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あんなのばっかりなのか?

(ナルとグインさん、どこに行く気だ?)


 魔術大会の閉幕セレモニーが終わった後、恵二は二人に挨拶をしようと会場にやって来ていた。まだナルジャニアに正体を明かす気にはなれないので大会に参加した時の変装をしてきた。


 魔術大会も終わり、敵を欺くためとはいえ形式上は大会目的でエイルーンに来ていた二人は、ハーデアルト王国に帰ってしまうかもしれないと考えたからだ。せめて事情を知っているグインにだけでも挨拶をしようと思って探していたのだが、その肝心の二人は会場を出ると一目散にどこかへ駆けて行った。


 不思議に思った恵二であったが二人の後を追うと、ナルジャニアの魔術だろうか、突如グインが姿を消した。そしてナルジャニアもそのまま魔術で空を飛び、街の防壁を飛び越えてそのまま行ってしまった。


「マジか!?」


 やろうと思えば恵二もスキルで身体能力を強化して壁を飛び越えることは可能であった。だが、規則上エイルーンを出入りする際には、門できちんと兵士の審査を通らなくてはならないのだ。


 流石に規則を破る気にはなれず、恵二は大人しく外出する際の手順を踏む。そしてようやく街の外へと出られた時、その異変に気が付いた。


「なあ、あそこ……雷が横に通っていったぞ?」


「はあ?何言ってんだ、お前―――って、なんだ!?燃えているのか?」


「おい!あれって、もしかして魔物の群れじゃないのか!?うじゃうじゃと何かがいるぞ?」


「大変だ!すぐ兵士に知らせないと……!」


 門の周りでは恵二と同じ様に異変に気が付いた者たちが騒いでいた。兵士も既にそのことに気が付いたようで慌ただしく動き始める。


(もしかして、ナルとグインさんが魔物と戦っているのか?)


 ここからだとかなり距離が離れていてよく見えない。そこで視力を強化してみると二人はどうやら謎の女二人組と戦っているようだ。しかもその内の一人には見覚えがあった。槍を持っているということはグインが話してくれた例の要注意人物である赤の異人(レッド)の青槍女であろうか。


 そこまで確認すると恵二はすぐに助太刀するべく行動に出た。脚力をスキルで強化し勇者仲間である二人の元へと急行した。


 大分近づいた時であった。青槍女がグインから少しだけ離れると、槍に電撃を纏わせた。ここからだと良く分かる。あの女は岩石落としで夢中なナルジャニアを完全に狙っていた。


 グインも一瞬遅れてその事実に気が付き声を上げたが、女の行動が少しだけ早かった。


(―――不味い!<超強化(ハイブースト)>!!)


 恵二は咄嗟にスキルを全力行使した。魔術大会では魔力量を強化する為だけに使用していたが、今は身体能力と五感を全て大幅強化させた。知覚まで超強化された恵二の周囲は、まるで静止した世界のように映って見えた。だが、これは恵二の感覚が極限にまで上昇され、あたかも止まっているかのように見えているだけであった。現にゆっくりとではあるが周りはほんの少しずつ動いている。


 その中でも身体能力が超強化された恵二だけが普通に動くことができた。


 否、もう一つ恵二ほどではないが早い動きを見せているものがあった。それはナルジャニアへと迫っている青い閃光であった。


(―――っ!どんだけ早いんだよ!?)


