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白の世界<ケレスセレス>へようこそ

続けて二話目投稿させて頂きます。

「ここは異世界。僕らはこの床の魔法陣で何者かに召喚された可能性があります」


 石山コウキという名の少年は、ここが異世界だと主張した。


「ちょっと待て。異世界召喚ってどうしてそう思う?」


「はじめに行って置きますけど、あくまで仮説です。証拠なんかないですよ?」


 おほん、と石山コウキはわざとらしく一息いれる。その後、まずあれを見てくださいと少年が指差したのはエルフの青年だ。


「あれ、エルフですよね?」


「……エルフだな」


 そう、ファンタジーでお馴染み耳の長い種族エルフ。恵二が知っている知識では、通常種のエルフ、肌の黒いダークエルフ、人間との混血のハーフエルフ等がいる。作品によって設定は様々だが、武装は弓が主流で魔法に長け、人間より長寿で森に棲んでいる。


(ってのがセオリーだけど、まぁ概ねイメージ通りだよなぁ)


 恵二がそんなエルフ像を浮かべながら二人のエルフを見ていると


「ねぇ、エルフってあのゲームとかに出てくる種族よね?」


「……水野先輩もゲームとかやるんすか?」


「うん、少しね」


「お二人とも基本的なファンタジー知識はお持ちのようですね。話が早くて助かります」


 コウキは嬉しそうに語りだす。


「まぁ、エルフってのは確かに異世界っぽいけどさ。あっちがこっちに来たのかもしれないぜ?日本語しゃべってるし……」


「こっち」というのは地球のことだ。ここは日本のどこかで、あちらのエルフやら剣士が日本に飛ばされてきただけかもしれない。しかしそれはそれで非常識すぎる話だ。恵二はいまだにドッキリか何かで、あのエルフや剣士や魔法使いはコスプレじゃないかと疑っている。たった1つ気になることを除いては。


「うんうん、確かに先輩の言うことも尤もです。正直言語についてはわかりません。不思議パワーで会話が成立しているんだ!としか解釈しようがありません……」


 それ、苦しいだろう……。そんなもの仮説ですらないと思った恵二だが、コウキの話はまだ続くらしい。


「僕たち3人がそれぞれ違う世界から来たという証拠は出せそうですよ?」


「え?、私たちが?」

「ほう」


 コウキの台詞に動揺する茜。恵二はさして驚かず、目をわずかに細めそのまま耳を傾けた。


「……どうやら三辻先輩は思い当たるようですね?」


「え?三辻君?石山君?」


 自分だけわかっていないのか、とオロオロしながら二人の返答を待つ。


「まず水野先輩にお聞きします。先輩は帰宅途中、気づいたらここにいた。そうおっしゃいましたが、それって正確には西暦何年の何月何日ですか?」


「えーと……2018年の7月・・・じゅう・・・15日よ!」


 茜のその答えに満足顔のコウキとは反対に、しかめ面をする恵二。


「さて、お次は三辻先輩にお聞きします」


「2016年だよ、10月18日のな」


「え?」


 恵二は質問の意図を予め理解しており簡潔に告げ、茜は予想外の答えに声をあげる。


「先輩。俺がショッピングモールに遊びに行ったのは2016年の10月18日です。間違いありません。」


「それって、つまり……」


(そう、つまり……)


「三辻君はここに連れて来られてから2年間も眠らされたまま監禁されていた。ってことかな?」


 ズルッ!


 思わずずっこける恵二とコウキ。


「え?私、なんか変なこといったかな?」


「い、いや……」


(そうきたか。いや、でも先輩の立場からしたら、それが自然の考え方なのか?)


