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とんでもない

本日二度目の投稿です。この前投稿出来なかった分となります。

「それじゃあケージさん、先行をよろしくっす。ミルトさんはケージさんのサポートを、私が殿を務めるっすよ」


 探索職(シーカー)である恵二を先頭に配置し、罠に注力している恵二をすぐ後ろのミルトが補う。最大戦力のリアネールは一番後方で自由に動けるように準備をしておく。彼女の提案したその布陣に二人も文句はなく恵二とミルトは頷いた。


「移動しながら聞きたいっす。救助者の正確な人数と戦力を出来るだけ詳しく教えて欲しいっす」


「ええ、分かりました」


 教団は≪蠱毒の迷宮≫へと踏み込む際、挑戦者の名前を記録しているようだ。その辺りはエイルーンのダンジョンと同じできちんと管理されているようだ。その名簿によると今回の試練に挑んだ見習いは全部で6名、今回最大の要救助者である教皇の御息女シンドリー・シディアムと、見習い神官3名、それと見習い聖騎士2名といった構成となっている。


「見習い騎士の方はかなりの実力者ですが、神聖魔術が使えないとなるとここのダンジョンは少し厳しいでしょうね。見習い神官に関しては殆ど戦闘能力を有しておりません」


「……どうして神聖魔術が使えないと厳しいんっすか?見習いとはいえ聖騎士ならそこそこの実力はあるんすよね?」


 リアネールの問いを予想していたのかミルトはすぐさまこう答えた。


「それはこのダンジョンの特性と、ある魔物の所為です。ほら、あれを……」


 彼女が指差した先にはウネウネと蠢いている緑色の蔓が見える。まるで植物が動き回っているかのような魔物の姿が遠くの影に見えた。


「あれは確か……<殺人花蕾(デス・プラント)>か!?」


 恵二が所持する魔物大全集にも載っていたCランクの魔物だ。物騒な名前だったのでその詳細もしっかりと記憶していた。


 殺人花蕾(デス・プラント)が発見されたのは、割と最近であるそうだ。グロテスクな花から猛毒を撒き散らすその魔物は、吸った者の命を刈り取り死体を貪る肉食の動く植物だ。発見当時この魔物は各地で猛威を振るった。魔術の毒耐性障壁を張れない者は瞬く間に命を落としていったそうだ。近づくことも難しいことから当時この魔物の討伐難易度はAランクまで上がっていた。


 しかし近年解毒剤も進歩し、すぐに薬を飲めば命に別状はないことが分かった。それに神聖属性やその他の属性魔術での耐毒障壁を張ってさえいれば、恐れるに値しない魔物だとも判明した。よって現在の討伐難易度はCランクとなっている。解毒剤の持ち合わせがなかった冒険者が偶に餌食となるくらいでそこまでの脅威度はないのだ。


 この迷宮にはその殺人花蕾(デス・プラント)が至る所にいるそうなのだ。


「見習いとはいえ毒の迷宮に挑む者。当然それ相応の魔術は備えておりますし、解毒剤もある程度持ってはいるはずです。しかし、神聖魔術が使えないとなると、魔術で毒に抵抗出来る者が何人いることやら……。それに薬には限りがありますし、必ずしも即効で治るような代物ではありません」


 解毒剤とはいってもあくまで致命傷を避ける程度の効力だそうだ。当然体調も悪くなるし戦闘能力も落ちるだろう。それに神を信仰する信者たちはどうも神聖魔術に頼り過ぎな傾向にあるそうだ。神聖魔術で毒に対抗出来てもそれ以外の手段は持ち合わせていない可能性が大なのだとミルトは話す。


「全く、神を便利な道具と履き違えている者が多くて困ります。只でさえ<神堕とし>などというふざけた災厄が起こっているのですから、神の奇跡ばかりに頼らない自衛手段も身に着けて欲しいものです」


