王様ってはじめてみた
理想は1日1話ですが、仕事の関係上3日に1話が限界かもです。できる限り頑張ります。
「はじめまして勇者諸君。そして、白の世界<ケレスセレス>へようこそ」
「ゆ、勇者!?」
「・・・白の世界?」
恵二たちの目の前に姿を現した赤ローブの男は、芝居がかった口調でそう挨拶をした。
(勇者に・・・白の世界、ケレスセレス・・・?)
また新たな情報が入ってきた。この赤ローブ男の話を信じるならば、どうやら恵二たちは異世界から召喚された勇者で、ここは白の世界と呼ばれる別世界だというのだ。しかし恵二自身はごく平凡な中学生で、腕に自信も無ければ特殊な力があるわけでもない。隣にいる魔女っ子や金髪剣士、弓エルフとは違って、恵二には勇者と名乗るだけの実力を持ち合わせてはいないのだ。
とにかく情報が足らない恵二は、少しでも現状把握に努めるべく目の前の男を観察する。ファンタジー組連中の反応から察すると、どうやらこのおっさんは凄い魔法使いのようだ。いつの間にか男から放たれていた威圧感は消え失せている。男は赤いローブを羽織っており、たしかに魔法使いっぽい出で立ちではあるのだが、ナルジャニアのように杖を持っているわけではない。三角帽子も被っておらず、その黒い頭髪からは多少の白髪が混ざっており、それなりに年齢を重ねた壮年の男といった感じだ。
「さて、勇者諸君。俺の名はランバルド。国に使える魔術師ってやつだ。」
「はい。はい。ちょっと質問。勇者ってもしかして僕らのことですか?」
石山コウキが赤ローブの魔術師、ランバルドに臆することなく問いかける。
「おう、お前さんら八人のことだ。<異世界強化召喚の儀>で呼び寄せた」
「異世界強化召喚の儀?聞いたことない魔術ですね。ぜひ詳しく教えて下さい」
ナルジャニアは警戒心が無くなったのか、ちゃっかり教えを請おうとする。とても好奇心旺盛な子だ。そういえば先程もコウキのハイテク腕時計を興味深げに見ていたことを思い出す。
「あー、質問は色々とあるだろうが人を待たせている。悪いようにはしねーから、取りあえず俺に付いてきてくれ。そこで色々説明もするし質問も受け付ける」
そちらがおかしなことをしない限りは決して危害を加えない。そう話すとランバルドはくるりとこちらに背を向け歩きはじめる。そこまで言われてしまうと、恵二としては黙って付いて行くほか道はない。男の後を追いはじめる。とにかく情報がほしい。他の七人も同じ考えに至ったのか、異論を唱えることなく赤ローブに続く。
その後ランバルドと恵二たち一行は数十分かけて、何度目かの扉をくぐり通路を曲り階段を上りまた進む。その道中、甲冑に身を包んだ兵士らしき者たちと幾度かすれ違う。兵士の反応は様々で興味深げに視線をぶつける者、警戒心の強い者、羨望の眼差しを向け「おお、勇者さま」と呟く者までいる。
(しかし随分と広く複雑な建物だな。それにこの兵士の数・・・。もしかしてここは城か?)
