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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~  作者: つばめ男爵
1章 新米冒険者ケージ編
45/244

一緒に来てはくれないか?

「勇者召喚された、・・・だって?」

「あの少年が、勇者・・・だと!?」


 恵二の告白に周りで直立していた兵士たちがざわつき始めた。彼らもただの異世界人程度ならそこまで騒がないのだが、やはり勇者の肩書は伊達ではないらしい。レイチェルも驚いた顔をこちらへ向けていた。


 ただ一人、領主であるバアル・エッケラーは黙ったまま恵二を見据えていた。その観察するような視線に耐えきれず、恵二はさっさと話の続きを切り出す。


「この先は他言無用でお願いします。俺はハーデアルトで勇者召喚された者ですが、正式には勇者という訳ではありません。ただ公式発表された7人の勇者と一緒に召喚されたというだけです」


「・・・やはりハーデアルト王国か。このタイミングで異世界の実力者が現れたとなれば、真っ先に疑うのはそこだろうからな」


 恵二の説明にバアルはそう返し、一考したあと再び口を開く。


「つまり、君はハーデアルト王国で召喚された非公認の8人目ということかね?」


「ええ、そうなります」


「それが何故この地にいる?ハーデアルト王のご命令か?それとも君自身の意思か?」


「自分で決めました。俺はもうハーデアルトに席を置く人間ではありませんよ」


「ほう」


 恵二の発言にバアルの眼光が鋭くなる。今の発言に何か思うところがあったようだ。


(俺、何かまずいこと言ったか?これ以上ペラペラと喋らない方がいいのか・・・?)


 そんな恵二の胸中を余所にバアルは再び恵二を質問攻めにする。


「つまり、君はハーデアルトとは袂を分かったということだね?」


「・・・ええ。結果的にはそうなります」


「ハーデアルトに何か不満でもあったのかね?」


「いえ、国王も仲間も大変良くしてくれて、むしろ居心地の良い環境でしたよ」


「・・・ふむ。ならば、何故わざわざこの地まで来たのかね?」


「いろいろ世界を見て周りたいと思いまして、国王には無理を言って王城を出てきました。今は一先ず西へと向かっている最中です」


 恵二がそういうとバアルは一言“そうか”と呟いた後、しばらく熟考する。この男が何を考えているのかよく分からない恵二は黙ってただ時を待つ。やがて考えが纏まったのか、バアルは恵二にこう切り出した。


「フリーの異世界人ではあるが王国とは喧嘩別れをした訳では無し。王城の恵まれた生活にも関わらず、あえて冒険者に身を落とす、か」


「は、はぁ・・・」


 恵二はそう頷くしかなかった。バアルはそう語ると、さっきまでの鋭い眼光は消え、少し落胆したような表情で恵二に再度語り掛ける。


「まぁ駄目でもともと、話だけでもしてみるかね。ケージ君、ぜひ私の元に来ないかね?」


「え?」

「なっ!?」

「・・・やっぱり」


 領主バアルの思いがけない勧誘に恵二とセオッツは驚き、サミは予想していたかのように静かに呟く。


「君の存在はとても希少だよ。その若さでDランクという時点でもサミ君やセオッツ君も囲いたいところだがね。さらに君は異世界人としての知識も持っている」


 確かに、そう言われてみれば誘われたのも納得出来た。以前、商人であるダーナにも誘われたことがある。王城では他の勇者仲間7人の影に隠れてはいたが、恵二の力も十分飛びぬけたものであったのだ。


「それに君は青の世界出身だろう?青の異人(ブルー)は良く変人扱いされるがね、その知識は本物だ。君たち青の異人(ブルー)は他の異世界人と比べると、その頭の良さは群を抜いている」


 バアルはそう恵二を評価する。今までこんなに自分を買ってくれる台詞を言ってくれた人はいなかった。それに青の異人(ブルー)についても悪い感情を持っていないようだし、ここまで持ち上げてくれるのは素直に嬉しい。


(しかし、今はサミの実家の件も気になるし、どこかに骨を埋める気もさらさら無いんだよなあ)


 そう考えた恵二はバアルの申し出に丁重に断ると、バアルは予想していたのか表情を変えずにこう話した。


「そうか。まぁ、そうだろうな。王城での暮らしを蹴る男だ。一介の領主である私の元には来ないのも道理だな」


 だが、と付け加えてバアルはさらに語りだす。


「このまま君という人材をみすみす逃すのは阿呆のする事だ。君とは是非この機会に縁を作りたいのだよ」


「え、縁ですか?」


「左様。私は領主であると同時に伯爵、つまり貴族だ。この町の領主である私は、まず第一に町の治安を守らねばならん。その為の今回の強引な詰問だ。貴族としてもここで引くわけにはいかなかったのでな。分かってくれ」


