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言った筈です

最近投稿できなくて申し訳ないです。投稿スピードもそうですが、内容もお粗末にならないよう努力していきたいと思います。

 ダンの咆哮を純白の大盾で防いだ聖騎士メットは思わず呟いた。


「やれやれ、盾が壊されるかと思ったわい!」


「4人逃げる!直ぐに追いましょう!」


 続けて若い聖騎士ジランドが逃げる冒険者を追う為に馬へ乗ろうとするも。それをミグゥーズは制した。


「およしなさい!我々に与えられた最大の使命はケージという名の少年を捕らえること。それにあちらにはSランク冒険者が二名いると聞いてます。さっきの咆哮といい、きっと幾つかの手札をお持ちでしょう。迂闊に動くと痛い目を見ますよ?」


 副団長にそう諭されると若い聖騎士は踏みとどまった。ジランドはこの面子の中では一番若く才能にも恵まれている将来有望な聖騎士であった。その為か若干勇み足になる場面もちらほらと見られる。


 だが、そんなジランドもミグゥーズの言うことはきちんと聞く。若い聖騎士は知っていたのだ。彼女の言動は確かに過激で一見異常者のようにも思えるがその実力と慧眼は確かで、それこそが聖騎士団の副団長を務めている所以であることを。


「先ずはSランクの二名を無力化します。メットを先頭に足並みを揃え接敵しますよ。各員<聖具>を準備しなさい!」


 ミグゥーズがそう告げると聖騎士たちはそれぞれに与えられた白い魔術武装<聖具>を持ち構えたまま、冒険者たちが立て籠っている土壁へと近づいていった。そして距離が20メートルを切ろうかという辺りで───


「───行くぞ!」


 その声と同時に冒険者たちが飛び出してきた。しかし聖騎士へと迫ってきたのはダン一人だけであった。恵二とリアネールは合図と共に聖騎士たちに背を向けて逃走を始めたのだ。


 これには聖騎士たちも驚いていた。少なくともSランク冒険者二人がかりで向かってくるものだと決めつけていたからだ。聖騎士の中には自分たちのことを侮られたと思う者もいた。たった一人で足止めできると思い上がった冒険者への怒りの感情が聖騎士たちに沸き起こった。


 しかしミグゥーズ一人だけは冷静であった。前にいる聖騎士二名と交戦を始めるのを確認すると、彼女は全員に素早く指示を送った。


「ジランドは私と共に来なさい。少年を追います!他はその獣人を速やかに無力化しなさい!」


 聖騎士たちが最も重要視していたのが、神聖魔術を使えるという少年の確保だ。<神堕とし>の影響下で彼ほど普通に神聖魔術を扱える人物は、傑物揃いの聖騎士団の中にも存在はしなかった。なんとしても彼からその秘密を聞き出したかった聖騎士団は、Sランク一人に全員が足止めされるわけにはいかなかったのだ。


「───四人がかりか!?上等だ!」


 複数で攻められるのは覚悟の上であった。ダンの想定では多くても三人かと考えていたが、思いの外自分は警戒されているのか、4人の足止めに成功をする。


(4人で俺をボコってから恵二を追うつもりか?それとも聖騎士二人でケージとリアをどうにかできるとでも考えてやがるのか?)


 ダンの見立てでは、今の自分でも聖騎士二人くらいなら互角だと考えている。リアネールもおそらく似たような戦力だろうと計算していた。


 だが副団長であるミグゥーズだけは他の聖騎士とは違う凄味を感じる。彼女の実力は自分やリアネールと同じSランクの領域ではないかと、ダンは長年培った洞察力からそう判断をしていた。


 もしそうだとしたらリアネールはミグゥーズ一人にかかりっきりで恵二は聖騎士と差しになる。もしかしてそれこそが聖騎士団の狙いだろうかとダンは舌打ちをする。


(俺は4人相手で手一杯……。この作戦はケージがどれだけ踏ん張れるかが重要だ―――頼んだぜ!)


