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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~  作者: つばめ男爵
1章 新米冒険者ケージ編
28/244

私の切り札よ

「皆さん揃いましたね?では出発致しましょう」


 商人ダーナの音頭でシドリスの町を発つダーナ商隊一行。商隊が出て行った西門は現在大穴が開いており、そこをそのまま通って町を出た。見送りに親方も行くと言っていたのだがそれはダーナが止めた。町がこんな状態で親方も多忙を極め、そんな中見送りまでさせては申し訳無いと遠慮したのだ。


 更にダーナたち商人は、薬や建物の復旧に入用な材料を格安で提供した。親方はその気遣いを有り難く受け取ると、“この借りは必ず返す”と言いダーナたちに深々と頭を下げた。



「なんか全然貴族に見えなかったな、あのおっさん」


「・・・そうね。普通の貴族なら絶対あんな態度は取らないわね」


 セオッツの呟きに、何か貴族に嫌な思い出でもあるのか含みのある言い方をするサミ。そういえば、昨日彼女が言った報酬についてふと思い浮かべる。


 “私の実家でボディーガードをお願いしたいの”


 彼女は恵二と同年代ながらにして、Cランクの高ランク冒険者であった。そんな彼女がボディーガードを頼むとは、一体何から守るのか。実家は何者に何故狙われているのか問いただしたが、のらりくらりと躱されてしまったのだ。流石にそれだけの情報では後が怖いので、まだ彼女から魔術を教わる約束はしていない。サミも気が向いたら返事をくれとだけ伝えてそれでこの話は終わった。


(もしかして、サミっていい所のお嬢様で何者かに狙われている、とか?)


 それなら魔術を習得していたり、読み書きなどの教養があるのも頷ける。しかしそれなら何故冒険者なんてしているのだろうかと新たな疑問が浮かび上がる。結局その日は魔物や野盗の襲撃も無く、彼女の事についてあれこれと考えている内に次の村へと着いた。


 日が暮れる前に予定の村へと着いた商隊。現在商隊は入口前で番をしている若者とダーナがあれこれと情報交換を行っているのを見守っていた。その情報を纏めると、どうやらこの村にアンデッドの襲来は無かったようだ。ただ、シドリスから首都へと出した使いの者から、アンデッド襲撃の話しは聴いていたので若い村の者で番をしていたそうだ。

 また昨日は第三森林警備隊の者たちが村に寄って、同じく情報のやり取りをしてから直ぐに首都へと向かったらしい。


「色々とお話ありがとうございます。これは情報料です」


 そう言ってダーナはいくらかを若者の手に握らせた。思わぬ収入を得て顔を綻ばせる若者にダーナはこの村に宿はあるのかと尋ねた。どうやら少人数なら泊まれる宿があるらしいが、この人数全員は無理だと告げられた。そこでダーナたち商人はその宿を使い、残りは村の近くで見張りをしながら野営をすることにした。



「よう、ケージ。今度はお前か」


「ええ、ウッドさん。宜しくお願いします」


「お前が来たなら百人力だな。それじゃ、俺は戻るぜ」


 今日は村の近くということもあって見張りは二人体制で行われた。一番最初に番をしていた大剣使いの冒険者レグルは2時間の見張りを終えテントへと向かった。


「さて、俺は後1時間か。頑張りますかね」


 そう言って恵二と共に見張り番をしている男は、片手剣を装備した少し小柄な冒険者ウッドであった。彼とは余り話した事は無い恵二だが、確か野外での初の昼飯休憩の時に、彼が野兎を掴まえていた記憶があった。そのことを話してみると、ウッドは元々狩猟を生業としていたのだと語ってくれた。狩猟で身に着けた腕を活かし、冒険者に鞍替えしたようだ。見張りをしている間、恵二は彼から野兎や小動物の狩り方や捌き方を教えて貰った。