 それは、恵二が考えてる事実よりかはよっぽど現実味を帯びた真相に聞こえる。しかし茜の話が真実だとするなら、恵二は2年間も意識がなかったことになる。


(それは……流石にないだろう。それに……)


 恵二の考えでは恐らく目の前にいる少年。何がさっきから面白いのか、にやにやしているこの石山コウキが話す内容にこそ、水野茜の仮説を否定する事実があるはずなのである。何故ならこの話は石山から持ち出したからだ。


「で、石山。お前は西暦何年からこの部屋に飛ばされたと言うんだ?」


「よくぞ聞いてくれました。僕が最期にいた記憶は自宅の部屋です。日付はそう―――」


少年は一度言葉を溜めると、信じられない数字を告げた。


「―――西暦2421年3月25日です」


「……は?」

「……え?」


「いやー、びっくりですよねー。まさか400年も前の人たちでしたとは。先輩なんてもんじゃない、歴史上の大先輩ですね!でも案外人間って進化しない生き物なんですね。見た目もそんなに変わらないじゃないですか、僕たち」


 先程と変わらず軽い口調でペラペラと話す未来人に、口をパクパクと動かすが、言葉が出てこない現代人二人。


(―――いや、未来人かもとは思ってたけど、猫型ロボットも霞んじまうくらいの超未来人じゃねーか!)


「2421年に地球ってまだあったんだ……」


 なにやら先輩が物騒なことをのたまっている。それにしても目の前の少年が、400年以上も先の未来人とは全く想像がつかなかった。この超未来人に思うことは色々とある。聞きたいことも山ほどあるが、まずは現状把握だと恵二は思考を切り替えた。


「……つまり、俺たちは同じ日本人でも違う時代から召喚されたって言いたいんだな?」


「そう!その通りです先輩!それなら色んな話の祖語も辻褄が会うでしょう?」


「まぁ、そうだな。お前の言うことが狂言でなければだけどな」


「と、言うと思ってました。そこではい、これ!」


 そう言ってコウキは腕にはめていた腕時計の様なものを取り外し、恵二に渡してきた。


「……なんだ、これ?」


 腕時計かと思われたそれには時間が全く表示されておらず、スイッチのようなものがいくつかある。しかし、押してみても何の反応もない。コウキにこれは何だと訝しげな目を向けた。


「あー、忘れていました。それ、盗難防止用の本人認証システムがあるので他人には使えないんでした」


 今、解除しますね。といって腕時計のようなものをいじくり、再度恵二に渡すコウキ。


「―――!?こ、これは……!」


「わー、なにこれ?どうなってるのー?」


 ただの腕時計かと思ったそれから光が浮かび上がり、ディスプレイのようなものとタッチパネルの様なものが浮かび上がっていた。


「立体ディスプレイですよ。先輩たちの時代にはまだ発明されていないんでしたっけ?」


(確かニュースか何かでそんなのが将来できるかも、と言っていた気はするが……)


「……お前、マジで未来人なんだな」


「まぁ、ごく平凡な一般人ですけどね」


「ふむ、見たことのない魔術道具ですね。非常に興味深いです」


「―――!?」


 急に後ろから声がしたので振り返ると、そこには青髪おさげの魔女っ子が、じーっとハイテク腕時計を見つめていた。


「魔力を全く感じません。素晴らしいステルス性能ですよ。ちょっと分解してじっくり研究してみたいです」


「ちょっ、だめだよ!それ僕んだよ!」


 慌てて腕時計をひったくる持ち主のコウキと、むうっと不満顔で頬を膨らませる魔女っ子。


「嬢ちゃん、気持ちは分かるが話が進まん。マジックアイテムはまた後で見せてもらえばいいだろう?」


 そういって少女を宥めるのは、灰色の髪を無造作に伸ばし、髭もろくに剃らずに生やした190cmはあろうかという大男だ。


「よう、俺はグインという。よろしくな!」


 そういって握手を求める大男。その腕には枷がついている。現代人には見慣れないその異物に、恵二は思わずその枷を凝視してしまう。


「ん?ああ、こいつは手枷だな。俺はこの世界に来る前は囚人でな……。言っとくが囚人つっても無実だからな?俺は何にも悪いことしちゃいねーよ。まぁお偉方にとっては悪いことだったんだろうがよ……」


 なんとも返答しがたい話に恵二は「はあ」と相槌を打つ他なく、黙って大男の話を聞いている。グインと名乗った大男の話はまだ続くらしい。


「しかしこんな俺でも拾う神がいるらしい。あのまま牢屋で死刑を待つだけだった俺が、まさか異世界に飛ばされるたあな。今頃牢屋はもぬけの殻で大騒ぎだろうよ。まぁ俺を嵌めた連中の慌てる顔を見られないのは残念だが―――」


