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とんだ依頼だよ!

「あの鎧の人がSランクだって!?」


 恵二の問いにミルトは頷く。リアネールも続けて補足をした。


「Sランク冒険者<咆哮>のダンは鎧を纏った大男って噂っす。何でも彼がひとたび吠えると共に戦う者は圧倒的な力を得るという不思議なスキル持ちの冒険者だそうっすよ」


「成程、確かに特徴と一致する……って、リアは同じSランクなのに会った事ないのか?」


 どうも彼女の口ぶりからすると、<双剣>は<咆哮>と初顔合わせのようであった。


「無いっすね。以前言わなかったっすか?私、<背教者>と<隠者>くらいしか実際にお会いした事ないっすよ」


「あれって本当だったのかよ……」


 確かに彼女が昔そんなことを話しているのをぼんやりとだが恵二は覚えていた。あれから恵二も気になってSランク冒険者のことを簡単にだが調べてみたのだ。


 冒険者たちは己の実力を分かり易くする為、大体の目安としてランクを付けている。そのランクはギルドが評価して与えるものだが、あくまでも参考程度であり、恵二のように飛び抜けたCランクもいれば、ジェイサムのように戦闘能力が乏しいBランクも存在する。


 だがSランクに関しては総じて戦闘能力が高い。いや、はっきり言って化物レベルであろう。


 身一つで一国の民全員を癒した奇跡の体現者<背教者>


 剣技だけで竜の群れを退けた規格外<天剣>


 山一つ消し飛ばした恐ろしき魔術師<魔帝>


 誰も姿を見た者はいない、もはや都市伝説と化した暗殺者<隠者>


 西海の王である海獣を単騎で撃退してみせた古兵<鎧龍>


 一吠えで劣勢の軍勢を沸かせ、二吠え目で大軍を打ち滅ぼした小国の英雄<咆哮>


 そして、若干18才で化物揃いのSランク入りを果たした天才児にして問題児<双剣>


 この中央大陸では以上の七名だけがSランクを名乗ることが許されている。他の大陸にも冒険者ギルドなるものがあるらしく同じランク制を敷いているようだが、どの大陸もSランクの数は一桁くらいなのだそうだ。


 Sランク冒険者とはギルド長会議を経た上、ギルドマスターが許可しないと与えられない称号だ。生半可な強さでは名乗ることができないギルドの看板でもあるのだ。


 その化物たちが現在この狭い空間に二人もいる。これにはさすがにアンデッドの特殊個体集団<警告する者(アドゥマナターズ)>も厄介だと感じたのか、後から来た鎧の集団から距離を置く。


「おいおい、一体なんだってんだ?アンデッドが大量だぜ!」

「しかも恐ろしいほどの魔力を持っていやがるぞ?」

骸骨の魔導師(スケルトンウィザード)ってところか?他にも骸骨の剣士(スケルトンソルジャー)か?いや……Cランクのアンデッドってタマじゃあねえな……」


 <咆哮>と思わしき大男と同じ赤の鎧に身を包んだ者達は、おそらくミルトが言っていたBランク以上の冒険者たちであろう。その同伴者たちは見る目も確かなのか、深淵の杖(スカルロッド)深淵の剣(スカルブレイド)の存在が通常の魔物とは一線を画すということを瞬時に悟ったようだ。


 一方鎧たちと先程まで交戦していた深淵の刃(スカルエッジ)深淵の牙(スカルファング)も他のメンバーと合流を果たし、これで警告する者(アドゥマナターズ)が勢ぞろいとなった。


覚醒進化(プロモーション)した二人が防戦一方とは……やはりSランクは侮れん』


「―――!?」

「おわ!?なんだ?」

「頭に直接言葉が響いてきやがる……」

「……まさか、あの骸骨野郎が話しかけているのか?」


 後から駆けつけてきた鎧の者達は、深淵の杖(スカルロッド)の念話に驚きを隠せないでいた。人の言葉を喋るアンデッドなど、お伽噺の中くらいでしか聞いた事がなかったからだ。