 その濃密な時間があっという間に過ぎると、今度は老冒険者ダンノがやって来た。


「ダンノ爺さんが来たんで、俺はそろそろ寝るぜ」


「はい、色々とありがとうございます」


 恵二の礼に手を上げて軽く返したウッドはテントへと向かった。代わるようにダンノが隣へと腰を落とす。


「宜しくお願いします、ダンノさん」


「・・・・・・」


 ダンノは無言で軽く頷いた。




「よう、お疲れさん」


「あ、パックさん・・・・・・」


 どうやら次の見張りは槍使いの青年冒険者パックのようであった。やっとこれで長く静寂な時間から解放されると思い安堵する恵二。ダンノは相変わらず無口であった為、ただただ黙って見張りをしていたのだ。そろそろ睡魔に負けそうだというタイミングでパックがやって来たのだ。


「お、次の見張りは師匠とか?やったぜ!」


「え?師匠?」


 何の事か分からずパックに問うと、どうやら以前ダンノさんから槍の手ほどきを受けたのだとか。


「見張っている間にまた教えてくれよ」


 パックの言葉に無言で頷くダンノ。意外な槍使いの師弟関係に興味があったが、それよりも睡魔が勝ったようで恵二はテントへと向かった。宛がわれたテントに向かうと、そのテントの前では月明かりを使って字の練習をしているセオッツがいた。


「お前、まだ起きていたのか?」


「あー、もうちょいでノルマが終わるからな・・・」


 眠たそうな目をしながら黙々と地面に字を書いては消していくセオッツ。様子を見ると、どうやらかなり上達しているようだ。確かセオッツは俺の二人ほど前に見張り番をしていたはずだから、大分長い間練習していたらしい。何が彼をそこまでやる気にさせるのか、興味本位で聴いてみた。


「読み書きできない馬鹿な男はモテないってサミのヤツが・・・・・・」


「あー・・・」


 動機は不純?だが、それがセオッツの為になるのならと考えた恵二はお先に夢の中に失礼することにした。




 翌日、一行は次の目的地であるグリズワード国の首都ヘウカスを目指し歩を進めた。ヘウカスまでは道中町や村は無く、途中で一泊野営をして翌日に到着予定だ。

 グリズワードの国土は広く、その中心から少し南に首都ヘウカスはある。他国の侵入を警戒する為、基本的に首都や王都などは国の中心に位置する。しかしグリズワードの北部の多くが森となっている為、首都ヘウカスは少し南よりに建てられたのだとか。


 村を出て、数時間が経ったところで久しぶりに魔物の襲来があった。


『前方に緑角猪(ブルーボアー)の群れ!多数!!』


 前方から襲撃の知らせが入る。


緑角猪(ブルーボアー)。確か体毛の色で強さが変わる猪、だったか?)


「ブルーなら大したことないわ。Cランクのただの猪よ」


(いや、Cランクの群れなら十分大したことあるのでは?)


 心の中でサミの台詞に突っ込みを入れる恵二。通常Cランクの魔物とは、ベテラン冒険者でも苦戦する相手である。それが群れを成して向かっているのだ。十二分に脅威な相手のはずだ。


(最近アンデッドの大群を相手にしてきたから感覚が麻痺してるのかな?)


 そうは思いつつ、恵二も余り緊張感が感じられなかった。遠くから文字通り猪突猛進に向かってくる猪は、感情が読めず地面から湧いて出る骸骨と比べると可愛く見えたのだ。


「ケージ!サミ!まずは魔術で先制攻撃するぞ!」


 カンテがそう指示をする。いくら可愛く見えてもあの体型で突っ込まれては、冒険者は躱せても馬車が被害を受けてしまう。緑角猪(ブルーボアー)の体長は2メートル程で、更に魔力で強化して突進してくるのだ。受ければ人間などひとたまりもないだろう。故に接近する前に魔術で叩く。そうカンテは考えたのだが、恵二が一つ提案をする。


「カンテさん、俺に考えがある。ここは任せてくれないか?」


「何する気だ?ケージ」


「アイツら全員の足を止める。その間に魔術なり接近戦なりで倒してくれ」


 そう告げると恵二は魔術の準備をする。詠唱は必要とせず、イメージだけで準備を整える。後はただ念じるだけで発動するが、今回は他の冒険者とタイミングを合わせる為あえて口に出す。


