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今日はちょっと

すみません、昨日分の投稿間に合いませんでした。


水、木辺りで一話増やせないか頑張ります!

「兄貴ー!放課後、一緒に街へ行こうぜ!」

「そうっすね。いいっすねー!」

「ニッキー兄貴の言うとおり、一緒に行きましょうよー!」


「悪い。今日は駄目だ」



「……ケージ。放課後、空いてる?一緒に魔術の鍛錬しない?」


「悪いなクレア。ちょっと今日は駄目なんだ。また明日な!」



「ケージ君。一緒に帰りませんか?」


「すまないエミリア。今日はちょっとやりたいことがあるんだ!今度な!」




 恵二は放課後のお誘いを断り続けながら学校を出ると、そのまま街を出ようとした。今日は何時もと場所を変えて西の門から外出をする予定だ。


「ウォン!」


「お、フウ!何時も見張りご苦労さん。もう少し兵士さんと一緒に頑張れば、街に入れてくれるってよ」


「ウォオオンッ!」


 どうやら恵二の話が分かったようで銀色の狼(シルバーウルフ)のフウは尻尾を左右にぶんぶんと振って喜んだ。巨体な銀狼に通りかかる者は皆怯えていたが、少年に懐くその姿はただのデカい犬であった。中にはそんな銀狼を温かい目で見守る通行人もいた。


 最近はようやく人懐っこい銀狼たちの人気が出始めて、アルバード市長の目論見通り徐々に市民へ受け入れられつつある。あともう一押しであった。



 恵二は西で門番をしているフウに別れを告げると、街の西側へと駆けた。




(ここらでいいか……)


 人気のない場所に到着した恵二は手に持っていた荷袋の中からターバンと色つきゴーグルを取り出して身に着けた。


(よし、準備完了!)


 そこには三辻恵二の姿は無く、謎の魔術師Kが立っていた。これでいくら神聖魔術を放とうが、誰かに目撃されても最終手段として魔術師Kがスケープゴートになってくれる。


 折角適性がある上、<神堕とし>の影響を全く受けない神聖魔術をこのまま試さない手は無い。支援・回復魔術に加え、不死生物(アンデッド)に有効な攻撃とその種類は豊富で、使いこなせれば必ず将来冒険をする際の助けとなる筈だ。


(まずは回復魔術からだな!)


 恵二は水属性の適性もそこそこあったのだが、どうも水の癒し(ウォーターヒール)水霊の癒し(アクアヒール)など回復魔術のイメージが苦手で、結局修得できなかったのだ。同じ属性でも得手不得手があるようだ。


 そこで目をつけたのが神聖属性の回復魔術だ。水よりこちらの方がなんとなくだが“回復系っぽい”イメージが浮かべそうだと恵二は考えているのだ。


 その読みは正しく、初級魔術ではあるが<聖者の癒し(ヒール)>の発動に一発で成功した。自分で作った浅い傷があっという間に塞がった。


 すると、次に試してみたくなるのはどのレベルの怪我まで治せるかという点だ。


(しかしどうするかなぁ。自分で大怪我なんてしたくないし、かといって魔物相手に傷負わせて回復させてってのも、なんか後味悪いし……)


 結局、回復魔術を本格的に試すのは後日にまわして、恵二は少し早めに鍛錬を切り上げ街へ戻ろうとした。




(ん?人か?あれは……)


 街の西門からまだ離れた所に複数の人影が見えたのだ。しかもその内の何人かは顔見知りだ。先程放課後の誘いを断ったニッキーとその子分二人、それにエアリムとクレアの姿まで見えた。


 他にも知らない青年が三人いた。揃いの制服を身に付けていることから恐らく<第一>の生徒だろう。


 恵二が近付いていくと向こうもそれを察知したのかこちらへと視線を向けた。


 一体何があったのだろうか。困り果てた顔をしたエアリムがこちらへと駆け寄り、恵二に声を掛けようとした。


「ケー……」

「うおおおおおっ!魔術師Kさんですか!?」


 しかしエアリムの声はニッキーの大声によってかき消された。彼は大声を上げながらエアリムを追い越して恵二の元へと参じた。


「俺、大会見てたっす!マジ感動したっす!今度、魔術を教えてください!」


 ニッキーの台詞で恵二は自分が今どんな格好をしているかを思い出した。


(やべ、ターバンにゴーグル着けたままだった……)


