表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/244

君はつくづく面白い子だねえ

「ふむ、<異世界強化召喚の儀>か。成程、面白い召喚術だね。さすがは白の五大魔術師、東方のランバルドといったところか……」


「正確には、そのお師匠様が編み出した召喚術のようなんですけどね」


 恵二から<異世界強化召喚の儀>について詳細を聞いたミルワードはとても関心をした。だが、それほど興味を持たなかったようだ。色々な魔術の研究をしたいミルワードにとって、大量の魔石を長年集めてやっと発動できる召喚術はコスパが悪く、どうやら試す気にならないようだ。


「三辻君って勇者様だったの!?」


「正確には、元勇者な?」


 自分の素性を暴露した恵二は、山中千里からあれこれと質問攻めにあった。他の七人の勇者はどんな人たちなのか、どういった世界からやって来たのか。それから恵二のここまでの冒険劇を彼女はメモを取りながらあれこれと聞いてきた。


「……山中さん。なんでメモを取ってるんだ?」


「いやー、作品の参考にしようと思って」


 あれに自分が出るのかと恵二は表情を曇らせた。そんな恵二の胸中を汲み取った彼女は弁明をした。


「あー、さすがに名前までは出さないから安心してよ!あくまで参考程度よ!あ、それと私のことは千里でいいから。こっちの世界じゃ名前呼びが普通みたいだしね」


「それなら俺も恵二で構わないよ。……フリッジスは家名とかあるのか?」


「ただのフリッジスでいいデスヨ。家名はありまセンから……。それと、やはり元の世界に帰る魔術はないデスカ?」


 フリッジスの問いに恵二は首を横に振った。元の世界に戻る魔術はこれまで聞いた事が無いのだ。


「私もそんな魔術は聞いたことないね。この白の世界はどうやら他の世界の受け皿のようなんだよ。異世界という名のカップの中の水が、時たま溢れ受け皿へと流れ込む。しかし流れ込んだ水は決して元のカップには戻らない。まあ、私が知らないだけで元の世界に戻れる方法があるのかもしれない。奇跡を起こすのが魔術だからね」


 白の世界では異世界人は珍しいものの、その存在は度々確認されてきた。だが他の世界では異世界人が現れたという情報は一切聞かれなかったのだ。現状で異世界転移は白の世界のみの片道切符だと考えられている。


「そう……デスカ……」


 それを聞いたフリッジスは見るからに落胆した。どうやらこの少年は望まぬ形でこの世界に飛んできたようだ。


<異世界強化召喚の儀>とは、魔力が強化されたりスキルを与えたり更には自動翻訳技能がついたりと凄まじい性能があるが、一番のポイントは“呼ばれる側が異世界への転移を潜在的に望んでいる”という点だ。


 恵二はこの世界に呼ばれたことを後悔していなかった。元の世界に全く未練がないという訳ではないが、それを差し引いてもこの世界に呼ばれたことには感謝をしている。他の勇者も同じだ。


「んー、私はこの世界に呼ばれて良かったって思っているけどね」


 どうやらそれは千里も同じ考えのようだ。やはり彼女も<異世界強化召喚の儀>で呼ばれたのだろうか。彼女は気が付いたら誰もいない荒野にいたと証言している。場所はノーグロースと呼ばれるここより更に西側にある商いの盛んな国だそうだ。彼女は運よく街まで辿り着け、小説家という職に就けたようだ。


 今は無理を言って作家稼業を休職し、魔術を習いたくてわざわざこの地にやってきたのだとか。


「うん、粗方の情報は共有できたかな?君たちの境遇と目的はこれである程度お互いに把握できたと思う」


 情報の共有といっても、なにも全てを話した訳ではない。他の勇者仲間のスキルなどを勝手に話す訳にはいかないし、恵二自身スキルのことは伏せていた。それは他の者も同様なのだろう。他の二人も偶にお茶を濁す場面がみられた。


「ケージ君とチサト君は魔術を習いたい。フリッジス君はここで生きる術を身に着けつつ、できれば元の世界に帰りたい。その為に三人はこの学校に通っている。その認識であっているかな?」


