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までってなんだよ

 ミルワード・オールエンがエイルーンを発ってから三日目、恵二は久方ぶりに学校へと足を運んでいた。短い時間でミルワードから対暗殺者の技術を学んだ恵二であったが、流石にこの短期間で犯人を特定するには至らなかった。その為、万が一を考えた恵二はマージ家を護衛する意味でも、昨日まで<若葉の宿>へと引きこもっていたのだ。


「思ったよりも早く復帰できてよかったですね」


「ああ、ジェイたちには悪いけど……皆が宿に居てくれるなら安心だ」


 四日ぶりの登校の最中、恵二とエアリムはそんなことを話していた。



 この三日間<若葉の宿>に引きこもっては、ミルワード直伝の対暗殺者用の感知技術・防衛術などを磨いてきた。だがそれにエアリムまで付き合わせるのは忍びないので彼女には先に一人で学校へと通ってもらっていた。


 そんな中つい先日、ジェイサムやキュトルたち他の同居人がダンジョンから戻って来たのだ。彼らに事情を説明すると<若葉の宿>での護衛を快く引き受けてくれた。ギルド職員であるホルク・マージの実家が襲われたということもあって、ギルド長が宿での護衛を依頼扱いにしてくれたのだ。ギルドが依頼した形になり報酬もしっかりと出る。その上日頃お世話になっているマージ家の護衛だ。ジェイサムたちは誰一人嫌な顔をしなかった。



「でも呑気に学校へ行っていいのやら……」


 ジェイサムと<白雪の彩華>の三人に護衛を任せた恵二は、これで犯人探しに注力できると思ったのだが、周りから“ちゃんと学校へ行け”と説得されてしまったのだ。今恵二たちが抱えている問題は暗殺者の影だけではない。今度の選抜戦で優勝を果たさなければ、第二エイルーン魔術学校の廃校が決まってしまうのだ。


「仕方ないですよ。こっちもミルワード校長に任されてしまいましたし。それに探し回って見つかるほど暗殺者も間抜けではないと思いますよ」


 対抗策を身に着けたといっても教わったのが僅か一日、練習したのが三日間だけだ。たったこれだけで熟練の暗殺者を探せる筈がなかった。


(確かにミルワードさんも、こちらから探すのではなく待ち構えろって言っていたな……)


 常に気配を絶つのが本職のような輩を相手にするには、押すより引いた方が賢明だとミルワードは口にしていた。ミルワードから教わったものの殆どが自分や身近な者を守る為の技術であった。ミルワード自身も変装魔術を扱う為、それらの対抗策を持ち合わせていたのが僥倖であった。


「大会に優勝をする。皆も守って暗殺者も見つける。大変だけど全部こなしていかなくちゃな」


「そうですね。私も及ばずながら助力しますので、やり遂げてみせましょう」


 握り拳を作り励ますエアリムの可愛い仕草にキュンとしながらも、恵二は彼女の言葉に同意して頷いてみせた。




 恵二が居ない間、学校の方でも動きがあった。いよいよ開催一ヶ月を切った秋の<魔術学校選抜戦>のメンバーを決めていくと発表があったのだ。


「昨日も話したけど、参加希望者は三日後、水の日の放課後、校庭に集合しなさい!」


 簡潔に連絡事項を伝えたスーミーは、次の授業の準備の為足早に教室を去った。<火の組>今日の最初の授業は特別講師ラントンによる魔術史講義であった。もともとの予定は別の教師だったのだが、急遽ラントン氏を招いての特別授業へと変更されたのだそうだ。


(先生たちも忙しそうだよな。こんな状況で校長が不在なんだからそれも当然か)


 ミルワードがエイルーンを離れるにあたって、どうやら学校の進退が今度の選抜戦に懸かっているという情報は全ての教師に開示されたようだ。そしてその情報は生徒にまで少なからず漏れている。ミルワード自身も情報が漏れるのは時間の問題だと話してはいたが、それにしては出回るのが早すぎる。誰か積極的に情報を拡散している者がいるのだろうかと恵二は首を捻る。


 やらなければいけないことは山ほどあり、次から次へと考え事が頭を過る。そんな恵二を余所に授業はどんどんと進められていく。


「―――と、このように魔術で競い合うという風習は、かの黄金歴から度々行われております」


 ラントン氏が気を利かせてくれたのか、授業の内容もタイムリーな魔術大会の歴史についてであった。今生徒間で一番の関心事である魔術大会に関連した授業ということもあって、皆が彼の言葉に耳を傾けていた。