ここまでくれば恵二はこれから何処に連れて行かれ、誰が待ち構えているのか想像がついてしまう。ファンタジーのお約束ってやつだ。隣を歩いているコウキも同じ結論にいたったのか、顔をニヤつかせている。恵二を挟んでコウキの反対側を歩いている茜は、兵士とすれ違うたびにおどおどしながら歩みを進める。すぐ近くに武装した兵士がいるのだ。女子高校生である茜の態度は当然といえた。
(なんか剣やら弓やらで脅されたせいか、耐性がついたなぁ・・・)
そんなことを考えながら、そういえば最初に剣で脅してきた金髪少年はどうしてるのかと見ると、初対面の時とはまるで別人のように顔を強張らせガチガチに緊張していた。
「・・・おい。もしかして緊張してるのか?」
「――っ!し、仕方ないだろう。こんな状況で正常でいられるわけがない!」
自分に話しかけていると気づいたルウラードは顔を真っ赤にし反論する。
「・・・貴族さまなんだろ?こんなこと慣れっこじゃないのか?」
「・・・・・侯爵家といえども所詮私は次男だ。恐らくこれからお会いするであろう身分の方とは全く縁のない立場だ」
そんなものかと恵二は話を切り上げ、この先出会うであろう相手との作法を思案していたが、どうやらそんな時間は残されていないらしい。赤ローブの魔術師が突然歩みを止める。
「さぁ、着いたぜ。――入るぞ」
恵二たちの目の前には、今までで見た中で一番大きく立派な装飾の扉があった。その扉を両脇で番をしている屈強な兵士二人が開け放つ。ランバルドは友達の部屋にでも上がるような気安さで潜り抜けようとするが、それにルウラードが慌てて声をかける。
「ま、待ってくれ!私は帯刀しているのだぞ!そこのエルフも弓を持ったままだ。流石にまずいだろう」
この先には当然、やんごとなきお方がいるはず。さすがに武器持ちはまずいのではと主張するルウラードに赤ローブの魔術師は即答する。
「問題ない。先程話した通りだ。おかしなことをしない限りは大丈夫だが――」
「――妙な真似をすれば死ぬぜ?」
ぞくり、と背中に悪寒が走る。先程のような威圧感はないが魔術師の目が一同を鋭く射抜く。つまり下手なことをすれば、この男は本気で恵二たちを抹殺するぞと告げている。ランバルドの言葉と鋭い視線で、更に緊張が走る一同。
「ありゃ。また脅かしちまったか?ま、おイタをしなきゃ俺がお前たちの身を守ってやるよ。さぁ時間が惜しい。入った、入った」
打って変わっておどけた口調で話すと、ランバルドは中央に長々と敷いてある赤い絨毯に足を踏み込む。一瞬躊躇ったが、まずは怖いもの知らずのコウキと好奇心旺盛なナルジャニアが続けて先へ進む。残された恵二たちも覚悟を決めて後を追う。
扉をくぐった先の大部屋は絢爛豪華な造りで、その奥にはこれまた煌びやかな椅子がふたつ。それぞれその椅子にはランバルドとそう変わらない年齢の銀髪の男性と、美しいドレスで着飾った金髪の女性が席についていた。
その二人の傍らには、恵二より若干年上の男女二人がそれぞれ寄り添っている。青年は金髪で長身、立派な礼服を身に着けている。少女は長く美しい銀髪で、精細なドレスを身に纏いこちらに笑みを浮かべている。部屋の端には派手なローブを着たご老体や鎧を着た兵士が複数、更にメイド服を着た女性たちなど様々な人が整列をしていた。
「――っ!」
「うわー」
「・・・本物だ。本物のファンタジー世界だ!」
「・・・・・・」
その光景に目を奪われる恵二たち。そんな来客たちの反応を尻目に、ランバルドは奥に座している壮年の銀髪男性に話しかける。
「よう、連れてきたぜ」
「ああ、御苦労だった。ランバルド」
やたらフレンドリーな挨拶をした赤ローブの魔術師に、労いの言葉をかける壮年の銀髪男。とてもそんな親しげな態度を取っていい相手じゃないような。恵二の考えを読んでいたのか、その男は席を立ち上がるとさっそく名乗りはじめた。
