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話し合い2

日曜UPできなかった分、今日は連続投稿です。

 最初にぶん投げられたグラムが起き上がった。どうやらエアリムは本当に手加減をしていたらしく、青年は少しだけ傷む背中をさすりながら立ち上がると、他の4人の様子に唖然とした。


「―――なっ!先輩たちまで!?冒険者志望の三年生だぞ!?」


 以前恵二が聞いた話では、確か<第一>には魔術戦科と呼ばれる、冒険者や国仕えの魔術戦士を目指す者の為の専門コースがあるようだ。三年の2人はおそらくそこに所属していたのだろう。


「あのなぁ。冒険者志望が元冒険者に勝てる訳ないだろう?彼女はついこの間までCランクのバリバリ現役だったんだぞ?」


 恵二が呆れながら口を開く。


「んな!?Cランク!?あんな女が……!」


 エアリムはこの間の冬までは冒険者パーティ<白雪の彩華>の一員で、実力だけならBクラスとまで言われたパーティの火力担当だ。だが、魔術の腕だけで生き抜いていけるほど冒険というものは甘くない。最低限の体術も彼女は修得していたのだ。


 青年たちに使った魔術も初級魔術の石弾(ストーンショット)だけ。彼女は同じ初級の石槍(ストーンランス)をよく扱うが、それだと殺傷能力が高い為石弾(ストーンショット)を選択したのだ。エアリムは完全に手心を加えていたのだ。


(さて、こいつらをどうしたものか……)


 そういえば見回れと言われただけでその後の対処方法は聞いていなかった。この5人の言動はちょっと悪質であった。今のところ運よく未然に防げてはいるが、もし自分たちが通りかからなかったらクラスメイトのルカとタオはどうなっていただろうか。そう考えるとこのままこの5人を開放するのは気が引けた。


(街の兵士に預けるか?でも、こいつの親って偉いんだっけ?兵士にまで権力は及ぶものなのか?)


 恵二があれこれ考えていると、道の奥から数人の足音が聞こえてきた。


「お前たち!そこで何をしているんだ!」


 そう声を掛けてきたのは<第一>の制服を身に着けた青年であった。その数はこれまた5人組であったが、ネクタイの色がバラバラなのと、中には女子生徒も1人だけいた。しかもどこかで見た顔であった。


「貴方たち、これはどういうことですの?」


 5人の中で唯一の女子生徒は、倒れている同じ学校の生徒たちを見渡すと、近くにいた恵二にそう尋ねた。


「そこの5人が彼女らに絡んでいたんだ。それを阻止しようとしたら襲われたので返り討ちにした」


 恵二は簡潔に今起こった出来事をその少女に説明した。するとそれを聞いたグラムは慌てて口を開いた。


「こいつが言っていることは全て嘘です!こいつらが俺たちをいきなり不意討ちしたんです!」


「な!?」


 あろうことかグラムは有りもしない事を叫びだした。思わず恵二たちは絶句してしまう。


「それは本当なんですの?」


「真実です!」

「嘘だ!」


 グラムと恵二の言葉が重なる。両者から真逆の証言が飛び出て、それを聞いていた少女は不審な表情を浮かべながら二人を見比べる。しかし恵二と視線が合うとその表情が変わった。


「あら?貴方、どこかでお会いしませんでしたっけ?」


「……やっぱりか。確かヒスタリカさん、だっけか?」


 そう、恵二も彼女の姿を見た時に見覚えがあったと思ったのだが、その喋り方でピンときた。彼女は<第一>の試験勉強の際、席が隣同士であった少女に間違いなかった。確かヒスタリカ・ブロンドと名乗っていただろうか。


(ブロンド……、そうか!ブロンド家って彼女の家名か!?)


