壁職人
「ああ、もう!時間が無いじゃない!?急いで校庭に向かうわよ!」
(((誰の所為だ!?)))
自己紹介という名の苦行を共に乗り越え、一体となったクラスメイトはみんなが同じことを心の中で思っていた。
現在<火の組>の生徒は能力測定を行う為、スーミーに急かされる形で校庭まで足早に向かっていた。
「なあ?みんな何で校庭に向かってるんだ?どういうこと?」
さっきまで気絶していた少年エルフもやっと目が覚めたのだが、起きざまに校庭に急いで向かうよう言われ、半ば混乱状態であった。
「これから校庭で能力測定をするらしいよ、ルーディ」
気絶していた少年エルフに説明をするようスーミーに指示されていた恵二は、親切に教えてあげた。
「ふーん、試験の時にも魔力量とか測定したけど、また同じことするのか?」
「いや、ちょっと違うようだぞ?それと他の生徒の測定結果にも注目するよう先生が言っていたから、何か意味があるのかも。ルーディも気を付けろよ?」
「……?俺ってお前に名前名乗ったっけ?」
そこでようやく少年エルフ改めルーディは、いつの間にか見知らぬ人族の少年に名前を覚えられていた事に気が付いた。
恵二は少年が気絶している間にスーミーから勝手に自己紹介されていた事をルーディに教えた。
「ったく、相変わらず乱暴だな。あの人は……」
ルーディの愚痴に周りにいた生徒たちは同意した。
「ああ、流石にナンパされた男を全身火だるまにしたのはやりすぎだと思うぞ?」
「痴漢も焼死一歩手前まで追い込んで、危うく過剰防衛で投獄されかけたとか……」
「寝ぼけて集落の森を焼く話は正直引いたけどね」
「何でみんなあの人の事そんなに詳しくなってるんだよ!?」
自分が気を失っていた間に一体何があったのか、ルーディは気になって仕方がなかった。
彼と同じように気絶させられていたヤンキーも目を覚ましていた。
(確かニッキーって言ったか?某ランドのネズミみたいな名前だな)
グラサンのような色付きゴーグルを装着した金髪パーマの青年は、子分のように付き従う二人の青年から事の顛末を聞かされていた。
確か彼の生徒番号の末尾は2だった筈だ。スーミーの説明によると、番号の末尾が1~3の生徒は高い戦闘能力を有しているという話だ。スーミーに対して挑発的な態度を取るのにも得心が言った。恐らく腕に自信があるのだろう。
(けど、相手が元Aランクの冒険者じゃあ相手が悪すぎた)
スーミーは現在冒険者稼業を引退しており、魔術師ギルドで働いていたところを市長からスカウトされ教員になったそうだ。また他のクラスの教員も、殆どが彼女と同じ元魔術師ギルドに所属していた魔術師だそうだ。
こんなに多くの人材を流してギルドは大丈夫なのかと心配に思うのだが、そこは学校側とギルド側でお互いの思惑が合致したようだ。
既存のエイルーン魔術師学校である<第一>の校長は、元錬金術師ギルドの支部長でもあるハワード・ライズナーだ。その関係で有望な卒業生の多くが錬金術師ギルドへと流出していた。
一方同じように優秀な人材を欲する魔術師ギルドは、思うように第一の卒業生から人材を得られていないのがここ最近の現状だ。
つまり魔術師ギルドは先行投資をしているのだ。<第二>に貸しを作ることで将来的にはギルドの利になるよう市長やミルワードと話を進めているそうだ。
恵二たち<火の組>の生徒たちが校庭に辿り着くと、その狭い校庭には他のクラスの生徒たちも集まっていた。そしてその中には校長であるミルワードの姿も見えた。
「おや?<火の組>は随分遅かったね。君達が最後だよ」
「申し訳ありません。色々とありまして……」
自分の所為で遅くなったという自覚が多少はあるのか、スーミーは言葉を濁して返答した。
「まあいいや。今行っている<土の組>の生徒たちが終わったら、次は君達の番だから先に説明よろしくね、スーミー先生」
「はい!」
流石のスーミーもミルワードには頭が上がらないのか、素直に返事をすると<火の組>の生徒たちに説明を始めた。
「これからあんたたちには軽い実戦テストと属性の測定をしてもらうわ!ほら、<土の組>の生徒たちが今やっていることを良く見て手順を覚えなさい!」
スーミーに言われた通りに<土の組>の生徒たちを観察する。どうやら能力測定とやらは全部で二種類行われるようだ。
まず実践テストだが、生徒が列を作って順番を待っていた。そしてその先には校長であるミルワードとゴーレムらしき姿が見えた。
「それじゃあ、始め!」
ミルワードが合図を送ると生徒たちは詠唱を始め、ゴーレムへ魔術を叩きこんだ。対する高さ2メートルはありそうなゴーレムは、生徒の放った魔術を避けたり防御をしたりして凌いでいた。どうやら相当魔術耐性の高いゴーレムのようでなかなか破壊できそうになかった。
(ゴーレムを相手にした実戦形式のテストかな?)