「いくぜ、土盾(アースシールド)!」


 恵二の十八番、土盾(アースシールド)を放つ。ただし本来の用途ではなく、相手をこけさせる為だけに猪の足元に小さい土の壁を出現させたのだ。当然避ける事の出来なかった猪たちは、小さい土盾(アースシールド)に足を取られ前方に派手に素っ転ぶ。


「今だ!」

「「おう!!」」


 派手に転び勢いを完全に失った猪たち目掛けて、今度は逆に冒険者たちが突進をかける。すっかり猪のお株を奪われた緑角猪(ブルーボアー)たちはすぐに起き上がるも、次々と冒険者たちに狩られていく。どうやら魔術での追撃を行うまでもなさそうだ。


(今日の晩飯は肉が大量だな)


 呑気に今晩のおかずを思い描いていた恵二は遠くから猪たちを観察する。それにしても猪の名前はブルーボアーなのに体毛の色は深い緑色とは何故だろうと疑問が浮かぶ。


(まるで信号機の色みたいだな)


 そんな事を考えていた恵二の目に、ふと気になった光景が目に入った。その視線の先には、土盾で躓いたまま起き上がらない一体の緑角猪(ブルーボアー)が震えていた。


(なんだ?怖がって怯えているのか?)


 最初は恐怖で震えているのかと思って少し罪悪感が沸いたのだが、様子を見るとどうにも変だ。心なしか猪の体が大きくなっているように見える。体毛も段々と薄くなり、もはや緑ではなくこれは黄色と呼ぶのではないかと思いついてハッとする。


(黄色の?猪!?)


 魔力を纏った猪は体毛の色で強さが変わる。では今黄色に変わったこいつのランクも変わるのではないか。恵二がその考えに至ったと同時に、周りもその異常事態に気が付き始める。


「――っ!体毛が変わった!?」

「おい、あれってまさか・・・」

「――間違いない!あれは<覚醒進化(プロモーション)>だ!」


 覚醒進化(プロモーション)と呼ばれた現象は猪を更に巨体にし、体毛はどこからどう見ても黄色に変化させた。


黄角猪(イエローボアー)。雷属性の魔術も使うBランクの魔物よ」


 隣でサミがそう教えてくれる。どうやらあの猪は、コマイラの町の森で出会ったあの銀狼と同じステージまで昇ったようだ。その猪にまっさきに向かって行ったのはセオッツであった。


「貰った!」


 進化を終えたばかりの猪の足は止まったままだ。いくらデカくなってもそれではただの的だ。そう考えての電光石火の一撃であったが、その猪は回避を取ることも無くただ周囲に魔力を発した。それも雷を纏った凶悪な魔力を。


「――ぐッ!?」


 それをもろに浴びてしまったセオッツはバチッと音がした直後弾き飛ばされてしまう。


(こいつ!放電するのか!?)


 これでは迂闊に近づく事が出来ない。急いで火弾の準備をする恵二だが、その前にサミが既に詠唱を終えていたようだ。


「――焼き尽くせ!炎の柱(フレイムピラー)!!」


 突如猪の足元に浮かび上がった炎が、まるで大地にそびえ立つ柱のように唸りを上げる。堪らず悲鳴を上げる猪だが、その火柱はあっという間に猪を焼き尽くした。その一部始終を見ていた冒険者たちは皆一様にサミを褒め称えた。


「やるな嬢ちゃん」

「すげーな!なんだ今の魔術?」

「あれは中級で最大火力を誇る!<炎の柱(フレイムピラー)>だ。まさかその年で使えるとは・・・」


 同業である魔術師カンテも手放しに褒めていた。褒めちぎられたサミは照れているのかぶっきら棒に一言呟いた。


「・・・私の切り札よ」


 あんな魔術も使えたとは思わなかった恵二は、昨日の教えを乞う件を本気で考えてみるか悩んでいた。だが皆サミの魔術ですっかり忘れていた存在がいた。


「あのー・・・。体が痺れて動けないんですけど・・・・・・」


 セオッツの声は誰にも届かなかった。





 舞台は変わって現在ハーデアルトの王城では、とある大事件が立て続けに発生して大騒ぎであった。これも<神堕とし>の影響なのであろうかと、この国の王であるルイス・ハーデアルトは頭を悩ませた。