 自分のことは棚に上げて、異常な速度で迫る閃光をなんとかするべく恵二はナルジャニアの元へと急いで向かった。その甲斐あってか何とか間に合い、恵二はナルジャニアをそっと抱えると閃光の射程外へと避難した。


(昔、加速しすぎて停止したものを強制的に動かすと、燃えてしまうというのをテレビで見たなあ……)


 最初はその懸念もあったのだが、どういうわけか恵二のスキルではそういった事態は起こらない。スキルをフル稼働させた時の大体の事は、ずっと前に検証済みであったのだ。でなければ今頃恵二の服は超スピードに耐え切れず燃えてしまっている筈だ。理由は未だに分からないが、魔術なんてものが存在する世界に地球の物理法則は当て嵌まらないのかもしれない。


 とりあえずの疑問を横に置き、ナルジャニアの無事を確認すると恵二は己に掛けた強化を解いた。


 直後、死の閃光が横を通過していく。その閃光がエイルーンの壁を破壊していくのを見ると恵二は“しまった”と顔を歪めた。


(やべ!避けるんじゃなくて防いだ方が良かったか!?……いや、あの角度であの位置なら確か街中に建物とかは無かった筈……どうか誰も居てくれるなよぉ……)


 青い閃光に不運な誰かが巻き込まれていないことを恵二は祈った。だが、それよりもまずは元凶をどうにかしなければならない。恵二はナルジャニアをお姫様抱っこしながら青い髪の女の方を向いた。


「―――な!?」


「―――嘘!?」


「ほう、あれを避けるか……」


「えっとぉ、一体何がどうなってるんですか?Kさん」


 その場にいた4人は突然の恵二の乱入にそれぞれ違った反応を見せた。抱っこされたままのナルジャニアだけがいまいち状況が分からず、恵二を見つめたまま首を捻った。


 説明したいのも山々であったが、声を出せば自分の正体がバレてしまうと考えた恵二はどうしようか悩んだ。しかし今は緊急事態なので観念して口を開こうとした時、グインの方から話しかけてきた。


「ケー……K!助けに来てくれたのか!?」


 危うく名前を呼びそうになったグインは、機転を利かせて恵二をフォローしてくれた。それに恵二は無言で頷く。ここはその好意に甘えてこの場は魔術師Kとして貫き通すことに決めた。


「って、私もしかしなくてもお姫様抱っこされてます!?」


 顔を真っ赤にしたナルジャニアは子ども扱いが嫌なのかジタバタと身体を動かす。慌てて恵二は彼女をそっと降ろすが、ナルジャニアは顔を赤くしたままこちらを睨んでいた。


(参ったなあ。へそを曲げたかな?)


 頭をかきながら困った仕草をするも、こちらへと駆け寄ったグインが彼女に事情を説明する。そこでようやく自分が狙われていた事実に気が付き、魔術師Kに助けて貰ったことを理解した。


「すみません、Kさん。早とちりしてしまいました。それと……ありがとうございます」


 感謝を述べた彼女の顔はまだ赤いままであった。それを恵二はまだ怒っているのだと勘違いしたが、ナルジャニアは初めて異性?の少年?にお姫様抱っこをされて、ただ恥ずかしかっただけなのだ。


「ケ……K、とにかく助かった。それで、お前も一緒に戦ってくれるんだな?」


 グインの言葉に恵二は黙って頷いた。いくら使命を投げ出した元勇者でも、仲間のピンチを見ぬ振りするほど落ちぶれてはいない。恵二は一歩前に出て青い髪の女を指差すと、あいつと戦うと意思表示をした。


「───お前!あいつはマジでヤバイぞ?本当に大丈夫なのか?」


 その問いに恵二は首を横に振ると、今度はグインを指差した。


「俺?……と、そうか!二人がかりか!」


 意図を察したグインは嬉しそうに微笑んだ。


 恵二の剣の師匠は王国騎士のバルディスだが、体術などはグインからも手解きを受けていた。グインにとって恵二は仲間であると同時に弟子でもあり、息子のような弟分でもあった。