それでも複数相手は流石に厳しいのか、徐々にゴーレムは被弾する数を増やして行く。ゴーレムは反撃してこないのか防御のみに徹し、なんとか破壊を免れる。
「よし、それじゃあ次の人たち!」
次にゴーレムを相手取った者たちはそこそこの魔力を保有していたのか、さきほどまで相手をしていた者たちより高威力な魔術を叩きこむ。同じように守りに徹していたゴーレムだが、ついに大破してしまう。
「よっしゃあ!」
「やったぜ!」
「うん、なかなかの威力だったね。新しいゴーレムを作るからちょっと待っててね」
ミルワードはそう告げると懐から何かを取り出して詠唱を始めた。四角いキューブのような物だ。それに魔力を注ぎ込み詠唱を完成させると、みるみるとそのキューブは大きさや形を変え、瞬時に先程と全く同じ2メートル級のゴーレムを作り出してしまった。
ゴーレムによる実戦テストの手順を見ていた恵二は唐突に横から声を掛けられる。
「なあ、あれって何だ?」
「ん?……なんだろう?魔力を図る水晶?じゃあ、ないよな……?」
隣にいるルーディに尋ねられ彼が指す方を見てみると、人だかりの中に何やら不思議な装置が目に映った。
それは横幅30cmくらいの正方形の台の上に設置されており、魔法陣のような模様が描かれた紙が敷かれていた。その紙に書かれた模様の外周には丸い円が引かれており、その上に結晶のようなものが散りばめられている。中央には小さい水晶が置かれており、その周りを囲うような形で結晶が散りばめられているといった具合だ。
(まるで針のない時計みたいだな……)
そう心の中で思いながらも、恵二はそのおかしな装置に目を遣る。その装置の周りで順番待ちをしている生徒は、自分の番になると生徒番号を近くにいる教員に告げ、中央にある水晶に魔力を注ぎ込み始めた。すると紙に描かれている模様や結晶が光を放ち始める。そうして出来た光の模様は、まるで漫画やゲームなどでお馴染みのパワーやスピードといった能力を表示するパラメーターのようなものに恵二には見えた。所謂レーダーチャートというやつだ。
「ふむ、君の得意な属性は水のようだね。風も相性がよさそうだ」
「やっぱり水かあ。覚えが早いからそうだと思ったんですよね」
「おい!次、変わってくれよ!」
「私も早く見てみたい!」
装置の周りにいる教員や生徒たちの会話から察するに、どうやらあれは自分の得意な属性を測定する装置のようだ。
「おお!あれ凄いな!?俺も早くやってみたいぞ!?」
隣にいたルーディもそのことに気が付いたのか、声を上げてはしゃぐ。
「そうだな。自分の得意な属性が分かるなんて、凄く便利な装置だな」
あんな代物は王城にすらなかった。恵二も早くあの装置を試してみたいとうずうずしていた。
先に来ていた<土の組>の様子を見て、測定の手順を理解し終えたところで、担任であるスーミーが再び声を上げた。
「大体流れは分かったかしら?あんたたちには<土の組>が終わった後に測定をしてもらうから、今の内に準備をしておきなさい!どっちから受けてもいいけど、必ず両方行うのよ!」
どうやら生徒番号順でなくてもいいようで、それを聞いた生徒たちは得意な属性を測定できる装置の方に殺到した。やはり皆そちらの方が気になるようだ。
「ありゃりゃ、凄い人だかりだなぁ……」
「ケージ君、どうします?」
出遅れたルーディとエアリムが尋ねてきた。
「俺たちはゴーレムの方を先にやろう。楽しみは後に取って置こう!」
好物は後に残す派の恵二は、とりあえず比較的空いているゴーレムとの実戦テストの列へと並んだ。
恵二たちが並んだタイミングで、丁度<土の組>の最後の生徒がテストを終えたようだ。ゴーレムが焼け焦げて横に倒れている。横たわったゴーレムの近くには青年が一人立っていた。どうやらその生徒一人で倒してしまったようだ。