 今回の風紀委員の仕事を引き受ける際、校長のミルワードはこう話していた。


 “ブロンド家を中心に、特権階級を取り戻そうと考えている輩が集まっている”と。


 彼女はそこの家の娘だろう。今回の騒動と彼女の家は、何かしら関係があるのだろうか。


「ヒスタリカ君。彼は知り合いか?どうやら<第二>の生徒のようだけど……」


 すると、背後から一人の青年が口を挟んできた。ネクタイの色は赤色なので恐らく三年生なのだろう。


「はい、先輩。入試試験の時に少しだけお話しを致しました。そうですか。貴方の姿を見ないと思ったら<第二>の方にいらっしゃったんですね」


 ヒスタリカは試験の際、近くで恵二の実力を見ていた。あれほど腕の立つ少年が不合格とは思えなかったのだが、同じ学年にいないことを不審に思っていたのだ。


「ちょ、ちょっと待ってください、ヒスタリカお嬢様!こいつは危険です!嘘を平気でつくし俺たちを襲ったとんでもない悪党です!あまり気を許さないでください!」


 恵二とヒスタリカが知り合いとあってか、風向きが変わることを恐れたグラムは慌ててそう口を挟んだ。


「私には彼がこんなことをするようには思えませんが……。そういえば私、まだ貴方のお名前を伺っておりませんでしたわね」


「あれ?そうだっけ?俺はケイジ・ミツジ。<第二>の生徒で今日は風紀委員として放課後の見回りをしていたんだ。そこでこいつらがクラスメイトに絡んでいたのを見つけた」


 恵二は自己紹介をしつつ今回の経緯を話そうとした。するとグラムが叫びだす。


「虚言だ!嘘を言うな!そもそも―――」


「―――ちょっと黙っていてくれ、グラム君」


 すると三年生の生徒がその言葉を遮った。上級生には逆らえないのかグラムは思わず言葉を飲み込む。


「俺も自己紹介をしよう。<第一>の三年、ドルク・アウリスだ。生徒会長を務めている。ここにいる5人は全員が<第一>の生徒会員だ」


 ドルクの自己紹介に恵二は驚いた。まさか生徒会メンバーだとは思いもしなかったのだ。


「俺たちも君たち風紀委員だったか?それと似たような見回りをしていたんだ。最近我が校と<第二>の間でトラブルが増えているようだからな」


 どうやら向こうも今の現状は見過ごせなかったようで、生徒会が自主的に動いていたようだ。


「そこで今回の騒ぎだ。悪いが君たちには色々と聞きたいのだが……生憎今は時間が無くてな。この後別件の会合があるんだ」


「ドルク先輩。宜しければ私だけでもこの場に残りますわよ?」


 ヒスタリカがそう提案するもドルクは首を横に振った。


「できればブロンド家の御令嬢である君には是非とも出席してもらいたいんだ。彼らには後日事情を聞くとしよう。それで構わないか?」


「それですと、彼らに口裏を合わせられませんか?」


 そう提言したのはエアリムであった。時間を空けてしまうと辻褄合わせの猶予を与えてしまうのではとエアリムは危惧しているのだ。


「な!?俺たちは誇り高い貴族だぞ!?誰がそんな卑劣な真似をするものか!」


 グラムがヒステリックな声をあげるも、恵二も負けじと言い返す。


「どの口が言うんだ!デタラメばかりいいやがって―――」

「―――両者ともそれくらいにしろ!」


 ドルクが大声で恵二の言葉を遮った。


「ここでこれ以上問答しても水掛け論だ。ここは一度冷静になって後日に話し合いの場を設けよう。もしそれでも不安なら、そうだな……ラングェン家のアトリ君にでも真偽のほどを確認してもらう、というのはどうだろうか?」


「そんな!?」

「アトリを?」


 ドルクの口からアトリの名が出たことに恵二は首を傾げた。確かにアトリ少年の魔眼<識別>を用いれば、嘘を見破る事など容易い。だがドルクがそのことを知っているのは意外であった。


 実はエイルーンの上層部や元貴族たちには、アトリ少年のスキルは周知の事実であったのだ。ただ、本当の真実はアトリ少年のみ知るという点もあり、裁判などの証拠としては扱えないスキルであったのだ。もし彼のスキルを証言として有効にしてしまえば、アトリが黒といえば全て黒になってしまうからだ。


「待ってください!あの裏切り者のラングェン家を裁定に使うなど……!絶対に我々に不利な証言をしますよ!?」


「……何もアトリ君だけに採決を委ねるわけではない。あくまでも参考程度に真偽を確認してもらう為だ。お互いの証言が食い違えば、それだけ不毛な時間を取られる。それとも君たちは自身の行いに自信がないのか?」


「そ、それは……」


 ドルクの説明にグラムは言葉に詰まる。


 結局お互いにその条件を呑む形となり、後日改めて今回の件を話し合う形となった。その間、問題を起こしたと思われる<第一>の生徒たちは外出の自粛を言い渡された。絡んできた青年たちを解散させると、ドルクたちは急ぎ足でその場から離れていった。



「思ったよりも生徒会の方たちは常識的でしたね」


 エアリムの感想に恵二は頷いた。


(結局ブロンド家の暗躍云々の話はどうなってんだ?親と娘は関係がないのか?)