「成程、テメエらが噂の<警告する者(アドゥマナターズ)>ってわけか……」


 そう声を上げたのは一番ガタイのいい鎧の男であった。おそらく彼こそが<咆哮>のダンなのだろう。彼はそう呟くと視線をリアネールへと向けた。


「お前、<双剣>だろう?後からお前が来るってのは案内人から聞いていたぜ?これは一体どういう状況か話せ」


 初対面にも関わらず横柄な態度にリアネールは顔をしかめた。


「こちらも聞きたいっすね。あなたは<咆哮>で間違いないっすか?ここにはどうやって?まさかもう自力でこの階層まで踏破したっすか?」


 鎧男の質問には答えずリアネールは疑問に思ったことを口にした。すると今度は鎧男が機嫌を損ねる番だ。


「質問を質問で返すな……。そうだ、俺様が<咆哮>のダンだ。ここには転移魔法陣を使って来た。途中まで攻略を終えて一階層に戻ってみたら、使えねえって話しだった魔法陣が起動していやがるじゃねえか。それを使って飛んで来たら、あのおかしなアンデッド共の横槍が入ったんだ」


 そう告げたダンは深淵の刃(スカルエッジ)深淵の牙(スカルファング)を指差してそう答えた。この二体も覚醒進化(プロモーション)を果たしたようで、深淵の刃(スカルエッジ)はBランクの骸骨の探索者(スケルトンシーカー)に、深淵の牙(スカルファング)はCランクの骸骨の闘犬スケルトンウォードッグへとランクアップしていた。


 しかし元々この二体も特殊個体な為、通常種の魔物と同ランクに見ていると大怪我ではすまないだろう。Sランク含む上位冒険者たちの猛攻を凌いでいたのが何よりの証明であった。


「大体分かったっす。つまり、転移魔法陣は生きているっすね」


「今度はテメエの番だ。簡潔に話せ」


 ダンに尋ねられたリアネールはこれまでの経緯を所々端折って説明した。そしてアンデッド達と取引をして地上へ戻ろうとしていたことを話すとダンは声を上げて笑った。


「はっはっは!こいつは傑作だ!まさかSランクの末席とあろうものが魔物にイモ引いて逃げようとな……!」


「……話、ちゃんと聞いていたっすか?無茶できる状況じゃないっすよ?」


 馬鹿にされたリアネールは不機嫌そうに反論するも、ダンはそれを一蹴した。


「問題児が今更優等生ぶるんじゃねえよ!要はあいつらを全員ぶっ倒してひよっこ共を全員無事に地上へ返せば良いんだろう?―――お前ら、戦闘準備だ!」


『―――約束を違えるつもりか?』


 ダンの号令を耳に入れた深淵の杖(スカルロッド)がそう冷たく言い放つ。赤い瞳を爛々と輝かせ周囲に殺気をばらつかせる。その他三体も臨戦態勢に入った。返答次第ではすぐに戦闘が始まるだろう。


「リア、どうする!?」


「ああ、もう!だから嫌な予感がしたっすよ!こうなったら覚悟を決めて欲しいっす。ケージさんはとにかく見習いたちの護衛をして欲しいっす。ミルトさんも一緒にお願いするっすよ!」


 戦闘は避けられないと判断したリアネールは素早く指示を飛ばす。Sランク二名と戦力は十分だがあちらの方が人数は圧倒的に上なのだ。その上特殊個体の力は未知数と不安要素は多い。リアネールとしても魔物との取引は論外だが、戦闘を避ける方向には賛成であった。


「分かった!」

「ご武運を!」


 恵二とミルトはそう返事をすると、見習いたちを連れてその場を離れようと動く。その直後―――


「いくぜ!野郎ども!」

『―――殺せ!』


 開戦の狼煙が上げられた。


 まず真っ先に動いたのは深淵の刃(スカルエッジ)深淵の牙(スカルファング)の二体だ。身軽な二体は瞬時に間合いを詰めよると、その名を現す刃と牙を鎧の集団へと向けてくる。


「―――ぐっ!」

「ちっ!こいつら……!」


 そのスピードは、逃げの一手だった先程までとは打って変わり数段ギアが上がっていた。冒険者達は何とか急所だけは守ったものの、アンデッドの先制攻撃に二名が負傷をする。


「ウオオオオオオオォォォ―――!!」


 すると突如ダンが雄たけびを発した。それは先程も上げていた凄まじい咆哮であった。


(―――!?冒険者たちの魔力量が……上がった!?)