「おお!見事なものだねえ。流石は末尾が1番なだけはあるねえ」
ミルワードは嬉しそうに感心していた。テストを終えた青年は身体を反転させ、こちらの方へとやってきた。そのまま教室へと向かうのかと思われたが、青年は恵二の少し前で急に足を止めた。
「―――!?お前……!」
「?え、俺?」
その灰色の髪の青年は明らかに恵二を見ていた。最初は心底驚いた表情を浮かべていたが、その後急に睨みだしたのだ。
「えっと……。ケージ君のお知り合いですか?」
若干険悪なムードを感じとったのか、エアリムが恐る恐る尋ねるも恵二は首を横に振った。
「い、いや……違うと思うけど……」
どこかで会っただろうか。恵二の記憶には覚えが無かった。
「ちっ、覚えていやがらないのか……。まぁ、そうだろうな……」
灰色の髪の青年はそう悔しそうに呟くと、そのまま教室のある建物の方に再び歩み始めた。去って行く青年の背中を見つめながら恵二は必死に記憶を辿っていた。
(どこかで会ったか?この世界であの歳の知り合いはそう多くはないんだけどなぁ……)
エイルーンで会ったのではなさそうな事は確かだと思う。流石に最近のことなら覚えているはずだ。だが、それ以上の事は頭を絞っても出てきそうになかった。よくよく思い返すと確かに見たことあるような顔だったが、名前が全く出てこなかったのだ。
「おい!そろそろ出番だぜ?」
ルーディに声を掛けられ、恵二は灰色の髪の青年について考える事を一旦停止させた。どうやら何時の間にか自分たちの番になっていたようだ。ゴーレムとの実戦テストは時間短縮の為、5人くらいで一度に行われているようだ。お蔭で回ってくるのも早かった。
「次は……おや?君達かい」
ミルワードは恵二達の姿を見ると顎に手を当て考える仕草をした。
「うーん、ルーディ君はともかく、流石に君達二人が一緒だと反則級だよね?とりあえず後ろで待っているマルス君とケニー君、それとユミル君。そこのエルフの少年と先に一緒に戦ってくれないかな?ああ、生徒番号は覚えているから言わなくてもいいよ」
どうやらミルワード校長は全生徒の名前と受験番号を覚えているようだ。流石は千の魔術を扱える賢者とあってか凄まじい記憶力であった。
ルーディを含め指名された4人は新たに生み出されたゴーレム相手に善戦をした。ルーディ自信は戦闘が苦手なようだが、それでも魔術が得意な種族、エルフ族の端くれとしてそこそこのアシストを行っていた。
「はい、そこまで!お疲れ様」
「うわー、倒しきれなかった!」
「頑丈すぎでしょ!?」
そう、このゴーレムは中々に厄介だ。防戦一方であるにも関わらず生徒たちの魔術を凌ぐのだからそこそこ高性能だ。それをぽんぽん生み出すミルワードはやはり凄い人であった。
「それじゃあ次は生徒番号001021のエアリム君。末尾が1番の生徒には一人でやって貰うからね?」
「はい!」
エアリムは返事をすると自前の杖を手に持って構えた。武器の所持は学校内でも認められている。ただし許可なく扱うのは校則違反だそうだ。
「おい、あの子<特化生>らしいぞ?」
「ああ、しかも1番だって?」
「あんな可愛い子が?そんなに強いのか!?」
いつの間にか生徒番号の末尾が1~3の生徒は戦闘能力に特化しているからという理由で<特化生>と呼ばれ始めた。最初は疑問視されていた彼らのその実力だが、ゴーレムを使った実戦テストでその戦闘能力の高さが本物だと分かると、生徒たちの間でそのような呼称が広まっていったのだ。
特に末尾が1番の生徒は、これまでの全員が単騎でゴーレムを倒してしまっているようなのだ。
エアリムもその例外ではなく、地属性の魔術で地面を陥没させゴーレムのバランスを崩すと、動けない標的に土の槍を一斉掃射した。ものの1分足らずでゴーレムを倒してしまったのだ。それを見た周りの生徒たちは歓声を上げた。
