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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~  作者: つばめ男爵
1章 新米冒険者ケージ編
54/244

俺たちが

 その日の朝も、恵二達は何時ものように討伐依頼を受け町の外へと繰り出した。テラードは用事があるらしく、今日はセオッツとサミの3人で森へと出かけた。


 特に手こずる事無く依頼された魔物を倒し、道中襲ってきた獣を返り討ちにしていく。思ったよりも早く用が済んだ3人は、まだ日が高い時間ではあるがセレネトの町へと戻ろうとした。


「あんまり手強い奴はいなかったな」


 物足りなかったのかセオッツはそう呟く。


「そうか?俺は土熊の肉も手に入って満足だぞ?」


 この世界に来て新たな好物となった土熊肉のコロッケが食べられると思った恵二は、最早今日は仕事に手がつかず一刻も早く町へと戻りたい気持ちで一杯であった。


「確かに少し消化不良ね。でも、ここのところ忙しかったし今日はもう引き上げましょうよ」


 サミもセオッツの言葉に一部賛同はするも、今日は早く町へ帰ろうと口にした。


 恵二の操縦で馬車を町へと走らせると、前方に二人の人影が見えた。


(?こんな所に人?何してるんだ?)


 ここは町から町へと続く街道からは大分離れている。全く人が来ないとは限らないが、用も無い人間がうろつくような場所でもない。滅多にないがここは魔物や野盗が出るかもしれない危険な場所なのだ。


 馬車が人影に近づくにつれ恵二がまず不審に思ったのは、二人のその格好であった。その二人はチグハグな組み合わせの男女であった。


 男は一見地味に見え、反面もう1人は派手な女であった。赤いワンピースを着ていて顔は前髪に隠れており見え辛い。両者とも服装は普段着で防具のような物は一切身につけて居なかった。


 野盗の類いには見えなかったのだが、それがより一層恵二の警戒心を引き上げた。町や街道からは外れたこの場で二人の外見は違和感だらけであったのだ。


 恵二は馬を巧みに操り速度を緩め始めた。ここで車両に座っていたセオッツとサミが状況に気がつく。


 馬車を正体不明の遭遇者達の十数メートル手前で停止させると恵二は口を開いた。


「俺達になんか用か?」


 何となくだが予感がした。一見得物など持っていなさそうに見えるこの二人は、先程倒してきた魔物や獣なんかより遥かに危険な存在だと。


 恵二の声は確かにあの二人に届いた筈であったが、それには一切応じず男は静かに“始めろ”とだけ呟いた。


 それが戦いの引き金となった。




 一方セレネトの町でも異変が起こっていた。多数の兵士達が孤児院の前へと集結していた。それにいち早く気が付いたコーディー司祭は兵士を統率している兵士長へと詰め寄った。


「こんなに兵を連れて穏やかではありませんな。一体孤児院に何用です?」


「この孤児院に出入りをしている冒険者に強盗罪の容疑が掛かっている。匿うのなら容赦はせんぞ?」


 兵士長はそう告げると部下の兵を引き連れ孤児院の中へと踏み入れようとする。


「お待ちくだされ。彼らがそんな悪行を犯す筈がありません!令状は?証拠はあるのですか!?」


 兵士たちの不遜な態度に抗議するような形で食い下がるコーディーに、兵士長は不躾な態度を崩さずこう言い放った。


「ガルシア様の御命令だ!この件に問答する気は無い。これ以上邪魔立てするのなら拘束するぞ?」


「っな!?」


 全く取り合おうともしない兵士長に愕然とするコーディー。兵は上官の命に従い孤児院の中を虱潰しに捜索していく。


「探せ!孤児院の中に奴らの所持品がある。その中に盗品が必ずある筈だ!」


「と、盗品!?そんなの何かの間違いです!」


 そう反論したのは丁度孤児院の中を掃除していたアミーであった。折角綺麗にしていた部屋を兵士達はそこら中乱暴にひっくり返していく。そのあんまりの行いに見かねて口を出したのだ。