 今の恵二はニッキーからすると、兄貴分であるケージではなく、魔術師Kにしか見えなかったのだ。この場でKの正体を知っているのはエアリムのみである。


「おい!そこの怪しいチビなんてどうでもいい!それよりさっさと始めるぞ!」


 すると<第一>の生徒の一人が突然口を開いた。どうやら彼らと一悶着あったようで、ニッキーたちとは険悪な雰囲気であった。


 魔術師Kをチビ呼ばわりされて、真っ先に反応したのは勿論ニッキーであった。


「ぁあ?テメエ、俺たちだけでなくKさんまで馬鹿にすんのかゴラア!?」

「そうだそうだ!」

「兄貴の言うとおりだぜ!Kさんはなぁ、すげえんだぞ!?」


 ニッキーに続いてダッドとデニルもKを持ち上げる。


「ふん。誰かと思えば、確か魔術大会で初戦敗退した男じゃないか。そんな事、俺でもできるぞ?」


「いやあ、寧ろあのレベルの低い大会で一回戦負けする方が難しいって!」


「言えてる!チビの女が優勝するくらいだしな!」


<第一>の生徒たちは初戦敗退した魔術師Kを大したことないと嘲笑いだした。それだけでなく、大会のレベル自体が低いのだと優勝したナルジャニアまで馬鹿にし始めたのだ。


(こいつら、本気か?お前らじゃ束になってもナルに秒殺だっての!)


 恵二は心の中でそう反論した。自分はともかく、三賢者や勇者まで馬鹿にするとは大した度胸の持ち主だ。


(にしても参ったなぁ。Kの正体はなるべく知られたくない。今後もこの便利キャラを使いたいからな。しかし、口を開くわけには……)


 短い付き合いとはいえ、声を出せばニッキーやクレアたちに正体が露見してしまうかもしれない。だが、現在の状況を把握する為にも色々と聞きたいことがあったのだ。


 恵二は無言のままエアリムの方を向いた。


 察しの良い彼女はそれだけで恵二の思惑を理解してくれたようだ。“初対面”の魔術師Kに状況が分かるよう、ここまでの経緯を説明し始めた。




 恵二と一緒に帰ろうとし、誘いを断られたエアリムは、近くにいたクレアに途中まで一緒に帰ろうと声を掛けた。


 するとクレアは魔術の鍛練があるからと一度断ったのだが、それならば自分もと、エアリムはクレアに一緒に鍛練してもいいかと尋ねた。


 その提案に頷いたクレアであったが、それを横で聞いていたニッキーが話し掛けてきた。


「俺も一緒に鍛練させてくれ!姉さん」


 おまけに子分二人まで付いてきた。クレアは心底嫌そうな顔をしていたが、人の良いエアリムはそれを受け入れた。


 ニッキーが街の西側に丁度良い鍛練場所があると言うので、五人はエイルーンの西門を目指した。


 その道中で<第一>の三人に絡まれたのだという。


 何でもその三人はエアリムやクレアをナンパしたようなのだ。


 そこからは説明を聞かないでも、恵二にはその先の展開が容易に想像できた。ニッキーが売り言葉に買い言葉で、あれよあれよという流れで決闘となったのだろう。



「私はお止めしたんですけど、両者とも頑固で……」


「……街の外で決闘することになったの」


 エアリムとクレアは気だるそうに教えてくれた。どうやら恵二は最悪のタイミングで遭遇してしまったようだ。


(悪い予感しかしない。大人しく済めばいいが……)


 決闘はそれぞれ男同士の3vs3で行うようだ。女性陣は参加する気はないようだ。ニッキーがKに審判をするよう頼んでくる。


「まぁ<第二>の女よりはマシか」


<第一>の生徒の言い方にムッとするが、決闘をしないことには治まりそうになかったので、審判役を受けることにした。向こうもここは部外者だと思われるKが適任だと思ったのだろう。


 勝負の方式もお互いに決めていった。何でもありの3vs3で最後まで立っていた者の側が勝利となる。


(三人とも緑のネクタイか……。おそらく楽勝だろうな)