「巨大地下遺跡から発見された古代の闘技場も、観客席を保護するように作られていた事から飛び道具、つまりは魔術戦を行っていたことを示唆されております。古い文献では空に雷が轟くたびに昔の人々は浮遊島で神々が魔術を競い合っているのだと囁かれていたのだとか。もっとも浮遊島自体が眉唾物な存在ではありますが。剣や魔法を競い合うという行為は今も昔も変わらないということですね」


 人は力を持つとそれを試さずにはいられない。魔術といった超常の力を身に着けると特にそういった傾向が見られるのだそうだ。ラントン氏は最後に、魔術をむやみやたらに誇示することないよう生徒たちに注意を促した。<魔術学校選抜戦>はあくまでも魔術の腕を競い合う健全な交流会であり、どちらの力が上かを見せつける趣旨の大会ではないことを伝えたかったようだ。


(スポーツマンシップに則ってやりますよ。勿論優勝を目指してね)


 ラントン氏の言いたい事も分かるが今回だけは勝ちに拘りたい。反則行為やラフプレイをする気は毛頭ないが、負けたらこの学校は廃校だ。春に初戦敗退をしてしまった恵二は今大会こそは優勝目指して全力で挑みたかった。




 午後の授業もつつがなく終えて恵二は一人街中を歩き回っていた。エアリムはクレアと魔術の鍛錬をしに二人で郊外へと出かけていった。選抜戦のメンバーは生徒の中からレギュラー5名と補欠2名が選ばれる。クレア本人の話では彼女は本気でレギュラーの座を狙っているのだとか。


(技術面ではトップクラスだろうけど……他にも凄い奴らはいるからなぁ)


 一緒に鍛錬を続けているエアリムも当然選手候補だ。他にも自分と同じ異世界人であり魔力強化されている山中千里や実戦経験が豊富なゼノーク、その他ライバルが多数いる中、彼女がレギュラーの座を勝ち取れるかは正直難しい所だろう。


「ん?あれは……」


 そんなことを考えながら街中を歩いていると、恵二の視線の先には同じクラスメイトであるリサベアの姿が見えた。彼女は恵二やエアリムと同じ<火の組>の特化生であり魔術の腕も相当なものだ。彼女も選抜候補の一人に挙げられる存在であろう。実力もそうだが普段から勝気な性格で以前恵二は勝負を吹っ掛けられたこともあった。勿論彼女も立候補するのだろうと少女の姿を観察していると、どうやら誰かと話している最中のようだ。


 あんまり他人のプライベートを覗き見るのも気が引けたので視線をきろうとしたのだが、普段の彼女らしからぬ弱々しい表情が気になり、ついそのまま様子を伺い続けてしまう。


(一体誰と話してるんだ?……あの制服は<第一>の生徒か?)


 第一エイルーン魔術学校では日本のように決められた制服が支給されている。制服のまま放課後出歩いている生徒も多く、街中では結構目立ってしまうのだ。それも男女合わせて5人が同じような服装で集まっていると更に際立っていた。


(何かトラブルか?……仕方ない)


 流石に他校の生徒5人がクラスメイトの女子を囲んで、更にその女子生徒が浮かない顔をしているという構図を見て見ぬふりなどできなかった。


「よお、リサベアさん!奇遇だな。そっちも今帰るところか?」


「え?」


 予期せぬクラスメイトに突如声を掛けられ、リサベアは何と答えていいのやら言いよどんでしまう。そしてそれは彼女を取り囲むかのようにしていた第一の生徒たちも同様であった。ここに至って今の自分たちの状況が周りからどのように見られているのか気になりでもしたのか、少しバツが悪そうなご様子だ。


「あー、俺たちもう行くわ」

「それじゃあな、リサベアさん」

「しっかりね、リサベアさん」


「ええ……」


 彼らはリサベアの知人なのだろうか。友人同士としてはとても奇妙な別れ言葉を残して5人は去っていった。残された恵二とリサベアは何を話せばいいのか黙り込んでしまう。だがそれも長くは続かなかった。先ほどのやり取りが気になった恵二は彼女へと質問を投げかけた。


