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初めまして冒険者の皆様

すみません。またしても金曜日分の投稿間に合いませんでした。これとは別個に今日の分も投稿できればと思います。

 丁度北側へと転進し始めていた一行の横っ腹から追手とみられる騎士団の姿が見えた。遠目からでも彼らの着ている真っ白な鎧姿が視認できる。


「あの鎧は聖騎士団共通の物だろう!?どこの部隊だ!?」


 冒険者のパイルは教団の兵士について一番詳しいミルトに大声で尋ねた。


「―――武器も白……最悪です、聖騎士団が来ました!」


「ちっ!すんなりとはいかねえか」


 ミルトの言葉にダンは舌打ちをする。


 先程彼女からざっくりとだが聞いた話では、白い鎧は聖騎士団の名を冠するどの部隊にも共通しており一目で見分けるのは困難だが、武器の色でどの聖騎士団かを簡単に見分けることができるのだそうだ。鎧と武器を白で統一させているのは教団が誇る最強部隊<聖教国騎士団>の特徴なのだそうだ。その最強の聖騎士たちがざっと20騎ほどこちらへと迫っていた。


「―――あ、待ってください!……彼らは聖騎士じゃありません!准聖騎士のようです!」


 彼女のその言葉に一同は安堵の息を漏らす。どうやら彼らは聖騎士団の本体ではなく予備軍のようだ。


 <聖教国騎士団>の准聖騎士たちにも白い武器を扱うよう厳命しているそうなのだが、それは白い鉱石で作られただけのただの白い剣なのだそうだ。それが晴れて定員47名である聖騎士の仲間入りを果たすと、彼らには個々に合わせた白い魔術武装が与えられるのだという。


 つまり今追ってきている彼らはおそらく准聖騎士だと推測される。その騎士たちは皆同じような白い剣を帯刀していたのだ。


「二軍相手なら一旦足を止めて応戦するか?」


「……仕方ないっすね。ちゃちゃっと終わらせて、直ぐにとんずらこくっすよ!」


 これ以上時間を掛けるのは得策ではなかった。准聖騎士とはいえ彼らが来たという事は<聖教国騎士団>も動いたという証であった。おそらく彼らは逃亡者の捜索か足止めを指示されたのだろう。ぼやぼやしていれば直ぐに本体までもが到着してしまう。


「―――19、20……22か!一人で三人ってところか?」


 単純に人数を割っただけのダンの計算にミルトは狼狽する。


「―――無理です!私はそこまで正面切って戦えるほど強くはないです!」


 教団の裏組織とやらに所属していると思われるミルトは、謀略や不意討ちには長けていても真正面から戦う力はそれ程高くないのだと言う。規格外(Sランク)以外の冒険者たちも相手が見習いや駆け出し兵ならまだしも、あそこまで統率の取れている騎士たち相手では少し厳しいと弱音を吐く。


「―――む、そうか。仕方ねえ、また<咆哮>を使うとするか。相手に居場所を教える形になるから、あんまし使いたくはねえんだがなぁ……」


 使い勝手が良さそうな<咆哮>にも弱点はあった。声を上げるという性質上、どうしても目立ってしまうのだ。かといって声量を絞るとどうも効果が激減するらしい。半端に使うくらいならとダンは覚悟を決めると、准聖騎士団の方へ向けて思いっきりの雄たけびを放った。


「グルアアァァ―――ッ!!」


 熊族のダンの雄叫びに准聖騎士団の馬たちは震え上がりその脚を急停止させる。


「―――ちっ!」

「馬が―――動かない?」

「―――仕方ない、降りて応戦するぞ!」


 馬が使い物にならないと瞬時に悟ると准聖騎士団たちは素早く大地へと降りて剣を抜いた。


「―――やるな!さっきのボンクラ共とは大違いだ!」


 立場上、正式な騎士である<黄金衣聖騎士団>と比べても准聖騎士団である彼らの方が柔軟な対応をしていた。二軍と言えども最強部隊の端くれ、そうそう侮れそうにはなかった。


「パイル!お前達は三人一組で戦え!ミルトはその援護だ!リアにケージは単騎でもいけるな?」


「任せるっすよ!」

「やってみる!」


 ダンの咄嗟の指示にリアネールは自信たっぷりと、恵二は少しだけ頼りなさそうに返事をする。


(さっきまでのなんちゃって騎士団とはレベルが違う!スキルに頼らざるを得ないか?)