 魔術の成長は目を見張るものがあったが武の方はどうなのか、一緒に戦えることを嬉しく思ったのだ。


「ほお、今度は二人がかりか……面白い!」


「面白がってる場合じゃないでしょ!?いい加減真面目に戦え!」


 遂に我慢の限界を越えたキッシュはそう怒鳴り声を上げた。その怒声にも意に介さず涼しい顔でコトは返答した。


「キッシュ、全部出しておけ。計画とやらに多少の支障は出るだろうが、ここで勇者二人を仕留めればお釣りがくるだろう?」


「言われなくてもやりますよ!───オープン!」


 キッシュが声を上げると、今度は黄金の檻の扉が出現した。しかも今までの扉と比べると幅が倍以上はあった。


 扉が開かれた瞬間、中から巨大な生物が飛び出してきた。その生物は四枚の翼で上空を羽ばたくと、大地を揺るがすほどの咆哮を放った。


「───っ!喧しい蜥蜴ですね!」


「なんだありゃあ?首が二つに羽が四つ……?」


 その生物は首が二つ生えており、獰猛な顔が二つ存在した。手足は二本ずつだが尻尾も二つに枝分かれしており、羽は計4枚生えていた。


(───間違いない。双頭竜(ツインヘッド)だ!)


 恵二はイーストゲートにあるミリーズ書店で手に入れていた魔物大全集の内容を思い出した。確かあれはAランクの中でも上位に連なる竜種であった筈だ。本に書いてある特徴と一致するので間違いない。


 このドラゴンの恐ろしいところは、羽が四枚あるせいで巨大な体型であるにも関わらず機動力がある点だ。


 そして更に厄介なのが、機動力を生かして離れた場所から放たれる吐息(ブレス)であった。双頭竜(ツインヘッド)は文字通り頭が二つ存在する。そしてそれぞれの口から吐息(ブレス)を吐いてくるのだ。


 しかも檻から出てきたのは一匹だけではなかった。双頭竜(ツインヘッド)と見劣りしない大型の魔物が次々と出てきた。


「おいおい、どいつもこいつもおっかねえ面構えしていやがるな」


 総計7匹の魔物が姿を現すと、グインはそう悪態をついた。グインの見立てでは、黄金の檻から出てきた魔物はどれもAランクかそれと同等の脅威度であった。


 Aランクの魔物は、それこそ町一つ落としかねない非常に危険な存在だ。勇者であるナルジャニアやグインにとっては十分倒せる相手だが、それが複数ともなれば多少は手こずる。


「どうする?Kもそっちに付いてもらうか?」


 グインがナルジャニアに尋ねるも、彼女は首を横に振って自信満々にこう答えた。


「大丈夫です。私一人でやれます。さっきは不覚を取りましたが、破滅の魔術師の異名を持つこの私の実力をお見せしましょう!」


 そう宣言すると彼女は空を飛んでいる竜種を相手にするべく、飛行魔術で飛び立った。


(ナルのやつ、またおかしな二つ名をつけているなぁ……)


 王城に居た時は違う異名を名乗っていた気がする。突っ込みたいのを我慢して今はとりあえず目の前の青槍女に集中することにした。


「俺が前に出るからKはサポートだ。いけると思ったら出てくれても構わない」


 グインの言葉に恵二は頷く。お互いタッグを組んだ経験は少なく、何より久しぶりに共闘するのだ。細かい作戦は足枷になると考えてのグインの判断だ。


「流石に二人掛かりだと、私も全力で行く必要があるな」


 そう呟いたコトは身体中に雷を纏わせた。バチバチと火花を散らせて放電させている。そしてそのままコトは二人へと迫った。


 恐るべき速度でグインに迫ると、コトは槍をそのまま突き出した。


「―――早い!」


 ほぼ反射的に拳を繰り出したグインは、辛うじて槍を打ち払うも渋い表情をした。そのグインの拳には血が滲み出ていた。


「ちぃ!威力も上がってやがるのか!」


 先程までは本当に手を抜かれていたのだと思うと怒りがこみ上げる。だが憤っている暇は無い。コトは槍を瞬時に引くと、間断なく槍を突き出し連撃を浴びせた。


「―――ぐっ!くそったれ!」


 それをことごとく拳で凌ぐグインも相当に凄いが、その両手は徐々に血の色で真っ赤に染まって行く。


 それを見かねた恵二は身体能力をスキルで強化すると、即座に回り込みグインと挟撃する形でコトを攻撃しようと目論んだ。腰に手を回しマジッククォーツ製のナイフを抜き、背後からコトへと襲い掛かった。