 心の中で少年にエールを送ったダンは迫りくる4人の聖騎士へと戦いを挑んだ。勝負の決まった負け戦へと―――。




「―――ケージさん、追手は二人っす!想定より少ないっすが副団長も来てるっす!」


「……あの女はやばそうだよなぁ」


 Sランクの二人と比べて経験の浅い恵二にもミグゥーズの危険さは十分に理解できていた。言動にも驚かされたが何よりも彼女から発せられる闘気とも呼べる威圧感は、他の聖騎士のそれを凌駕していた。察するにかなりの難敵だろう。もしあの女が追って来た場合、リアネールが相手をすると二人は事前に相談して決めていた。


「あの二人、馬から降りてるってのに馬鹿みたいに早いっすね!」


 前を走るリアネールがそう愚痴るのも仕方が無い。例の女聖騎士もそうだが若い方の聖騎士も重装備の鎧を着ているとは思えないほどの素早さであった。喧しい音を立てながら二人が猛追してきているのを背中越しで感じとれた。


 リアネールはスピードに自信があった。その上軽装な為、本気になればあっという間に聖騎士団から逃げおおせるだろうが、それだと恵二を置き去りにしていってしまう。一方の恵二もスキルで強化をすれば簡単にこの場を離脱できるのだが、そもそも二人は始めから逃げる気などなかった。もし本当に逃げる気ならダンも含んだ三人で背を向けていた。


 それでも二人が逃げる素振りを見せたのは、戦力を分散させる為であった。こちらが3人に対して向こうは6人と人数差は二倍もある。それが一介の騎士程度ならばなんら問題のない人数差ではあるが、聖騎士となると話は別だ。まともにやり合ってはどうしても数で押し切られてしまう。そうならない為の逃走であり、数の不利を補う為に二人はもう少しダンたちの戦場から遠ざかる必要があった。


 追い付かれないよう、ただし全力で逃げているかのように速度を調整していたリアネールは、そろそろ距離を稼げたかと思い始めた、その時であった。


「―――っ!ケージさん!」


 突如背後から聞こえてくる追手の立てる音に異変を感じたリアネールは警告を発する。恵二もそのことに気が付いて慌てて振りかえると、まだ大分距離が離れていた筈の若い聖騎士がすぐ近くまで迫っていた。


「嘘だろ!?」


 加減して走っていたとはいえ、こんなにも早く追い付かれるとは思っておらず、恵二はついそんな声を上げてしまう。そうこうしている内にその若い聖騎士はあっという間に剣の間合いへと踏み込んでいた。


「来い!」


 叫んだ恵二はその場に急停止し、マジッククォーツ製のナイフを構え敵を迎え撃とうとする。だがその聖騎士は恵二には目もくれず、凄まじい脚力でもって恵二を避けるように通過をすると、前を走っているリアネールへと迫った。


「―――こっちが狙いっすか!?」


 若い聖騎士の背後からの攻撃をリアネールは難なく剣で捌くと、もう一方の剣でカウンターをお見舞いする。それを聖騎士は素早く後退して躱す。リアネールの攻撃は避けられるほど生易しい速度ではなかったが、聖騎士はその尋常ではない脚力でもって一瞬にして間合いから逃れたのだ。


(くそ!あいつ、早すぎる!?)


 ミグゥーズの相手がリアネールであるのなら、あの聖騎士は恵二の相手であった。直ぐにそちらへ向かおうとした恵二であったが、背後から凄まじい殺気を感じて恵二は慌ててその場を回避する。すると先程まで恵二が立っていた場所にはとても長い白い槍が突き刺さっていた。おそらく恵二の足を狙って穿たれたのであろう。その異常なまでに長い白槍は地面から抜かれると、そのまま縮み持ち主の手元へと矛先が戻っていく。どうやらその白槍は伸縮可能な魔術武装のようで、すっかり元の長さに治まるとその槍を持っていた彼女はこう呟いた。


「おや?今のを躱しますか。どうやらあまり侮っていい相手ではないようですね」


 口ではそう言うも、そこまで驚いたようでもましてや残念がるのでもなく、聖騎士副団長のミグゥーズは淡々とそう述べた。


「ジランド!貴方はそこの女を相手にしなさい。私はこの少年を捕えます」


「―――させないっすよ!」


 ミグゥーズの相手を任せられているリアネールとしてはそれを看過できず、先程より数段ギアを上げた速度でもって二人の間に割って入ろうとする。だが、そのスピードに若い聖騎士ジランドは対応をした。リアネールの行く手を遮ると白い剣でもって応戦をしたのだ。


「くっ!邪魔っす!」

「あんたの相手は俺だ、<双剣>の!」


 リアネールは行く手を阻む聖騎士を一刻も早く排除しようと目にも止まらぬ猛攻で道を切り開こうとする。だが相手もかなりのスピードの持ち主であった。剣の手数こそ押され気味ではあるものの、その凄まじい脚力を生かし彼女の攻撃を凌いでいた。思わぬ隠し玉の存在にリアネールの表情に焦りが見える。聖騎士一人を相手に手こずるわけにはいかなかったのだ。何しろ残された恵二の相手は―――



「さぁ、これで邪魔者はいません。ケージ君と言いましたね。私と少しお話しをしましょうか」


 大陸最強と謳われる部隊のナンバー2を務めるミグゥーズは少年に微笑を浮かべるとそう告げるのであった。




(くっ!誤算もいいとこっす!まさか私以上に速い聖騎士がいるとは……!)