 見習いたちを守りつつ戦場を観察していた恵二はその変化にすぐ気が付いた。ダンの咆哮と共に同じ鎧を着た冒険者たちの魔力量が一気に増加したのだ。


「オラァッ!」

「この犬っころが!」


 しかも上がったのは魔力だけではない。動きも素早くなっており、鎧を着こんでいるにも関わらず、凄まじい速度で攻撃を仕掛けてくる特殊個体たちのスピードに対応し始めたのだ。


「ウオオオオオオオォォォ―――!!」」


 さらにダンが吠えると冒険者たちの動きは更に上がっていく。大剣や斧に槍といった長物を持っているのにも関わらず、動きの素早い深淵の刃(スカルエッジ)深淵の牙(スカルファング)に攻撃を当て始めたのだ。今はまだ擦る程度だが、その内捉えられそうな動きを見せていた。


 しかしアンデッドたちも黙ってはいなかった。


 次に動き始めたのは骸骨の戦士(スケルトンファイター)の大群だ。一体どれだけの死体があればこれ程の軍勢を生み出せるのだろうか。その光景はまるで骨の波が押し寄せてくるかのようであった。それを赤い鎧に身を包んだ冒険者達は、負けるものかと力任せに武器を振るい骸骨の大群を薙ぎ倒していく。その骸骨たちの合間を縫って深淵の刃(スカルエッジ)深淵の牙(スカルファング)が牙をむく。


 深淵の刃(スカルエッジ)は骸骨に紛れ得意な気配遮断で身を隠しつつ短剣を振るい、深淵の牙(スカルファング)はまるで骨の木が生茂った森の中を動き回るかのように牙や爪で襲い掛かった。


「ひいっ!こっちにも来た!」

「早く逃げましょうよ!もうこんなダンジョンうんざりよ!」


 骸骨の群れは留まることを知らず、何体か冒険者たちの網を抜けて、恵二たちの方へと襲い掛かってくる。


「ケージさん!この場はリアネール様たちに任せて、我々はこのまま転移魔法陣の所まで引き返しましょう!」


「……分かった。殿は任せた!」


 恵二はリアネールの方を一瞥するとミルトにそう答えた。リアネールは何時の間に骸骨の群れを抜けていたのか、主犯とみられる深淵の杖(スカルロッド)の元へと辿り着いていた。残りの一匹、深淵の剣(スカルブレイド)はどうやらダンと一騎打ちをするつもりのようだ。大柄な鎧を着こんだ者同士が激突するのを恵二は横目で捉えていた。


(この場は一旦Sランクたちに任せて俺らは脱出するか!)


 結構な数の骸骨がこちらの方へと抜けてきてはいるが、殿はミルトに任せることにして恵二は一行の先頭を進む事にした。低レベルな罠ばかりとはいえここはダンジョン、しかもアンデッドたちの支配下に置かれた迷宮かもしれないのだ。探索職(シーカー)である自分が率先して行かなければ安心できなかったのだ。


「―――ケージさん!追手っす!」


 通路を曲がる際、遠くからリアネールのそんな声が恵二の耳に届いた。


「―――走れ!ミルトは後方を確認してくれ!追い付かれそうなら一旦止まって俺が迎撃をする!」


「了解しました!」


 これ以上足止めをされれば、次から次へと刺客が送られかねない。恵二は一旦主戦場から距離を置こうと考えてそう指示を飛ばした。見習いたちは追手と聞いて顔を青ざめながら必死に走った。


(リアがいちいち警告するくらいだ!ただの骸骨じゃないな!?)