「王様、勇者様たちはどうやら無事、前線から戻ってきたようでございます」


 そんな中、王の忠臣オラウ・フォンレッソから朗報が告げられ臣下たちは沸きに沸いた。


「流石は勇者様たちだ!」

「アンデッドの群れなど恐れるに足らずだ!」

「早速歓迎と宴の準備をせねば」


 その報告は喜ばしい事であるが、それに乗じて間抜けなことを口にする臣下に思わず鋭い視線を向ける。だが王が咎めるより先に、忠臣であるオラウ宰相が阿呆の文官に叱咤を飛ばす。


「愚か者め!何が宴だ、まだ何も終わってはおらんわ!」


 そう、あくまで勇者たちが治めた騒乱は同時に起こったアンデッド発生事件の一ヶ所に過ぎず、未だに王国の各地には被害が広がっているのである。それがルイスを悩ませる1つの要因であった。


「・・・オラウ。調べさせた例の範囲は判明したのか?」


「はい、王様。正確な範囲までは分かりかねますが、<神堕とし>による影響とみられる神聖魔術の低下はハーデアルト国中だけでなく隣国にまで広がっております・・・」


 オラウの想定外の凶報に、さっきまで浮かれていた臣下たちは一様に口を閉じ青ざめた顔をする。


 過去の文献を調べてみると<神堕とし>が起こった際、広範囲で神聖魔術の低下と魔物の異常行動が確認されてきた。しかし、今回の影響範囲は過去類に見ないほどの広範囲であった。ついこの前までは王国の北部のみだったはずだが、その範囲が広がったという現象も文献上では初の事態であった。


(何が起こってる!?くそ!やはり情報が圧倒的に足りない!!)


 何も解決策を見いだせない王は、もはや勇者たちにすがる他に道は無かった。




「また折れてしまったか・・・」


 真っ二つに折れた己の細剣を見つめ溜息をつく少年。彼は今、大陸中で巷の噂の勇者であるルウラード・オレオーであった。今日も王の勅命でアンデッドの群れを屠ってきた所であった。勇者の名は伊達ではなく、数こそ多いもののアンデッドなぞには後れを取る事は皆無であった。ただし勇者の剣はその限りではなかったのだ。


「あー、また折れちまったのか。結構値打ちものだったんだがなぁ」


 そう呟いたのは勇者たちの兄貴分でもある王国騎士バルディスであった。面倒見の良い彼はルウラードに何度か剣を調達して上げていたのだが、彼の剣技についていけず直ぐに壊れてしまうのだ。


「値はするのであろうが、こう何度も折れてしまっては安心して戦う事なぞ出来ないよ」


「面目ねえ。こうなれば少し遠出をしてでもこさえてくるしかないか・・・」


「・・・ケージが持っていたあの短剣、あれは素晴らしかった。あれを作った人には頼めないのか?」


 何ヶ月か前にここを発った仲間が持っていたマジッククォーツ製の短剣。あれほどの逸品を作れる鍛冶師ならばきっと素晴らしい剣になるだろうとルウラードは思った。しかし、返ってきたのは返事ではなくバルディスの苦虫を潰したような表情であった。


「どうしたのだ?」


「あー、その件なんだがな・・・」


 剛毅なこの男にしては珍しく曖昧な返事だ。怪訝に思っているとバルディスは相変わらず難しそうな顔をしながら話してくれた。


「わからないんだ。誰が作ったのか・・・」


「どういうことだ?」


「あの短剣は確かに素晴らしい。勿論俺はケージにその事を尋ねた」


 するとその短剣はドワーフ族のカルジが作ったのだと教えてくれた。早速自分も剣を頼もうと教えて貰った場所に向かったが店は閉まっていたのだ。後日聞いたら、その店は偶にしか開いていないそうでカルジは王都の別の場所に住んでいると聞いた。

 更に後日、ルウラードの剣を調達する為に再度店を訪れたがやはり閉まっていた。そこで今度は王国騎士の権限を使って王都中の家を探したのだ。更にはその鍛冶師を教えてくれたと言う情報屋、小人族のハミも探させた。


「だがな、カルジなんて名前のドワーフと小人族のハミなんて奴はな。この国には始めっからいなかったんだ」

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