「五月蠅い!おい、この娘を捕えろ!他にも邪魔立てする奴は全員拘束しておけ!」


「――――!?は、離して下さい!!」


「あ、アミー!!」

「お姉ちゃん!?」

「うわーーん!」


 ただ異論を唱えただけで拘束されてしまったアミーを心配そうに見守る事しかできないウォール夫妻と泣き騒ぐ子供たち。それを見ていた子供たちの1人が兵士に向かって行こうとするも、コーディーは体を張って止める。


「な、なんで止めるんだよ神父様!?」


「止めろクント!お前が手を出したら余計に状況が悪くなる!アミーは必ず助ける。今はお前が子供たちの最年長者だろ?今お前に出来る事をしなさい!私は私の役目を果たす!」


 コーディーは必死にクントを説得する。


「見つけました。これが女冒険者の所持品だそうです」


「よし、次は男二人の宿泊先の宿へと向かうぞ!そこの娘は兵舎の牢にでも閉じ込めておけ!」


「はっ!」


 散々孤児院を荒らしまわった兵士達は、目的を果たしたのかアミーを連行して孤児院を去っていった。


「あ、アミーシア・・・」


「心配するなアマスタ。彼女は私の大事な娘だ。私が必ず連れ戻して見せる!子供達を頼む!」


 コーディーはそう告げると急いで孤児院を後にした。




「た、大変・・・!すぐにお姉ちゃんに・・・。ううん、まずはカインさんに私が知らせに行かないと!」


 孤児の中でも最年長である少女ユリィは丁度お使いに出かけていた。その帰りになんだか孤児院の方が騒がしく様子を伺っていたのだ。孤児院から聞こえる大きな物音に子供たちの鳴き声。そしてたまに聞こえてくる怒声に少女は堪らずその場から離れ駆け出した。


 それは決して逃げる為では無い。すぐにこの事を誰かに伝えないと。そう考えたユリィはまず真っ先にサミや憧れの人である恵二の姿が浮かんだが、彼らは冒険者の活動に出ていて現在町にはいない。そこで彼女は次に頼れる貴族の青年カインの元へと急いだのだ。




「大変だ!すぐに知らせなくっちゃ・・・!」


 その現場を遠くから目撃していた者はもう1人いた。それは最近ランクをEに上げた期待の新人冒険者(ルーキー)テラードであった。たまたま町を歩いていたら大勢の兵士達が孤児院の方角へと向かって行くのが見えた。もしやと思い後をつけたのは正解であった。


「ケージさん達は依頼で町の外にいる筈・・・!僕がギルドに知らせなくっちゃ・・・!」



 セレネトの町中は現在あちこちが騒然としていた。




 恵二の質問には一切答えず、赤いワンピースを着た女はこちらへと駆けだして来た。その速度はセオッツに勝るとも劣らないスピードであった。


「―――っ!やる気か!?」


 迫りくる女を迎撃しようと恵二は馬車から降りると徒手のまま構えた。突然の出来事に一歩遅れて車両に乗っていたセオッツとサミも降車する。


(アイツ、ろくに武装も身に着けずに突っ込んでくるだけか?舐めるな!)


 そう、彼女もまた徒手であった。腰や背中や服の中に武器を隠し持っている気配も無い。どうやら素手で挑んで来るようだ。


(上等!素手ならこっちも加減し易いしな)


 いくら無言で襲い掛かってきた相手とあっても、正体不明の女性にいきなりナイフで応戦するのは気が引けた恵二は自信も素手で迎撃するつもりでいた。だが女の駆け寄るスピードは目を見張るものがある。決して油断はすまいと自信に強化を施す。


 だが、恵二の考えはそれでもまだ甘かった。二人の距離が残り5メートルを切ったところで女の駆けるスピードが爆発的に延びた。


「―――っ!?」


 恵二がそれに気が付いた時には、既に目の前にまで迫っていた女は拳を振り上げていた。咄嗟に自身の強化を引き上げ防御するも、女はそのまま恵二のガードした腕越しにパンチを叩きこむ。


「―――っぐ!」


 短い呻き声を上げた恵二は、直後信じられない体験をした。恵二の視界には青い空が一面に広がっていた。風が叩きつけるように恵二に襲いかかる。今日は強風だったかと一瞬脳裏を過るも、それが自信が飛ばされている結果であると気が付いたのは、地面にろくな受け身を取れずに叩きつけられた瞬間であった。