 後ろから感じる気配は骸骨の戦士(スケルトンファイター)なんかではなかった。もっと巨体で禍々しい何かであった。


「―――ケージさん!そろそろ追い付かれそうです!相手は―――大蛇のアンデッドです!」


「―――っ!分かった!このまま真っ直ぐ進んで待機していてくれ。この道の先の方までは罠は無さそうだ!」


 そう告げると恵二は踵を返し、今度は後方へと回る。


「ケージさん、お気を付けて!」

「頼みました!」


 後ろから駆けてきたミエリスとミルトからすれ違いざまに激励をもらう。それにジェスチャーで答えた恵二は背後にいる敵へと相対した。


「―――!そういうことか……!」


 恵二たちを付けてきた追手の正体とは、皮膚や肉を腐らせ中から骨を覗かせている大蛇であった。それは先程恵二が倒したはずの凶弾の蛇(デスサーペント)の亜種であった。斬り飛ばしたはずの頭部は強引にくっ付けたのか、首元はぐちゃっぐちゃであったもののしっかりと接合されている。大蛇の皮膚には何やら気持ちの悪い体液が分泌されているようだ。


「あいつら、凶弾の蛇(デスサーペント)を蘇らせたな!?」


 それは腐肉の蛇(ゾンビサーペント)とでも呼ぶべきなのだろうか。死の底から蘇った大蛇を恵二は警戒しながら魔力を集中させた。


(アンデッド相手には神聖魔術と火が有効……俺はまだ神聖魔術の攻撃手段が無い……ならば!)


 火属性魔術で応戦しようと考えていた恵二であったが先手を取られた。


 腐肉の蛇(ゾンビサーペント)は生前の記憶があるのか、一瞬で恵二に命を刈り取られたことを教訓に大分離れた位置から先制攻撃を仕掛けてきた。空中に石の槍を5本展開していく。石槍(ストーンランス)を5本同時とはなかなか厄介な魔術技量であった。しかもその石槍を一度に射出するのではなく、一本一本時間差攻撃で放ってきた。


(くそ!こちらに攻撃させる間を与えない気だな!?)


 5本全てを打ち終わったと思ったら既に大蛇の周囲には再び5本の石槍が用意されていた。それを間髪入れず恵二に向けて射出する。


(またスキルで全力強化するか?……いや、温存しなくては)


 恵二は見習いたちを送り届けた後、再びリアネールたちの援護に向かうつもりでいた。強敵を前に力を使い果たしてしまっては足を引っ張りに行くだけだ。出来る事なら節約を心がけたい。


(―――ならば、魔力の方を使うか!)


 今日はまだそこまで消耗していない魔力を使って腐肉の蛇(ゾンビサーペント)を倒すことに決めた。石の槍雨で弾幕を張る大蛇だが、なんとかその攻撃を躱しつつ恵二は魔術に集中をする。そして準備が整った瞬間、転移魔術を発動させて恵二はその場から姿を消した。


「―――っ!」


 突如目の前の標的が消え大蛇は戸惑いを見せる。


「―――こっちだ!」


 突如声がした方向を大蛇が振り返ろうとしたその時、その首はまたしても胴体から分離されていた。いつの間にか背後に瞬間移動していた恵二が短剣でその首を刎ねていたのだ。もともと腐っていて脆かった分、首を斬り落とすのも簡単ではあったが、その際に腐肉の蛇(ゾンビサーペント)に纏わりついていた体液がナイフにかかってしまい、音を立てながら煙が立ち込めていた。どうやらその液体は金属すら溶かしてしまう劇物であったようだ。


「うわっ!あぶねえ!」


 恵二は自らの短剣を振るって、それに付着していた液体を取り除こうとする。


「あー、少し溶けちまったか?迂闊だったぁ……」


 長年愛用していた短剣が傷物になり凹んでしまうも、恵二はしっかりと大蛇の死を確認する。相手がアンデッドの場合、首を刎ねただけでは安心できないからだ。


(……大丈夫のようだな)


 しかし暫くたっても大蛇は動かず、その亡骸を徐々に溶かしていく。どうやら先程短剣に付着した溶解液で自らの身体も少しずつ蝕んでいたようだ。肉や皮は悪臭を漂わせながら徐々に溶けていき、骨だけになっても動く気配をまるで見せない。魔力も感じられない事から完全に朽ち果てたようだ。


「くそっ!マジッククォーツ製のナイフが……。全く、とんだ依頼だよ!」


 普段入れない≪蠱毒の迷宮≫に釣られてのこのこと来てしまったが、思いもしない事態に巻き込まれ恵二はそう悪態をつくのであった。



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