「えっと、彼らは知り合い?そういえばリサベアさんは<第一>からこっちに編入したんだっけ?」


「……ええ、そうですわ。久しぶりに旧友とお会いしたので談笑を交わしておりましたの」


 とてもそんな風には見えなかった。虐められているという程でもなかったが、さっきの5人とリサベアとの間には、何やら不穏な空気が流れているように見受けられたからだ。


「……そっか。最近街中は物騒なようだから、早めに帰った方がいいよ」


 本人がそういうのだから真正面から否定する訳にもいかず、恵二は当たり障りのない返答をした。そしてそのまま彼女と別れようとしたが、珍しく彼女から話しかけてきた。


「貴方は今度の選抜戦、立候補するんですの?」


「へ?あ、ああ。そのつもりだよ。このまま廃校になるのを黙って見ていられないからね。自分なりに努力はしてみるさ」


「そう、ですの。貴方なら間違いなくメンバーに選ばれるでしょうからね」


 今日は妙に元気がないリサベアはぽつりぽつりと言葉を紡いでいった。尤もこうして二人きりで話す機会は今まで殆ど無かったので、これが彼女の自然体なのかもしれない。


「でも……無理ですわ。第一に勝てっこないですわ……」


「やってみなきゃ分からないじゃないか。それに挑戦することは無駄じゃないさ」


 なんとも弱気な彼女の様子に、恵二はもしかして別人と話しているのではと勘ぐってしまった。だがそんな疑惑も次の彼女の言葉で吹き飛んでしまった。


「どうせやるだけ無駄ですわ。それに選抜に立候補なんかしたら、きっと連中から嫌がらせを受けますわよ?夜道を狙われたり、薬を盛られたり―――」


「―――なんだって?」


 最後の言葉は聞き捨てならなかった。恵二は鋭い目つきで彼女に問いただす。


「まさか<第一>の連中は、大会に勝つ為に相手を殺したり毒を盛ったりするような、そんな連中なのか!?」


「―――こ、殺し!?」


 恵二の言葉にリサベアは目を見開き驚くも、慌ててそれを否定する。


「いくらなんでもそれはないですわ!たかが学生の競技大会なんですのよ?」


「……それじゃあ、俺を毒殺しようとした奴は第一とは関係ないのか?」


「―――ど、毒殺!?」


 リサベアは人目もはばからず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「ちょ、ちょっと待ってください。貴方は誰かに毒を盛られたって言うんですの?」


「……ああ。正確には俺とエアリムの料理、その両方にだ。……そうか、俺だけを狙ったんだと思ったけど、選抜候補の二人を狙ったのだとしたら納得だ」


「ありえませんわ!」


 さっきまでの大人しかった彼女とは打って変わって、リサベアは力強くそれを否定した。突如豹変した彼女の態度にどこか違和感を覚えつつも恵二は眉を顰めながら言葉を返した。


「何でそうはっきりと言いきれるんだ?それにリサベアも言っていたじゃないか。連中は毒を盛るかもしれないって」


「それはあくまでも体調を崩す程度の薬物をってことですわ。いくらなんでも致死量の毒を盛るだなんて……ありえません!ケージの考え過ぎですわ!」


 いつの間にか呼び捨てしたことも、されていたことも気にならず、二人は感情的になりながらも口論を続けた。


「考えすぎ!?こっちは死にかけたんだぞ!もしエアリムが口にしていたら……」


「ですから!それが何で<第一>の方たちが犯人だなんてことになるんですの!?全くの濡れ衣ですわ!」


「そ、そうかもしれないが……。先に連中を悪く言ったのはリサベアの方だぜ?」


 ここで少しだけ冷静さを取り戻せた恵二は、<第一>を犯人扱いしたのは些か早計であったかと反省をしたが、先にリサベアがそれを臭わすことを口にしたのも事実だ。


「それは、そうですが……。と、とにかく<第一>の方は流石に殺しまで(・・)は考えておりませんわよ。それでは私、そろそろ帰りませんと……」


 そう告げると彼女は足早に恵二の元を去っていった。残された恵二はぽつりと呟く。


まで(・・)ってなんだよ……」


 また一つ考え事が増えた恵二は眉間にしわを寄せた。




 気を取り直して恵二は再び街中を出歩いた。別に何か買い物があるわけでも、ましてや暇を持て余しているわけでもなかった。市内を歩く理由はただ一つ、暗殺者を探し出す為だ。


(うーん、すっかり尾行している連中の気配が感じられなくなったなぁ。俺を尾ける奴がいなくなったのか、それとも俺が気づかないだけなのか……)


 後者だとすると些か問題だ。ミルワードから一応対抗策を授かっているとはいえ、何時何処で襲ってくるか分からない追跡者(ストーカー)を放置するというのは当然いい気がしない。


 すると、突如後方からこちらへ向けている視線を恵二は感じとった。


(感じとれた!これが修行の成果か!?)