「すげえあの子!あっという間に倒しちまった!」
「それに可愛いしな。俺、あの子の班に入れて貰おう!」
「あ、ずりぃぞ!彼女は俺が誘うんだ!」
特にエアリムは男性生徒に人気で、既に熱い争奪戦が繰り広げられようとしていた。
(成る程ね。他人の測定もよく見ておけって、こういう意味か……)
この後のお昼休憩を挟んだら、本日のメインイベントである班決めが待っている。この測定で班に誘うメンバーに目星を付けておけということなのだろう。
(畜生!俺は組みたくてもエアリムと同じ班になれないしなあ……)
担任教員であるスーミーの話では、生徒番号の末尾が1の者は同じ班になるのを禁止されている。パワーバランスを配慮してのルールだろう。
「いやあ流石だね。魔力も相当だけど、何より使い方が巧い。伊達に元冒険者ではないね!」
ミルワードも手放しでエアリムを褒め称える。エアリム争奪戦の熱気に拍車をかけた形だ。
「それじゃあ次は生徒番号001001のケージ君!今ゴーレム作るからちょっとだけ待っててね」
ミルワードはそう告げると準備に取りかかった。
「おい、また1番だってよ?」
「ああ、壁職人か(笑)」
「壁職人って何だよ?」
「お前、自己紹介聞いてなかったのか?って、気絶させられていた薬師の息子ルーディ君じゃないか」
「だから何でみんな俺の名前を知っているんだよ!?しかも実家まで特定されているし!?」
周りにいた生徒はこれからテストを行う恵二に注目していた。やはり戦闘能力の高い末尾が1の生徒は気になるのだろう。
恵二の方も周囲の反応は気になった。エアリムと組めない以上、誰かいい人にアピール出来ればと恵二は張り切っていたのだ。衆人の中、ド派手にスキルを使う訳にはいかないが、そこは持ち前の魔術制御技術でなんとかしようと意気込んでいた。
(よーし!やってやるぞー!……つーか、ミルワードさん遅いなぁ。あんなに長い詠唱だったか?)
ゴーレムを産み出すためにミルワードは詠唱を唱えていたのだが、先程より時間がかかっているようだ。心なしかさっきとは違った詠唱に聞こえる。それに魔力量も多く使用されている気がした。
「よーし、できたよ!」
そうして生まれたのは、先程と全く同じ外見である2メートル級のゴーレムだ。違うと思ったのは気のせいだったのだろうかと恵二は首を捻る。
「それじゃあ、始め!」
「───土盾!」
開始直後、恵二はいきなり土の盾を出す。ただし目の前ではなくてゴーレムの足元へとだ。エアリムに習って先ずは相手の動きを封じようと恵二は奇襲をかけた。ゴーレムの片足を土の壁で盛り上がらせてコケさせようとしたのだ。
だがその目論みは見事に崩れ去った。ゴーレムは軽やかな動きで片足立ちすると、そのまま盛り上がる壁の上に乗ったままであった。
「へ?」
意外な器用さに恵二は間抜けた声を発してしまう。さっきまでの愚鈍なゴーレムとは一味違うようだ。更に驚いたことに、ゴーレムは空へと上がっていく壁から勢いをつけて前方へと跳躍した。その着地地点は、なんと恵二の立っている場所であった。
「───んな!?」
高さ2メートルはある巨体なゴーレムが空から降ってくるのだ。恵二は咄嗟に回避行動を取る。
ゴーレムは地面を震わせ大きな音を立てて着地をすると、そのまま直ぐに回避した恵二へと肉薄した。
「───ちょ!ゴーレムが攻撃するだなんて聞いてないですよ!?」
「うん、反撃しないなんて言っていないからね。大丈夫、君なら丁度良いハンデさ!」
「しかも明らかに強くなってるんですけど!?」
先程までのゴーレムと比べて、遥かに運動性能が増していた。恵二は距離を取ろうと逃げながら、火弾を数発放つ。だが、ゴーレムの装甲はびくともしなかった。
(魔術耐性まで上がってる!?)