「……意外っすね。てっきり神聖魔術以外は邪道だと言うと思ったっす」


 リアネールの言葉にミルトはこう答えた。


「信者の中にはそういう人もおりますけどね。アムルニス神は寛容であられます。節度を保てばある程度の自由はお許しになられますよ」


「……さっきのケージさんへの行動は、節度があったんっすかね?」


 リアネールの厳しいツッコミにミルトは思わず顔をしかめた。


(リア、頼むから蒸し返すような事は言わないでくれ……)


 心の中で恵二はそう願うも、どうやら険悪なムードにはならずに済みそうだ。ミルトも先程は少し強引だったと思ったのか、謝罪の言葉を口にしたのだ。


「……先程は失礼を致しました。ですが、こちらにも事情があるのです。<神堕とし>は人類共通の憎むべき災厄。貴方の奇跡を見て、それを打破する切っ掛けになるのではと……つい興奮をしてしまいました」


 そう告げるとミルトは頭を下げた。


「いえ、気にしていないですよ。……以前から気になっていたんですが、教団は<神堕とし>を阻止しようとは思わないんですか?ミルトさん個人の意見は分かりましたけど、どうも<神堕とし>の件ではハーデアルト王国くらいしか動いてないように思えるんですが……」


 これは教団に限らずだが、他の国や組織はどうも<神堕とし>を防ぐという行動に消極的なように思える。北の国に関しては邪魔すらしているようだ。


 恵二は更に続ける。


「人類共通の憎むべき災厄、ミルトさんはこう言いましたよね?でも勇者以外誰も動かない。神聖魔術の低下なんて、アムルニス教からしたら一番無視できない災厄じゃないんですか?」


 自分の事を棚に上げて何を言っているんだろうなと自嘲しながらも、恵二は自身の考えをミルトにぶつけてみた。少年のその言葉にはミルトだけでなく、横で聞いていたリアネールも何やら神妙そうな表情を浮かべていた。


「一介の信徒に過ぎない私が出過ぎた事を言うようですが、国や団体のトップにも色々と思惑があるのではないでしょうか?特に教団は<神堕とし>の発生源から遠い地に本拠を構えております。一団を率いて東まで行くのはとても大変なことなのですよ」


 ミルトに続いてリアネールも口を開いた。


「前回の<神堕とし>の際、大陸中の戦力を東に集中させたらしいっすが、終わった後も混沌としていたそうっすよ。魔王や魔族を撃退した後は人同士の醜い領土や利権争いが起こり、今もその遺恨が残っている国もある程っす。その前回の教訓から他国はなかなか気軽に軍隊を余所の地に放出できないんっすよ」


 国や組織と言った大多数の集団が絡むと身動きが取り辛くなるのは現代も異世界も同じようで、かつての抗魔大戦のように大陸中の戦力を集中させるといった大それた行動は、それこそ余程追い込まれなければ出来ないのが実情なのだそうだ。


 起こってからでは遅いのだが、事が起らなければ行動に出せないもどかしさ。それは大きな団体に所属している二人には身に染みて分かっていることなのかもしれない。


「……そうか。少し考え無しな発言だったかもな。忘れてくれ」


「いえ、構いませんよ。<神堕とし>に苛まれる人たちを思ってこその貴方の発言でしょう。国や立場は違えども私も同じ思いです」


 ミルトはそう返すと腰の横に下げている鞘から細い剣を抜いた。


「さて、少しお喋りが過ぎました。そろそろ行動に移るとしましょう」


「まずは目の前の殺人花蕾(デス・プラント)からっすね。ケージさんはアイツを倒すいい案があるっすか?」


 遠くで蔓を蠢かせている殺人花蕾(デス・プラント)を眺めながらリアネールがそう尋ねてくる。彼女は自分と同い年くらいに見える少女だが、こう見えても冒険者最高峰のSランク。厄介な相手とはいえCランクを倒す手段などいくらでもあるのだろう。