 背後から何者かがこちらを探っているというのに、気配を感じとれたことに恵二は内心大喜びではしゃぎながらも、相手に気取られまいとなるべく自然体を維持したまま歩き続けた。


 だが、その観察者はどうやら忍ぶ気が全くなかったようで、恵二に勘付かれる事もおかまいなしにぐんぐんと接近してくる。終いには、なんとこちらに大声で声まで掛けてくるではないか。これには一瞬気配を察知できたとぬか喜びしていた恵二も肩を落とした。


「おーい、ケージ!」


「あんたは……」


 振りかえり自分を呼ぶ声の主を確認すると、そこにはついこの間自分を尾行していた獣人の間者である狼族の青年の姿があった。確か彼はファングと名乗っていた。間者があっさり名乗ってもいいのかと尋ねたのだが、どうやらそれは偽名らしく、全く問題ないと笑って答えていたことを思い出した。


「よお、この間は悪かったな。ちょっと話があるんだけど、今いいか?」


「いいよ。俺もあんたに聞きたい事があったんだ」


 このファングという獣人は間者にしては陽気な性格で、そしてなんとも口の軽い男であった。勿論機密情報を漏らしたりなどはしないのだが、それ以外のことは殆ど答えてくれる。暗殺者を探すにはうってつけの人物でもあった。



 二人は誰も人が居なさそうな狭い裏路地に入り込むと、周囲に気を配りながら会話を始めた。


「まずケージを襲った暗殺者だが、それらしい連中を見つけることはできなかったが、探っている過程で気になる情報がいくつか入ってきた」


 ファングは恵二の為に毒殺未遂犯の捜索をしてくれていたのだ。ただ彼自身潜む事には長けていても、そこまで戦闘能力はなく、若干及び腰のような形で情報を拾い集めただけのようだ。仮に深入りしすぎて暗殺者と敵対することになれば、この獣人に戦う術はないからだ。


 そんな事情があるにも関わらず、なんと暗殺者の存在を匂わす情報を何点か聞き出してくれたのだ。


「どうやら今この街には、かなりの大物がお忍びでやってきているらしい」


「大物?貴族か何か?」


 恵二の質問にファングは肩をすくめた。


「そこまではわからん。俺にその情報を売ってくれた奴も、それ以上の情報を持っていないか、または教えてくれないのか……。分かることはその大物とやらは東側からやって来たってことだけだ」


「……それが暗殺者と何の関係が?」


 その大物とやらがやってきて、そこでどうして自分が毒を盛られなければならないのか、不思議そうに尋ねるとファングはすぐに答えてくれた。


「その大物を狙って暗殺者集団が動いているって噂だ。それがお前を殺そうとした奴らと同じ連中かは不明だが、気に留めてはおくべきだろう?」


「……なるほど」


 恵二を狙う動機は不明だが、その暗殺者集団が絡んでいる可能性は決して低くはないだろう。


「それと一番新しい情報だ。この街の教会にここ最近同業者が出入りしている。地元の情報屋に確認を取ったが、教会にそんな怪しい連中は普段いないようだな」


 教会という単語(ワード)に恵二の眉がピクリと動いた。この街の教会と言ったら一つしかない。アムルニス教団が所有するこじんまりとした教会だ。セレネトの町にあるコーディー神父が管理する教会ほど大きくはないが、小さいなりにきちんと手入れが行き届いている建物だ。そこに間者らしき者たちが出入りをしているとファングは言うのだ。


 アムルニス教団とはついこの間にやり合ったばかりだ。もしかして未だ性懲りも無く恵二を狙っているのではと勘ぐってしまう。


(しかし教団だとすると生け捕りにしようとするんじゃないのか?)