 ミルワードの意見に恵二たちは頷いた。三人とも魔術修得を目的としてこの学校に来ているのだ。


(まあ、それは他の生徒も同じか……)


 それだけに、<第二>の存在は生徒たちには有り難かった。ここにいる生徒の大半は<第一>で試験に落ちたか、居心地が悪くこちらに移った者たちばかりなのだから。


「私としてもこの学校は気に入っている。つまりここにいる4人ともこの<第二>がなくなってしまったら困ってしまうという訳だ」


「え?この学校、なくなってしまうんですか!?」


 ミルワードの言葉に千里は問いかけた。確かに今の校長の発言はそう捉えてもおかしくない言い回しであった。彼女の質問にミルワードは頭を掻きながら答えた。


「んー、ちょっと勘違いさせてしまったね。今すぐに潰れる訳ではないよ。でも、このままだと長くは持たないだろうね」


 開校二日目にも関わらず、このままでは学校が危ないという校長の発言に三人は驚いた。ミルワードは説明を続けた。


「今は私やアルの私財、それと懇意にしている商会の援助で成り立っているけどね。学校経営とは思った以上にお金が掛かるらしいんだよ。学費を値上げれば黒字化も不可能ではないという話なんだけど、それは私もアルも望んでいない」


 二人が格安の学費で魔術学校を開いたのは、少しでも多くの者に魔術を学べる機会を作ることにあった。アルバード市長は魔術を多くの市民に触れさせることで魔術都市としての質を向上させる為、ミルワード校長は自身の魔術見識を高める為とそれぞれ理由は違うのだが、値上げをして一部の富裕層しか魔術が学べないのでは本末転倒なのだ。


「お金か。こっちの世界も世知辛いんだなぁ……」

「私、出版で稼いだお金を寄付します!」

「僕も少しくらイお助けできマス!」


 恵二もとくにお金には困っていなかった。少しくらい融資できると伝えたがミルワードはその提案を断った。


「正直な話、お金を用意しようと思えばできるんだよ?こう見えても私は三賢者だ。ちょっと高ランクの魔物でも倒してきて素材を売り払えば多少は賄えるさ」


 確かにミルワードの実力ならそれも可能だろう。魔物の素材を集めるなど彼なら苦にはならない筈だ。


 ちなみに先程の課外授業で彼が使った召喚術で呼んだ魔物を倒したらどうかとも思ったのだが、召喚術を通して自然発生させた魔物は暫くすると消えてしまうそうだ。さすがに自分で呼び出した魔物の素材を売り払うことは不可能なようだ。


「でも、学校経営を個人の稼ぎで回すっていうのはどこか歪だろう?そんな手段で延命してもこの学校に未来はない。アルにはそう反対されたよ」


「まあ、確かにそうなんですけど……学校がなくなるのは困るなあ……」


 折角念願の魔術学校に入学した三人は、今後の先行きを思うと暗い表情を浮かべた。しかし、ミルワードはある妙案を出した。


「そこでだ。君たちには二つばかり協力して貰いたいことがある。一つ目はこの学校の知名度をあげること。二つ目は異世界人ならではの知恵をお借りしたい。どうだろう?」


「二つ目は問題ないですけど、一つ目は何か具体案はあるんですか?」


 恵二の問いにミルワードは自信満々に頷いた。


「ああ、打ってつけの秘策がある。学校の経営は今年度一杯なら現状の稼ぎでも持つらしい。そこで、君たちには秋に行われる選抜対抗戦で上位の成績を目指して欲しい!そこで我が校の知名度を高め、支援してくれる人を増やそう!」


「秋の選抜対抗戦?」


 そのイベントについては恵二も軽く耳には入れていた。


 毎年エイルーン魔術学校は秋になると、中央大陸の各地にある魔術学校の代表を集めて魔術大会を開催するそうだ。団体戦だと聞いてはいるが、それ以上の詳しい内容は全く知らなかった。