「うーん、近づいたら毒を撒くんだろう?だったら遠距離から倒すのが楽なような……。そういえば、毒って具体的にはどうやって撒くんだ?」


 恵二はミルトに尋ねた。


「毒の粉末のようなものを周囲にばら撒きます。それを口の中に吸引してしまうとあっという間に毒が回ります」


「んー、触っただけでは感染しないのか?粉末なら大丈夫かなぁ」


 そう呟いた恵二は物は試しと一人殺人花蕾(デス・プラント)の元へと近づいた。あちらも恵二の接近に気付いたのか大きな花を震わせる。花粉か胞子を連想させるような何かを辺りに飛び散らせる。あれが例の毒粉末であろう。


 恵二はそれを風の魔術で吹き飛ばした。こちらに飛んでこないよう、反対側に猛烈な風を送ったのだ。恵二の目論見通り、粉末は逆方向へと押し流されていく。


「こうすれば毒を吸わないで済むかな?」


 強風を送り続けることで、間違っても毒を吸わないようにすることができた。だが、それにリアネールが待ったをかける。


「けど、それじゃあ奥に進めなくないっすか?それともし要救助者が奥にいたら、もろに毒を吸ってしまうっすよ?」


「―――あ」


 確かに毒を奥に吹き飛ばせばその場は凌げるが、その後のことを全く考えていなかった。


「うーん、すると後は燃やすか凍らせるかして毒を取り除くか?」


「それが無難なんっすが、出来れば蔓は欲しいっすね。あれ、結構高く売れるんすよ」


「……そうなのか?」


 リアネールの言葉にミルトはピクリと眉を動かすも口を閉ざしたままだ。恐らく素材回収など放っておいてさっさと助けに行けということなのだろうが、日頃素材を綺麗に残そうとする冒険者魂が染み付いた恵二としては、極力スマートに魔物を倒したかった。


「ちなみにリアはどうやって倒したらいいと思う?」


「ん?私っすか?―――こうっすかね!」


 尋ねられた彼女は剣を抜くと、あっという間にその場から姿を消す。その直後、前方にいたもう一匹の殺人花蕾(デス・プラント)の花が根元からバッサリと斬り離される。どうやら殺人花蕾(デス・プラント)の花は茎から分離すると毒を噴き出さなくなるようだ。


「気付かれる前に倒すっす」


「よし、それでいこう!」


 そこからというもの、二人の快進撃は止まらなかった。殺人花蕾(デス・プラント)を見つけては、向こうがこちらを察知する前に超スピードで花を斬り取っていった。蔓だけでなく、花やその奥に眠っている毒の粉末も高値で取引されているそうだ。尤も毒の方は然るべき場所へ持ち込まないと犯罪行為に当たるそうだが、冒険者ギルドなら問題ないそうだ。何に使うかは藪蛇なので恵二は聞かない事にしたが、ギルドは闇組織や個人に毒が流通するのを防ぐ為、慈善活動で買取をしていた。



「信じられない人たちですね……。まさか殺人花蕾(デス・プラント)を真正面から斬っていくだなんて……」


 自称見習い聖騎士のミルトも剣の腕には自信があったが、殺人花蕾(デス・プラント)に毒を放出させない内に一太刀で仕留められる自信はなかった。Sランク冒険者の実力を改めて思い知らされた彼女であったが、Cランクにしか過ぎない少年も恐るべき身体能力を持っていることに尚更驚かされた。


 一方の恵二もリアネールの超人的な動きには驚いていた。


(リアの奴、やっぱとんでもねえな……。スキルで強化した俺と同じ様な動きを取れるとは……)


 こちらもまだ全力ではないとはいえ、自分以上の凄まじいスピードで魔物を狩っていくリアネールを見て恵二はSランクの凄さを目の当たりにさせられた。しかも彼女はまだまだ余裕そうな表情を浮かべていた。スキル込みなら瞬間的になら勝るかもしれないが、持続的な戦いになれば間違いなく彼女の方が上手だろう。


(別にSランクを目指すつもりは無いが、せめてスキル込みでリアを完封できるくらいには強くなりたいなぁ)


 この先様々なダンジョンや僻地へと訪れれば、そこには当然凶悪な魔物もいるだろう。中には伝説級(Sランク)の強さを持つ魔物とも遭遇するかもしれない。この世界で冒険をするにはある程度の強さは必須なのだ。


(魔術だけじゃ足りない!エイルーンに戻ったら身体も鍛え直すか!)