「グインさん、グインさん。私が言うのもなんですが、話を進めましょう」


「―――おっと!わりぃ……」


 魔女っ子がフォローに入り、なんとかグインの愚痴(はなし)が終わった。


(囚人ってことは牢屋の中で話相手なんかいなかったのかな。相当鬱憤溜まっていたのかも。しかしこの人、今異世界って言ったよな?やっぱり―――)


「あのー。やっぱり私たち、異世界に召喚されたんですか?」


 水野先輩が恐る恐る大男に質問を投げかける。


「ああ。俺たちはそういう結論に至った。ま、詳しくはこの嬢ちゃんに聞いてくれ」


 ぼふっと三角帽を大男に触られた魔女っ子は、「全くもう……」と呟きながら帽子を整え直し、すーっと息を吸って口を開いた。


「私はアラン聖国の大賢者、竜鱗の魔術師カーゼレナスが一番弟子、静寂の魔術師ナルジャニアと申します」


「え?ん?何だって?」


(賢者だの静寂だのやけに前書きが多く、早口だったので全く耳に入ってこなかった……)


 すると魔女っ子は再び息を吸い


「私はアラン聖国の大賢者、竜鱗の魔術師カーゼレナスが一番弟子、せじゃくにょっ!!」


(あ、噛んだ)


「えっと、カーゼレナスちゃん?」


(水野先輩、それ多分お師匠さんの名前っすよ……)


「――っ、私の名前はナルジャニアです!静寂の魔術師ナルジャニア!!」


 顔を真っ赤にして大声で抗議するナルジャニア。静寂の二つ名とはかけ離れた喧しさに恵二は思わず耳を塞ぐが、茜はコテっと首を傾けるとポンッと手を打つ。


「じゃぁ、略してナルちゃんだね。よろしくね、ナルちゃん!」


「二つ名どころか、名前まで省略されました!!」


 頭を抱える魔女っ娘ナルちゃん。二つ名、そんなに重要だったのか。


「ところでナルちゃんよ」


「気安く呼ばないでください、黒っぽい人」


(いや、黒っぽい人って……)


 そう恵二の服装はグレーのジャケットに黒いズボン。インナーも黒。髪も黒と確かに黒っぽい人であった。だが、それはそちらも同じだろうがと心の中で叫びながらも、そういえばまだこちらは名乗っていなかったことに思い当たる。


「悪い、自己紹介がまだだったな。俺は三辻恵二。恵二が名前で三辻がファミリーネームだ。よろしくな、ナルちゃん」


「水野茜よ。よろしくね、ナルちゃん」


「石山コウキです。よろしく、ナルちゃん」


「ナルちゃんナルちゃんって、ちゃん付けで連呼しないでください!私もう子供じゃありません!」


 両手をブンブン振って抗議するそのさまは、正しく子供の癇癪であった。


「……お前たちは話を進める気があるのか?」


 やれやれといった口調で話しに入ってきたのは、金髪を頭の後ろで結んだイケメン少年であった。その後ろにはエルフの青年と幼女もついてきている。青年エルフはいまだに警戒心が強いのか、鋭い視線で見つめてくるが、弓を構えようとしないところを見ると、多少落ち着いたのだろう。その青年エルフの服を引っ張るような形でくっついているのは、先程までずぶ濡れであった幼女エルフ。二人は一見兄妹のようにも見えた。


 ふと考えにふけっている間に気づいたら、金髪イケメンポニーテールは恵二の前に立ち手を差し伸べていた。


「先程の非礼を許せ。私はマウペトスの侯爵家次男、ルウラード・オレオーという」


 かなり上から目線だな。侯爵家ってことは、こいつはどうやら貴族のようだ。とすると平民に対してはこれが普通の対応なのだろうか。しかし、自分は貴族とは関係ない人類皆平等の世界出身の人間である。ここは普通の態度で接しようと、ルウラードと名乗った少年の手を取り普通に挨拶を返した。


「俺は三辻恵二。恵二が名前で三辻がファミリーネームだ。よろしく!」


「ふむ、ケージか。なかなか勇ましい名だな」


 と口説き文句をのたまう金髪イケメン君。さっきとは態度が大分違っていた。これが金髪美少女剣士なら、まさしくファンタジー世界の王道、ツンデレヒロインの完成であるのに、と少し残念な思いを抱く恵二。