 強化無しでの自分では、彼らとタイマンは張れても複数相手だと恐らく劣勢を強いられることになる。更なる追手を心配してスキルを温存する余裕など現状はなかった。


 何時でもスキルで強化をできる準備を整えてから恵二は准聖騎士たちへと対峙する。すると彼らの視線の多くが自分に向けられていることに恵二は気が付いた。どうやらミルトの予想は当たっていたのか、自分は教団から狙われているようであった。


「―――聞け!我ら偉大なる神の尖兵である聖教国騎士団の末席に身を置く者だ!冒険者諸君に告げる!大人しく武装解除し投降しろ!さすればこの場で神に代わり斬り捨るような真似はせん!10秒だけ時間を与える!返答が無ければ実力行使に打たせてもらう!」


 指揮官らしき者の口上を一番先頭で聞いていたダンは深い溜息をついてこう述べた。


「はぁ……。やっぱお前ら、あのボンクラ共とたいして変わらねえわ。―――10秒もあれば十分だ!」


 そう告げたダンの身体中には、いつの間にか膨大な魔力が満ち溢れていた。これには相手だけでなく、近くにいた恵二や冒険者達も驚いていた。


「―――な!?上級魔術でも放つつもりか!?」

「旦那、こんなすげえ魔力量の持ち主だったのか!?」


 てっきり前衛職だらけだと思われていた冒険者たちに、迂闊にも大がかりな魔術を発動させる猶予を与えてしまったことを悟り、准聖騎士の指揮官からは舌打ちが漏れる。


「―――交渉は決裂だ!奴らを早々に討ち取れ!小僧だけは生かしたまま捕縛しろ!」


 号令と共に准聖騎士たちは魔力を集中させているダンの元へと迫ろうとする。あのとてつもない魔力量をそのまま見過ごすのは危険だと考えたのだろう。だが先程ダンに与えたその10秒が、致命的なまでに命取りとなった。


「ガアアアアァァ―――ッ!!」


 ダンの<咆哮>に加え大量の魔力を帯びた破壊のエネルギーが准聖騎士たちを襲う。否、正確には彼らが駆けつけた場所の手前にその砲撃は着弾をした。


「―――ぐっ!」

「―――うわあああッ!」


 ダンの口から放射された破壊の咆哮は凄まじい爆風と衝撃を周囲に撒き散らし、近くにいた准聖騎士は重装備であるにも関わらず遙か後方へと吹き飛ばされていく。


「―――うっ!凄い破壊力だな……!」


「まるで怪獣映画でも見ている気分だ……」


 余りの衝撃にガイがそう呟くと、恵二はこの世界の人にとっては意味不明であろう感想を返す。


 爆風は治まったが依然土煙が立ち込める中、ダンは准聖騎士と同じく呆気にとられている味方に吠えた。


「おら!テメエらまでボケッとしていてどうする!?わざと外したんだから連中まだピンピンとしているぞ?さっさと無力化してこい!」


 そう、今のダンの砲撃は騎士たちに直撃させないよう手心を加えられて放たれていた。ミルトのリクエストである“殺生は無しで”という言葉を守っているのだろう。こんな状況でも律儀な男であった。