 しかしこれ以上考えても分からりそうにないので恵二たちは見回りを再開することにした。




「くそ!あの女!まさかあんなに強いだなんて……!」


「おい、そろそろ機嫌を直せよ」

「ああ、まさかあの容姿でCランクだなんて驚きだったなあ」


 あの後、問題を起こした青年たちは帰宅の途についた。先輩2人も今回の件で懲りたらしく、口裏を合わせるとは言って去ったものの、どこまで本気かは分からなかった。そして他の同級生たちもエアリムに叩きのめされてすっかり腑抜けてしまったようだ。


「おい。まさかあんな女なんかに惚れた訳じゃあないよな?」


「な、何言ってるんだ!?」

「ちげえよ!ただ、<第二>にも凄い奴がいるんだなってさ……」


 2人の言葉にグラムの苛立ちはさらに募る。この青年たちも今度の話し合いで口裏を合わせるとは言っているが、もしかしたら最悪自分だけ主犯として祭り上げられるかもしれない。グラムはそんな不安に駆られていた。


(冗談じゃない!ここで悪評が立てばヒスタリカにも取り入れなくなる!これじゃあ貴族に戻るどころじゃない!)



 グラムは横柄な親の影響を受けて育ってきた。身分制度が撤廃したエイルーンに住んでいながらも、フリッター家はいまだに古い貴族意識から抜け出せていなかったのだ。


 グラムは幼少の頃から自分は特別なのだと思いながら過ごしてきた。実際に身分は剥奪されても金はあるし親も権力を持っていた。それがグラムの歪んだ成長に拍車をかけた。


 そしてグラムはある時、父親たちが裏で進めている計画を耳にした。


 “エイルーン独立国計画”


 元はラノッサ王国の一領土でしかなかった現在のエイルーン自治領を、王国と完全に縁を切って独立した新国家にしようという計画だ。当然その新しい国には身分制度も取り入れる方針で、フリッター家の他にも多くの元貴族連中が暗躍している。その中心人物とされているのが元侯爵であるレウス・ブロンド、つまりヒスタリカの父であった。


 グラムは父親であるライス元子爵からブロンド家に取り入るよう命じられて魔術学校に入学していた。新国家設立の際、その立場を確固たるものとする為だ。


しかしブロンド家の次女が入学するとあってか、同学年で同じ野心を持つ生徒は非常に多い。その為か彼女のガードは堅いのだ。これまであまりヒスタリカと接点のなかったグラムは必死であった。しかし二ヶ月たったにも関わらず、ようやく名前と顔を覚えてもらった程度であった。


 今まで勝手気ままに生きてきたグラムにとって、ヒスタリカにおべっかを使う日々は苦痛でしかなかった。忍耐力のないグラムはそれを周りに当たり散らす。<第一>の生徒にそれをすると風聞が悪い。そこで恰好のはけ口となったのが<第二>の生徒だ。平民が高貴な自分と同じ学生というだけで虫唾が走る。日頃そう思っていたグラムは目につく<第二>の生徒へ絡んでいった。


 そこで今回の事件が起こった。


 しかもヒスタリカが所属する生徒会まで動くとは完全に想定外であった。あの場はなんとか嘘で誤魔化したものの、今度は上手くいくとはとても思えない。このまま“話し合い”が行われれば自分の苦労が水の泡になる。そんなことグラムには我慢ができなかったのだ。


(あのケージとかいうガキとエアリムって女……!あいつらさえ、あいつらさえいなければ……!)


 そこでグラムはある解決策を思い浮かんだ。いや、それは策とはとても呼べない穴だらけの単なる思い付きであった。


(あいつらがいなくなれば!そうなれば“話し合い”も行われないんじゃないのか?)


 グラムは何時も短絡的で浅慮であった。しかし性質が悪いことに行動力は人並み以上にあった。


(Cランク?関係ない!わざわざ冒険者にならずとも、金で冒険者を雇えばいいんだ!)


 ヒスタリカに取り入るという使命はグラムの親であるライスにも重要な案件だ。事情を話せばきっと支援してくれるに違いあるまい。


(まずはあの二人を調べる。時間はあまりないが、最悪Aランクでも雇えば楽勝だろう!)