 最近身長も徐々にだが伸び始めて、動きも段々と良くなってきていた。魔力も僅かずつだが向上してきている。王城を出た頃と比べるとスキルの分を差し引いても明らかに強くなったと実感ができる。


 ダンジョン内での探索に至っても成長をしていた。師ジェイサムから学んだ探索術が役立っている。≪古鍵の迷宮≫は本当に罠のレベルが高かったようで、≪蠱毒の迷宮≫のトラップを見破る事など朝飯前であった。毒有りの罠といっても引っかからなければどうということもない。



 恵二とリアネールの活躍で三人はあっという間に50階層まで辿り着いた。




「……居た!奥に6つ魔力反応がある!全員無事だ!」


 スキルでの強化による恵二の魔力探索(マジックサーチ)が6つの反応を捉えた。内2人の反応が弱いが辛うじて全員生き残っているようだ。


「―――ん?ちょっと待ってくれ。ひとつだけおかしな反応がある……」


 それは6つの魔力反応よりか大分離れた位置にある。人間ではない、しかもかなりの高魔力な反応であった。恐らくダンジョン内の魔物なのだろうが、今まで遭遇してきたものとは一線を画す強さだ。


 恵二が感じたことをそのまま二人に話すとミルトは恐らくと前置きをしてこう告げた。


管理者(中ボス)だと思われます。このダンジョンの下層には稀に管理者(中ボス)が現れると報告がありますから」


管理者(中ボス)っすか。私会った事ないっすね。ケージさんは?」


「俺もない。エイルーンのダンジョンにはそもそも管理者(中ボス)は居ないって話だしな……」


 管理者(中ボス)とは、ダンジョン内でも特殊な魔物の事を指す。魔物は決められた階層を跨ぐことは絶対にしないが、唯一管理者(中ボス)だけは安全エリア以外のダンジョン内全てを自由に徘徊できるのだ。


 研究者の間ではその管理者(中ボス)こそダンジョンの創造主ではないかと考えている者もいるそうだが、総じてボスより弱くダンジョンによっては存在すらしないことから“中ボス”と位置づけられている。運が悪い者だと1階層から遭遇したという報告例もあるのだとか。ここのダンジョンは47階層に魔術による防壁が施されている為、それより下に出没するそうだ。


「どんな奴なんすか?強さは?」


凶弾の蛇(デスサーペント)の亜種だそうです。強さはAランクの上といったところでしょうか。聖騎士でも徒党を組まなければ倒すのが困難な相手です」


凶弾の蛇(デスサーペント)か……。毒が厄介だな……」


 その名に恵二は覚えがあった。何を隠そう初めて対峙したAランクの魔物が凶弾の蛇(デスサーペント)であったからだ。あの時は猛毒をまともに受け危うく死にかけた。何とかスキルによる免疫力の強化で一命を取り留めたが、亜種ということは下手をするとそれ以上の強さなのだろう。


「ケージさん、凶弾の蛇(デスサーペント)と戦った経験があるっすか?」


「ああ、通常の奴だけどね。毒で危うく死ぬところだったよ」


「Cランクの貴方がAランクの凶弾の蛇(デスサーペント)を倒したのですか?いや、今更ですね……」


 目の前の少年が規格外なのは短い付き合いのミルトにも十分理解できていた。腕利きの神官数人がかりでも起動すら出来なかった転移魔法陣を単独で発動させ、Sランクの冒険者と同等の動きで魔物を屠る。今更Aランクを倒したという事実が加わったところで余り驚きはしなかった。


(ケージ・ミツジ、か……。ギルドはとんでもない隠し玉を持っていたようですね……)


 彼女の少年を見る視線が少しばかり鋭くなったことをリアネールだけは感じとっていた。

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