「―――っが!、ハアッ!!」


 背中にとてつもない衝撃が走り、それが全身へと巡る。頭も打ったようでジンジンと脳裏に頭痛が響き渡る。それでもなんとか体を動かそうとすると、今度はガードする為に出した右腕に激痛が走った。少しでも動かそうとすると刺す様な痛みを感じた。どうやら腕の骨も折れているようだ。


「―――う、嘘!?」

「―――ッの野郎!」


 馬車を越すように吹き飛ばされた恵二を見て唖然とするサミと、すぐさま女へと肉薄するセオッツ。どちらかと言えば小柄な少年の身体とはいえ、人間を軽々と吹き飛ばした女相手にセオッツは容赦しない。全速で女に迫り、剣を抜きそのままの勢いで斬りかかる。


 だが、そこでまた信じられない光景を少年は目の当たりにした。


 ギインと、金属同士がぶつかり合ったような音が聞こえた。その音の正体は少年の剣と女の腕が衝突し合ったものであった。


「―――ま、じかよッ!」


 女の恐るべき腕の強度に一瞬驚くも直ぐさまもう一撃、今度は相手の腕を掻い潜って首筋目掛けて剣を翻す。だが、危険を感じたのか女はすぐにセオッツから距離を取る。一旦仕切り直しかと思った直後、後ろにいたサミは詠唱を完成させていた。


「――火弾(ファイヤーショット)!」


 恵二程ではないが、彼女は極力威力を落とさず最速で魔術を発動させ女へと打ち込む。流石にこれ程の詠唱速度は予想していなかったのか、女は火の弾丸を躱しきれず顔面に直撃をする。


「ざまあみろ!」


 思わずそう叫んでガッツポーズを取るサミ。女に着弾した火は女の顔を燃やし続けた。いくら初級魔術で火力が弱かろうとも、顔面が燃えていればタダでは済むまい。そう考えていた二人はすっかりもう1人の存在を忘れていた。


 先程から戦闘に加わろうとしないもう一人の痩せこけた男は静かにこう呟いた。


「許可する。進化せよ」


 その言葉に何の意味があるのかセオッツ達には分からなかったが、それが引き金になった事は確かなようだ。相変わらず頭部が燃えている女の様子がどこかおかしい。全身が小刻みに震えだす。最初は顔面が燃えているのだから体が震えるのも別におかしな話では無いと思っていたが、女の下半身はしっかりと大地に立っており、未だに倒れる気配も無い。


「サミ、詠唱を始めろ!アイツ、まだ動けるようだぞ!?」


 危険を感じとったセオッツがサミにそう忠告をし、再び女に迫ろうかと思ったその時変化が起こった。女の肌の色が段々と色黒くなっていく。ワンピースからすらりと出した腕や足も徐々に太く禍々しいものへと変化していく。頭部もいつの間にか火が消えており、そこから現れたのは火傷一つない化物の顔であった。


「な、なんだよ、コイツは!?」


「私が知る筈ないでしょう!」


 困惑している2人の目の前に姿を現したのは、元は人間の女とは思えない二足歩行の魔物のようであった。目は赤黒く爛々とし、口は元のサイズより大分大きく裂け、体のサイズも先程より2倍程のボリュームがある。手足や口からは鋭そうな爪や牙を覗かせている。そして何より大きな変化は背中に禍々しい羽を生やしていた。


「まるでお伽噺に出てくる悪魔だぜ、ありゃあ・・・」


 セオッツの呟きにサミは昔読んだ本の内容が一瞬頭を過った。彼女がシイーズ皇国に滞在していた時、図書館の中にあったお伽噺や与太話のような内容の本を読んだ事がある。それには人が愚かにも神を目指そうと躍起になっている錬金術師の物語が描かれていた。その男は結局神にはなれず、僕たる天使への進化を試すも失敗し魔人へと身を落としたと書かれていた。確か分不相応な事は止めましょうという戒めを込めた内容だった筈だ。