 グラムの浅はかな行動を止める者は誰もいなかった。




「こんなところですかね」


「ああ。特に問題なかったな」


 あの後恵二とエアリムは巡回を続けたが、揉め事の類は一切なかった。一応ミルワードがまとめてくれた資料に書かれていた要注意ポイントは全て巡回したが、トラブルは見られなかった。


「しかし、多くの方が絡まれているようですね。これは当分見回らないとですね」


「大変だけど、これも好きな魔術を教えてもらう為に……ん?」


 ミルワードから貰った資料に目を通していた恵二は、ひとつ気になる点を見つけた。


「……リサベアたちも絡まれていたのか?」


「あら?本当ですね……」


 被害者のリスト一覧にはクラスメイトであるリサベアや同じ班員の生徒の名前もあった。どうやら班員で一緒に下校していたところに<第一>の生徒に絡まれたようだ。そこは特に気にはならなかったのだが、不思議に思ったのはその後の結果だ。


「あいつら、決闘を受けなかったのか?」


 その資料によると、事件を報告したのは第一班のコーゼという名の少年だ。班員5名で帰宅していたところを<第一>の生徒に絡まれたようだ。色々と馬鹿にされた上、決闘行為を強制させられたらしい。


 だが、リサベアはそれを拒否したそうだ。酷い中傷にも耐えて、その場はなんとか凌げたらしい。そこに恵二は違和感を覚えた。


「あいつがそんなタマか?寧ろ積極的に決闘行為をしそうだけどな……」


 何しろリサベア自身は、ついこの前に恵二へ決闘を申し込んできたばかりだ。そんな彼女が大人しくしていたという報告に恵二は違和感を覚えた。


「今度、コーゼにでも聞いてみるかな?」


 一通り見回りを終えた二人は一度学校に戻ってミルワードに報告すると、一緒に宿へと帰宅した。その頃にはすっかり日が落ちかけていた。




「それで、わざわざ私を呼びつけた理由は何かしら?」


 王の面前でベージュ色の髪をした女は開口一番にそう尋ねた。その不躾な態度に何人かは眉をひそめるも、この場にいるのは限られた者のみだ。礼節に煩い文官や貴族の姿はそこになかった。



 ここはハーデアルト王国の首都レイアルトの中央に位置する王城の一室であった。この部屋は特別な仕掛けが施されており、物理的にも魔術的にも盗聴が困難な会議室であった。重要な話し合いをする時にはこの部屋が用いられる。



 現在この部屋には6名だけしかいない。



 この国の頂点となるルイス・ハーデアルト国王


 魔術師長であり白の五大魔術師でもあるランバルド・ハル・アルシオン


 王の忠臣であるオラウ・フォンレッソ宰相


 若くしてその座についたキース騎士団長


 いつの間にか勇者代表とされたルウラード・オレオー


 そして先程口を開いたベージュ色の髪をした神官服の女のみであった。


 先程の女の問いに、ルイス国王が代表して答えた。


「ふむ。まずはいきなり呼びつけたことについて謝罪したい。しかし、事態は急を―――」

「―――ああ、いいわよ、そういう建前は。休暇中の私を呼びつけた分のお金は貰ってるし。それよりも早く本題に入ってよね」


 あろうことかその女は王の言葉を途中で遮った。そのあまりの態度に、普段はそこまで注意しないオラウ宰相も苦言を呈した。


「いくらなんでも言葉が過ぎますぞ!一国の主を前にしてそのような―――」

「―――よい、宰相。早く話に入りたいのはこちらも同じ。それに、それが貴公の冒険者としての流儀なのだろう?≪背教者≫殿」


 今度は国王がオラウの言葉を遮った。王がその二つ名を呼ぶと彼女は心底嫌そうな顔をした。


「エレティアよ。その二つ名はゴブリン並に嫌いなのよ!今後は名前で呼んでくれないかしら?」


「分かったエレティア殿。貴公に来てもらったのは他でもない。<神堕とし>の件についてだ」


「まあ、貴方たちがSランクの私を呼ぶ理由っていったら、それしか考えられないんだけどさあ……分からないのよね。私が神聖魔術使いだって当然知ってるでしょう?何でわざわざ<神堕とし>で神聖魔術が使えない私を呼ぶわけ?」


 エレティアはストレートに思ったことをぶつけた。


 そう、目の前の神官服に身を包んだ彼女こそ、この大陸に7人しかいないSランク冒険者のひとりであった。二つ名は≪背教者≫。その由来は彼女の信奉する神がアムルニス神でないことに原因がある。この大陸で他宗教論者はいることにはいるが、ここまで表立った存在は彼女くらいのものだ。


「当然分かっている。貴公が素晴らしい神聖魔術使いであることも。……そして、その神聖魔術が<神堕とし>の影響下にないこともな」


「―――!」


 王の言葉に彼女は一瞬だけ驚くも、すぐに表情を戻した。しかし、それとは裏腹に彼女からは冷たい威圧感のようなものが放たれる。部屋の室温が一瞬にして下がったかのような錯覚さえ受けた。臨戦態勢とまでは呼べないものの、彼女の態度に一同は緊張感が走る。