「毎年7、8校くらいが参加するんだけどね。各校の代表5人が個人戦を5回行い、勝ち星の多い学校が勝利って方式だね。君たちには最低でも<第一>以上、できれば上位3位以内に入って欲しい」


 確かにその大会で好成績を修めれば<第二>の知名度も上がり、入学希望者も勿論、スポンサーの数も増えるのだろう。


 だが、その大会はあくまでも学校の代表者5名が行うものだ。まだ入学二日目だというのに、まるで自分たちが代表だとでも言わんばかりのミルワードの要請に、恵二たち三人は困惑してしまったのだ。


「あのぉ、それって私の他に適任者がいるんじゃないですか?」


 千里は自信が無いのか遠慮気味にそう答えたのだが、ミルワードは彼女の考えを否定した。


「何を言っているんだい!?君の魔力量は凄まじい!順当にいけば、君は間違いなく代表候補だよ!そしてケージ君やフリッジス君にも才気を感じる。確かに他にも優秀な生徒は多数いるから、選抜メンバーは慎重に選ぶ必要はあるけど、できれば君達には生徒たちを引っ張って貰いたいね」


「ウーン、自信ないデスけど頑張りマス!」


「俺達も学校がなくなるのは嫌だしね。けど1年生だけの俺たちで大丈夫なんですか?」


<第二>は今年開校したばかりの為、今年は1年生しかいない。他の学校は何年も魔術を習っている生徒たちが出てくるのだ。どうしてもそこら辺の不利は否めない。


「その為に君たちにはどんどん魔術を覚えていって貰うよ。と言うわけで、いよいよお楽しみの適性属性の測定をしようじゃないか!」


 そうだった。恵二はその為にわざわざ放課後に校長室まで訪れたのだ。新たな異世界人との出会いにすっかり忘れてしまっていた。


「君たち三人はあれこれと理由をつけて、まだ測定をしてもらっていない。ケージ君には説明したけど、君たち異世界人の生徒にはこのオリジナル測定装置を使って貰うよ!」


 ミルワードは千里やフリッジスにも、新たな4つの属性を加えたミルワード製の測定装置について詳しく説明をした。


「面白そう!」

「凄く楽しみデス!」


 二人も恵二と同じく属性の適性を調べていなかったので、今回の測定を楽しみにしてい。


「それじゃあ、まずはケージ君からやってみようか」


 いきなり自分の番とあってか、恵二は緊張しながらその測定装置を起動させた。


 複雑な魔法陣のような模様が描かれた紙の中央に水晶がある。それに魔力を通すことで周囲に散りばめられている結晶体の反応を見る。適性があればあるほどその反応は強く、魔法陣の模様がまるでレーダーチャートのように光り輝いて表示されるのだ。


「おお!これは……!」

「これって結構凄いんじゃない?」

「あちこち光ってマス!」


 その様子を覗いて見ていた三人が感嘆の声を上げる。恵二も自分が想像していた以上に多くの適性反応が見られ驚いていた。


「ふむ。火、地属性はかなりのものだね。風や水が少し弱いけど、それでも平均以上の適性がある。雷もなかなかいい結果だね」


 基本五種と呼ばれる火、水、地、雷、風属性の全てに適性があるようだ。火と地には自信があったが他の属性も平均以上とあって十二分に満足な結果だ。


「意外だったのは君、神聖魔術の適性があるんだねえ。今は<神堕とし>の影響で使えないのだろうけど……」


 そう、それが一番意外であった。


(まさか自分に神聖魔術の適性があったなんてなぁ……。それに……)


 意外な結果だったのはそれだけではなかった。暗黒属性は人族には使用出来ない為、全く反応をしていない。闇や光も並くらいの適性だそうだ。それより問題なのはこの後であった。