 自身の役目を全う出来ていないリアネールは焦っていた。第一目標は“ミグゥーズを押さえること”であった。だが、もし彼女を押さえられなかった場合、リアネールは比較的少ない数の聖騎士を相手に戦うことが予想されていた。その者たちを速やかに無力化して他の応援に駆け付ける。これが第二プランであった。


 だが現状はたった一人の聖騎士相手に手間取っていた。その不甲斐無さにリアネールは歯痒い思いをさせられていた。少しでも早く目の前の敵を排除したいのだが、向こうもそれは承知の上のようで、自慢の脚力でもってヒット&アウェイを心掛けていた。完全に足止め狙いの戦い方であった。


「どうした<双剣>!止まって見えるぜ!」


「―――鬱陶しい蠅っすね!私たちに構っている暇あったらアンデッド共にたかっていればいいっす!」


 挑発だと分かってはいても、こうも鬱陶しいと売り言葉に買い言葉でつい反論をしてしまう。だがリアネールの皮肉にも聖騎士は笑みを浮かべたままこう答えた。


「心配は無用だ!俺たち以外の聖騎士が既にダンジョンへと向かっている!アンデッド退治という大義名分があれば、大手を振って聖騎士団は動けるからな!」


 ジランドと呼ばれていた目の前の聖騎士はお喋りなのか、律儀に返答しながら応戦していた。これは好都合だと考えたリアネールは、何とか目の前の聖騎士を倒そうとしつつ、それと並行して得られる情報は頂こうとこちらからも積極的に話しかけた。


「ふん!今更っすね。おたくらが初めから動いていれば、私たちがわざわざ聖都くんだりまで来る必要がなかったっすよ!」


「仕方なかろう!娘の救助という名目では、いくら教皇の地位でも聖騎士団は動かせん!」


「―――なら!それなら今回はどういった了見っすか!?ギルドが派遣した冒険者に危害を加えた上に、ケージさんを捕まえる?大陸全土にいる冒険者を敵に回すつもりっすか!?」


 なかなかこちらの攻撃が当たらないリアネールは若干いらつきながらも問いただした。その問いにジランドも負けじと返した。


「そちらこそ教会を敵に回すつもりか!?奴は神聖魔術を扱う教徒にとって重要な情報源だ!それともギルドはとっくにそのことを承知で秘匿していたのか!?人類に対する重大な裏切り行為だぞ!」


 ジランドが口にする言葉は少し大げさに聞こえるかもしれないが、アムルニスを崇拝し、その恩恵ともいえる神聖魔術の復活を望んでやまない信徒たちからすれば当然の意見でもあった。それを十分に理解しているリアネールはそのことについてあまり強くは反論できない。だが、だからといって冒険者仲間を売り渡す行為など以ての外で、教団や聖騎士の行為を見逃す程リアネールは信心深くはなかった。


「だったらきちんと手順を踏むっすよ!人攫いのような真似をして神の尖兵とは笑わせるっすね!」


「―――貴様!聖騎士団を侮辱する気か!」


 怒りに一瞬我を忘れたジランドは攻勢に出る。だがそれをリアネールは見抜いていた。いくら速かろうとも来ると分かっていればどうにでもなる。右手に持った剣を振るってわざと隙を作ると面白いくらいに相手が喰いついてきた。お互いの剣が交錯する。


「「―――っ!」」


 声にならない悲鳴を上げたのは両者であった。


 ジランドは自分が罠に嵌められたことを察して慌てて回避行動に移り、リアネールは完全に仕留めたと思った聖騎士を寸でで逃した事に対して悔しさを滲ませた。だが聖騎士に深手こそ与えられなかったものの、利き腕に傷を負わせる事はできた。


「くそ!浅知恵を……!冒険者風情が、よくも……っ!」


「ぷっ!その浅知恵に見事引っかかった猿が何か吠えてるっすねー」


 リアネールは嫌らしい笑みを浮かべながら挑発行為を繰り返すも、内心ではかなり焦っていた。今こうしている間にも、恵二は副団長ミグゥーズと対峙していたからだ。


(ケージさん、待ってるっすよ……!)