 それは作り話だと思うが、先程男が呟いた“進化”という言葉が何故か妙に引っかかった。再び詠唱することもすっかり忘れ考え込んだ彼女は一つの結論を出した。


「・・・まさか、人が<覚醒進化(プロモーション)>したとでもいうの?」


 彼女の呟きに地味な男は初めて反応をする。


「ほう、気が付いたか?その通りだ。彼女は人間というカテゴリーから一段階上へと進化したのだよ」


 男はそう誇らしげに叫ぶと、笑みを浮かべ両手を大きく広げてこう告げた。


「喜べ少年少女よ。君たちは栄えある進化を遂げた彼女の最初の生贄だ!君達という命の輝きを糧に彼女はまた更に一段階上へと昇華していく。思う存分抵抗してみると良い!」


 男の御高説が終わると元人間の女であった化物は雄たけびを上げた。まるで新たな自信の誕生を祝うかのような馬鹿でかい産声がビリビリと少年少女の体に響き渡る。


「――――っ!冗談じゃねえぞ!人の状態でも俺の剣を腕で受け止めたんだぜ。今の奴から感じる圧はさっき以上だ。とてもじゃないが防ぎきれねえ!」


「・・・とにかく凌いで。私も手数で牽制する。ケージが復活するまでとにかく時間を稼ぐのよ!」


「ふふ、無駄なことだ。既にあの少年は再起不能だろう?だが、亀みたいに一方的に守られても彼女の進化は期待できないのでね。少し趣向を凝らさせて貰うよ。・・・3号、このまま町へ向かって住人達を皆殺しにしろ!」


「「――なっ!?」」


 男の命令を聞き入れたのか、3号と呼ばれた化物はセオッツ達に背を向け町の方角へと向かう仕草を見せ始める。


「あ、あんた!何を考えているの!?」


「ふふ、凡人どもには理解出来ない事を色々と考えているさ。それより呑気にお喋りをしていてもいいのかね?このままでは3号に君達の家族も皆殺しにされるぞ?」


「―――くっ!」

「させるかよ!」


 大事な家族の身を持ち出され、焦燥にかられたサミとセオッツはすぐに化物へと攻撃を仕掛け始める。


「余所見してるんじゃねえ!」


 セオッツは渾身の一撃を化物の首筋へと振るった。さすがにそこは攻撃が通るのだろうか、化物は体を翻し分厚い両腕でガードをする。全力の一撃でも叩き斬る事ができないのか剣を弾かれたセオッツ。だがわずかにだが傷を作ることが出来たようだ。そのことに安堵するセオッツ。


「いけるぞ!ほんの僅かだが攻撃は通る!」


「防御は任せなさい。――――光の鎧(ライトアーマー)!」


 セオッツの全身が淡い光に包まれる。サミの光属性防御魔術だ。あの化物のパワーの前には気休めかもしれないが、無いより遙かにマシだ。


「くくく、いいぞ!少しでも戦いにならんと進化の糧にはならんからな。3号!こいつ等には赤躍石(レベル2)の居場所を吐いて貰う必要がある。殺さない程度に遊んでやれ!」


 男の命令に咆哮で応じる化物は、先ずは近くにいたセオッツを攻撃対象とした。先程恵二に見せた時よりも素早い動きでセオッツへと鋭い爪を振るう。


「―――っ!!」


 セオッツは今度こそ防戦一方に集中をする。その持ち前の動体視力で相手の攻撃を見極め、自身の体を最大限にフル稼働させなんとか攻撃を躱す。どうしても避けれそうにないものは剣で受けるも、その度に後退させられていく。


 5撃目の攻撃を剣で受けたセオッツは、その反動を利用して大きく後退をする。背後で長い間唱えていたサミの詠唱が終わったのを確認したから距離を取ったのだ。


「――焼き尽くせ!炎の柱(フレイムピラー)!!」


 それは彼女の最大の切り札、中級魔術で最強の火力を誇る<炎の柱(フレイムピラー)>であった。セオッツに集中していた化物は、足元から出現した炎の柱に気付かず全身を巻き込まれた。