「はい、それは理解できます。それに今回の事件の一旦は、俺にも原因がありますから」


「そ、そんなケージ君のせいじゃ・・・」

「ケージは悪くないぜ!」

「あれはあの女の頭がいかれていたってだけよ」


 レイチェルとセオッツ、サミは咄嗟に庇うも恵二は首を横に振る。勿論一番悪いのはあの女だが、どうやら自分が青の異人(ブルー)であったことが狙われた原因らしい。無関係とはとてもではないが言えないだろう。


「確かに君に落ち度があったとは思えんが、無関係でもないだろう。だが過ぎたことをいくら責めても仕方あるまい?それより先の事に目を向けた方が、私は利があると思うのだがね?」


「先の事、ですか?」


「左様。私は領主や伯爵といった肩書の他にも、もう一つ商人としての立場もあるのだよ」


 どうやらバアル伯爵のエッケラー家は代々商人の家系であるようで、4代前の当主が貴族入りしてからはぐんぐんと家も町も急成長していった。その商家としての顔もあるらしい。この町の発展は、まさにエッケラー家の功績とも言えた。


「私は商人として先の利を求める。今回の事件は大変な損失であったが、君との縁にはそれ以上の利があると考えている」


「俺との縁が・・・ですか?」


「ああ。実はこの家の当主であるダーナとも旧知の仲でね。君たちがダーナを助けてくれたというのはレイチェル夫人から伺っている。これも何かの縁であろう」


 思わずレイチェルの顔を見ると、彼女は笑みを浮かべたまま頷いた。どうやら本当に知った仲であるらしい。


「そうだな・・・。確か君たちは馬車でセレネトへと向かうところだったのであろう?ならば、新しい馬車を手配しようではないか」


 そう、恵二たちの馬車は馬ごとルルカに凍らされてしまい、使い物にならなくなってしまったのだ。セレネトまではそう距離も無く歩いていけなくもないのだが、伯爵はわざわざ馬車を新調してくれると言う。しかし、そこまでしてくれると見返りに何を要求されるか怖くて堪らない。正直にそう話すと伯爵は悪い笑みを浮かべてこう話す。


「悪いと思うのなら私の部下になってもかまわないのだぞ?まあ、それは冗談としてそこまでの物は求めんよ。まず欲しいのは君の知識だ」


「俺の、ですか?」


「うむ。青の異人(ブルー)ならではの知恵を借りたい。すぐにとは言わん。君達はしばらくセレネトに滞在するのだろう?あの町までなら馬車を飛ばせば半日で着く。私の使いの者を送るからその時にでも出来る限りでいいので助言をお願いしたい」


(それくらいなら問題ないかな?)


 流石に近代兵器とかの情報は躊躇うが、そんな詳しい知識は元中学生である恵二には皆無であった。せいぜいあちらの世界での日常生活を語るくらいであろう。それでも確かにこの世界の生活水準を考えると力になれそうだ。


「わかりました。俺もある程度はセレネトに滞在する予定でしたし、それでかまいませんよ」


「ケージ、それって・・・」


 恵二の発言にサミは言葉を掛ける。そういえば、まだ彼女には依頼を受ける話をしていなかったことを思い出す。


「ああ、サミの実家の依頼の件だが、受けようと思う。しばらくセレネトに滞在しようと思っているから宜しくな」


「え、ええ。こっちとしては有り難いわ」


 さっきまで不機嫌そうだった彼女にやっと笑みが浮かんだ。


「さて、大体話が纏まってきたところで今度はあの女の素性についてなのだが・・・」


 バアルがそう話を切り出そうとした直後、廊下の奥からガチャガチャと鎧を着たまま駆けてくる兵士がいた。


「で、伝令!地下牢に投獄していました赤の異人(レッド)の女が何者かに殺されました!」


「――っな、なんだと!?」

「――――!?」


 これには流石のバアルも驚いたのか怒声を上げた。


「警備は厳重にせよと命令したはずだが、どうなっておるのだ!?」


「は、はっ!兵舎の周辺はいつもより厳重に警戒をし、囚人には3名体制で当たっていましたが賊が侵入したと思われるルートにいた兵の全員が気を失っておりました!現在まだ目を覚ました者は無く、賊の姿が分からない状態です・・・」