 だが、彼女は恵二の動きもきちんと捕捉していた。槍の連打をグインへ浴びせたまま、彼女は身体に纏わりついている電撃を後方へと放った。


「―――がっ!」


 余りの速さに恵二は障壁を張るので精一杯であった。電撃をその身に浴びた恵二は膝をつき硬直してしまう。


(あ……、身体が痺れて……動けない……!)


 グインが慌ててフォローに入ろうとするも、挟撃作戦が仇となってコトがその前に立ち塞がる。渾身の槍の一撃をグインに放ってノックバックさせると、コトは振り向きざまに槍を構えて恵二にこう告げた。


「さようなら」


 恵二に別れの言葉を告げたコトは槍に大出力の雷を纏わせると、青白い閃光を容赦なく放った。


 その死の閃光の標的とされた者は瞬きをする間もなく消滅するしか道はない。先ほどはどういった手を使ったかは分からないが、その運命を捻じ曲げ少女を無事に救出してみせた男のことをコトは決して甘く見ていなかった。


 今回は至近距離から全力で放った。避けられないよう事前に電撃で足止めもした。仕留めたとコトは確信をした。



 一方、恵二は電撃を身体に浴びた直後に己のスキル<超強化(ハイブースト)>を最大限にフル稼働させ、回復を図りながら後悔の念に苛まれていた。何故最初から全力強化で当たらなかったのか、自分の迂闊さに苛立ちを覚えていたのだ。


(―――甘かった!最初から、死に物狂いで向かうべき相手だった!)


 恵二はこれまでに何度か人を殺めたことはある。だがそれは、自分に殺意や悪意を抱いた者のみに限定される。しかし今回の相手は女性で、更にはよく事情を知らない相手だ。自分に明確な悪意を向けている訳ではなく、ただ状況から敵対した相手ということもあり、問答無用で首を刎ねることを躊躇したのだ。


 その結果が今の状態だ。恵二は電撃で身体が動けなくなると、すぐに回復を図るべくスキルで自然治癒能力を最大限に強化させ、麻痺した身体を再起しようとしていた。


 そこへ回復する間も与えんとコトは青い雷による閃光を放とうとした。あの閃光が来ると思った瞬間、恵二は咄嗟に五感もフルパワーで強化させた。


 お蔭で時間の猶予は得たが、槍は今すぐにでも突き出ようとしている。知覚強化の恩恵で時間が止まっているかのように思える世界の中、コトは驚くべき速度で槍を動かしていた。あれが完全に前へと突き出されれば光速の閃光が自分へと放たれる。その前に何としても対処をしなければと恵二は抗うも、身体は依然として動かないままだ。


(―――駄目だ!こうなったら……!)


 恵二はスキルと魔力を限界まで行使して土の壁を展開させた。恵二お得意の土盾(アースシールド)であった。


 自然治癒能力や五感の強化に充てていた力を全てその壁に注ぎ込む。その為、知覚強化によってスローモーションに映って見えた世界は、通常の時の流れへと戻った。


「───!?」


 コトは突如目の前に出現した土壁に驚いたが、そのまま壁を撃ち破らんと雷の閃光を射出した。全てを焦がし消滅させてきた閃光は、なんとその進行を土壁によって妨げられた。辺りに放電させ、音を立てながら壁を破壊しようとするも、突破することは叶わない。


「まさか……!壁の少年か!?」


 思いもよらない結果にコトは一瞬呆ける。その隙をついてなんとか身体を動かせるようになった恵二は壁の裏から躍り出ると、残り僅かなスキルの力で身体能力を強化しコトへと迫った。