 そんな馬鹿なことを恵二が考えていた間に、現代人とファンタジー世界の住人との自己紹介がそれぞれ行われていく。残り二人のエルフは名前だけを告げるといった簡素なものであった。


 青年エルフがイザー・ブルールー。

 幼女エルフがミイレシュ・フィア


 どうやら兄妹じゃないらしい。これで密室に閉じ込められた八人全員の紹介が終わった。


「さて、皆さん。ようやく本題に入りますが……」


 ナルジャニアが代表して語りだす。どうやら彼女はこの部屋を既に調べ終え、ある程度は現状を把握できたのだという。流石は静寂の魔術師殿だ。


「私たちはこの床にある魔法陣で、何者かによって異世界から召喚されました」


「ああ、しかも何人かは同じ世界から飛ばされた者もいるが、その時代、場所はバラバラのようだ」


 そう語るのは大男グイン。


「私と同郷の方はいないようですが、ルウラードさんとイザーさんは同じ世界出身のようですよ?」


「あと俺とエルフの嬢ちゃんもどうやら同じ世界出身のようだな」


 ナルジャニアに続いてグインが語る。


「……そうなのか?」


 青年エルフ、イザーが問うと、コクンと可愛く頷くミイレシュ。


「お前たちも同じ世界なのだろう?」


 金髪イケメンのルウラードが地球組の恵二達3人に問いかける。恐らく見たことない服装からそう思ったのであろう。この面子だと、むしろ俺たちの格好の方が浮いているのだが。


「ああ、俺と水野先輩、石山は同郷だ」


「……なんだか私だけ仲間外れですね」


 しょぼくれる魔法使いナルジャニア。しかし気落ちしていたのも一瞬ですぐに話を戻す。


「―――さて、私たちの現状ですが、あまり良くはありません」


「というと?」


「まずこの魔法陣。異世界の、しかも時代の違う人間を八人も引っ張ってくるだけの陣です。相当高度な技術と魔力が込められています」


「我らを召喚した者は、かなりの実力を持った魔術師であると?」


「はい。更にこの部屋ですが、魔術的要素で密室となっております」


「……ただの石壁じゃないのか?」


「私が全力で魔術を放てば壊せないこともないでしょうが、私たちが五体満足で出られないですね」


(壁は壊せても埋まってしまえば元も子もないという事か。というか召喚者はどういった意図で俺達を呼んだんだ?)


「……実は抜け道はもう見つけてあります」


「そ、それじゃぁ早くその抜け道で逃げようよ!」


「落ち着いてくださいアカネさん。その抜け道とはあそこなのですが―――」


 ナルジャニアが指し示した先は一見ただの壁のように見えた。


「魔術で隠ぺいされています。あそこからなら簡単に壊して出られますが……」


「ふむ、何か問題でもあるのか?」


「この部屋は何者かによって監視されております。それもかなり高位の魔術師に―――」

『―――気づいたか、なかなかやるな、魔術師のお嬢ちゃん――』


 部屋のどこからか突如声が響いた。と、そう思った瞬間、それは起こった。


「「「―――っ!?」」」


 それは一言で言うならば圧迫感。恵二は今まで感じたことのない焦燥感に駆られていた。


(―――っ!?空気が重いなんてもんじゃねぇ!押しつぶされそうな感覚だ!)


「―――凄い魔力量です!」


「馬鹿な!これほどの魔術師が存在するのか!?」


 魔力を感じる者はその莫大な量に、感じない者ですら目に見えない重圧に押しつぶされそうな感覚に陥る。


『ああ、すまん。怖がらせる気はなかったんだが……』


 そう声が響くと同時に壁の一部がまるで魔法の様に崩れていく。先ほどナルジャニアが抜け道だと指差した場所だ。八人全員がそちらに視線を送ると、その奥には40から50才くらいだろうか。白髪交じりの黒髪に厳つい顔、赤いローブを着たおっさんが立っていた。


(魔法が使えない俺にもはっきりと分かる。この圧迫感の元凶は、あいつだ!)


 赤ローブの男は俺たち八人全員をゆっくり見渡すと、口角をニヤッとあげ語りかけた。


「はじめまして勇者諸君。そして白の世界<ケレスセレス>へようこそ」



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