 ハイレベルな追いかけっこは、まだまだ続きそうであった。




「話し?いきなり槍で襲っておいて話し合いってのが、アムルニス流の礼儀なのか?」


 恵二が嫌味を返すとミグゥーズはその微笑を止めた。まるでこちらを虫でも見るかのような冷たい視線で恵二を射抜くとこう述べた。


「寛大な神であればそのような暴言お許しになられるでしょうが、それ以上の侮辱はこの私が許しませんよ?」


 どうやら神を冒涜する発言はお気に召さないご様子だ。先程までより強い敵意を放ってくる。それに気圧される形で恵二は二歩三歩と後ずさりをする。


超強化(ハイブースト)で一気に片を付けるか?……いや、魔力もスキルもついさっき(・・・・・)大分使っちまった。後一戦くらいどうとでもなるだろうが……ここは二人を信じよう!)


 ダンの作戦において恵二の役割は“時間稼ぎ”であった。最大戦力であるSランクの二人が基本戦闘をする流れだが、恵二という戦力を遊ばせておくほどの余裕は今回無かった。


 “もし恵二の方に聖騎士が向かったら、なるべく多くの数を引きつけて逃げに徹する”


 “単騎ならば、いければ倒す”


 “だが、万が一ミグゥーズ相手ならばとにかく逃げろ”


 これがダンから言われた内容であった。ただの聖騎士なら兎も角、副団長相手では勝ち目がないというのがSランク二人の恵二に対する評価であった。


 恵二は自惚れる気などなかった。思いのほか自分のことを買ってくれている二人がそう言うのだから、きっと自分はあの女に勝てないのであろう。素直にそう受け取った恵二は既に逃げる気でいた。横目で垣間見えるリアネールと若い聖騎士との戦いは硬直しているようだが、自分は自分の役目を全うしようと考え、その場を離脱しようと心に決めた。


 すると恵二が動き出そうとする前のタイミングでミグゥーズが声を発した。


「怯えさせてしまいましたか?どうやら貴方は“逃げ”に徹する構えの様子。貴方が大人しくこちらの言うことを聞いて頂けるのでしたら、これ以上無駄な血を流さなくても済むのですよ?」


 その言葉に恵二はドキリとした。女は恵二の行動をお見通しのようであったからだ。どこかで逃げる素振りでも見せてしまっただろうか。演技の下手な恵二は思わず顔を顰めてしまう。


「ふふ、正直な子ですね。最後通告とさせて頂きましょう。武装解除して我々と共に聖都に来るのです。神もそれを望まれております」


 まるで自分は神の代弁者なのだと主張するかのようにミグゥーズはそう告げた。しかしダンが体を張り、リアネールが今も必死で戦っている中、自分だけが降りる訳にはいかなかった。


「断る!あんたたち教団はあまり信用できない。もしそちら―――がっ!」


 恵二は呼びかけを拒否しようと返答していると、突如激痛に襲われた。その痛みの元を見ると恵二は目を見開いた。いつの間にか自分の腹部に白い槍が貫いていたからだ。


 それはミグゥーズの魔術武装<聖具>であった。聖騎士の一人一人に合わせて作られたその武装は通常武器とは違い、魔力を使用することで様々な効果を発揮する。彼女の槍は魔力を籠めることによって伸ばす機能が備わっていた。それも凄まじいスピードで伸縮する為、恵二は気づかぬ間に貫かれていたのだ。


 まさか自分を生かして捕えようと考えている相手が、その誘いを蹴った直後に躊躇する事無く攻撃してくるとは思いもしなかった。苦痛に歪めながらも自らを刺した女を睨みつけると彼女はこう答えた。


「言った筈です、最後通告だと……。言った筈です、神がお望みになられていると……。なのに……何故、貴方はこうも聞き分けがないのですか?」


 そう述べた彼女の表情は、まるでこちらを憐れんでいるかのようであった。槍を元のサイズに縮めて引き抜いた彼女は続けてこう言い放った。


「どうやら貴方には身を持って神の教えを説く必要があるようですね」


 狂信者ミグゥーズは冷たく言い放つとその白槍を再び恵二へと振るいだした。

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