<第一>の生徒は全員が制服を着ていた。男女共にブレザーでネクタイを着用していた。そのネクタイ色によって学年を見分けることができるのだ。


 一年から順番に緑、青、黄、赤となる。彼らは三人とも恵二たちと同じ一年生であった。


魔力量もそれほどあるようには思えず、武術に心得があるようにも見えない。これでよく決闘を申し込んだものだ。ニッキー一人でもいい勝負になるのではというのが恵二の予想だ。


「何時でもいいぜ!あっという間に終わらせてやんよ!」


「大きく出たな<第二>風情が!」


 両者が構えあう。恵二は無言のまま手を高くかざすと、それを一気に振り下ろした。それが戦いの合図となった。


「―――うおおおおお!」


 ニッキーは自身を魔術で強化すると、そのまま<第一>の生徒三人へと突撃した。恵二の時と同じ近接戦闘をするつもりのようだ。


「馬鹿め、猪か!二人ともあいつを足止めしろ!俺の魔術で一気に決めてやる!」


 リーダー格の生徒が指示を飛ばす。二人がニッキーを押さえている間に、もう1人が魔術を放つ作戦のようだ。勿論相手はニッキーだけではない。ダッドとデニルの動向もきちんと観察していたが、二人は開始位置から全く動いていなかった。


 それを好機と捉えた<第一>の生徒たちは勝利を確信し笑みを浮かべていた。だが、彼らは甘かったのだ。ニッキーの強化魔術はそんなものではない。


「―――どりゃああ!」


 大きな雄叫びを上げたニッキーの駆ける速度は、更に何段も上がった。先ほどまでがMAX速度だと決めつけていた<第一>の生徒たちは、ニッキーの全力疾走に動揺する。抑えに向かった二人の間をすり抜けてニッキーは、詠唱中の生徒の眼前へと迫っていたのだ。


「―――ひ!?」

「くらえやああああ!!」


 渾身の右ストレートが詠唱中の生徒へと炸裂する。咄嗟に両腕を前に出して防ごうとしたが、そのガードごと青年を遙か後方に吹き飛ばした。


「「なっ!?」」


 振り向いたらリーダー格の青年が後方に飛ばされていたのを見て、残りの二人は固まってしまった。そしてその隙を逃すほど、戦い慣れているニッキーは甘くはなかった。


「ぎゃん!」

「あうっ!」


 残りの二人も身体能力を強化されたニッキーに殴り飛ばされた。結局、ニッキー一人で<第一>の生徒三人を叩きのめしてしまったのだ。


「「さすが俺達のニッキー兄貴だぜ!」」


 兄貴分の勝利を疑わなかった子分二人は、一度も手を出さずに傍観していただけであった。おそらくニッキーがそう指示を出していたのだろう。


「どうっすか!?見てくれやしたか、Kさん!」


 ニッキーは自身の戦いぶりはどうだったかと変装中の恵二に詰め寄った。


「ちょっと、やり過ぎですよニッキー君!」


「腕、折れてるかも……」


 一方戦いを見守っていたエアリムとクレアは吹き飛ばされた生徒たちの様子を見ていた。一番最初にニッキーに吹き飛ばされた青年は腕が骨折しているのか、変な方向に曲がっていた。とても苦しそうに呻き声を上げていた。


「あああ……!腕があああ!痛いいいぃぃ!」


「ちっ、軟弱なやつらだぜ」


 ニッキーはそう愚痴を零すもやり過ぎたかと頭を掻いた。自分と自分の所属している<第二>を馬鹿にされ、少し頭に血が昇って力んでしまったようだ。残り二人の青年はは殴られた個所に痣ができているものも、これといった大きな怪我は見られない。


(……まてよ?丁度今は魔術師Kに変装中だ。そして目の前には怪我人……これはチャンスなのでは?)