 直撃は避けたとはいえ、凄まじい破壊の跡を見せられて准聖騎士団の面々は尻込みをしていた。そこへ土煙で視界が塞がれている中、恵二たちは准聖騎士たちへと突撃をした。


「っ!そ、総員、ただちに応戦しろ!」


「―――そうは問屋が卸さないっす!」


 真っ先に准聖騎士団へと迫っていたのはリアネールであった。彼女は先陣の准聖騎士たちを飛び越えて、いつの間にか奥にいた指揮官の元へと迫っていた。


「―――ぐっ!?何時の間に!?」


「これでも私、スピードが売りっすので」


 相手もなかなかやるようで、真正面からとはいえ不意打ち気味に放たれたリアネールの斬撃をさばききるが、二刀流の斬撃は徐々に速度を増していき応戦できなくなっていく。その嵐のような攻撃に指揮官の男は耐え切れず、僅か数秒でリアネールの剣に屈した。聖騎士の証とも言える白い剣を打ち払われると、がら空きになった同じく白いその鎧の上から強い衝撃をもろに受ける。


「ぐはっ!」


 吹き飛ばされたその男はそのまま横になり起き上がらなくなった。リアネールは上手い具合に指揮官の男を気絶させたのだが、傍から見れば死んでいるようにも見えた。それを見た他の准聖騎士たちは燃え上がる。


「―――くっ!よくも……!」

「化物め!」


「レディに対してその呼び方はどうかと思うっすよ?」


 リアネールは続けて近場にいる准聖騎士たちへと対峙していく。どうやら聖騎士と言えども二軍ではSランクには到底及ばないようだ。


 一方で恵二も複数の准聖騎士たちを相手にしていた。


「いたぞ!例の小僧だ!」

「口さえ聞ければ問題ないとのことだ!手足を狙え!」


「……おっかない事言うなぁ」


 彼らに掴まれば本気で自分は無事では済まなそうだと身震いをするも、恵二は応戦するべくスキル<超強化(ハイブースト)>を使用する。


(二人同時か……。それなら二割増し……いや、一割増しくらいで十分か?)


 彼らの腕は確かなのだろうが、どうもあまり戦い慣れしているようには見えなかった。おそらく訓練ばかりで実戦の機会が少なかったのだろう。ここらは魔物や盗賊も少なく平穏な地だと聞いている。それにしては騎士団の数だけは異常なまでに多かった。


(実戦形式の訓練くらいはしてるんだろうけど、騎士様同士のお上品な戦い方じゃあ冒険者の動きには対応できないだろう!)


 恵二はしっかりと魔術の準備を事前に済ませ作戦を練ると、二人の准聖騎士へと駆けた。


「二人相手にやる気か!?」

「舐めるな、小僧!」


 少年一人で立ち向かって来たのを侮辱と捉えたのだろうか、准聖騎士たちは怒りを露わにして剣を振るおうとした。


(―――今だ!)


 タイミングを見計らった恵二は准聖騎士の足元から土盾(アースシールド)を出現させる。勢いよく地面から飛び出て来た土の壁は、上手い具合に准聖騎士の顎にクリーンヒットし、もう一人は剣を振り降ろそうとした手を壁にぶつける。


「―――ぶっ!」

「―――っ!いってえぇ……!」


 顎を強く打ちつけた男はそのまま後ろに倒れた。気を失わせるほどではないのだろうが、お蔭でその隙に一人だけに集中ができた。


「き、貴様ァッ!」


 思わぬ攻撃に手を傷めた男は目の前の土壁を回り込むと、鬼の形相で剣を振るう。痛みを堪えて剣を振るったまでは見事だったが、咄嗟に出したその一撃は少し安直過ぎた。


 強化スキルにより若干動きの良くなっている恵二はその一撃を最低限の動きで躱すと、すれ違いざまに腹パンを鎧の上から叩き込む。インパクトの際に力をさらに強化してお見舞いした。


「がっ!?」


 拳で殴ったとは思えない重低音とその衝撃に准聖騎士は目を見開いたが、そのまま足をふらつかせて倒れ込んだ。気を失いこそしなかったものの、これでこの男は当分動くことが出来ないだろう。


「―――くっ!や、野郎……ッ!」


 土盾(アースシールド)で顎を痛打されていた方が起き上がった。男は同僚が倒されているのを確認すると白い剣を抜き恵二を油断なく睨みつける。どうやら目の前の少年を見た目で判断するのは愚行だと思い知らされたようだ。