 教団が欲していたのは恵二の命ではなく、神聖魔術を平時と同じ様に扱える秘密だ。それにその秘密は既に使徒の一人であるエルトランに情報提供をしている。だとすると後は私怨だろうか。恵二たちのお蔭で大陸最強と謳われた聖騎士団の名に傷がついたのだ。それを逆恨みしての犯行という線も考えられた。


(だけど恨みならあちこちに買ってそうだよなぁ……)


 その他にも思い当たるのは、散々邪魔をしてきた<研究会>絡みか、あるいはヴィシュトルテ王国の内乱の生き残りあたりか。<赤の異人(レッド)>の仕業の可能性も考えられた。ただそこら辺は全て憶測であり、今はあまり気にしても仕方が無い。


「それと最後に少し気になる情報なんだが、どうも南側がキナ臭いようだな」


「え?南?」


 南と言われてもピンとこず、恵二が首を捻っているとファングは言葉を足した。


「鉄の国ギルテガルトのことさ。この街は何だか妙に間者の数が多いようだが、その半数が鉄の国から来ているようだぜ」


「ギルテガルト……」


 その国の名には覚えがあった。一年前この街へと来る道中、恵二は簡単にではあるがエイルーン周辺の勢力図を予習していたのだ。



 エイルーンの周りには全部で6つの国家が存在する。北の隣接部にラノッサ王国、北東にグラヴァール王国、東にキマーラ共和国、南にマーズゥール国とギルテガルト王国、そして西にサマンサ国だ。


 元々ラノッサの領土でもあったエイルーン自治都市は王国の後ろ盾もあり、周辺国とは比較的友好的な関係を築き上げていた。


 だがその全部の国が本当に友好的かというと答えはノーだ。実際には水面下で色々な国家間の問題を抱えているのだそうだ。グラヴァール王国は北部にある国と現在戦争中であり、その他の国も自国の利益を求め魔術都市という魅力的な蜜を虎視眈々と狙っている。東隣のキマーラ共和国に至っては閉鎖的で、何を考えているのか分からず不気味な存在だ。


 そんな情勢の中、鉄の国が最近活発な動きを見せているのだという。



「あそこは領土も広いし比較的過ごしやすい土地柄ではあるが、不幸なことにダンジョンが一つもないからな。狭い領内に二つもダンジョンを抱え込んでいるこの都市が眩しく見えるんだろうさ」


 ダンジョンは何も冒険者の探究心や懐を潤すだけの存在ではない。ダンジョン産の魔物は貴重な素材を落とす事が多く、錬金術といった特異な素材を必要とする分野には欠かせない存在なのだ。ここエイルーンは≪古鍵の迷宮≫と≪銅炎の迷宮≫の恩恵を受けてここまでの巨大都市へと成長を遂げていたのだ。鉄の国と呼ばれているギルテガルト王国がこの地を欲するのも無理はないことなのかもしれない。


「鉄の国、か……」


 今回の事件と関連があるのかは不明だが、一応気に留めておこうと恵二は頭の中のメモに書き記しておいた。


「さて、それじゃあ見返りの件だが―――」


「分かっているよ。銀色の狼(シルバーウルフ)について、俺が知っている限りの情報を教えるよ」


 ファングは何も善意で恵二の為に情報を提供しているわけではなかった。その見返りとして彼は、恵二が手懐けている銀色の狼(シルバーウルフ)たちについて色々と教えてもらう約束を取り付けていたのだ。


 一体どこから嗅ぎ付けたのか、この街の四方の門を守護する銀狼の魔物飼い(オーナー)が恵二であることをこの男は突き止めたのだ。狼族の獣人であるファングは大陸の南東に位置する大国、ミルクス国の間者であった。彼の国は人口の大半が獣人を占め、また魔物飼い(オーナー)が多いのでも有名な国でもあった。少数ではあるものの、中には魔物愛護団体などという存在もあり、人類と魔物は共存すべきだと主張を唱える者も少なからずいるのだそうだ。


 そんな国に育った彼ら獣人たちは、高レベルな魔物を使役する魔物飼い(オーナー)をとても尊敬する傾向にある。Bランクに位置する銀狼を4匹も手懐けている恵二に興味を持つのは当然と言えた。更にいえば彼は同じ狼の種族だ。彼らの部族の中では銀色の狼(シルバーウルフ)を付き従えるのは一種の憧れでもあったのだ。


 何としてでも銀狼を手懐けるコツを知りたかったファングは長い時間、恵二を質問攻めするのであった。

11/5一部重大なミスがあり修正いたしました。


誤 参加希望者は明日の放課後

正 参加希望者は三日後、水の日の放課後


申し訳ありません。

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