 虚を突かれたコトであったが、元々恵二とは身体能力にかなりの差がある。まだ気持ちの整理が着かない中でも、余裕を持って恵二の奇襲を防ぐと、お返しとばかりに電撃を放った。


「───っく!?」


 二度目の電撃は、初撃ほどの威力は感じられなかった。よく見るとコトの回りに纏っていた雷の量が明らかに目減りしていた。流石に何度もあの大技は放てないらしい。


 更にコトは身体能力の高いグインを一気に仕留めるべく、雷を身に纏わせて無理やり強化をするという荒業も行っていた。


 彼女は先程まで決して手を抜いていた訳ではない。奥の手を使わなければならない程まで追い詰められていただけなのだ。


 恵二という思わぬジョーカーに手を焼かされたコトは、その神経を少年に注力する。


 そこへ、今度はグインが背後から襲い掛かった。


「テメエの相手は俺だあああっ!」


 消耗しきっている恵二に代わってグインがコトへと攻撃を加える。電気の出力が減ったコトの動きは見るからに衰えていた。とは言っても元の能力は非常に高く、未だにグインと互角に渡り合っていた。


「不味いな。これ以上は……」


 そう呟いたコトは、向こうの戦況はどうなのかキッシュの方を確認すると目を見開いた。


「───あ」


 コトが見た光景は、今まさにスライムごと巨大な岩で潰されようとしていたキッシュの姿であった。あれでは最早助かるまい。仮に生きていても重症の筈だ。


 回りを見てみると、キッシュが放った魔物は全て事切れていた。地を這う竜は土の槍で串刺しにされ、空を飛ぶワイバーンは氷付けにされていた。どれも違った魔術で倒したのだろう。


 一番の脅威であった双頭竜(ツインヘッド)も、現在進行形で燃え消えようとしていた。炎に強い筈の竜種がどうして炎で溶かされているのだろうか、コトは驚きを禁じ得なかった。


 空には太陽でも作ったとでも言うのだろうか、灼熱の光球から熱波が発せられていた。辺りの温度がやけに高く感じられる。そんな中、一人涼しい顔のナルジャニアが話し掛けてきた。


「お仲間は無力化しました。貴方も大人しく投降してください」


「悪いが捕まっても録な目に合いそうにないのでな。逃げさせてもらう」


 コトは淡々とそう告げると、足元に雷を放出した。直後、恐るべき早さでこの場を離脱しようとする。


「逃がしません!」


 すかさずナルジャニアも魔術を放つ。水属性なのは恵二にも理解できたが、やたら複雑な魔術であった。その青い弾丸も凄まじい速度でコトを追尾する。自動追尾なのか、コトが右へ左へと避けてもしつこく追ってくる。


 そして遂にその青い弾丸はコトの左腕を捉えた。


「───!?」


 すると魔術が当たった箇所が一瞬にして凍結した。更にその氷結化はどんどんと身体の方まで進んでいく。どうやら全身を凍らせるまでは止まらない呪いの凍結魔術のようだ。


「……ちっ!」


 流石に普段は無表情なコトもこの事態には舌打ちをし苦い顔を浮かべるが、次の瞬間信じられない行動に移った。


 コトは氷漬けにされた左腕を真横に伸ばすと間接部分に雷を打ち落とした。


「ぐっ!!」


 その電撃は刃状となっていたのか、自らの腕を呪われた氷ごと切り落としたのだ。コトは激痛に顔を歪めたが、そのまま足を緩めることなく去っていった。


「根性ありすぎだろ……」


 グインは追うことを諦めてそうぼやいた。コトの思いきりの良さに唖然としている内に、かなり遠くまで離されてしまった。どれだけの速度で走っているのか、見通しの良い荒れ地であるにも関わらずもう彼女の姿は見えなくなっていた。


(……赤い異人(レッド)の女はあんなのばっかりなのか?)


 魔力も底を尽き疲労困憊の恵二は、仰向けになると大の字で地べたに寝転んだ。

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