 しかしそれに割って入ったのは、この場で一番戦闘能力の無いオラウ宰相であった。


「待ってくだされ、エレティア殿!我らは貴方と敵対する気は毛頭ございません。この件について知る者もごく僅か、その上で貴方とは取引をしたいのです」


 オラウはいざ実戦となればただの老人、簡単に殺されてしまう非力な存在だ。だが彼はこういった“話し合い”の場でこそ真価を発揮する。今回の≪背教者≫との交渉はオラウ宰相に一任されていた。この場に居合わせたメンバーはそのオラウが指定した人員だ。


「……ちなみに、その事とやらを知っているのは他に何人いるのかしら?」


 エレティアは冷たい口調のままそう尋ねるも、オラウはひょうひょうと言葉を返す。


「お答え致しかねますね。仮に貴方がこの場にいる全員を始末し口を封じようとも、その情報は確実に洩れるとだけお答え致します」


「ちっ、それって取引じゃなくて脅しの間違いじゃないのかしら?」


 彼女としては、自分の神聖魔術が他人のそれとは違い、<神堕とし>の影響を受けていないという情報を秘匿したかったのだ。その証拠に彼女は現在ギルドに休暇届を出していた。その理由は“<神堕とし>の影響で仕事にならないから”だそうだ。


 流石に悪評高い彼女でも、その情報が教会に知れ渡るのは看過できないのだろう。それを見越してオラウは交渉を持ち掛けている。


「いいえ、取引です。こちらもある程度のデメリットは請け負います。これで対等です」


「へえ?ちなみに貴方たちのお願いを私が聞くと、そちらは何をしてくれるのかしら?」


 オラウの言葉にエレティアは興味を示す。


「貴方の後ろ盾になってあげましょう。我が国はエレティア殿を正式に王宮へと招き入れたい」


「……本気?教会だけでなく、ギルドも敵に回すわよ?」


 オラウの提案にエレティアは聞き返した。とても正気とは思えない取引であったからだ。


「元Sランク冒険者が国の役職に就いた前例は過去にもあります。確かにギルドからはよく思われないでしょうが、批難される謂れも無いですな。それに、少し言葉が過ぎますが貴方はギルドでも厄介者扱いでしょう?」


「本当に言ってくれるわね。まあ、私は教会から毛嫌いされているから、確かにギルドも手を焼いているかもね」


「そして教会側ですが、これについても問題ないです。いくらアムルニス神の名をかざそうが、大義名分がなければ国を相手に戦を起こせませんから。私達は何も教会と対立するつもりはありません」


 過去アムルニス教と対立していた国が聖騎士団に滅ぼされたことがあった。ただ、その時は国による信徒の迫害や教会の撤去といった行為があってこその反発だ。大義なくして聖騎士団は動かないのだ。


「ハーデアルト王国に身を置いて頂ければ、煩わしい外野の目を気にしなくて済みますよ?」


「報酬次第ね。まさか国の為にタダ働きしろなんて言わないわよね?」


「勿論です。結果に見合った報酬は用意させてもらうつもりです」


 オラウにとって最大の問題はそこであった。彼女は守銭奴でも有名だ。膨大な額を要求されるのはある程度覚悟をしていたが、財政を預かる者として過剰な出費は極力抑えたかった。


 しかし今は<神堕とし>という非常時でそうも言ってはいられない。既に国庫は危険な状態だが、彼女を雇うことで国の平和が保たれるのなら、いくらでも支払う覚悟があった。


 彼女と取引した南方の国が未だに分割で報酬を支払い続けているのは有名な話だが、それはつまり前払いでなくても引き受けて貰えるという証明でもあった。未来のハーデアルトには負担を強いることになるが、大事なのは今、現状なのだ。


「まあ、具体的な数字は追々とね。……それで、肝心の仕事内容は?」


 エルティアの問いにオラウは口を開いた。


「現在王国の領土内には多数の不死生物(アンデッド)が出現しております。貴方にはアンデッドどもから国を守ってもらいたいのです」


「まあ、私を呼んだってことはそうでしょうね。それで場所は?」


「全部です」


「……は?」


 思わず聞き返すエルティアにオラウは再度同じ言葉を告げた。


「全部です。この王国全ての領土を不死生物(アンデッド)から守って頂きたい。それが我が国の要望です」


 オラウの言葉にエルティアは固まってしまった。

タイトルですが以前投降した119話と被っていたので「話し合い2」に変更しました。


もうお気付きかもしれませんが、サブタイは全てその話の“会話の中”から取っています。


話しを書いた後に“今日のサブタイどうしよう”と悩みながら決めております。


それだけです。

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