「はじめまして、異世界の勇者殿たちよ。私はこの白の世界<ケレスセレス>の一国、ハーデアルト王国の王、ルイス・ハーデアルトだ」
「――っ!」
「は、ははー!」
「あわわ、王様ってはじめてみた。こ、こんにちは」
「いや、こんにちはって先輩・・・・・・」
驚いて声が出ない者、慌てて片膝を地につけ頭を下げる者、呑気な挨拶に突っ込みを入れる者など様々な反応をする異世界人の一同たち。そんななか意外な人物が一切取り乱さずに、一同の一歩前を出た。
「お初にお目にかかります王様。私は異世界で宮仕えをしております魔術師ナルジャニアと申します」
異世界組一同の信じられないモノを見た、という視線が彼女に集まる。そう、あのお子ちゃま魔術師が流麗な動作で国王に挨拶をしてみせたのだ。恵二たちの驚きの視線にナルジャニアが察した。
「・・・なんですかその目は?これでも私、王様との謁見は慣れっこですよ?凄いでしょ?」
どうだと無い胸を張る魔女っ娘。うん、やっぱりお子ちゃま魔術師であった。
「おほん。あー、他の者たちもまずは名乗ってはくれまいか?話はそれからするとしよう」
ナルジャニア以外の異世界人たちも自己紹介をしていく。恵二も怪しい敬語でなんとか挨拶を済ませ、こちらのメンバーが一通り名乗り終わると、今度は王様たちの傍にいる面々の自己紹介がはじまった。
「はじめまして皆様。私はルイスの妻、リリィ・ハーデアルトと申します。」
妙齢の金髪女性が席を立ち軽くお辞儀をする。
「私はこの国の第一王子ルークだ。よろしく頼む」
こちらは王様の横に立っている金髪の青年。王妃様似だろうか綺麗な顔立ちをしている。すると今度は王妃様の傍に立っている銀髪の少女が名乗り上げる
「私は第一王女ルーリアと申します。勇者様方、どうぞよろしくお願い致します」
これまた絵に描いたような美少女であった。父親譲りの長い銀髪が彼女の美しさを更に際立たさせている。こちらの世界に来てから美男美女率高くないか。そんな事を考えていたら、今度は端にいる臣下であろう人たちの挨拶がはじまっていく。
「私はこの国の宰相を務めておりますオラウ・フォンレッソと申します。どうぞよろしく」
禿げ頭の立派な髭を生やしたご老体が軽くお辞儀をする。大臣みたいなものか?
「自分はこの国の騎士団長を務めるキース・グリフィードと申します。勇者殿方、以後お見知りおきを」
そう言い深く頭を下げたのは金髪の騎士団長様。年齢は30才くらいだろうか。身長は180cmほどで、これまた凄いレベルのイケメンであった。その他一通りの紹介が済むと、最後に恵二たちを連れてきた赤ローブの魔術師が挨拶をする。
「さっき簡単に挨拶はしたが、改めまして。俺の名はランバルド・ハル・アルシオン。この国の魔術師長だ。そんでもってお前さんたちをこの世界に召喚した元凶だ」
赤ローブの魔術師長は悪びれた風もなくそう言い放った。流石にその言い草はないのではと異世界人たちは抗議の視線を向ける。すると間髪入れず王様が口を開く。
「それについてはまず私から説明させてもらおう。異世界人の諸君、まずは身勝手な召喚をどうか許してほしい」
謝罪の言葉を呟くと、国王は深く頭を下げる。この国トップの唐突な態度に臣下たちが慌てざわめく。そんな周りの反応を気にせず国王は話を続ける。
「しかし、我々には此度の<異世界強化召喚の儀>しか打つ手はなかったのだ。諸君にはすまないと思うが、どうか話を聞いてほしい。そしてこの国に力を貸してほしい」
(・・・まず話を聞いてみないことには、どう返答していいのか困るな)
自分たちを呼んだ事情とやらを聞いてみようじゃないかと、黙って国王の話に耳を傾ける。
他の異世界人たちも同じ考えか、口をはさむ者はいない。