「こいつ……!だ、誰か手を貸せ!」


「―――悪いっすけど、もう貴方一人だけっすよ?」


「―――なっ!?」


 その声に思わず男は振り返ると、総勢22人いた准聖騎士はその男一人を残し全員が地べたに横たわっていた。余りの速さに一人残された准聖騎士の男は驚愕をする。


「ば、馬鹿な……!?」


「さて、貴方にもさっさと眠って―――ケージさん!」


 リアネールの咄嗟の叫びに恵二は反射的に後ろへと飛び退く。すると自分が先程まで立っていた地面に斬撃が飛んできた。そう、比喩でも何でもなく飛んできたのだ。付近に剣や、ましてやそれを振るう剣士など居ないにも関わらず、地面はぱっくりと斬られたかのように裂けていた。我ながらよく反応できたと感心しつつも、恵二はその見えない斬撃が飛んできたであろう方向を睨みつける。


 そこには6人の人影が見えた。


「―――避けたか。思いの外やるようだな……」


 かなり遠い位置にいる男の呟き声であったが、恵二の強化した聴力はその者たちの言葉をしっかりと捉えていた。そう呟いた男は白い鎧を身に纏った騎士であった。


「殺す気か!?奴には生きたままの捕縛命令が出ているのだぞ!?」


 そう告げた大男も同じく白い鎧を装備していた。男達だけでなく、その場にいた6人全員が同じ格好をしており騎乗していた。


「勿論加減はした。足を斬り落とすつもりだったが……私もまだ未熟だな」


 そんな物騒な会話をしていると知ってか知らずか、ミルトはその者たちの姿を捉えると声を叫んで警告をした。


「皆さん!その方たちは聖騎士です!お気をつけください!」


 ミルトの言葉に冒険者達は身構える。まだ彼らとは大分距離が離れてはいるが、そんな距離から恵二は襲われたのだ。油断など出来る筈もない。


「あれが……聖騎士っすか?確かに強そうっすが、見た目はほとんど同じっすね……」


 リアネールの指摘通り、彼らは准聖騎士たちと全く同じデザインの鎧を身に纏っていた。ひとつだけ違う点を上げるとすれば、それは彼らの武器であった。先程遠くから斬撃を飛ばしたと思われる男の剣は、准聖騎士の支給品であるそれとは全く異なったデザインであった。その他の者に至ってはそもそも剣ではなく槍や斧または弓などを持っていたが、そのどれもが白色で統一されていた。そしてその全ての武器が魔術武装なのだろうか、それぞれに強い魔力が籠められていた。


「ちっ、思ったよりも面倒そうだぞ……」


 先程まで准聖騎士複数を相手に大立ち回りをしていたダンが顔を顰めてそう呟く。その言葉は彼なりの最大級の褒め言葉でもあった。それほどあの6人の実力は底が知れなかったのだ。


(聖騎士、か……。確かにさっきまでの奴らとはまるで格が違う……!)


 恵二は今まで対峙してきた実力者たちを思い浮かべるが、人の身であそこまでの威圧感を放つ者は記憶に無かった。特にあの中で唯一女である聖騎士からはSランクのリアネールやダン並の不気味さを感じ取っていた。


 その女が一歩前に出て口を開く。


「初めまして冒険者の皆様。私は聖教国騎士団の副団長を務めますミグゥーズと申します。早速ですが、ご用件をお伝え致します」


 その女は見た目美しく、その綺麗な顔は薄い笑みで彩られており、きっとすれ違う男性のほとんどが振り返る程の美貌であろう。だが恵二は一目見て、その女が自分とは絶対に反りが合わない事を瞬時に悟った。


 女は続けてこう告げた。


「神の元にひれ伏しなさい。すみやかにその少年の身柄を渡し、貴方たち全員の首を差し出せば、きっとご寛大なアムルニス神はお許しになられることでしょう」


 そう、この女は狂っていたのだ。

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