述べると親衛隊員が睨みつけてきたので、彼は慌ててフォローを入れた。冗談でも王女を犯罪者呼ばわりするのは不敬罪に当たるだのなんだのと親衛隊員に小言を言われ、彼は少々げんなりしていた。


「確かにカッツリーノの言いたい事は分かる。だがな、その主張が正しいって一体誰が判断するんだ?」


「そ、それは・・・国民?いや・・・ギルドか?」


「連盟軍さ。今回の一件は一国の存続とギルド憲章違反の疑いが掛かっている。ギルド本部だけでなく必ず連盟騎士団も動くさ」


 そう自信満々に答えたロキにカッツリーノは更に反論した。


「で、でもよぉ。それって何時の話しだよ?連盟騎士団なんてすぐ来てくれるもんじゃねえだろ?その前に王女様や俺達が殺されちまったら元も子もねえだろ?」


「無論だ。だが全く勝ちの目が無いところに出てきたチャンスだぜ?要は連盟騎士団が動くまでに俺達はただ生き延びていればいいんだ。城を攻め落とすよりかは簡単だろう?」


 確かにそう考えれば悪くは無いと思えるが、要は考えた方の問題だ。国民中から狙われる今の状況を良しとするか、何時までも勝ちの目が無い状態で潜伏し続けている方が幸せなのか。


(・・・どちらも嫌だなぁ)


 そう考えていた恵二の横から、さっきまで話を聞いてだんまりを決めこんでいたオーランドが重い口を開いた。


「・・・ロキ殿。その案だが重大な落とし穴がある」


「―――なに?」


「連盟騎士団は決してフレイア様の味方では無いという事だ。連盟加盟国で我が国と交友のある国の一部は現在<神堕とし>の影響で、とてもではないが精鋭を送る余裕などないのだ。更に我が国の仮想敵国である周辺国も連盟加盟国だ。・・・この意味が分かって頂けるだろうか?」


「・・・周辺国は、むしろクーデターを起こした将軍側を支持するかもしれねえって事か」


「左様だ。どちらに転ぶか分からない。最悪、連盟騎士団はフレイア様に刃を向けるやも知れぬのだ!」


 どうやら状況は良くなっているどころか悪い方向に向かっているようだ。そして悪い時とは続く物だと相場は決まっていた。


「―――た、大変です!リアさんが・・リアさんが・・・!」


 そう声を上げながら駆け寄ってきたのは、紙切れを片手に持って息を切らせながら近づいてきたフレイアであった。


「―――!どうなされたのですか、フレイア様?」


「・・・ハァ、ハァ。リアさんのお姿を見かけなかったので、彼女の寝床を尋ねたらこんな置手紙が・・・」


「ちょっと拝借」


 気になった恵二はフレイアから手紙を受け取ると、すぐにその文章に目を通した。その手紙には要約するとこう書かれていた。


 “ちょっと冒険者ギルドに行ってきます”と

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