「まず異世界から諸君らを召喚した理由なのだが・・・。近々起こることが予想される災厄、<神堕とし>に備えてのことだ」
(カミオトシ?随分物騒なネーミングだな・・・)
「<神堕とし>とはこの世界、ケレスセレスでの大災厄の1つとされている現象で、詳細は解らぬが過去に三度確認されている」
「詳細がわからない災厄・・・ですか?」
「そうだ。正確には何が原因で何が起こるかわからない。史実上最初の<神堕とし>では国が一つ消し飛んだ。二度目は竜人族が絶滅し、三度目には魔王が魔族を引き連れ攻め込んできた」
なんだそれは、と混乱する恵二。余りにも違う三つの悲劇は、果たして同じ災厄なのだろうか。他の異世界人たちも腑に落ちない説明に首を傾げる。
「混乱する気持ちもわかるが、まあ最後まで聞いてほしい。実はその災厄にはある共通点がある」
過去三度の<神堕とし>と認定される凶事。その事件の前には、とある共通の現象が確認されているのだと王は語る。
――1つは魔物の狂暴化――
この世界には魔物と呼ばれる狂暴な生物が闊歩しているらしい。その魔物が特定の地域で急に繁殖しはじめたり、縄張りを変えたりしたそうだ。また、通常では考えられない強さの亜種が出現するとのことだ。
――2つめが神聖魔術の低下――
この世界では神に祈りを捧げることによって得る魔術というものがあるらしい。傷を癒したり、魔を祓ったりする魔術のようだ。それらの魔術がやはり特定の地域で使えなくなるらしい。正確には効力が激減し、使い物にならないのだとか。
「我が国の北部で類似した現象が確認されている。恐らく北の帝国領土にまで及んでいることであろう」
「・・・それが<神堕とし>の前兆ではないかと?」
「我らはそう考えておる」
確かに聞いた限りでは<神堕とし>とやらの前兆なのだろう。助けがほしいと思うのもうなずける。だが――。
「何故俺たちなんですか?そこの魔女っ子や弓エルフ、金髪剣士は腕が立つのでしょう。しかし、俺や先輩、コウキは何の力もない一般人ですよ?」
「そうです。私ただの学生なのに戦う事なんて出来ません」
そう。解せないのはそこだ。猫の手も借りたい気持ちは分からなくもないが、異世界召喚なんて大それたことをしてまで、何故自分のような一般人を呼んだのかが恵二には理解出来なかった。
「確かに坊主のいうことは尤もだな。・・・これが通常の召喚術ならばな」
「・・・どういうことですか?」
ランバルドの思わせぶりな発言に思わず問いただす恵二。
「俺たちが行ったのは<異世界強化召喚の儀>ってやつだ。これは通常の召喚とは違い、召喚する者を選ぶ」
「選ぶ?」
そうだ、とランバルトが頷く。そのあと彼から通常の召喚術と<異世界強化召喚の儀>の違いを延々と説明される。頭がパンクしそうになったが、どうにかファンタジー脳を全快にして判明したことは以下の通りだ。
――通常の召喚と違い、今回の召喚は勇者の適正があるものが無作為に選ばれる――
――更に身体能力や魔術特性、特に魔力量が大幅に強化され召喚される――
――その上<スキル>とよばれる特殊技能を必ず得る事が出来る――
と以上の様に、至れり尽くせりな召喚らしい。そういわれれば、確かに体が軽く感じられる気がする。身体能力向上の恩恵だろうか。しかし、これだけで魔物を相手に切った張ったができるとは到底思えない。
「言っておくが、あくまで才能を授かるってだけだ。ちゃんと訓練しないとそこらのゴブリンにすら勝てんぞ?」
そんなに世の中は甘くないらしい。というかやっぱりいるのかゴブリンよ。
「――さて、大まかな説明は以上だが、異世界の勇者殿たちよ・・・」
王様は再び席を立ち、俺たちをじっと見つめる。
「改めてお願いする。どうかこの国を救って頂きたい」
一国の王が再び頭を下げ頼んできた。