 そう考えた恵二は骨折をした腕を押さえながら苦痛の声をあげている生徒の近くへと寄ると、神聖魔術の準備に取り掛かった。


 使用するのは中級の天の癒し(ミドルヒール)。おそらくこのレベルならスキル無しでも、高い適性の恩恵もあって放てるだろう。そう考えた恵二は彼の折れた右腕に魔力を集中させると、無詠唱のまま神聖魔術を放った。


 温かい光が恵二から放たれ、青年の腕へと纏わりつく。


「……何これ?」

「嘘!?この魔術は……!」

「おお、Kさんの魔術か!?」


 何の魔術を行使しているのか分からないクレアは首を捻り、エアリムは何かを察したのか驚いた表情を浮かべていた。ニッキーたち三人は憧れの魔術師の技を生で見れるとあって大はしゃぎだ。


「すっげえ!腕が治っていく……!」


「あっという間に完治したぜ!?」


 ダッドとデニルが驚きの声を上げた。先程まで見るからに異常であった腕の腫れも引き、痛みの無くなった生徒は狐にでもつままれたような表情を浮かべていた。


 決闘は終わった。少しやり過ぎたが青年の怪我も無事に治り、回復魔術を試し撃ちできた恵二は満足していた。


いまだ考え事をしているままのエアリムの肩を軽く叩くと彼女はハッと我に帰った。このままここにいてもまた揉め事になると考えたエアリムはニッキーたちを連れて街へと戻った。


 魔術師Kの変装をしていた恵二はそのドサクサに紛れて姿を眩ませた。最後まで名前を呼ばずに色々と気を遣ってくれたエアリムに感謝しつつ、恵二は彼女たちよりか少し遅れて街へと戻ったのだ。




「なるほど、そういう訳で回復魔術が使えたんですね」


 後程合流したエアリムに、恵二は異世界人や勇者であることは伏せて、神聖魔術についての事情を全て話した。魔術師Kとして今後神聖魔術を使うつもりなら、正体を知っている彼女には打ち明けてしまった方がいいだろう。


「エアリム、この件は……」


「存じております。教会に売ったりなんかしませんのでご安心ください」


 そんなことはしないだろうと信じている。エアリムには何から何まで世話になりっぱなしであった。



 結局今日はエアリムと一緒に帰宅をした。先程は断られたこともあってか、最終的には願いの叶った彼女はどこか上機嫌であった。




 翌日、決闘に立ち会った者たちは校長室に呼び出された。何故か恵二も一緒にである。



「さて、何で呼び出されたか分かるかね?」


 そんなお約束の様な台詞から校長の話は始まった。


 何でも第一エイルーン魔術学校から<第二>に苦情が来たのだそうだ。あちらの主張によると“我が校の生徒三名が、そちらの生徒五人と魔術師Kなる人物に無理やり野良試合をさせられて、六人で袋叩きにされた”と生徒は証言しているそうだ。


「はあ!?そりゃねーぜ校長!あいつら三人は俺が一人で倒したんだぜ!?」


「ふむ、決闘行為をしたのは事実なのか。エアリム君、詳しく説明お願いできるかな?」


「はい……」



 ミルワードに尋ねられたエアリムは昨日の経緯を正直に話した。



「うん、状況は理解したよ。勝手に決闘をした行為は褒められないけど、向こうに落ち度があるように思えるね。あちらには“そちらの生徒さんの妄言です”とでも返答しておこう。しかし、元貴族の生徒は気位だけは一人前だからね。今後も何かと<第二>を目の敵にしてくるかもしれないよ?」


今後も絡まれるだろうと示唆する発言をミルワードがすると、ニッキーは自信満々にこう答えた。


「大丈夫っすよ!俺が全部まとめてぶちのめしてやります!」


「いや、それはホント止めてね……。やっぱり君たちには少しだけ罰を与えておくか。三日間街中を出歩くの禁止。登下校以外は極力自室で勉学に励んでね」


「そ、そんな~!?」


 余計なことを口走ったニッキーに五人の冷たい視線が突き刺さる。


「あのぉ……ケージ君も、ですか?」


 エアリムが恐る恐るそう口にする。彼女は魔術師Kの正体を知っているが、あの場に恵二がいないことになっていた。しかし先方の話では今回の事件の首謀者扱いされているのだとか。


「今回の件はほとんど<火の組>第六班の問題だしね。君も連帯責任」


 建前はそういうことだが、その場にいながらニッキーたちを止めなかった恵二も罰を受ける事になった。


(仕方ない。三日間は大人しく宿か図書館ですごそう)



 恵二は人生初の軽い謹慎処分を受けたのだ。

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