「なんて失態だ・・・。囚人は?あの女は確かに死んだのだな?」


「はい、それは間違いありません。死因は魔術による焼死のようですが首から上だけ綺麗に残されておりました」


「・・・私もすぐに向かう。動かせる兵を動員して不審人物を探し出せ!」


「は!」


 バアルはテキパキと指示を出し兵士はすぐに行動を始める。


「すまないが、私は一旦失礼をする。・・・君たちもセレネトに急用があるのであろう?無理に引き止めはせんが、今回の事件についてもまた話を聞かせて欲しい。後日そちらに使いの者を送ろう」


 バアルはそう話すと、代表してサミが返答する。


「・・・わかりました。では町にある教会を訪ねて下さい。そこが私の実家です」


「教会?・・・そうか、君は孤児院の出自なのだな。分かった、今度また機会があればゆっくりと話そう」


「ええ、伯爵様もどうかご無事で」


「うむ」


 挨拶を交わすと、バアルは兵を連れてダーナ邸を後にした。残った恵二たちは緊張から介抱され大きな溜息をつく。


「ふう。なんか、色々とあり過ぎだな・・・」

「俺、もう疲れた・・・」

「流石に私もヘトヘトよ・・・」


 3人は思い思いに口を開きテーブルへと突っ伏す。


「3人ともお疲れ様」


 そこにレイチェルが労いの言葉を掛ける。兵が去ったのを確認したのか、別室で待機していたレイナも姿を現す。


「サミたちも大変ね。それにしても皆無事で良かったわ」


「そうね。あんなヤバイ奴相手に、良く無事だったわよ、ほんと・・・」


 そう思える程、あの女のスキルは強力であった。あんなのを毎回相手にしていたんじゃ命が幾つあっても足りない。そう考えた恵二はつい質問をしてみる。


「あの女のようなスキル持ちは、こっちの世界じゃよく見かけるのか?」


「まさか!あのルルカって女やケージは別格よ。それこそ戦闘向けのスキルなんて超有名人だけだし、視ただけでなんてのは伝説級のスキルよ」


 呆れたように説明するサミ。1人レイナだけは状況が読み込めず、"こっちの世界"という恵二の台詞に首を傾げる。


(流石にあのクラスはそうそういないか・・・。しかし、あの女は誰に殺されたんだ?いや、本当に死んだのか?)


 恵二は、ふと首をはねられても生きていたザイルという名の男を思い出す。そういえば、あの男は恵二を手助けしてルルカに凍らされた筈だが、自身を不死身だと言っていた。


(凍ったくらいじゃ死なないか?待てよ、あの女も生きてるって落ちはないよな?)


 もしかしたらあの女も生きているのではと不安が過る。


「俺、ちょっと出掛けてくる」


「ん?こんな時間に何処行くんだ?」


 セオッツにルルカの生死を確かめてくると告げると自分も着いていくと言ってきたが、恵二はそれを留めた。


「セオッツたちはレイチェルさん達を見ていてくれ。確認だけだから1人で十分だ」


 そう言い残してダーナ邸を後にした。




 兵舎の位置が分からない恵二は、近くにいた兵士に場所を尋ねた。最初は胡散臭そうな表情をされたが、事情を説明するとキチンと教えてくれた。どうやら町の北側に位置するらしい。


 恵二はひたすら北を目指し、やがて細い裏路地に入ったところで突如声を掛けられた。


「・・・ケージ君」


「───!?」


 名前を呼ばれ慌てて振り返ると、そこには外套を羽織った男がいた。


「確かザイルさん、だったか?」


 その男はルルカに首を斬られ、挙げ句の果て凍らされた筈の男であった。よく見ると、男の首には包帯が巻かれていた。


「ああ、そうだ。どうやら君がルルカを倒したらしいな」


 ザイルの問いに無言で頷く。


「君達には本当にすまない事をした。言い訳するわけではないが、あの女の行動は私も予期せぬ出来事だった」


(それはそうだろう。何せこの人、後ろから首落とされたんだから・・・)