ミルワードの方に視線を向けると、彼は悪戯が成功した子供のようにニヤニヤとした表情を浮かべていた。どうやら恵二を驚かせたかったらしく、このゴーレムは相当手強そうだ。外見以外は完全に別物のゴーレムだと考えた方がいいだろう。
(───あんの、性悪エルフめ!)
心の中で愚痴りながらも、恵二は迫り来るゴーレムをなんとか引き離そうと再び土盾を前面に展開させる。だが次の瞬間またしてもゴーレムは驚きの行動を取った。なんと高さ3メートルほどある土盾の更に上へと姿を見せたのだ。
(―――嘘だろ!?あの巨体なゴーレムがそこまで跳べる筈が……!)
てっきり横から回ってくると思っていた恵二は完全に虚を突かれた。そして更にゴーレムが上昇し、足元までその姿をさらけ出すと、驚異的な跳躍のタネが判明した。
(違う!跳んでるんじゃない……飛んでるんだ!)
ゴーレムの両足の底から火が噴いていた。恐らく火の魔術をブースターとして利用しているのだろう。それがあの巨体をあそこまで上昇させた正体だ。
まるでロボット物の映画でも見せられている気になっていた恵二は呆気にとられてしまった。そして気が付くのに遅れてしまったのだ。上空を飛んでいるゴーレムの両手が恵二へと向けられていたことに。そして魔術を放てるのは何も足だけではなかったという事実に。
ゴーレムは壁を越え標的を視認すると両手から風属性の魔術を放つ。それは指向性を持った超高度な振動魔術であった。距離が離れるとそれに比例して威力が激減し、遠距離では殺傷性こそ低い魔術だが、視認も難しく音も立てないことから隠密魔術としては非常に優秀な部類の魔術だ。
ゴーレムの飛翔に目を奪われていた恵二はその攻撃に全く気が付かず、魔術障壁を張る間もなくその振動魔術をもろに受けてしまった。
「―――ぐっ!」
突如激しい眩暈に襲われ、平衡感覚を失う。恵二はそのまま地面に膝を着き行動不能に陥った。
「それまで!」
ミルワードが戦いの終わりを告げるとゴーレムは足裏から出ている炎を調整しながら、ゆっくりと地上へと降り立った。
「うーん、ちょっと厳しい相手だったかな?―――それに、君はどうやら本気じゃなかったようだしね」
脳が揺さぶれたばかりの恵二には返事をする気力がなかった。それに最後の部分はやけに小声で話しており、ミルワードが何を言っているのか全く聞き取れなかった。
「暫く休んでいるといい。属性の測定はまた今度受けさせてあげるから」
そう語りかけたミルワードは、恵二をエアリムに預けて安静にさせるよう忠告をすると、次の生徒への実戦テストへと戻った。その生徒たちは恵二と戦ったばかりのゴーレムを見ると固まってしまっていた。
「ああ、そうだったね。新しいゴーレムを作るから少し待っててね。今度からはちゃんと攻撃もさせないから安心してね」
(最初からそうしてくれよ……)
世界が回っているかのような気分の中、恵二は心の中で愚痴をこぼした。