「グオオオオオオ!」


 化物の悲鳴が木霊する。流石にこの炎の火力は堪えているらしい。


 どうだと言わんばかりにサミは憎たらしいあの男へ視線を送るが、その男は笑みを絶やさず依然と余裕な態度を見せ、逆にそれを見た少女の背中に冷たいものが走った。


「くく、中々の魔術だ。流石に3号もダメージを負うだろうが、その程度で魔人へと進化したコイツが倒せると思ったのか!」


 男の勝ち誇った台詞にサミは嫌な予感が頭を過る。そしてそれは見事に的中してしまった。鬱陶しそうに炎を払い始める化物は、確かにダメージは負っているようだが未だに大地の上にしっかりと立っていた。やがて纏わりついている炎の勢いが弱まると、そこには全身火傷を負い更に禍々しい姿へと変貌した悪魔の姿があった。


「―――っ!化物めっ!」


「さっきから悪魔だの化物だの失礼な奴らだ。彼女は人を超越した存在、魔人だよ」


 その魔人と呼ばれた存在は多少ダメージを与えたものの、その不気味な威圧感は健在であった。赤黒い爛々とした目を輝かせていた。サミは絶対に屈するものかと、ささやかな抵抗として魔人の眼を睨み返す。すると彼女は、ふとある事に気がついて思わず口を開く。


「―――その目。まさか・・・!」


「ほう、気づいたかね?中々お利口なようだな、お嬢さん」


 サミはその眼に見覚えがあった。赤黒い宝石のような眼に。


「そうだ。それは君達が奪った物と同じ物だよ。彼女は両目にそれを埋め込むことによって進化を遂げたのだ」


「――なっ!」


 男の言葉に絶句する。男が口にした“奪った物”というのは恐らく覚醒進化(プロモーション)をしたオーガの体内から出てきたあの赤黒い宝石のような物であろう。この男も依然ヘタルスで3人を襲撃したフードの男たちの仲間のようであった。


 この目の前の化物は、あの宝石を両目に埋め込むことにより悪魔へと進化を遂げたのだと男は玩具を自慢するかのように話す。


「さて、そろそろ吐いて貰おうかな?お前達が奪った宝石をどこに隠した?」


「・・・なるほど。非道な実験をするあんたの方が悪魔だったって訳ね」


 質問には答えずサミは嫌味ったらしい笑みを浮かべて男を皮肉る。


「ふん、まだ余裕があるようだな。どれ、その薄ら笑みを消してやろう。お前達が我々から奪った宝石を探す為、町では今頃領主の私兵どもが孤児院や宿屋へ乗り込んでいる頃だぞ?」


「――っ!なんですって!?」


 どうやらこの男はガルシアと繋がりがあるようで、現在孤児院や少年達が宿泊している宿に兵が押しかけているのだという。男は更にサミの不安を煽るようなことを口走る。


「伯爵は確かこう言っていたぞ?探し物の邪魔をするようなら誰であろうと容赦はしない、とな」


 男の言葉にサミの顔が真っ青になる。自分がここで足止めを食らっている間に町では大切な人達に危機が迫っていたのだ。男はさらに畳みかけた。


「残念だが、我々の秘密を知った諸君らは生かしてはおけない。だが私が宝石の在り処を聞き出すのが遅れれば遅れるほど兵はずっと捜索を続けるだろう。時間が経てば経つほど君の家族も1人や2人、見せしめに殺されるかもしれないな」


 男はサミ達を絶対に生かして返さないと告げた。だからせめて早く宝石の場所を吐けと告げる。そうすればすぐに兵も捜索を打ち切るだろうと囁く。


「サミ、聞き入れるな!こいつらをさっさと倒してすぐに駆けつければいいだけの話だ!孤児院はきっと大丈夫だ!」


「セオッツ・・・」


 少年の励ましの言葉に不安そうな声で返事をする少女。彼女はらしくなく焦っていた。一刻も早く決断をせねば、大事な人達を失ってしまうと。


「くく。大きく出たな少年。誰が、誰を倒すって?」


「―――俺たちが、だ!」


 背後から聞こえた声の先へと振り向くと、そこには頭から血を流して右腕をだらっと下げた少年の姿があった。

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