「まさか死霊魔術が一番適性あるとは……。君はつくづく面白い子だねえ」


「……これ、公になったら問題なんですかね?」


 以前ミルワードはバレなければ問題ないような発言をしていた。適性があるだけでは処分されるようなことはないとも言っていた。


 だが、恵二の適正値は異様であった。死霊魔術の適性を現すメーターが魔法陣一杯にまで表示されていたのだ。これはかなりの適性があることを示している。


「うーん、あんまり表沙汰にしない方がいいかもね。法律上問題ないけど、妄信的で厳格な信者たちは目の敵にするかもしれないよ?」


「……アムルニス教は死者をアンデッド化して蘇らせるのは禁忌(タブー)なんですか?」


「いや、死者を蘇生させるのはあくまでもアムルニス神のみだと定義されているからね。彼らにとってはそこらに沸くアンデッドも“神が与えた試練”という訳なのさ。あ、これ内緒にしててね?」


 狂信者の前で神の悪口を言おうものなら後ろから刺されかねないとミルワードはおどけながらそう話した。


「しかし、ケージ君でもこの属性に反応はなかったか……」


 ミルワードがそう口を零したのは、彼を以ってしても属性が分からないという謎の結晶体に反応が全くなかったからだ。もしかしたら異世界人である恵二ならとミルワードは密かに期待をしていたのだ。確かに恵二も気にはなるのだが、今回の結果には非常に満足していた。


「俺は十分満足してますよ?一番欲しかったこの属性の適性がありましたから」


 そう呟いた恵二はある結晶体を指差した。


「ふむ、時空属性か……。確かに適性があるようだね」


 決して高い数値とは言えないが、適性がある事自体珍しいとされる時空属性。その適性が自分にあったことが何よりも嬉しかったのだ。


(これであの魔術を、異空間魔術を扱える可能性が出てきた!)


 恵二がどうしても取得したかった魔術が、時空属性に分類されている異空間魔術というものであった。その名の通り、現実空間とは異なった空間を操る魔術で、その技術は大量の荷物を持ち運べる超希少アイテム【マジックポーチ】にも応用されている。


(冒険をするなら荷物の持ち運びが楽になるに越したことはない。しかしお金があるとはいえ、さすがにマジックポーチまでは買えないからなぁ……)


 以前グリズワード国のヘタルスの町で馬車を購入する際、恵二は【マジックポーチ】を所持する商人と出会っていた。その時から類似のアイテムを入手するか、代用できる魔術が使えないかずっと考えていたのだ。


 マジックポーチは見た目ただのポーチだが、その中は異空間に繋がっており大量の荷物だけでなく巨大な物まで楽に持ち運びできる。そのことから商人であればなんとしても手に入れたい程の逸品だ。その価値は、ポーチを売れば孫の代まで遊んで暮らせるほどの大金が手に入るそうだ。


 そして時空属性の中には、そんなマジックポーチと同じ効力を持つ魔術もあるのだという。修得はかなり難しそうだが、その可能性が出てきただけでも幸運であった。それにその他の結果も全体的に良かった。


 属性の最大適正値を10として見ると、恵二の適性属性は以下のとおりである。


 火:9

 水:4

 地:9

 雷:5

 風:4

 光:3

 闇:3

 神聖:9

 暗黒:0

 死霊:10

 時空:5

 不明:0


 ちなみに3が平均並みの適性値と言える。6以上もあれば得意な適性だと胸を張れるレベルであろう。そう考えれば恵二は得意な属性が火、地、神聖、死霊属性の4種もあったのだ。この結果にはミルワードも手放しで褒めてくれた。


「いやー、思った通り面白い結果が出たね。さ、次どんどん行こう!チサト君も試してみようじゃないか!さあ、ほらほらー」


 測定をする本人以上にミルワードはノリノリであった。校長にそう急かされたチサトも恵二に続いて水晶玉に魔力を通した。彼女の魔力量は凄まじく、全力ではないのだろうが水晶に注がれる量からいって恵二を軽く凌駕していた。それを見たミルワードは慌てて口を挟む。


「―――ま、待ちたまえ!もっと少量でいいから!これは量じゃなくてあくまで質を測る装置だからね?頼むからもっと魔力を押さえてー!」


 魔力量測定の時と同じく彼女に水晶を壊されるかもと危惧したミルワードは慌てて彼女にそう声を掛けた。千里は魔力量をかなり絞ったが、それでも十分な量の魔力が水晶へと通された。


 そして測定結果が現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