 この男にも同情すべき点はある。しかし、だからと言って"すまなかった"ではそれこそ済まない。こっちは死にかけたし、他にも多数の死者が出たのだから。


「・・・ザイルさんはあの女のスキルを知っていたんでしょう?危険だと思わなかったのですか?」


「・・・返す言葉も無い。気に食わない奴だと思ってはいたが、それでも仕え敬う方は同じと思っていた。まさかあの女が赤の異人(レッド)だったとは・・・」


「あの女が赤の異人(レッド)だって知らなかったんですか?」


「・・・面目ない。そもそも我が国も赤の異人(レッド)は入国を禁止している。まさかその赤の異人(レッド)があの方の元にまで踏み込んでいたとは・・・」


「・・・そういえば、貴方は一体何者何ですか?」


 そう、恵二はこの男の事を名前以外何も知らなかった。改めて問いただすと男は恵二の目を真っ直ぐ見つめた後、丁寧に名乗った。


「私はシイーズ皇国の者だ。この度は第一皇女であるクリシア様の命で君のもとへと参じた」


 シイーズ皇国とは確かハーデアルトの東隣である国であったはずだ。中央大陸の最東端であり優秀な魔術師も多いと聞く。恵二は始め魔術を一から学ぼうと考えた時にシイーズ国へ赴くか検討をしていた。だが、調べてみると研究所の類はあっても庶民が一から学べるような学校は存在しないと聞いていた。そこで恵二は行先を西の魔術都市エイルーンへと切り替えた。


 魔術といえば東のシイーズ、西のエイルーンというフレーズがあるほど有名だと話に聞いていた。


「そのシイーズ国の皇女様が、どうして俺なんかを?」


「お願いをする立場なことは自覚しているのだが、今は詳しく話せない。図々しいのは百も承知だが、私と一緒にシイーズまで、クリシア様の元まで来て頂けないか?かなりの高待遇を確約する。そこで事情も全て説明する」


「悪いですけど、説明も無しで来いと言われても頷く訳ないじゃないですか・・・」


「・・・尤もな話だな。仮に第一皇女の権限で出来うる限りのことはすると言ってもか?」


「仮にそうだとしてもです。っていうか、そんな事勝手に決めちゃって大丈夫なんですか?」


「それに関してはクリシア様自らの了承を得ている。いくら時間を掛けてでも説得して連れて来て欲しいと・・・」


 ザイルの話を聞くと、その皇女様はどうあっても恵二を連れて来て欲しいとの事だ。しかし事前の説明は一切しないとは何を考えているのだろう。向こうも恵二の心情を察したのか、こう補足をした。


「説明できない事は大変申し訳ないと思うが、仮に事情を話すともう後戻りは出来なくなると思って頂きたい」


「事情を聞いてやっぱり止めるって言ったらどうなるんですか?」


「・・・その時には情報が漏れないようにするしかないな」


 何やら物騒な事を言ってくる。


「つまり、あの女は俺が嫌がったり情報を漏らしたりしたら俺を無理やり凍らせる為に用意したってことですか?」


「いや、それは完全に誤解だ。クリシア様には手荒な真似はするなと厳命されているし、ルルカは他の者が指名して付けてきた人材だ。・・・その件でこちらものんびりしていられなくなった」


 そう話すと男は急に深々と頭を下げて再度恵二に話しかけた。


「ケージ君。仮にこの話を断っても君に一切危害を加えたりしない。だが、今一度一考して欲しい。出来うる限りの待遇はする。どうか、私と一緒に来てはくれないか?」


 年上の男にここまで懇願されたのは初の経験であった。


(いや、俺そういえば王様にも頭を下げられたことがあったっけ?)


 どちらにせよ、目の前のザイルのような行動を取られるとどうも気恥ずかしい。しかし、恵二にも譲れないものがある。それに最初の出会い方も印象が悪すぎた。


「ザイルさん。頭を上げて下さい」


 恵二がそう話すと男は顔を上げ、恵二の眼を真っ直ぐ見つめた。その視線に若干たじろぐも、恵二はキッチリと断るべく話を切り出した。


「貴方たちにも事情があるのは解りましたが、こっちも目的がある。悪いですけどこの話は受けられない」


「・・・そうか。お互いに事情はある。仕方ない事だ」


 そう告げるとザイルは恵二に背を向けこう話す。


「時間を取らせたな。後、ルルカの件については安心してくれ。何者だが分からぬが奴は誰かに殺された。それだけは確認したから間違い無い」


(いや、それはそれで問題でしょうよ)


 心の中でそう突っ込む。


「私はシイーズに戻る。ルルカの件もあるしクリシア様が心配だ。ではケージ君、達者でな」


 ザイルはそう告げると恵二の挨拶も待たずに闇の中を駆けて行った。


「・・・結局俺は何で狙われたんだよ」


 知りたかったことを碌に聞き取れず、新たな謎だけが増えていった。

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